鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第五話 強要

回復の水魔法。それも中級の回復魔法をクイックキャスト(笑)で発動させ、自分と重戦士に施したカモ君は左手を固く握り、ミスリルタートルに向けた。

ミスリルタートルは見た目通り、亀。そのため動作が遅いモンスターだが、亀であるがゆえに防御力能力は他のモンスターの比ではない。

だが、突入パーティーが半壊している今ほどラッキーなモンスターだ。

攻撃方法は嚙みつきと踏みつけに体当たり。その巨体に遭った威力を誇るがその鈍重な巨体に近づかなければ恐れることはない。

だが、厄介なのはそれを打ち消そうとする補助魔法をこの亀が使えることだ。

自重を軽くするライトネス。素早く動かすことが出来るプチクイック。

この二つの魔法が発動されると、走ることを覚えた幼児並みのスピードで敵対する相手に攻撃してくる。

モンスターも人間や亜人のように魔法を発動させるには詠唱が必要になる。

ドラゴンやリッチ・ヴァンパイアといった高度の知性を持つモンスターは無詠唱で魔法を使ってくることもあるが、このミスリルタートルは詠唱を必要とするのだろう。

パクパクと口を動かしているだけ見えるが、魔力が収束していることが魔法の使えるカモ君達は気が付いた。

まだ顔にへばりついている血も乾いていないにも関わらずカモ君は前に飛び出した。目的は亀の口を閉じること。

額から血が溢れていたとは思えないほど俊敏な動きでミスリルタートルに駆け寄るカモ君だったが、距離がありすぎた。

ミスリルタートルの魔法は完成し、ミスリルタートルの体を薄緑色の光が包み込む。

その光景を見たカモ君は、最初亀の口を閉じるために蹴り上げるつもりだったが、真っすぐに突っ込むのをやめて、真横に飛びながら風の針を打ち出すエアニードルの魔法を放つ。

不可視の何かが飛んでくるのを感じ取り、首を体の中に引っ込めて、その背中に背負った甲羅の淵で風の針を受け止める。チンチンとまるで熱した金属の上ではねる水滴のような音を立てて霧散した風の針にカモ君は内心落ち込んだ。

 

俺の最速の魔法だぞ。5メートル近く離れていたとはいえ、対処できる機敏さを持つ亀とか…。どう勝てばええねん。

 

おそらくミスリルタートルの使った魔法はプチクイックという魔法だろう。

状態異常というデバフにかかりにくいミスリルタートルに、モスマンの鱗粉。

何も対処せずにこのボスフロアに突入していたら、鱗粉で動けなくなったところをこの亀が齧りついていただろう。

幸いなことにシュージの魔法でモスマンとその鱗粉を焼き尽くしたことでカモ君はいつものように動ける。

補助魔法を受けたミスリルタートルよりもカモ君の方が素早く動けた。

広い球場のような空間。ドームのボスフロアの中央にミスリルタートル。

最奥には心臓のように不気味に蠢き、点滅している一抱えありそうな赤い宝玉。ダンジョンコアが5メートルほどの高さ浮いていた。が、それは目に見えてその高さは目に見えて低くなっていた。

ダンジョンの深層化。それが目の前で起ころうとしていた。

 

倒せないモンスターと落下していくダンジョンコア。

 

どちらを相手にするかは目に見えていた。

 

「俺がこいつを引き付けるっ。誰かダンジョンコアを破壊してくれっ」

 

このようなチャンスは滅多にない。

ダンジョンコアを守るモンスターはミスリルタートルだけ。

沈下してしまえばまた新たな脅威を生み出すダンジョンコアをここで破壊するにはこの場面しかない。

カモ君は残った魔力を全部使い切るつもりでミスリルタートルに魔法を浴びさせる。

全属性の魔弾をランダム発射するエレメンタル・ダンスを放つがどれもこれもがミスリルタートルの防御を打ち抜けない。

最悪なのはミスリルタートルがそれに気が付き、再び詠唱をし始めたことだ。

言葉らしい言葉を発していないこのモンスターだが、口の開閉と魔力の収束にカモ君は武器を作り出す魔法を紡ぎだす。

 

