DARKER THAN BLACK ―煉獄の扉―   作:オンドゥル大使

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第十九話「前触れを歩む」

 

 事件の説明に入る前に、と前置かれてミシュアは上官の目線の先を追う。

 

 喪服を思わせる黒い衣服の女性と、それに不釣り合いな背丈の低い少年が連れ合っていた。少年はこちらの視線に対し、帽子を目深に被る。

 

「……お二方は?」

 

「事件の追及に当たってくださる専門家だ。ここ最近、契約難民絡みの事件も多い。少しでも手があったほうがいいだろうという上の判断でね」

 

 喪服の女性が歩み寄り、手を差し出す。

 

「ヨハンソンです。こっちはジョシュア」

 

「ミシュア・ロンドです。こちらのほうで課長を務めさせていただいております」

 

「へぇ、新市街地の。それは誉れでしょう。ニューヨーク市警となればそれなりに花形かと」

 

「いえ、そこまで……。それに近年は【煉獄門】関連の不明事件も多いので、そこまで成果は……」

 

「いえ、それでも凄まじい検挙率だとは思いますよ。元々、ゲート関連の事件に関しては迷宮入りが当たり前なんです。それを突き止め、そして犯人まで捜し当てるとは、称賛に値しますよ」

 

 少しこそばゆくなってしまうが、ミシュアはその評価を額面通りに受け取らなかった。

 

 視界の隅でジョシュアなる少年が帽子のつばをつまみ、ヨハンソンへと言葉を投げる。

 

「……本題を」

 

「……そうだ。本題に入りましょう。今回の一件に関して、我々の口から語る事は実は少ないんです。協力者程度ですから」

 

 ミシュアは上官へと目線を振り向けていた。ヨハンソンがその名を紡ぐ。

 

「――レインマン。それも通称ですよね? ニューヨーク市警の上官がコードネームを使うとは」

 

「対契約者犯罪における処世術だよ。して、ロンド課長。君には彼らと共に、一連の旧市街地における殺しを追って欲しい」

 

「旧市街地の……? あそこは管轄外ですよ」

 

「だが、同じニューヨークの地平には違いないのだ。我々が如何に門外漢だと言っても聞かない連中も居てね。そういう相手のための動きだと思ってくれていい」

 

「……犯人を挙げる事は早急な問題ではない、と?」

 

 胡乱そうに眉根を寄せたミシュアにヨハンソンが額へと指をやる。

 

「シワ、寄ってますよ。せっかくのかわいい顔なのに勿体ない」

 

 ハッとして後ずさったミシュアにヨハンソンは愛想よく微笑む。

 

「失礼。あまりにも真剣そうに考えていらっしゃるので。ですが、我々はいつでも協力姿勢に移れます。あなたの手足として、ね」

 

「……手足なんて、思う事はありません。ですが、こちらの流儀は守ってもらおうかと――」

 

「すんません! 遅れました!」

 

 飛び込んできた赤ジャケットの男に全員が注視する。

 

「……ジャン。もう三十分も遅れているぞ。今さら遅刻の言い訳なんて……」

 

「違うんすよ! ……殺しです。旧市街地付近でまた。今度は水死体だってんで、調べを尽くそうとしたんですが……現地警察です」

 

 潜んだような声音に、何が起こったのかを憶測するのは難しくはなかった。

 

「……まさか、またあの連中が……!」

 

 因縁を含んだ声にヨハンソンがこちらを窺う。

 

「現地警察? ……ニューヨーク市警はこっちじゃないんですか?」

 

「……お恥ずかしい限りですが、こちらの流儀が暴走した結果です。それに関しては後々話しますので……」

 

 濁した形のミシュアにヨハンソンとジョシュアは互いに顔を見合わせる。ジャンがこちらに歩み寄って囁いていた。

 

「……何なんですか、この二人……」

 

「今回の事件の専門家、らしい。旧市街地での連続殺人事件に関して、少しは検知を持っているとの事だ」

 

「……専門家? 正直、下手な専門家なら居てもらわないほうが……」

 

 ジャンの非礼にレインマンが咳払いする。

 

「……すまないね、お二方。礼節のなっていない部下で」

 

「いえ、構いません。ねぇ、ジョシュア」

 

「……やる事は一つ」

 

「その通り。やる事は一つ。どうせなら、ハッキリさせましょう。旧市街地での事件、何者が絡んでいるのかを」

 

 自信を持って口にされたのでミシュアは若干うろたえてしまう。それほどまでに事件に精通しているのは、逆にどうなのかと。

 

 ――よくよく考えれば名前以外はほとんど分からない相手。あまり信を置き過ぎないほうがいいだろう。

 

「では旧市街地に案内します。ジャン、彼を頼む」

 

「はい。えっと……」

 

「ジョシュアだ。よろしく頼む」

 

「あ、はい……ジャンです……。あの……本当に大丈夫なんですよね? マジに子供にしか見えないんですけれど」

 

 耳打ちされてミシュアは肩へと手を置く。

 

「分からん。お前の判断で情報は与えろ」

 

「マジですか……。まぁとにかく……ちょっと刺激的な現場に遭遇するかもしれないので、その……」

 

「平気だよ。人死には見慣れている」

 

「……あ、そう……。じゃあその、引率するんで……」

 

「子供扱いしないで欲しい」

 

 断じる論調にジャンがたじたじになる。ミシュアはそれを横目にくすくすと笑うヨハンソンに言葉を振っていた。

 

「……ああいう事はよくあって?」

 

「ええ、まぁ。通過儀礼のようなものです。ですが、どのような現場でもやはりと言うべきか、検知がまずは優先される。ジョシュアは子供の外見ですが、あまり油断なさらぬよう」

 

「……肝に銘じておきましょう」

 

 覆面パトカーへと入りかけて、あ、とヨハンソンは付け加える。

 

「一つ、いいですか? 買い物なのですが」

 

「買い物? ……まぁ何でも」

 

 ヨハンソンは一つ、指を立てていた。

 

「スプレー缶をいくつか。お願いします」

 

 

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