――風車の道を抜ければ今度は坂道が目の前に広がっていた
周囲は木々に取り囲まれ、坂道の途中では鳥居が立ち並ぶ。彼岸花から風車、果ては鳥居とは?本当に訳が分からないと足を進めればしのぶは鳥居をくぐった。木々の木漏れ日は二人の肌を冷やし、夕暮れに照る木々は橙色に染まる。童磨もある程度涙を零せばいつも通りだ。たまに木の根元に座り精神的な疲労を癒すが童磨のお喋りは相も変わらずで休んだ気はしなかった。
「ねぇ、しのぶちゃん俺たちって飢えないんだね?普段ならとっくに女の子を食べている筈なのに、今はいいやってなってるもん」
不思議だね、と話す童磨は真顔になるがあっという間に笑みを浮かばせる。あ、でも今首だけだからどっちにしても無理か!ケラケラと笑う男にしのぶの口から溜息が零れ出す。だが、童磨の言う言葉は否定できない。……確かに、散々歩いたのに飢えないでいることが出来た。精神的な疲労で休むことはあれど肉体的な疲労は此処ではなかった。それも死んだからだと言われればそこまでだが。しのぶはしばらく考え込めば童磨はうっとりとした目でしのぶを覗き込む。
「……童磨、何ですか?」
「……考え込むしのぶちゃんも可愛いなって思ってね!」
まるで恋する乙女のようだ。うっとおしいと思いながら笑みを張り付けて問いかければ本当にどうでもいい回答が来た。額に血管が浮かぶ。
「……それに、童磨って呼んでくれた」
そうですか、ヒクリと動く口角を堪えてしのぶは聞き流せば童磨の言葉に動きが止まる。
心底嬉しいと言いたげに童磨は目を細めた。
「お前は、名前を呼ばれるだけで浮かれるのですね?」
「だって、しのぶちゃんが呼んでくれるからね!」
まるで幼い男の様子に毒気が抜けていく。……これでは怒るに怒れなかった。それに、さらに続ける童磨は言葉を続けた。
「俺だけの名前だから」
「俺だけの、とは?」
「俺、両親から名前を貰ったことがないからさ」
特別な子だからと、名を付けられなかったことを察したしのぶは口を閉ざす。あの方が付けてくれた俺の名前。そう続ける童磨に、しのぶは困ったように眉下を下がらせる。目が不思議と痛むのはこの心を突き刺すものがあるからだった。
「……童磨、お前はきっと両親に恵まれなかったのね」
私と違って、本当に。貴方は、そう言いかける言葉を続けられない。思い浮かんだのは優しい両親たちのこと。鬼に殺されていなかったらきっと姉の願う普通の女の子の幸せを手に入れていたに違いなかった。……それでも奪ったのは鬼であったしそれが出来なくなったのは紛れもなくこの男のせいだった。
「お前は、不幸だったのですね」
しのぶは敢えてそれを口にした。姉は生前可哀想だと言っていたが、今になってその意味を真に理解する。童磨の眼はきょとんとした様子で、心底分からない様子で、頭部を少し動かした。
「俺が不幸って言われるのは、初めてだ」
今まで、そんなこと言われたことないのにね。そう語る童磨をしのぶは見据えていた。磨り切れた童だと無惨が名付けるのなら私はこの分からず屋を子供に戻すだけだ。
「お前が分からないなら、分からせるまで話しましょう?」
互いに時間は十分あるのだから、しのぶに遠慮はない。可哀想と感じるモノがあるのなら、他の感情を教え込もうとしのぶはその時初めて童磨と向き合うことに決めた。