鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第十話 鈍感主人公?のオカン

朝の筋トレとランニングを終えたカモ君はまずは自称ライバルキャラの隣のキャラを探すことにした。

確か名前はライバルだからラインバルトという家名だったはずだ。性格は凄く熱血漢だった男子生徒だったような気がする。

主人公ばかりを気にしていたから他のキャラは強キャラしか覚えていない。

冒険者キャラで強キャラのカズラとアイム。姫キャラのマウラに比べてまだ学園の生徒という事もあってか弱い。二軍キャラ。だが、一番大化けするのも学園生徒キャラだ。晩成型ともいう。

特にライバル君。彼は主人公の次に強いステータスを獲得できるキャラクターだ。

レベル99が最高と言われたシャイニング・サーガではレベル50以上になるとステータス上昇率がバグったのかと思わんばかりに成長する。

まあシャイニング・サーガの攻略にはレベル60もあればクリアできるようになっていたのでそれに気が付かずにクリアしたプレイヤーは多くいた。カモ君の前世もそうだった。

そんな事情もあってか、性格と家名しか覚えていないのでどんな顔だったかは覚えていないカモ君はどうやって彼に近づこうか悩んでいたが、悩んでいてもしょうがないので、直接彼がいるだろうクラスへ出向き近くにいた生徒にラインバルトという生徒に用があると伝えると、すぐに彼を呼び出した。

 

シュージと同じ赤髪の少年だが、こちらの方が色素の濃い髪質をしていた角刈りの少年だった。シュージが火のような明るさを持っているなら、ライバル君はワインのように暗さを持った赤といったところだろうか。

見たところ腕白小僧を彷彿させる雰囲気を持つ少年でカモ君を含めた生徒全員が制服であるにも関わらず彼だけはジャージといった具合に行動力が服装にも出ていた。ただ、カモ君の行動力が服装に現れたら原始人のように野性的な風貌になるだろうが。

ライバル君の名前は、ラーナ・ニ・ラインバルトと言うらしい。

 

ラーナ・ニ・ラインバルト。

らーな・に・らいんばると。

らいばる・に・なーら・んと。

ライバルにならんと。

 

あれ?ライバルにならない?

何でなまっているような名前だとカモ君は疑問と疑惑を持った。

彼は悪く言えば山賊じみた風貌のカモ君にも臆することなく彼と談笑をしてくれた。

そして気が付いたことが一つある。このラーナ君。シュージの事は眼中になく、カモ君をライバルにしている様子で、「今は俺の方が弱いけど、いつかお前を超えてやる」と、意気込んでいた。

いや、シュージの方が将来性あるから。何なら既に自分より強い魔法使いだからと思っていたが、どうやらここでも原作乖離が起きているようだ。もう少し話を聞いていたかったが、午前の授業が始まる予鈴が鳴ったため、カモ君は話を打ち切り、自分のクラスへと戻った。

それから、午後の昼休みにコーテと共に図書委員の元へ出向いた。

 

図書委員長でもあるぐるぐる眼鏡をかけたいかにも文学少女な彼女は中等部一年生。カモ君より3年年上の先輩にあたるのだが、カモ君が近づこうと歩み寄った瞬間に本棚奥へと逃げるように引っ込んでいった。

なんでもカモ君のような体育系な人間が苦手らしく、同じ文学系のコーテを通してシュージの事を何とか尋ねるも全く興味がないようで誰?という反応しか返ってこなかった。

ちなみに名前を聞き忘れたが、あの調子ではきっと教えてくれないと諦めて図書室を後にした。

 

放課後。今日は決闘場も使えない上、アイムも用事があるため『鉄腕』の特訓は無い。日課の筋トレや瞑想は今日はやらずにおせっかいな先輩を探して回る。

確か、おっぱいがでかいから乳の人とプレイヤー達に揶揄われていた武人気質なお嬢様キャラだったが、ここでも名前と顔を思い出せないカモ君はとりあえず学園の運動施設などを中心に彼女を探してみたが、外見だけはそれらしい人は多数いたため誰が乳の人かわからない。

どこかで彼女がおせっかいをする場面が繰り広げられれば少しは判別できるのだが、生憎とそんな事は起こらなかった。

 

 

 

調査した結果。

シュージの仲間キャラはシュージを意識していないことが分かった。

 

これ、あかんやつや。

 

カモ君は寮にある自室に戻ると頭を抱え込みながら現状に苦悩した。

確かにシュージはソロでもラスボスを撃破する可能性を持っている。しかしそれはいわば『やりこみ要素』。廃人プレイとも言われる徹底的に彼を鍛えることに他ならない。

今のシュージがそれに当てはまるかと言えば答えはNOだ。そうするにはカモ君を何度も痛めつけていなければならず、初等部一年の間に少なくてもカモ君を決闘で10回以上は叩きのめさないといけない。

