鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第九話 五人に勝てるわけないだろ!

 カモ君がモカ領を出立して三日目。

 これから向かう王都。魔法学園とそこで起こるイベントについて考えていた。

 リーラン王国にあるリーラン魔法学園。

 国の名前をそのまま関しているその魔法学園はこの国唯一にして最大の学園である。

 今年十二になる魔法が使える貴族の子息達の殆どが入学するその学園では、勉学よりも魔法の練度を上げるための魔法使い養成機関のような物である。

 魔法省と呼ばれる国公認の研究機関の人間が常駐しており日々新しい魔法の研究をしてはそれを学園にいる生徒達に伝える。

 それを学生が自分の使いやすいよう独自に改良した魔法研究をまた魔法省に伝え、研究して、学生に回すといったサイクルを繰り返して自国の魔法使いの質を高めるのが目的なのだが、そのサイクルで最適化した魔法は百年以上も前から停滞してしまったため、学園そのものは魔法使い達が模擬戦。決闘をする為だけの修練場とかしている。

 簡単に言えばいくら車を改良したところでその操作方法は十年前から何の変化もないという事だ。

 昔から変わらない事と言えば、魔法学園で習う事はその最適化した魔法の使い方と知識を学ぶこと。

 ただ変わったものがある。それが個人かグループ。もしくはクラス対抗模擬戦。

 これはいわゆる試合のような物である程度規定はあるが、そのルール内で体外に競い合うという健全な試合。

 そして、もう一つは決闘だ。これはお互いに何か貴重な物を賭けて魔法を用いた試合をすること。勝った陣営は負けた陣営から賭けた物を奪う事が出来る。

 シャイニング・サーガというゲーム内ではカツアゲとも呼ばれ、その主な加害者と被害者は主人公とカモ君だった。

 いや、カモ君は今まで何度も説明してきたからいいけど主人公も?と思う奴がいるだろう。誰がカツアゲしていたかって?それもカモ君だよ。

 主人公の事が気にいらないからカツアゲをしようとする。ここでゲーム的にはチュートリアルだ。どうやって攻撃するか、アイテムを使うかなどをシャイニング・サーガのプレイヤーはここで学ぶ。

 しかもこのゲームのシステム上、主人公が戦闘不能になるまでダメージを受けると「はは、情けない奴め。もっと俺を楽しませろ」と、カモ君が回復アイテムを使って戦線復帰させる。主人公がカモ君に勝利するまでそれを続けさせる。そして勝った主人公はカモ君からお金を手に入れることが出来る。

 うん。クソゲー。どこまでカモ君を貶めたいんだこのゲーム制作者は。

 しかも、それ以降、カモ君は最初に会った時に負けたことに因縁をつけて決闘を持ちかけるんだけど、後はまあ過去に説明した通り、返り討ち、負け続け、アイテムや金銭を奪われ続け、そして学園を去ることになる。そうしないとこの国が滅ぶ。しかも描写はあまりなかったが主人公以外からもカツアゲを受けていたようなこともあったようななかったような。

 本当にクソゲーだこれ!お前等も一度はカモ君サイドに立って見ろ!逃げ出したくなるぞ!きっと!

 魔法学園のある王都へ向かう馬車の中でこれから始まるであろうイベントを思い返しているだけで気分が鬱になっていく。そんな時はルーナが作り直してくれた火のお守りを取り出して元気を出す。あ、でもこれも奪われるんだよな。あー、嫌だ。学園に行きたくない。

 そんな引きこもりじみた思惑でも、カモ君の乗っている馬車は順調に進み、その四日後に魔法学園がある王都リラにたどり着くのであった。

 

 

 

 日が暮れ始めた時間帯にカモ君を乗せた馬車は首都リラにあるリーラン魔法学園の男子学生寮まで辿りつく。

 王都リラはモカ領の農耕地帯でもなく、ハント領のように冒険者達が練り歩く風景でもない。近世ヨーロッパ思わせる街並み。この世界では珍しい五階建てのアパートやデパートが立ち並び、王都の中央には巨大な白い城が鎮座していた。

