「なんか、先生……如何したんだろ」
「突然なんか、束さんの指示を受けたとかでどっか行っちまったもんな」
「何かあったのでしょうか」
『はいはい集中してね~』
と本来その場を仕切っている筈の073の姿はなく、そこでは束が指示とデータ収集の監督を行っていた。彼は突然海中へと潜ったかと思ったら束がその場を引き継ぐ事になったという通信が飛んできた。その場を去っていく彼の姿を見る事も出来ないまま、姿を消した。
『スパ君には折角海に来てるから深くまで潜って貰うテストデータを取って貰ってるだけだよ、そこから得られたデータを参照しつつ追加データを入れて、潜って貰う事も検討してるから』
「マジっすか……」
兎も角一夏たちはやるべき事でもあるアーマーの操作感覚をマスターする事に専念することした、そんな一夏たちを見つめながら束はレイが向かった誰もいない外れの岩場へと視線をやった。そこらには自分が仕掛けた仕掛けによってレーダーや衛星からも探知されないようにしてある、存分に話す事が出来る。
「―――藪蛇だったなんてねぇ……人生って分からないもんだね」
束が用意した場所、そこでは今二人のスパルタンが腰を落ち着けていた。一方は073であるレイ、そしてもう一人―――スパルタン-S-052.惑星リーチにて敵巨大空母を撃破する作戦、アッパーカット作戦にて行方不明となったスパルタンⅡであるジョージがそこにいた。
「まさか、会えるなんて思ってもいなかった……なぁレイ」
「―――」
メットを外しながら何処か嬉しそうな笑みを湛えながら隣に腰掛けているレイの肩を軽く叩いた。ジョージにとってもこの出会いは完全に予想外だったはずの物だった、だがそれでも出会う事が出来た相手が同じスパルタンであった事が救いにもなっている。
「俺も、会えるなんて思ってなかったよ……お前は、お前はアッパーカット作戦で」
「ああ俺もだよ、死に損なったのかもな」
彼、ジョージは惑星リーチにて最後まで戦ったノーブル6と同じノーブルチームの一人。そんなジョージは自ら話を始めた、巨大空母への攻撃作戦へと参加した。ある意味の特攻にも近い作戦だった、だがその作戦は同じノーブルチームであるシックスの尽力もあり成功まであと一歩の所まで迫っていた。指が掛けられていた状態だった、だが―――。
『この船はスラスターの損傷が酷くて使えない、脱出は自由落下になる』
『良い知らせは?』
『今のが良い知らせだ、悪い知らせはタイマーが壊れた。手動で爆破する』
敵空母を沈めるための爆弾のタイマーが故障してしまい手動爆破をするしかなかった。ジョージはリーチの出身だった、そんな彼は故郷への恩返しの為に最後まで残り爆破の任務をする事を決めてシックスを脱出させる事にした。幸いなことに此処は低軌道上、再突入装備をしているシックスならばリーチへ無事辿り着く事は可能。
『止めないでくれ』
有無を言わせぬため、メットを脱いだ上で自らのドッグタグをシックスへと託し彼を船外へと放り出した。後は頼んだぞという言葉を添えて。残された彼は空母へと迫る中で最後までスパルタンとして生きる事を思いながら爆弾を起動させ―――巨大空母を沈める事に成功した。そして―――深い眠りのような意識の中から目覚めた時、彼は海中にいた。後は073が発見したくれたのと同じだった。
「何か持ってないか、腹減ってな」
「エネルギーバーなら」
「ああ頼む」
クロエからおやつ代わりだと言われて貰ったそれを渡すとジョージはそれへと喰らい付く、海中にいる間は身体が全身疲労でいるかのような重さで動く事が出来なかった。気付いて貰えなかったらあのまま死んでいたのかもなと笑いながらあっという間に平らげた。
「レイあの後リーチは……」
「―――……ああ」
「そうか……」
悲しげな瞳を伏せながら呟くレイを見ながらジョージは遠くを見つめるように視線を巡らせた。彼とても分かっていた、コブナントの戦力があれだけとは限らない。リーチが敵に見つかり攻撃を受けた時点で増援も考えられる。それが齎すのはリーチの陥落、それしかないという残酷な現実も分かっていた。だからこそ自分はそんな絶望的な状況で戦いたかった。だがきっとその思いはシックスが継いでくれたとジョージは信じている。きっと、奴ならば―――。
「お前も最後まで戦ったんだな……レイ」
「ああ。希望を未来へ放つ為に、最後まで……だけど結局、シックスを残して俺達は全滅したよ」
「そうか……」
シックスは鬼神に勝る戦いぶりだった、チーフすら追い迫る程の物があった。きっと彼も最後まで……。そんな思いが二人の間に流れながら空を見上げてみる。コブナント艦によるガラス化の影響など受けていない青々とした空は二人の想いをどう受け止めるのか、そしてジョージはレイへと尋ねた。
「レイ、此処は本当に地球なのか……本当に」
「ああ間違いない―――しかも500年以上の前の別の世界の地球かもしれない」
「……冗談、キツいな……」
此処へと連れて来られるまでに簡単な説明を受けた、空を飛んでいると思われるミョルニルアーマーに酷似している兵器。本来飛行出来ないアーマーで自分を引き上げたレイ、様々な情報が飛び込んでくるのをジョージはそれらを真摯に受け止めた。その果てにやり切れない思いが溢れ出してくるのは必定だった。
「原隊復帰は絶望的……そうか、状況は把握した。そうか」
ジョージにとってもそれは受け入れる事はきっと難しい筈、生まれ故郷は陥落し自分は敵と共に地獄に墜ちた筈なのに生きている。生きているならば戦いのに戦うべき相手は存在しない世界に居る、戻ろうと思っても戻れない状況。余りにも辛い世界、同時にジョージはレイを見ながら言った。
「レイ―――俺達は如何するべき、何だろうな……いやなんでも無い」
聞いてはならない筈の事を思わず聞いてしまった、それは彼だって聞きたいはずだった。そして同時にジョージは彼の心情へと気を配った、きっとこの世界で彼は苦しみ続けた筈だと。
「大丈夫だよジョージ……俺は大丈夫だよ……」
それは強がりなどではない、心からそう思っている。危うかった彼の心はあと一歩という所で現れた家族によって踏み止まる事が出来た。ジョージもそれを感じ取ったのか何も言わなかった。
「よし、この事は後にしよう。この世界についてもっと詳しく聞かせてくれ」
「あ、ああ分かった。そうだな、先ずは俺が今護衛をやってる博士の事からか」
スパルタン-S-052
UNSC海軍特殊機甲部隊"SPARTAN-Ⅱ"所属の兵士で、タグはSPARTAN-052。本名はジョージ。
コールサインはノーブル5。重厚にカスタマイズされたアーマーと専用のガトリングガンを使うチームの火力支援役。またスパルタンⅢばかりのノーブルチーム唯一のスパルタンⅡ。
リーチ戦時点で歴戦の勇士であり、スパルタンとして既に30年近く戦場に身を置きながらまったく衰えを見せないプロフェッショナルの兵士。
リーチ出身で現地語に堪能。スパルタンの訓練がリーチで行われた事もあり故郷への愛着は人一倍強い。それだけにリーチでの戦いには並々ならぬモノがあったようだ。
コヴナント巨大空母を撃破するアッパーカット作戦に参加。敵空母を道連れに戦死―――行方不明になった。