向き合うと決めた以上しのぶは徹底的に童磨に答える。答えてくれるのが嬉しいと微笑む童磨は最初の内のみで次第に童磨の表情に余裕がなくなっていく。
―――しのぶが童磨の言葉を何度も深く聞いて否定するからだった
お前は何を思ってそれをしようと思ったの?何も感じなかったのでしょう?そうだからお前は糞野郎なのです。微笑んでいるのにその言葉は何処までも童磨を否定する。童磨は既に生首である筈なのに無い筈の胸がざわめいて騒がしくなった。ねぇ、穏やかに語り掛ける言葉はしのぶの言葉を遮る。
「何で、そんな酷いこと言うのかな?」
前髪が揺れて目元が隠れた眼が見え隠れする。真顔な表情と隙間から垣間見える眼は怒りの感情が見え隠れしていた。クスリと微笑む少女は童磨の生首を持ち上げて顔を見合わせた。
「それで、いいんですよ?」
それが、お前の感情で、怒りなのだから。その言葉に童磨の眼が瞬いた。パチクリと開閉を繰り返す目元に触れてしのぶは更に笑みを深める。
「お前は無意識に感情を出しているところがあるのですよ?だからカナヲにあんなに怒ったのではないのですか?」
「……怒る?あれが、そうなんだ」
童磨は困ったように眉を下がらせて笑った。それからは童磨もしのぶと会話を繰り返す。どうしてそう思うのか、どうしてそう行動するのかを何度も問いかけを繰り返す。随所に見え隠れする童磨の隠れた心を見出す作業はしのぶの時間を奪うが、それでも時間は永遠にあるように思えた。歩む足は沢山の鳥居を潜り抜け更に童磨にしのぶは問いかける。
「お前は何故琴葉を連れ帰ろうと考えた彼らを殺したの?」
「うるさかったから?」
「それは何故?」
幼子のような理由に更に聞けば童磨は唸る。まるで難問に立ち会ったように悩む姿は幼子のようで、普段の彼よりも好ましく思えてしのぶは笑う。
「普段のお前なら話を聞いてあげようとしていたじゃありませんか?私の時もそうじゃありませんでしたっけ?」
「……確かにそうだけど、だってあいつらうるさかったから……」
「それに死んだ遺体も山に捨てるなんて、他の信者が見たらと考えなかったの?お前にしては賢くない行動に思えますよ」
「だって、琴葉はボロボロだったのにあんなうるさい所に連れて行ったらまた逆戻りで、可哀想だったんだ」
しのぶの言葉に、だってと童磨は不意に言葉を発する。唇を尖らせて文句言いたげに眉を顰める顔は自分の意思に従っているようにも思えた。しのぶは生首を抱きかかえてまた言葉を投げかける。
「お前は、琴葉を守りたかったんですね?」
童磨はまたポカンとした表情を見せる童磨がおかしくて、しのぶはまた大きな声で笑った。
――――――――――――――――――
語り合いが続けば童磨は心を学んでいく。希薄なそれは次第に色濃く染まるようだ。喜怒哀楽を学ぶ童磨は次第に眠ることが増えた。鬼が眠ることがあるんだねと笑う童磨の眠りは次第に深く長くなる。まるで炭治郎の鬼になった妹のようだと思いながら旅は続く。死後共に過ごしたことである程度の性格を把握できるようになったし向き合えば彼の虚しさを理解した。童磨も以前のように嫌ではない。
――そのように思えた
不意に、夕暮れが沈んだ。光は消えて、夜が来る。目の前が真っ暗になれば歩くことはままならず、そのまま立つ時間ばかりが過ぎていく。大丈夫だよ、不意に童磨の声が聞こえてくる。
「夜なら、俺の方が見えるだろう?」
任せておくれ、先程起きたであろう童磨がしのぶの腕の中で笑う。
――それを心強いと感じた
足元に木があるよ、真横の枝に気を付けて、また鳥居だよ。夜目が利く童磨の指示は的確にしのぶを導く。時折眠る童磨を待ちながら真っ暗闇な空間で二人きり。それでも寂しく思わない彼の言葉に救われた。ふと、童磨の言葉が止まる。
「……どうかしましたか?」
「……此処から先の鳥居がね、二手に分かれているんだ」
どうすればいい、と顔を動かす童磨の頭を撫でて、しのぶは笑う。
「お前が選んだ道で構いませんよ?」
「でも、ここがあの世なら間違えたら……「いいんです」」
貴方を信じましょう。その言葉に、童磨は瞬間的に目を見開くがすぐに消えうせ満足げに微笑んだ。
「右だよ、何となくだけど……それでいい気がする」
「分かりました」
しのぶは言われるがまま分かれ道の右に進む。本当に良いのかい?と不安げに揺れる虹色にしのぶは笑い返す。
「お前は信用を勝ち取ったんですよ?」
しのぶの言葉に童磨は心底おかしそうに笑う。
「信じてくれるってこんなに嬉しいことなんだね、しのぶちゃん」
嬉しいってこういうことなんだね、童磨の笑い声が夜の森の静寂を打ち消した。
――――――――――――――――――
数多の鳥居を潜り抜け、山頂に続く山道を抜けていく。不気味な程の静寂の中、二人が誰かと出会うことはなかったがそれでも二人に不安なことなどなかった。眠る童磨を持ちながら、しのぶは進む。既に足袋は形を崩れ壊れかけ、それでも歩みを止めないのは終わりがあると信じているからだった。寝息を立てる童磨を恨めしく想えば、ようやく山頂が見えてしのぶは走り出した。
――辿り着いた場所には何もなかった
そんな、しのぶは呆然とすると地平線の向こうから光が差し込む。それは太陽だった。不味い、腕の中の童磨を見れば焼ける頭部が視界に映る。やめて、やめて必死に払うも燃え広がる火は止まらない。火傷を負うことも構うことなくしのぶは身体で覆うも童磨は眠ったまま崩れ落ちていく。待って、しのぶの手が伸びると照りつける太陽がしのぶを眩しく照らしてそれ以降の意識は何処かへと消え去ってしまった。
――――――――――――――――――
――そこは由緒ある万世極楽教の屋敷の中だった
創立して何百も経つというのに古めかしさすらも感じないのは清掃が行き届いている証拠なのだろうか、しのぶは修学旅行の真っ只中でさして期待もしなかった寺院に興味が向いていた。セーラー服のスカートを翻し、また何処かへと行こうとしればしのぶの内ポケットからハンカチが落ちた。姉と揃いで買った蝶の絵柄のハンカチが、腰を下ろし拾おうとすればぬっと手が伸びた。分厚い男の腕だった。見上げて顔を見合わせればしのぶはその男の瞳に息を呑む。
――美しい虹色の眼だった
はい、どうぞと渡されるまでしばらく固まってしまったようだった。ごめんなさいと返すしのぶがいそいそとハンカチを戻せば男はすぐに立ち上がって居なくなろうとしていた。待って、手を伸ばして掴めば、ようやく掴めたような奇妙な感覚を感じていた。ツっと頬に流れた雫が足元に落ちればようやくしのぶは自分が泣いていることに気付いた。
「どうしたんだい?何か悲しいことがあったのかな?」
話してごらん、聞いてあげる。その言葉に何故か目から涙が止まらずしのぶは泣いてしまった。
6月24日の日に書いていたものです。童磨さんがしのぶさんとあの世でとっととくたばれ糞野郎と言われた言わずと知れた童しのの日だと話題で、書いてたのを終わらせたく。書いてましたので上げます。童しのの日おめでとうございました。