鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第二話 DよりもD

冒険者ギルドの地下フロア。

本来ならここは過去のクエスト履歴や冒険者リストが保管される書庫として、冒険者の遺品などを収めている倉庫として使われていることが主だが、そのほかにも重度の違反者を問い詰める尋問室がある。

そこで、従者Hが悪漢の問い詰めを、ギルドの職員と共に行っていた。

時折、そこから聞こえる鞭で肉を打つ音が時折響いた。

 

「この辺りで、はぁっ。ある、はぁっ。組織が、はぁんっ。ダンジョンを、ふぅんっ。隠している、ぅん」

 

熱っぽい苦悶の声を上げる男の声も聞こえた。

あまりの気持ち悪さで、コーテは今朝食べたご飯を逆流させてしまった。

 

扉越しに尋問室の中の様子をうかがっていたらこれだ。こんなことなら従者Fと共にHの尋問が終わるまで冒険者ギルドの受付エリアで待っていればよかった。

廊下にぶちまけてしまった朝食だった物の成れの果てを嬉々として処理する従者F。

 

「やっと自分の主任務をこなせます」

 

お前の任務は私の警護だろう。

Fが作る食事はどれも美味なものだったが、まさか逆流しやすいように加工したんじゃなかろうな。と疑ってしまう程、慣れた手つきで処分を行うF。本当に介護関係の人かと疑るほど。まさかこいつも自分の欲を満たすだけの変態か?

 

「そんなことはありませんよ」

 

「私は何も言っていない」

 

「こう見えても超二流の執事ですので」

 

執事すごい。というか二流でこれなら一流はどこまでできるのだろうか。というか超二流ってなんだ。二流以上一流未満という事か。

コーテはこれまたFが差し出した水の入ったコップを受け取り、口の中を濯ぎ、吐き出そうとしたがどこに吐き出せばいいか迷った。

一時の気の迷いとはいえ、目の前で膝をつき、目の前で掬い上げるように両手で受け止めようとしているFに向かって吐き出そうとしたが、すぐ視界の端に映ったトイレに駆け込んで口の中の物を吐き捨てた。戻ってきた時、少し残念そうなFは無視した。

セーテ侯爵の関係者は皆変態か。この時から拭いきれない疑惑がコーテの中に根付いた。

 

 

 

「どうやらこの近くに養殖ダンジョンがあるようです」

 

スペックは高いのにどこかが欠落している彼等。しかし、仕事はしっかり果たしたようでHは悪漢達から重要な情報を引き出したようだ。

冒険者ギルドの職員と共にそれを説明されたコーテはまさかとは思ったがシュージの重要度を考えるとそれもあり得ると思い直す。

意図的にダンジョンを深層化させる。難易度を跳ね上げる『養殖』は違法。かなりの重罪であり、関係すれば貴族。王族であろうと厳しく罰せられる。

王族関係者。公爵領でダンジョンの養殖がされていれば公爵家の名声は地に落ちる。関与していたら勿論、知らなかった場合でも監督能力なしとして罰せられる。

 

「最近、ここの公爵家。サダメ・ナ・リーラン家では財政難がつい最近まで続いていたようです。そこから何とか立ち直したと聞いたのですが、まさか養殖ダンジョンが関係しているのでしょうか」

 

Fの言葉にギルド職員は難色を示した。

自分達の雇い主でもあり、更に公爵家という権力者がそんな違法を働いているとは考えたくない。

いくら危険な仕事を斡旋している冒険者ギルドでも養殖ダンジョンはまずい。大半の飯のタネになるダンジョン攻略だが、逆にその危険性をよく知っているのも彼等だ。

 

熟練と呼ばれた冒険者が、翌日には死んでいる。

一流と言われた魔法使いが、誰にも知られることなくモンスターに食われる。

 

ダンジョンの中ではそれが当たり前に起こる。

生きてこその物種。冒険者達が第一に考えるものだ。

それなのにわざわざその危険性が増すダンジョンの養殖。深層化。はっきり言って狂気の沙汰としか思えない。

 

「おそらく裏ギルドが働いているものと思われます。至急、王都へ伝達を行います」

 

