鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第九話 主人公?の素行調査

コーテ経由でカモ君からミスリルを受け取ったアイムは二日後の放課後。体操服に着替えたカモ君を決闘場に呼び出してオリジナルの魔法『鉄腕』を教える為に実戦形式で教えることとなった。

この日は午後から誰も使わないことが分かっていたので、決闘場にいるのは彼ら以外だとコーテだけとなった。

舞台の上でカモ君はレクチャーを受けると数回試しているだけで、ガワだけは『鉄腕』を発動させることが出来た。

 

…なるほど。思っていた通り、パワードスーツかと思っていたけど実は、重機を動かす感じか。…しかし、この留めるという感触は何ともいえない難しさがある。

 

前世の知識があるカモ君だからこそ『鉄腕』のイメージは容易だったが、それを留めることが難しかった。

ファイヤーボールやエアショットという射出する魔法は、思いっきりボールを投げる動作に近いイメージだが、この鉄腕。投げるつもり腕を振りまわし、その上でボールを投げないという器用に不器用な真似をしないといけない。

少しでも気を抜けばカモ君の作り出した土で出来た『鉄腕』は制御を失い、地面へと落ちる。そこからは操作が利かなくなる。

はっきり言って中級魔法のクレイアームという地面から2メートルはある巨大な土の腕を生やして操作する魔法の方が効率いい。しかし、それはその場に留まらなければならない。

『鉄腕』の最大の利点。強固な『鉄腕』という盾を持って動き回れるという事。そしてカモ君の失った腕代わりになる『鉄腕』はぜひとも習得したい。

 

「最初は絶対に慣れない。魔法の制御に集中力をかなり持っていかれるからな」

 

まるでくしゃみをしたいのに、あと少しで出てこないような妙な感覚に苛まれながらもアイムのいう事を聞くカモ君。

 

「あと、俺がお前に『鉄腕』を教えたことは当然秘密だ。誰かに何か言われても、独力で習得したという事にしろ」

 

『鉄腕』はアイムの冒険者になった時に師匠から教わった技法。ある意味一子相伝の魔法だ。これのやり方を広められると彼の一族の利益が減る。あくまでアイムがカモ君を気に入ったから教えるという事を忘れてはならない。

コーテは特別枠だ。彼女は水の魔法使いだから教えられてもできるはずもなく、他の人に伝えることは出来ても理解はされないだろう。

なにより魔法はセンスがものをいう。カモ君が自在に魔法を使えるのも前世の記憶からくる想像力。そして、これまでの努力があっても中身のない『鉄腕』を作り出すだけで精一杯なのだから。

 

「これから俺が時間の取れる時、そして誰も決闘場を使っていない時だけ『鉄腕』を教える。だが、誰かの眼があるところでは『鉄腕』の練習はするな。これが守られない時、俺はもう何も教えないからな」

 

アイムの厳しい言葉にカモ君はただただ頷いた。いわばこれは暖簾分けのようなものだろう。『鉄腕』のありがたさを噛みしめたカモ君の様子にアイムは頷くと自身の『鉄腕』を動かし、構えを取る。

 

「あとは体で覚えな。少しでも気を抜くなよ。そんな真似をすれば大怪我。下手すれば死ぬ」

 

決闘でもないので、護身の札は支給されないカモ君はその身にアイムの『鉄腕』を受けることになる。当然、魔法の『鉄腕』以外を使うつもりはない。全魔力を『鉄腕』に使うつもりだ。

大怪我した時のためのコーテだ。今の彼女なら、不渇の杖で時間はかかるが骨折程度なら数分で癒せる水の上級魔法ハイヒールが使える。

コーテが自らそう申し出てきたのだ。怪我をする恐れがあるのなら自分を連れて行けと。カモ君には過保護くらい気を使わないとまた死にかけることを見越してだ。

だからカモ君は後の事を考えず『鉄腕』の習得に取り組める。

カモ君は未だに枯れた樹木ほどの硬さを持った自身の『鉄腕』を操作する。その動きは鈍く拙い。

だが、最初から土くれの腕を宙に浮かして操作できたことにアイムは内心舌を巻いた。

自分の時は腕の形をとることが精一杯。宙に浮かせることが出来るようになったのは1ヶ月。硬さを調整できるようになったのは半年。伸縮自在と言えるようになったのは3年かかった。

カモ君への嫉妬もあるが、それ以上に期待を込めてアイムはカモ君に『鉄腕』で殴りかかった。

 

「…じゃあ、いくぜっ!」

 

 

 

この日、カモ君はアイムの『鉄腕』に殴られて十数回宙に舞った。

 

 

 

アイム先生、容赦無しっ!