 それがリーラン城。王都のどこからも見えるその城はこの国のモチーフにして象徴。偉大なる魔法使い達の城。

 その広大な城では年に一度その敷地の一部を解放して魔法大会という御前試合が行われ、噂ではその大会で優勝すれば王族に迎えられるとかなんとか。

 そんな話を御者から聞かせてもらったカモ君はここまで送ってもらった代金と暇つぶしに聞かせてもらった噂話の礼としてのチップも渡し、馬車から降りて大きく背伸びをした。

 一週間も乗り継ぎありとはいえ、殆ど馬車の中で過ごしたため体がこって仕方ない。軽く腕を回しただけでゴキゴキゴッゴッと石を擦り合わせているような音が鳴る。それを見ていた男子寮生たちは思わず身をすくめた。

 それもそうだろう。その筋肉で太い腕を回している高身長の男性の姿はまるでこれから殴り込みをかける山賊にも見えたからだ。嘘みたいだろ。これで十二歳なんだぜ。

 一応、その身に纏っている太った鳥の家紋が刻まれたローブをつけているから貴族の者だと後から気が付いたが、この図体で初見さんがカモ君を貴族で魔法使いだとは思わないだろう。

 モカ領では同年代と遊ぶ機会が少なく大人に交じって体術・剣術の稽古。ハント領に出向いてはダンジョン攻略と思えば同世代と遊んだあまり記憶がないカモ君はちょっぴりショックを受けていた。

 周りの寮生達に軽く会釈をしながら領の中に入る。そしてそこで寮の受付をしていたメガネの男性教諭に自分がエミール・ニ・モカである証明として名前と家紋入りのローブを見せて寮内を案内させられる。

 学生寮は五階建ての広い建物で、広大でハント伯爵家の屋敷並に広く最大300人は収容可能。

 これからカモ君がなる初等部一年生から三年生。中等部の一年から二年生がこの寮で生活しているという。小等部一年は一番下の階。学年が上がるたびに階層が上がっていき、中等部三年生になる頃には自分でアパートとかを探してそこに移らなければならないらしい。

 まあ、カモ君は初等部の三年間いられるかどうかの瀬戸際であるが、年間授業料が払えない貴族は最低でも初等部を卒業すれば職に困ることはないらしく、初等部で出ていく生徒達も少なくないらしい。

 カモ君も初等部を卒業したら冒険者としての箔もつくかなと考えながら用意された自分の部屋にたどり着いた。

 紹介された部屋は六畳一間といった具合にとても狭い部屋だった。

 机、ベッドは備え付けられていたので尚更狭く感じる。というか持ってきた鞄を置けば座る事すら難しい部屋だった。ルームシェアをすればもっと広い部屋に移れるかもしれないが、カモ君はレアアイテムを二つも持っている為、盗難防止として一人部屋を希望したのだ。

 貴族出の人間にこの空間は狭すぎると感じられるがこれは戦争時、同僚の兵達との生活を想定した時の事を考え、この狭さになれておけという学園の思惑だ。しかし、カモ君は一般学生に比べると大きい部類に入るのでその狭さは尚更余計に感じる。

 衣服や部屋の掃除などは学園が雇った執事見習いや業者の人間が準備し、料理は駆け出しや見習いの料理人が準備する。勿論それぞれの責任者がいるが基本的にはまだまだ新米か見習いの人間がカモ君達、学園生徒の世話をする。こうして雇われた者達は将来卒業する生徒達の目に留まればその家に雇われることが出来るのでその仕事にも力が入るというものらしい。

 この寮に移り住む際に自分の家の従者を連れてくることは禁じられている。学園は自立を促す場でもあるのでそのような甘えを助長するようなことは許さないのだ。

そんな環境の変化もカモ君にとっては部屋が狭くなったなぁ程度である。

 アタッシュケースの中から火のお守りを取りだし、首に下げ服の下に隠すようにつけ、水の軍杖を片手に取って、貴重品は全部持って部屋を出て、男性教諭から渡された部屋の鍵でしっかり鍵をかけて男子寮を出る。

 寮での手続きを終えたら次にやるのはコーテ嬢との挨拶だ。一応婚約者だし、学生寮に付いたらすぐに連絡すると手紙でやりとりしていたことを思いだし、少し離れた所に見える女子学生寮へと足を運ぼうとした時、後ろから声をかけられた。

 

 

 

 「君、新入生かい?よければ学園を案内しようか」

 

 また新しいカモが来た。

 そう考えながらカモ君に声をかけてきたのは初等部三年生の先輩だった。彼は人のよさそうな顔でカモ君に話しかけると彼の横に並ぶように歩き始めた。

 