「クリエイトウェポン・ランス!」

 

カモ君の左手には穂先50センチ。手持ち30センチほどのコンクリートで出来たような灰色の、魔法の石槍が握られていた。

その矛先をミスリルタートルに向かって突き出す。これをもって亀の詠唱を中断できればと思っていたが、数秒遅かった。

ミスリルタートルの魔法が完成した。

ライトネスという体を軽くする魔法を、自分にではなくカモ君にかけたのだ。

石槍という重い物を持って突撃しているカモ君の体を急に軽くするとどうなるか。

それは石槍に重心を持っていかれ、バランスを崩すという事だ。

 

「っ?!」

 

そんなバランスを崩した敵に対して鈍重ながらも強大な力を持ったミスリルタートルがとった行動は噛みつき。その動作は行動範囲こそものすごく狭い。

射程1メートル未満という短さの中に入ってきたカモ君の頭を丸かじりするには十分な距離だった。

石槍の矛先を地面に向けている以上、カモ君に恐れることはない。むしろ自分から飛び込んできた獲物に首を伸ばしてその口を開いた。

その瞬間にバランスを崩したカモ君がとった行動は、石槍を手放し、ウールジャケットに魔力を流し込んで自分をさらに軽くして大きくジャンプすることだった。

ブチっという音を響かせながらもカモ君はミスリルタートルを跳び越すように新体操なら二回転半ひねりというジャンプ技でミスリルタートルの攻撃をかわしたように見えた。

が、実際は違う

無理な体制でのジャンプで亀の口を完全にかわせず、左上腕部の一部を食いちぎられたのだ。部位こそ掌に収まる範囲だったが。隻腕であるカモ君にはとても大きな痛手だ。腕を振るうだけで痛みが走る。眉根を歪めるだけで抑え込んでいるのはカモ君の精神力もあるが、ここで弱みを見せたらただでさえ劣勢な自分たちの攻勢が崩れる。

カモ君はミスリルタートルを飛び越した後、大きくその場から離れることで状況を改めて状況を見比べる。

 

剣士の三人はまだ気絶している重戦士と弓使い。魔法使いをそれぞれ肩に担いでこの場から去ろうとしていた。

彼らはカモ君を見捨ててこの場から逃げることを選択したのだ。

それが悪いことだとは言わない。いや、カモ君的には罵声を飛ばしたい。だが、カモ君の魔法のことごとくをはじいたミスリルタートルに勝ち目はないと見切りをつけた彼らを責めることはできない。

 

今、この場に残っているのはカモ君。シュージ。ライツの三人。魔法学園出身の生徒だけだった。その三人のうち、誰もダンジョンコアの近くには駆け寄れていない状況だ。

シュージが振りむこうとしていたミスリルタートルに、カモ君とは別方向にいた再びファイヤーストームを放つが、足止めくらいにしかなっておらず、その火炎旋風の中をゆっくりと近づいてくるその亀の影は恐怖でしかない。

 

カモ君でもダメ。シュージの魔法も足止めになっていない。ライツは補助魔法がメインで足止めが出来ない。

ここは自分達も引くべきかと考えたが、疲弊した自分達に追いかけてミスリルタートルが迫ってくるかもしれない。

しかもここのボスフロアのモンスターという事はスタミナもあるだろう。

ミスリルタートルの補助魔法が全て使われると子犬並みの速さで動いてくる。疲弊している自分達に追い付くのは容易に想像がつく。

もはやカモ君達が生き残るにはミスリルタートルの撃破。もしくは戦闘不能するしか手段がなかった。

シュージの炎で少しはダメージを負ってほしいと願っていると、ミスリルタートルの影が少しだけ遠のいた。

 

祈りが通じたか?

