篠ノ之 束がIS学園へと出向いた理由、それは彼女自身が織斑 一夏が何故ISを稼働させられたのかという疑問を解消する為というのもあるが自分の親友である千冬の弟、自分にとってももう一人の弟的な存在の一夏が踏み入れてしまった世界情勢、それらを作り出してしまった原因としてフォローしてやるべきだと思ったからだった。そんな自分勝手な理由で付き合わせてしまった073への罪悪感などもなくはなかったが、彼は何も言わずに付いてきてくれた。理由なんて唯一つだけだった、彼が今彼女の護衛という任についているから、それだけだった。
「さて~と……作業再開するかぁ……」
彼女自身が織斑 一夏のデータ解析を担当すると共にISの技術進歩の為協力するというのがIS学園から提示された条件だった。束としてはその程度は構わない、と言っても彼女自身が進めている研究から見たら今世界が行っている現行の技術なんて遅れているとしか言いようがない。
今世界で最新鋭とされている第三世代、操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした世代だが現状束が研究している第五世代はISの本来の活動域である宇宙空間活動前提型の試験型、それまでの技術の集大成とも言える存在。故に技術要求されても今あるものを一部デチューンしたものを出せばいいだけの事。先進的な物を出しても構わないのだが、逆に理解出来ずに自分頼りにされても面倒なだけだからである。
「織斑女史、コンテナの搬送と納品終了しました」
「ご苦労。すまないな束の護衛だというのにこのような事に駆り出してしまって……」
「博士からの許可は頂いておりますのでお気遣いなく」
「助かる、では次の船で来るISのパーツを頼む」
「了解しました」
そんなIS学園にて活動を再開した束の護衛の073だが、IS学園自体が他国からの介入が行いにくい治外法権地帯でありセキュリティ自体も非常に整っている。束がそこにいるという情報はトップシークレットで秘匿されているが、例えそれを入手して接触を図ろうとしても全世界から批難などを浴びせられる。此処にいる限り束は追手の心配もする事がなく安全とも言える。
ある種の最終防衛ライン的な立ち位置になった073だが、彼は彼で束から許可を得てIS学園の一部の業務の補佐を任せられる事となった。IS学園を守る事自体が束を守る事にも繋がるので護衛としては間違っていない、そして束と親しく話していた千冬の助けになってほしいという彼女からの要請にこたえる事にも繋がる。
「ほえぇぇッッっ~……凄いですね、えっとスパルタンさん、で宜しいんでしたっけ先輩」
「ああ、スパルタン-S-073だ。本名は知らん」
千冬は船着き場にて受け取った貨物やらのチェックをしていると隣にいる同じクラスを受け持つ副担任の山田 真耶が目を丸くしながら軽々とコンテナを担ぎ上げて運んでいく073の姿に驚嘆していた。担ぎ上げられたコンテナの内部にはISのパーツや機材などが詰め込まれており重量はトンを超えている。それを重機を使う事無く運んでいる。
「篠ノ之博士がIS学園の警備強化の為に送ってくれたっていう方なのは知ってますけどあんなに凄いなんて……」
表向き上、073は束がIS学園に自分の妹と一夏が入学すると知って送り込んできた警備強化の為の人員だという事になっている。そんな人に仕事をさせてしまっていいのかと彼女は不安になっていたのだがそのパワーは想像以上。
「奴のアーマーは篠ノ之 束が自らISの技術を応用してくみ上げた代物らしいからな、ある種男も使えるISとも言えるだろうな、厳密には違うだろうが」
「そ、それって外部に知れたら相当まずいですよね……」
「まずいな、だからこれは極秘になっていただろう。態々誓約書を書かされ違反した者は刑務所に収監されると添え書きと一緒にな」
ひぇっ……という言葉と共に真耶は顔を青くする。当然073の事も機密扱い。口外、情報漏洩などに問われたら問答無用で逮捕拘束される。千冬としては隠さずにいいのか、とも思ったが下手に隠すよりも脅しを聞かせておいた方が良いという束の判断に従っておく事にしておく、世界とて束の恐ろしさを知らない訳ではないのだから。
「織斑女史、搬送終了しました」
「えええっ!?もう終わっちゃったんですか、だってコンテナって10個ありましたよね!?全部35トンはくだらないんですよあれ!?」
「その程度でしたら問題ありません、大きさの関係で一つずつになりますが」
「それでも十分過ぎますよ……」
本来搬送を行うだけで軽く1時間はかかる、それをあっという間に終わらせてしまった073のアーマーの凄まじさが伝わってくる。
「すまんなこんな下らんことに駆り出してしまって」
「いえ織斑女史の言葉に従うようにと言われておりますので」
そう言って言葉を終わらせる彼に口数が酷く少ない事に千冬は少しだけ肩を竦める、彼女としても束が自らの護衛に付けているという人物には酷く興味が湧く。どんな人物、性格、生き方をしてきた気になるのだが彼は必要以上の言葉を話そうとはしない。
「あ、あのぉ~……スパルタンさん一つお願いしても良いですか」
「何でしょうか」
「え、ええっとその肩に乗せて頂く事って可能ですか?」
「おい真耶……」
「構いません」
そう言って073は膝を曲げながら真耶を抱くとそのまま軽々と肩へ乗せた。
「わぁっやっぱり凄いです!!すいませんこんなお願いしちゃって、でも一度で良いからこんなことして貰いたかったんです!!」
「すまんな……私の後輩が……」
「問題ありません」
そう言って073は真耶を肩に乗せたまま千冬と共に歩きだしていく。単純に機械のようではなく何処か茶目っ気のような物も存在している、だが酷く機械めいている。彼の自己を感じられる面が酷く少ない、今も真耶を乗せたのも単純にこれからの行動に支障をきたす事もないから引き受けているようにしか見えない。
「如何だスパルタン、暇なときは私の授業にも参加せんか。お前は銃の扱いにも長けていると聞く、戦闘訓練時の教官として参加せんか」
「参加して問題なければ」
「良し決まりだな、間もなく行われる新学期では期待しているぞ」
と声を掛けるが073からの返答は了解しましたのみ、矢張り酷く喋らない。それは単純彼が無駄な話が嫌いだからだろうか、いや彼女の勘が違うと囁いている。長い間特殊部隊にて活動をしていた、それは恐らく真実だろうが全てではない。きっと束は意図的に何かを話してくれていない。それはきっと彼の根幹に関わる物なのだろう、ならば千冬が取るのは一つだけ、話して貰えるように自分から歩み寄って信頼を勝ち取るだけ。
スパルタンⅡは平時より戦闘時の方が多弁になる。
これは訓練時に余計な事を喋らないよう訓練されている為。彼らスパルタンⅡは書類上兵士ではなく兵器として識別される。その事から分かる様に彼らには人権が無い。
そして、彼らは実際の年齢と肉体年齢がかなり食い違うレベルで平時は冷凍睡眠に入っている。尚073を始めスパルタンⅡの面々はこの処遇について納得している、そこまでしなければ人類は救えなかったし自分たちの人生がそれに費やされる事が寧ろ誇りであると考えている程であり正に完成された英雄といえる。