シュージとの決闘はまだ1回しかやっていない現状では決して到達できない強さだ。

模擬戦はしているとはいっても決闘に遠く及ばない経験値しか入らない。今までの模擬戦を多く見ても決闘1回分の経験値しか入っていない。計2回の決闘しかしていないシュージではラスボスに勝つなど不可能だ。

今からでは遅いかもしれないが、シュージにはもっと周りの生徒と交流を取るように促すしかない。

仲間は多い方が何事も有利に進む。そのことをシュージによく言い聞かせて明日からシュージを連れてラーナ君の元へ出向こうと決めたカモ君は、問題を明日の自分に丸投げしてその日は就寝した。

 

 

 

そして、翌日。

放課後にシュージを連れてラーナ君のところに行こうとしたが、それをシュージから断られた。なんでも先約がいるとのこと。

 

うるせぇっ、そんな事より仲間集めだっ!

 

とカモ君が内心荒れていると、シュージの先約が二人の元に現れた。

ピンクの髪を揺らしながらシュージの腕に自信の腕を絡めてきたライツである。

ライツほどの美少女に腕を組まれて嬉しがらない男子は殆どいない。シュージの表情にも少し赤みが出ていた。

 

「お待たせしましたシュージ君。それじゃあ行きましょうか」

 

シュージはライツに王都リーランで生活用品を取り扱っている店を案内してもらう約束をしていたのだ。

これには勿論理由はある。

一つ目は、シュージの好感度稼ぎ。

二つ目は、シュージの仲間になりえる生徒との交流を絶つこと。

三つ目は、豪遊するキィの所為で工作費用が嵩み、本当に生活に支障をきたし始めたので少しでも安い生活雑貨を手に入れるためにシュージに案内してもらうためだ。

 

「ごめんなさい、エミール様。私が先ですので」

(残念だったなぁ、カモ君)

 

保護欲を掻き立てそうな眉尻の下げ方と申し訳なさそうな表情の下ではゲスな感情を隠しながらライツはシュージを連れまわすように教室を出ていこうとしていたが、カモ君もここでは引き下がらない。

 

「そうか、俺もいい店を知っているんだ。一緒に行こうか」

(騙されんぞっ、このピンクの悪魔が)

 

別にライツやシュージに嫌われようがカモ君には痛くも痒くもない。最終的にはシュージがこの国を戦争で勝利させてもらえばいいのだ。

 

「…もう。エミール様。雰囲気で察してください」

(空気読めや、ボケッ)

 

ライツは頬を膨らませて可愛く怒ってみせたが、内心ではカモ君に中指を立てている。

 

「ふふん。商店街のタイムセールから、原価ギリギリの店まで俺は知っているぞ?」

(雰囲気察しても邪魔をするわ〇ッチ。現在進行形で国家の危機だからな)

 

口の端を少しだけ上向きして笑うカモ君だが、内心では親指を下に向けていた。

そんな三人を見ていた他のクラスメイト達から見ればそれはシュージを取り合う男女の修羅場のようにも見えた。

果たして取り合いになっているシュージはどんな答えを出すのかと見守っていると、シュージは少しも困った顔もせずに答えた。

 

「本当か、エミール。それは助かる」

 

少しは男女の機微を学び始めたシュージだが、まだまだ幼い。

カモ君の言葉は嘘ではない。いずれ弟妹達を連れて王都を観光するためにお金は出来るだけ節約したいカモ君は自然と安い店を把握していた。勿論、工作員であるライツも同等の情報は有している。だが、ライツはシュージがまだ幼く、自分への興味がそれほどではないという事を未だに把握しきれずにいたのだ。

 

「もう、エミール様は意地悪ですね」

(本当に邪魔っ。こいつっ)

 

「何の事かわからないな」

(何が何でも邪魔してやる)

 

基本的に門番や寮長に話をつければ、学園の出入りは自由のため、カモ君・ライツ・シュージの三人が揃って学園の外に行こうとしていた所で偶然ライバル君。もといラーナの姿を見つけたカモ君は彼にも声をかけて一緒に買い出しに出向くことになった。

ラーナもライツの事は知っている。物凄い美少女と買い物に行けると舞い上がってついていく気満々で彼らに付き添っていった。

本来ならライツの話術で簡単に追い払えるのだが、カモ君のごり押しにより四人で行動することになったのだ。

 

「荷物持ちは多い方がいいだろう?」

(お邪魔虫の多い方が、俺にとって都合がいいだろう)

 

どや顔で結論を出したライツは口の橋をピクピクと引きつらせそうになったが、気合と意地で隠してみせた。

 

「俺、役に立ちますよっ。任せてください!」

 

「まあ、それは頼もしい」

(なら今すぐ、カモ君を連れてどっかに行ってほしいんですけどっ!)

 

このような状況からカモ君とラーナの同行を断ればシュージに怪しまれると考えたライツはカモ君とラーナを連れて買い物に行くことを許した。

こうして歪な買い物デートは始まった。

 


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