 

そう考えてしまったカモ君は直後に馬鹿かと自分を内心罵った。

シュージの魔法が途切れると、そこに残っていたのは完全に甲羅にこもったミスリルタートル。しかも、魔法が終わったことを悟ったのか、首だけを出してそれを確認すると、瞬時に手足も甲羅から出すと同時に、子犬が駆け寄ってくるスピードでシュージめがけて走っていった。

 

5メートルの巨体が走ってくる光景は圧巻の一言だろう。

まだ実戦経験の浅いシュージはそれに面喰い、動けないでいた。

 

「足を止めるなっ!馬鹿!」

 

カモ君も残り少ない魔力で自分の素早さを上げるプチクイックを発動させながらシュージの元に駆け寄る。

シュージを起点としてほぼ直角に近づいていくミスリルタートルとカモ君。先にたどり着いたのはカモ君だった。

 

シュージを突き飛ばして亀の進路先にいた人間をシュージから自分に変更させたカモ君に出来たのはその巨体に跳ね飛ばされるだけだった。

 

「エミールっ!」

 

シュージは己のミスでカモ君が負傷したことに悲鳴を上げるように彼の名前を叫んだ。

この状況で彼が無事であるはずがない。

それは確かにそうだ。だが、まだ終わってはいなかった

口からは血の混じった胃液を吐き出しながらカモ君の眼はまだ諦めてなかった。

シュージを突き飛ばすと同時にウールジャケットにも魔力を込めて自分を軽くしていたのが功を制した。

卵のような固形物をバッドで殴れば当然割れるが、枕のような柔らかく軽いものを殴れば一時は凹むかもしれないが、その柔軟性ですぐに元に戻る。

軽くなったカモ君は体当たりの衝撃を大きく逃がした。とはいえ、ノーダメージというわけにもいかない。それどころか即死ダメージの四割を逃がしただけにすぎず、残った体力は二割ほど。骨折はしていないがダメージが大きすぎた。

そのせいでアドレナリンがドバドバ出て、どうにかこの場をやり過ごせという本能で、逃げるという事よりも倒すという殺意に近い感情がカモ君を支配した。

 

どう倒す。こんなに重い亀モンスターを。

重くて速いとか最強だろう。ブレスを吐かないドラゴンかよ。

重い?重いのなら軽くすれば倒せるということか?

ああ、なんだかムカついてきた。二回もポンポン跳ね飛ばしてくれたこの亀が憎い。

こいつも跳ばされる思いをしてもらわなければ割に合わない。

そうだ。今、こいつは魔法で自分を軽くしている。ならもっと軽くすればこいつも投げ飛ばせるんじゃないか?

 

ミスリルタートルは攻撃や鈍化・軟化といった魔法やアイテムによるデバフ効果は弾くが、軽量化、攻撃力アップの魔法は受け付ける。

それはこの亀がカモ君の目の前でやったことだ。なら重ね掛けも効果があるだろう。

 

「…ぐえっ。ら、ライツ!こいつに軽量化の魔法をかけろ!」

 

「は、はい」

 

べちゃり。と、決して格好いいとは言えない姿勢で地面に落ちたカモ君は今まで傍観していたライツに指示を出す。

今までライツは逃げ出す機会をうかがっていた。

カモ君を犠牲にし、シュージを見捨てる算段をつけ、自分に補助魔法をかけて逃げる算段もして、隠し持っていた毒薬以外にも持っていた小瓶に入れたマナポーションを口にしていたところだった。

そんな少しの後ろめたさとカモ君の必死さに思わず指示通りの魔法をミスリルタートルにかけた。

 

亀だけあって、跳ね飛ばしたカモ君に振りむこうとしていた動作のうちにカモ君とライツの二人はライトネスの魔法をかけることに成功した。こころなしかミスリルタートルが浮足立ったようにも見える。

跳ね飛ばされ、地面にたたきつけられたカモ君もその時には既に立ち上がっていた。

ミスリルタートルがカモ君の方に顔を向ける寸前にカモ君はミスリルタートルの横っ腹に駆け寄っていた。

この時点で胃液も血痰も吐き続けていた。体で痛いところがないと言わんばかりに痛みというサイレンを鳴らし続けていた。

だが、止めない。止めてはいけない。

今、こうして動けているのは興奮による鎮痛と高揚感からだ。これは長続きしない。効果も芳しくない。少しでも気を抜けば激痛で動けなくなる事が分かった。

 

「おおおおおおおおおおっ!」

 

