風車が回る、回る。地面に突き刺さるそれらはしのぶの視界に映り、目まぐるしい程の色の暴力に吐き気がした。何処からともなく流れる風は風車を揺らし、カラカラと回る音は鼓膜ごと壊すような感覚がする。だが、それ以上に手に持つ生首が騒がしい。
「ねぇ、こんなに今は無い筈の心臓が脈打つような感覚は何なのかな?君と出会って良かったって思えるこれは感情って奴で恋なのかな?ね、しのぶちゃんしのぶちゃん」
生首は身じろぎしのぶを見上げる。虹色の眼は視点を変えるだけで色を変え、その色彩は今まで風車の風景ばかりを見てきたしのぶの荒んだ心を少しだけマシにさせた。……それでもやかましいことに変わりはない。
「ねぇ、童磨さん。少しは静かにしてもらえませんか?」
言えば少しばかり静かになってすぐに騒がしくなるモノだから仕方がない。今に至ってはその頻度が増えて黙る時間が減ってきたのだから落ち着きのない子供のように思えるのだから不思議だ。生前は殺し合っていた筈なのに。こうして当てのない旅を始めてからはある程度しのぶにも余裕が出来た気がする。一人よりも話せる相手が居れば少しだけマシになるのだと思えば打ち明ける相手が居るというのがとても重要なことなのだと気付く。
――ふと思い浮かぶのはカナヲと同い年くらいの少年のことだった。
姉と同じくらいに優しい少年に怒っていますかと問いかけられた。柱にも他の誰かにも悟られたこともなかった心の内を明かしたのもあれが初めてで、打ち明けたその時に少しだけ心が軽くなった気がしていた。こいつにはそんな存在がいたのか、そんな疑問を抱えたしのぶが初めて虹色の眼とかち合えばその目は嬉しそうに笑んだ。
「あ、やっと目が合ったねしのぶちゃん!!」
「……少し、黙って歩き続けるのも飽きました。貴方の話を聞かせて頂きますか?」
不意に、手の中に収まる生首の話に興じたくなって、声を掛ければ心底嬉しそうに笑う。今まで静かにと言い続けたしのぶに対して怒らぬ心を持つ童磨に少しばかりの罪悪感を抱けば、俺に興味を持ってくれたんだと笑う生首がどうにもやりにくさを覚えた。
――童磨は頼んでもいないことをペラペラと話し出す
曰く頭の弱い両親のこと、幼くして教祖にさせられたこと、そんな子供に泣いて縋る馬鹿な信者しか居ない教団のこと、どうにも引っ掛かる物言いをするそれを聞き流しながら童磨が話内容を理解すればするほどに、間違いを正さない相手が居ない不幸と、打ち明けられぬ男の哀れな生を理解した。
「俺は優しいから、信者たちと共に永遠を生きてあげたいんだ」
途端に、吐き気と頭痛を覚えた。復讐心に囚われたしのぶがそれを理解すれば手の中の鬼も紛れもなく一人の命だったのだと自覚する。知らなければ良かったという後悔と罪悪感が押し寄せる。弄ぶように今まで毒の実験で奪った命を考えれば童磨とそれ程変わりがないのではと思わずにはいられなかった。
「……そうですね、お前は確かに優しかったのかもしれませんね」
童磨は間違っていたけれども間違いなくそれは善意に違いはなかった。途端に、目を見開く童磨の眼から雫が溢れ出す。あれ、と訳も分からず迷い子のように眉を歪ませる童磨の涙を拭えば童磨はへにゃりと笑みを浮かばせた。
「ごめんね、いつもはこういうの操作出来るのに、何か出ちゃった。恰好悪いね?」
「涙は操作するモノじゃないんですよ?」
賢いのにそんなことも知らないんですね?笑んでいるしのぶの目からも涙が流れる。お互いに馬鹿なのだと思わずにいられない。不意に突風が流れこれは何だろうと一人ごちる童磨の長い前髪が虹色の眼を隠す。邪魔だけど払えぬ童磨がおかしくてしのぶが笑う。この時ばかりはしのぶの心は憎い筈の相手に向けられていた気がした。