日本に存在する世界唯一のISの教育機関、IS学園。本島からモノレールにて移動した先の島を丸ごと教育の為の施設にしている何とも贅沢な学校。と言ってもそこで学ぶのはIS、世界のパワーバランスの決定はISの力と言ってもいい。それらを学ぶための学園なのだからそれ相応の費用などで建造された施設で集中的に学ぶのが有効なのだろう。
そんなIS学園の船着き場、本来そこには食材や資材などを運搬する貨物船などが停泊するのだがその日は何もいないのだがそこに女性がいた。凛々しく美しい女騎士のような雰囲気に包まれている女性が居た、彼女はこちらへと迫って来た一つの影を見ると気を引き締めた。
「時間ピッタリ、間違いなくあれだな―――束」
迫ってきているのは何処か船というよりも何処かコンテナのような印象を与える塊だった、それはゆっくりを速度を落としながら接岸すると仰々しい音と共に橋を作るように変形をしていく。その奥から足音が聞こえてくる、それに対して構えるがそこから姿を見せた人物に驚いた。それは待ちわびた人物ではなく全身を鎧のようなパワードスーツとヘルメットに身を包んだ姿だったからだ。
「貴方が織斑 千冬さんでしょうか」
「そうだ」
目の前の存在へと警戒心を迎えるかのように鋭い声をぶつけるがそれは全く気にしていないかのように振舞っている。そしてそれが言葉を返すよりも先に奥からうさ耳を付けた女性、束が姿を現すと千冬は旧友の久しい再会にも拘らず溜息を洩らした。
「やっほち~ちゃんお久しぶり、まさかこんな形でまた会うとはねぇ……やれやれ人生って分からないもんだね、今回はいっくんのせいみたいなもんだけどさ」
「それを言うな束、私とて頭が痛い限りだ。今回の一件で私ももう忙しくて忙しくてな……」
千冬は深々と溜息を吐く、そこには疲れとストレスがこれでもかと込められていた。彼女こそが束の親友にしてISの世界大会の初代の王座に君臨した伝説的なIS操縦者、
「あ~……ち~ちゃん、束さんが言える事じゃないと思うけどさ、ちゃんと休んだ方が良いよ。書類仕事ぐらいだったらこっちに回してくれればパパっと片付けちゃうけど」
「仮にもIS学園の仕事だ、お前と言えどやらせられん……気持ちは受け取っておく」
「……今度飲もうよ、愚痴付き合うからさ」
「……すまん」
そこにあったのは紛れもなく親友間の空気、それを見るだけで二人が親しい友人同士であった事が事実であったことが分かる。先程まで凛々しかった千冬のオーラも一気に弱まり素の状態になっている、束も自分といる時とは全く違う素になっている。そんな二人はしばらく話し続けていた、その間に073は必要な荷物を下ろしておく。そして話が終わったのか多少スッキリした表情になった千冬が声を出した。
「すまん束、だいぶ楽になった」
「何水臭い事言ってんのち~ちゃん、この位お安い御用だよ。というかそんなんで結婚できるの?」
「お前にだけは言われたくはない」
「いや束さんは諦めてるから」
「ったく……それでそっちの声からして男か、その男がお前の話に出てきた条件に合った護衛か」
「そだよ」
と千冬が興味を示したように視線を向けると束は酷く嬉しそうにしながら073へと駆け寄って挨拶をするようにせがむ。荷物を置きながら073は千冬の前まで移動した。
「スパルタン-S-073。篠ノ之 束の護衛を担当しています」
「話は束から聞いているが……これは」
握手を結びながら千冬はスパルタンの凄みに圧倒されてしまっていた。束から自分の護衛もIS学園に連れていく事を条件に加えられ、許可を取り付ける間にどんな人物なのかを聞いてそれから想像を組み立てていたが……それを軽々と飛び越える程の風格を感じてしまう。
千冬も女性としては高い方だが073は2メートルを超える、加えて体格も非常にガッシリとしており例えアーマーを纏っていなくてもその屈強さに言葉を失う事は間違いないだろう。千冬は過去にドイツ軍にて教官の任についた経験がある、そこで戦争を乗り越えたベテランの軍人とも話をする機会も多くあった。だが目の前の戦士からはそれ以上の物を感じずにはいられなかった。どれ程の戦いを、どれ程の訓練を、経験を積めばこんな戦士が生まれるのか皆目見当がつかなかった。