 

男子寮に戻ったカモ君は寮の共用浴場で服を脱ぐとあちこちが土まみれの血まみれ。白地の体操服なのに、白5:土1:血4の割合で染め上げられた体操服はもう使えないだろう。

もう何枚目になるかわからない体操服をゴミ箱に放り込んで浴場へ足を踏み入れる。

中には数人の先輩達が大きな声で談笑していたがカモ君が入ってくるとそれも小さくなる。

見るからに堅気の人間ではない雰囲気を放つカモ君の傷だらけの体におじけづいたのだから。

カモ君は先輩達に内心で謝りながら体を洗い、湯船につかる。

コーテに傷は塞いでもらったが、そこがしみるような痛みを発しても、逆にそれが心地よさを生み出していた。

 

右のあばらが二本。左腕の骨にひびが入っていた。腹部と両足に裂傷が見られたが、自分とコーテの魔法で見事に回復していた。

 

訓練時間は1時間と短いものの、あまりも苛烈と言わざるを得ない。いくら回復手段があるとはいえ、やりすぎじゃないかと自分でも思うカモ君。だが、こんなことをやっても『原作』

の戦争が起きてしまえば彼は戦力外通告を押されるだろう。

カンスト。最大限鍛えられたとしても戦争では一般兵にも劣る存在になる。この場で言う一般兵は最低でも上級魔法。魔法レベル3の魔法使いだ。

今のカモ君はレベル2の水と地の魔法が使えるだけで残るは雑魚魔法という状況。そこに全属性弱点という欠陥魔法使い。

これまで以上にシュージを強化するためには自分の火の魔法のレベルを上げる必要があるのだが、踏ん切りがつかない。

どうしてもカモ君は守りの姿勢になってしまうのだ。

これまで何度も死にかけたせいか、自分の防御を固める『地』。回復を促す『水』の魔法に力がいきがちなのだ。そうしなければ死んでいたから仕方がないとはいえ、どうしても攻撃的な『火』は遠慮してしまう。

そんな臆病なところに小さくため息を零しながらカモ君は湯船の中で呆ける。今の状況は悪くもあり、良くもある。

不穏な状況は続くが、シュージはゲーム的に考えれば強くなっていることは間違いない。

火の魔法を強化するアクセサリーを二つ所有しているうえ施しコインがあれば戦争までの道中は難なく成長できるはずだ。

問題は彼の仲間ともいえるパーティーメンバーだ。

シュージの仲間と言えるのは幼馴染のキィしかいない。本当ならここで別クラスの自称ライバルキャラが、おせっかいな先輩が、研究心溢れる図書委員、彼の仲間になるはずだが彼等の話はシュージからはとんと聞かない。

もう秋を過ぎ、三学期の冬が近づいているのに彼の仲間がいないのはまずい。

いくらシュージが強くても仲間のフォローがないのはまずい。というかシュージの交友関係ってカモ君ぐらいなんじゃないか?コミュ障?いや、結構はきはき喋る部類だからそうではないと思うが…。

一度、調べてみるとしよう。

彼の仲間になるはずの魔法学園の人物たちに会って、シュージの事をどう思っているか問いただして回ることを決めたカモ君は湯船から立ち上がり浴場を後にした。

 

そんなカモ君を見ていたのは彼が来る前から湯船につかっていた先輩達だった。

カモ君は無言で湯船につかってあれこれ考えていただけだが、その様子が自分達よりも大人に見えていた。何より、カモ君のかもくんが自分達より大きかった事にショックを受けていた。

 

男の体格に負け、彼から感じる魔力の強さに負け、そして人科のオスとしても負けた先輩たちはカモ君に尊敬の念を抱くのであった。

 


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