カモ君は腰を落として大亀の甲羅の淵に手をかけて、思いっきり上へと押し上げ、ひっくり返そうとした。が、駄目。

あまりに巨大なミスリルタートル。いくら軽量化の魔法を重ね掛けしていたとしても早々動かせる質量ではない。その上、先ほどまでシュージの火の魔法を受けていたせいかこの亀は熱した鉄板のように熱かった。現に触れている場所からは湯気のようなものが立ち上っていた。激痛も走る。

手放したい。すぐにでも水の中に手を突っ込みたい。だが、放せばおしまいだ。持ち上がらなくてもおしまい。

進退窮まるとはこのことだ。

 

「ライツッ。エミールに補助の魔法を!」

 

シュージは助けを乞うように叫んだ。

今のカモ君は死にかけだ。

今の自分ではカモ君を助けることはできない。だが、補助魔法が得意だと言っていたライツならどうにかしてくれるのだと願っての叫びだ。

 

「…っ。ごめんなさい。もう、魔力がないの」

 

ライツはここで嘘をつく。魔力は先ほど回復させた。今の自分なら中級の補助魔法が4回は使える。

一度はカモ君の気迫に負けて補助してしまったが。自分がこのまま何もしなければカモ君は確実に自滅する。

それを感じ取ったからこそライツは魔法が使えないと嘘をついた。

 

カモ君の体力も魔力ももう枯渇寸前。使える魔法はあと一回。しかも初級程度の魔法だ。

ライツの援護は期待できない。魔法使いタイプのシュージではこの状況を打破できない。

信じられるのは己の筋肉。ではなく欲望だった、

 

まだ死ねない。死にたくない。

生きて帰って、コーテにこの怪我を治してもらう。その後お叱りを受けて反省して、また学園生活に戻りたい。

クーとルーナに手紙を出してまたにやけたい。ハグしたい。添い寝したい。内心はぁはぁ

(*´Д`)したい。

 

そのためにはこの亀は邪魔だ。

残った魔力と体力をここで使い切れ!

 

「ぷぅうてぃいい、ぶぅううすとぉああああっ!!」(プチブースト)

 

魂の叫びともいえるカモ君の魔法が発動した。

身体能力を少しだけ向上させるプチブーストという魔法。

本来のカモ君が使える光の魔法レベル1のそれは、カモ君の想いに応えて発動した。

 

カモ君の補助魔法。プチブーストによる自身の膂力の強化。

カモ君・ライツ・ミスリルタートルによる三重の魔法で軽くなった大亀の巨体はついに動いた。

 

カモ君の豪快なちゃぶ台返しとも思えるその動作によって。ミスリルタートルは半回転し、その重い甲羅を地面に押し付けることに成功した。

ミスリルタートルにとっては驚天動地の珍事により、手足や首。短い尻尾を甲羅の中にしまうことを忘れてじたばたともがく目羽目になった。

この動作をしていればいずれは元の耐性に戻るだろう。だが、それを見過ごすほどカモ君は冷静じゃなかった。というか、興奮しすぎて狂乱していたに近かった。ランナーズハイに近い状態だった。

 

ミスリルタートルの伸びきった尻尾をつかみそのままダンジョンコアの元へと走ったのだ。

正確には走ったとは言えないほどの低スピード。小走り未満の速度だが、カモ君はミスリルタートルを、体全体を使って引っ張っていく。この間にカモ君の手と肘に激痛が走るが、興奮したカモ君にはいまいち感じ取れなかった。が、こんな無理もあと一分もすればつけを払うことになるだろう。

 

ミスリルタートルとダンジョンコアの距離は10メートルほどしか離れていなかった。ダンジョンコアは既に地面に接している高さであとは沈下するだけの状態だった。

そこに子どもが重い荷物を引きずるように、カモ君が5メートル歩くと、そこから横殴りするようにミスリルタートルを放り投げた。

ハンマー投げと思うほどきれいなものではない。荷物を前かがみに落とした。そんな言葉が似あう動作だが、確かにカモ君は一瞬。高さ15センチ未満とはいえ巨体のミスリルタートルを放り投げた。