「一つ聞かせて欲しいのだが名前は教えて貰えないのだな、顔もそうだが」
「あ~……ごめんねち~ちゃん、今までずっと軍の特殊部隊で従軍してたみたいでその時の事が完全に習慣になってるみたいでね、その時に完全な機密事項にされてる顔と名前は教えたくないんだって」
この束の話は本当でもあり嘘、既にミョルニルアーマー、スパルタン計画などの事を話してしまっている今としては機密など無いに等しいだろうと思うだろうがそれは束は絶対に機密にする事を約束してくれている、だが千冬は違う。彼女は束とは親友だが立場としてはIS学園という機関に所属する人間、それに詳しい話をする事は出来ないと束が気を回した。
「だが既に除隊してお前の護衛をしているのだろう、それでもか」
「うん。悪いけど……これ以上聞くなら束さんは此処から消えるつもりだよ」
「……成程、ならば私にそれ以上深入りする権利などは無いな。済まなかったなスパルタン」
「いえご理解いただき感謝します」
彼としては束が話しても問題ないと判断した場合には話しても構わないと思っている、だが束は千冬と言えどそう簡単に話すつもりはない。彼女自身その話をしたくないという思いもあるだろうが……自分を信頼して話してくれたレイに対するすべき事だと思っているからである。
「それでスパルタンが纏っているそれは……何だ、男だとしたらISではないのだろう?」
「まあね、束さんにとってISの女しか使えないのって致命的なエラーで何としても直したいんだよ。だからその一歩というか……ISの技術を応用して作ったパワードアーマー……みたいな感じ?」
「ほうっ……」
千冬は興味深そうにミョルニルアーマーを見つめる、教師としても元操縦士としてもISの技術を応用して作られたそれは面白そうに映り込んでいる。
「……現状のISからは随分と離れている印象を受けるな、最初から戦闘を想定しているかのような重厚さだ。防御も万全……背中には武器をマウントできるのか。フム……私も使ってみたいな」
「(相変わらずなんて勘が良いんだ……)まあ束さんの護衛を頼むぐらいだから最初から荒事を想定するのは当然だよ。戦闘という意味では現行のISとも戦えるしね」
流石にミョルニルアーマーをISと偽るのは無理がある、073はISを起動できない。加えてミョルニルアーマーはそう簡単に外せる代物でもないのである。アーマーを外すだけでも専用の設備と専門技師が付いて作業を行って漸く外す事が出来る。流石の束でも未だにそれを外す為の設備を作るには至れてはいない、と言ってもアーマーは殆ど肌と同じような感覚で快適その物なので073は外せない事はあまり気にはしていない。
なのでアーマーは束が073専用に開発したISの技術を応用して制作した特殊パワードアーマーという事になっている。
「ではいつかその素顔を見られる日を楽しみにさせて貰う、という事にしておくか。ではついてきてくれるか、お前達に当てられる地下へと案内する……だがそのアーマー重量は大丈夫か、地下へはエレベーターなんだが……」
「そこは大丈夫、束さんがPICを改良した装置を組み込んであるから重量はスパちゃん本人の体重分しかないから」
「ならばいい。因みにそのアーマーは本来どのぐらい重いのだ?」
「500キロほどです」
「……束のその装置があって良かった、でなければ階段で行く羽目になっていた」
ミョルニルアーマー
スパルタンが装着する特殊アーマー。完全与圧、シールド機能、筋力補助、反応性向上、ダメージの回復などありとあらゆる機能が詰め込まれている。500キロにも達する重量と巡洋艦一隻に匹敵すると言われるコストも量産の妨げとなり名実共にスパルタン専用の装備である。
ただ、その出力の高さはスパルタンでこそ扱えるものであり、実験段階においてアーマーを着用した