鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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カモ肉の天丼 敵国の劣等感たれ付き
序章 カモ君にはこう見える


「実は、俺。ネーナ王国に行ってみたいと思うんだ」

 

魔法学園の廊下でカモ君はシュージから衝撃の言葉を聞いた。

突然だが、カモ君が聞きたくない言葉ベスト3を発表する。

 

第一位 「兄さま(にぃに)、嫌い」

第二位 「愛想が尽きました」

第三位 「俺(私)、リーラン王国を滅ぼすわ」

 

一位は愛する弟妹。二位はコーテ。三位は主人公であるシュージ。

これ以外の事なら弟妹達が関係していなければ笑って流せる度量のカモ君である。

そんな彼だが、三位とほぼ同義語である「ネーナ王国へ行きたい」という言葉を聞いて思わず思考にフリーズがかかった。

 

いや、何言ってんの主人公。それはストーリーの序盤で主人公が親友やヒロインを裏切って敵国へ寝返ることを言っていると同じだぞ。

そんなフラグを立てた覚えは…。

 

入学してすぐに決闘騒ぎに巻き込み、結果的に敗退させた。

武闘大会で有無を言わさず、速攻で勝負を決めた。

 

…あったわ。フラグ。

いや、たった二回のフラグで寝返りルートに行くか、普通。

もう少し頑張れよ、主人公っ。ガッツ出せよ。いや、たったこれだけで自分が世話になった国に見切りをつけるほどやわじゃない。

まさかとは思うが、いじめか?

自分がいない間にシュージが平民というだけで貴族であり、同じ学び舎に通う生徒達がシュージに因縁をつけていじめをしていたとか?

だとしたら〆ないと。お前たちがいじめていたのはこの国の未来苑もだということを肉体言語で教えてやらないと。

 

「…誰にいじめられていた?そいつらを〆てやる」

 

「いじめっ?!そんなんじゃないぞっ」

 

シュージは意外そうな顔つきでカモ君の言葉を否定した。

 

「…強がらないでいいぞ。何でも言ってみろ」

 

「お前は俺のかーちゃんか。本当にそんなんじゃないって」

 

シュージも男の子だからね。強がるのはわからんでもない。でもいじめって許されるものじゃない。我慢が耐え切れずに事件に発展することが多いのだ。殺傷事件なんてざらだ。

シュージの場合はその被害が国の存亡という事態にまで拡大するのだ。

 

「んんっ。実は少し前に武闘大会があっただろう。あれで自分の力不足を実感してから帰省しないで学園で自主トレーニングに勉強をしていたんだけど、まだ足りない気がしてさ」

 

シュージは主人公能力。自分と仲間。そして敵のステータスがある程度知ることが出来る。

今のシュージのレベルは21。

魔法学園に入学する前はレベル3という低レベルを考えると凄まじい成長度だ。

学園の教師が40前後であり、ここまで高い数値を見たのは故郷を離れるまで未定はいなかった。今のカモ君もレベル41という成長ぶりを見せている。

自分の倍近く突き放しているカモ君をみてこれではいけないと感じている。

しかし、ステータス。中身までは把握することが出来ていないシュージは知らない。

今の彼の魔法の威力は既にカモ君を超過しており、筋力は同程度。純粋な戦闘力を比べてみるとほぼ同格までレベルアップしていることを知らない。

カモ君が勝っている点はスタミナと魔力の多さ。いわばHPとMPだけである。

三百万の高級車と百万も満たない自動車の性能が同じみたいなことだ。まだ成長の可能性を秘めているシュージの方が優れている。

 

「夏休みも終わって、いろんな先生に掛け合って訓練していてもまだ強くなった気がしなくてさ」

 

これは大きな誤解である。シュージは恐ろしい速さで強くなっている。

だが、彼にはカモ君というある意味強烈な印象を与えた戦士の姿が脳裏にこびりついている。彼に追い付くには、並び立つにはまだ足りないと感じていた。

シュージがこのまま自身を鍛えていけば一年でカモ君を簡単に超えていくだろう。それを実感していないのがシュージだった。

 

「…シュージ。それは違うぞ。お前は強くなっている。俺が考えている以上に」

 

決闘騒ぎでカモ君を倒し、ダンジョン攻略の時にタイマン殺しもろともカモ君を倒した。さらにはシータイガーの討伐に貢献した上に、武闘大会ではベスト8という好成績を残した。

魔法使いとはいえ、ただの平民に出来るだろうか。断じて否である。

平民と貴族という時点で教養。戦い方という経験値が違う。

更には凶悪なモンスターとの相対。一般人なら腰が砕けてその場にへたり込み、動けなくなるのが普通だ。

そして、荒くれ者の多い冒険者や凶悪な魔法を使える魔法使いが参加する大会で好成績を残すことも不可能。

入学当初はそんな一市民と相違ないシュージがここまで強くなった。

ゲームでならチートツールを使ったと思わんばかりの成長ぶりだ。それだけシュージは自身を追い込み、鍛えたのだ。

だがそれでもシュージは足りないと感じている。カモ君には届かないと思っている。

 

シュージの過大評価である。

 

カモ君がそう言おうとしたところでシュージの後ろから、腰まで伸びたピンクの髪を揺らしながら見慣れない女子生徒がやってきた。

 

「シュージ君。もうすぐ次の授業が始まりますよ」

 

コーテやミカエリのような美しい顔つきとは違い、かわいらしいという表現が正しい女子生徒。身長はシュージより二回りほど小さい。思わず抱きかかえたくなるような容姿だった。

光をはじくピンク色の髪は誰が見ても美しいというだろう。アジア人のように黒い瞳。目つきはとろんとどこか眠たそうな雰囲気を醸し出していたが、何よりも声が違った。

演じているのか、抑えているのか。どちらにせよカモ君にはこの声の持ち主が自分よりも行為の教育を受けてきたというのが分かった。

ジジイからショタまで。男ならその意識を溶かしてしまうのではないかというその声にカモ君は意識を緩めるのではなく、警戒心を引き上げた。

 

ここでっ。ここでお前が出てくるのか!?ピンクの悪魔!

 

ゲームでは格闘ゲームからノベルゲーム。アニメでは無垢な少女から醜悪な老婆まで自在に演じることが出来る声優が演じたキャラ。

そして、シャイニング・サーガというゲームでは主人公を誑かし、意図的にリーラン王国を滅ぼすきっかけを作った少女。

 

「あら、もしかして貴方がエミール様ですか。シュージ君からよくお聞きした通り屈強な戦士のような方ですね」

 

カモ君を見てスカートの橋をつまみながら頭を下げた少女に感づかれないようにカモ君は息をのんだ。

 

「ライツ・マ・アンネと申します。この夏からお二人と同じクラスメイトになりました。よろしくお願いしますね」

 

そう微笑みながら喋る彼女は正に天使と言える。この言葉に男ならば思わず頷きたくなるほどの魔性を感じさせる。だが、カモ君にはこう言っているように見えた。

 

お前を殺す。

 

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