 

ズンと、ボスフロアがミスリルタートルの重さで小さく鳴動する。

と同時にパキンという音がミスリルタートルの下。そしてカモ君の腰から響いた。

 

重度のぎっくり腰をここで発症してしまったカモ君はただでさえ脂汗をかいていたところに冷や汗をかくことになった。

全身が痛い。一歩どころかほんの少しだって動きたくない。声だって出したくもない。だが、ダンジョンコアの破壊が出来たかの確認もできない上にミスリルタートルはひっくり返っているだけでほぼ無傷。

普通の亀とは違ってミスリルタートルの下腹には魚のえらのように蛇腹になった被膜が見えていた。まるでそこだけ別の生き物のようにわさわさと蠢いていた。この被膜が動くことでダンジョンのような床が固い床に接していても傷つかなかったのだろう。

その太い足と首をじたばたと動かしてその巨体を揺らして何とか立ち上がろうとしている。その巨体の影の下にいるカモ君は思わず助けを呼んだ。

 

「シュージっ!あとは任せた!(訳:助けて!)」

 

「っ。任せろ!」

 

その言葉を聞いて、ようやくシュージの意識が戦闘状態に戻る。

カモ君に突き飛ばされてからカモ君の無茶な行動に呆気を取られがちだったが、そのカモ君が自分を頼ったという事に気合を入れ直し、詠唱をしながらミスリルタートルに向かっていく。

シュージの目線から見ると、まるでカモ君が俺を踏み台にしてミスリルタートルの腹に向かって魔法を打てと言っているようにも見えた。

 

カモ君は腰の痛みから中腰にならざるを得ないだけなのだが。

激痛に苛まれているカモ君は悪寒を感じた。

 

なんで、助けに来るのに詠唱をしながらこっちに走ってくるの?

ちょっ。待てよっ。まさか俺を踏み台にして大きく飛躍する気か!物理的に?!

今は駄目っ。駄目だから。危険だからっ!やめ…。

 

「いくぞっ!」

 

駄目ぇえええええっ!

 

そんなカモ君の内心を知らずにシュージは跳躍した。

中腰になったカモ君の膝、肩に足を乗せ、文字通り踏み台にしてさらなる飛躍を見せた。そして、カモ君は腰から来る激痛に比喩ではなく文字通り一瞬心臓が止まり、脳があまりの痛みで意識を強制シャットダウンさせた。

カモ君は立ったままその場で気絶した。

そんなカモ君をよそにシュージはミスリルタートルの蛇腹状になった下腹に着地して、そこに手を突っ込み、魔法を解き放った。

 

「ファイヤーストーム!!」

 

外側は分厚い甲羅に守られているミスリルタートルでも、下腹の隙間。内臓につながる部分から流し込まれた炎の濁流には敵わなかった。

自身の中から焼き尽くされる炎は体中に行き渡り、最後にミスリルタートルの口から吐き出されていく。

20秒ほど焼かれたミスリルタートルの手足、首は一度ピンと伸びきったが、シュージの炎が消えると同時にだらんと力なく垂れ、最後にはミスリルタートルの全身はボフンと音を立てて黒灰になり、その場に散っていった。

と、同時にシュージの頭の中で綺麗な鐘の音が鳴り響く。

 

それはレベルアップを知らせる主人公とその仲間にだけ聞こえる現象。

 

シュージのレベルはこの時をもってレベル21から25まで生き物としての力量が上がった。

これはシュージがカモ君との10回模擬戦をしてレベルが1上がることから考えればかなりのレベルアップだ。

 

「…エミールっ。やったぞ!」

 

ミスリルタートルとの戦いでそれだけの経験を踏んだというわけではない。

ミスリルタートルへのラストアタックによる経験。その勢いでミスリルタートルの下にあったダンジョンコアを押しつぶした経験。そして、カモ君の意識を奪ったラストアタックによる経験で大幅なレベルアップを果たしたのだ。

 

「…し、死んでいるっ」

 

死んではいないが、どこか悟りを開いたような表情で立ったまま気絶したカモ君にシュージはその場で慄くのであった。

 


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