 「はい、そうです。いやあ、助かりました。なんせ、自分はこの体格なもので。声をかけようにも他の皆さんは怯えられてどうしようかと困っていたんです」

 

 「そうかそうか。君が一階の廊下から歩いてきたのを見たときは本当に一年生かと二度見しちゃったよ」

 

 「いやー、すいません。実家にいた時は魔法の勉強もしていたのですが自分はどうも体を動かす方が好きだったみたいで、気が付いたらこんな体になっていたんですよ」

 

 「ははは、無理もない。その体格じゃあ冒険者どもに間違われるかもしれないしね。・・・そうだな。君も僕等と同じ魔法使いだという事を皆に知らしめるためにも闘技場に行ってみないかい?」

 

 「知らしめる。ですか?」

 

 「ああ、そこで僕の友人達と魔法を見せ合えばそれを見ている生徒達に君も魔法使いだと知らしめることが出来る。なに闘技場の手続きは簡単さ。書類に名前を書くだけだ」

 

 「すぐに済むでしょうか?人と約束もあるのですが」

 

 「済むさ。ほら行こう行こう」

 

 彼の手を取って男子学生寮の敷地を出て、丁寧な刻まれた文様がある魔法学園の校門をくぐり教室があるだろうと思われる建物や教員の集まる職員室を越え、多くの者が運動している体育館の隣に闘技場はあった。

 野球場のように外縁に観客席があり、その内側には石畳が積み上げられた試合舞台が設置させられていた。まるで古代ローマにあるコロッセウムのようだ。

 カモ君がそんな学園の中に闘技場とは?と、呆けているうちに、先輩が受付表を闘技場にいた女性教諭にある書類を出させていた。そんな彼の周りにはいつの間にか何人かの男性生徒達が見受けられた。

 

 「さ、あとはこの闘技場使用許可書にサインを」

 

 「はい。わかりました。さらさら~っと」

 

 と、サインを書き終えた後、瞬間先輩とその周りにいたにやりと邪悪な笑みを浮かべた。

 

 「それじゃあ、始めようか。お互いのアイテムを賭けた『決闘』を」

 

 「は?」

 

 カモ君のきょとんとした顔を見て先輩達は笑い声まで上げた。罠にかかった間抜けな獲物を見つけたように笑いながら隠し持っていた杖に短剣。首飾りなどを見せつける。それらは恐らくマジックアイテムなのだろう。

 

 「勝った方が強い魔法使いとしてその装備を身に着けるのは当然だ。勿論、弱い魔法使いはそれを使うには不相応だと思わないかい。だから勝った魔法使いは負けた魔法使いからアイテムを奪う権利があるのさ」

 

 そう言いながらカモ君が持つ水の軍杖に視線を移す。

 カモ君の図体から冒険者崩れが魔法学園に特別枠で入学してきたと思ったんだろう。

そんな冒険者崩れがレアアイテムの水の軍杖を持っている。そんな奴より自分達の方が魔法に関してなら上手だと考え、カモ君から水の軍杖を撒き上げようとした。まさにカツアゲである。

 

 「なるほど道理ですね。力の無い者が強いアイテムを使うより力のある者が使う方が有意義というものですよね」

 

 カモ君は俯きながら先輩達にそう答えた。その答えに気をよくしたのか。笑い声を上げながらカモ君を根性無しだの意気地なしだの馬鹿にする。

 俯いたおかげでその表情が見えない。が、その見えない所でカモ君もまた邪悪な笑みを浮かべていた。カモ君もまた同じような事を考えていたから。アイテムが向こうからやって来た。と、その笑みを引っ込めていつものクールフェイスに戻しながら顔を上げて言った。

 

 「だったらそのアイテム俺の物になりますね」

 

 その言葉にキレた先輩達とカモ君による五対一の決闘が一時間後に行われることになった。

 それまで決闘する人達が待機する控室でカモ君はクールに佇みながら決闘する時間を待っていた。ように見えるが、内心では。

 

 やばいって。五人同時は聞いてないって。

 精々一対一を五回行うものだと思っていた。

 

 とかなり焦っていた。

 ゴブリンでも単体ならさほど問題無いが、複数になると難易度が跳ね上がる。

 この魔法学園の決闘もそうなる可能性はあるので、カモ君が圧倒的に不利であった。

 


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