Hと共に尋問していた職員は事の次第を伝え終えると、事務室へ赴き詳細を記した手紙を書き終えると特別な封蝋を押し、複数の伝書鳩を飛ばした。

更には冒険者ギルドの職員にも同じ内容の手紙を持たせ、ギルド裏に止めている馬車を出した。本来、緊急事態。地震や地割れといった自然災害で避難や救助を呼ぶための馬車だが、こういった異常事態にも出動する馬車だ。

 

「嘘の情報を流したとか、握らされていたという可能性もあるのでは」

 

「いいや。あれはマジだ。ほぼ間違いない。奴らも養殖ダンジョンに潜っていたと喋っていたからな」

 

ギルド職員の一人が思い浮かんだ疑問を提示するが、ギルドマスターがそれをバッサリ言い切る。

身長が二メートルオーバーの恰幅の良いドワーフ族のギルドマスター。

明らかに堅気ではないオーラを纏う彼も尋問に関わっていたのだ。彼を前に嘘を吐けたら今頃あの悪漢達は有名な詐欺師集団になれただろう。

 

「緊急クエストだ。全冒険者に知らせろ。養殖ダンジョンのありかをつきとめろ。そして、何が何でも潰せ」

 

声は淡々としていたが、その表情は明らかに怒っていた。目は血走っているうえに腕組みをしている腕は明らかに盛り上がり、血管も浮かび上がっている。怒りを無理やり抑え込んでいるのだ。

今まで見たことのないギルドマスターの怒りに職員たちは急いで緊急クエストの紙を刷る。

冒険者ギルド。荒くれ者の集まる場所とはいえ、この土地に愛着があるから彼らはここでギルドの職員として働いている。そんな愛着を踏みにじるような真似をする輩に容赦はしない。それが例え、この領地で一番の権力者だとしてもだ。

 

「サダメ公爵家はどうしますか。彼らが関与しているとしたら彼らと争うことになりますよ」

 

「今はまだ手を出すな。王家にこの事が届けば、支援も来るだろう。それまでは手を出すな。悔しいがな」

 

公爵家は近隣諸国への抑止として王国の兵隊とは別に彼等だけの兵隊も持っている。彼らと戦うには冒険者ギルド側には戦力が無さすぎる。

ギルドマスターの言葉にさらに言葉を投げかける職員もいる。

 

「あの、言いたくないんですけど。ウチにも関係している奴もいるんじゃ」

 

ウチとは冒険者ギルド職員の事を言っているのか。それともここを拠点にしている冒険者の事を言っているの。

おそらく両方だろう。ダンジョンなんて物は、その場にあるだけで騒ぎになるものだ。それが今の今まで知らされていなかったとしたらその隠ぺい工作を働いた者が少なからずいる。

 

「ウチにそんな奴はいねえっ!…と、言いたいところだが、俺より前からここにいる奴らは沢山いるからな」

 

ギルドマスターは顎を擦りながら首筋まで伸ばした髭を弄りながら怒りをごまかしていた。

 

「俺自身も直接王様に会う必要がある。悪いがしばらくここを開ける。その間お前達は冒険者を出来るだけ引き留めて調査に当たれ」

 

ここには副ギルドマスターはいない。ワンマン営業と言えば聞こえは悪いがその分、縦社会特有の伝達の良さが生きる。

ギルドマスターはサダメ公爵領地にある転送装置が置かれた場所に戦闘に覚えのある職員を数人連れて出向くことにした。その際、コーテ達にもギルド職員の一人をつけた。

 

「悪いんだが、嬢ちゃん達も養殖ダンジョン調査に協力してもらう。監視の意味もあるからな」

 

まあ当然だろう。コーテ達が騒ぎを起こしてそこからこのような事が発覚したのだ。

出来る事なら養殖ダンジョンは嘘であってほしい。それなら取り越し苦労という事になる。だが、証人と証言が取れたのでそれも期待できない。

 

悪漢達も養殖ダンジョンに行く際は怪しい集団に目隠しされて半日中馬車に乗って移動したという事から正確な位置は把握していないらしい。だが、近くにあるのは確かだ。

だが、そんな事よりシュージとライツの行き先である。この町に来たのまでは確認しているが、今頃この町を出ているだろう。あんな頭の悪い男たちをけしかけている間に、だ。

カモ君の言う通り、ライツがネーナ王国の篭絡員だとしたらおそらくシュージを養殖ダンジョンに連れて行った理由は彼を強くするためというよりは、養殖ダンジョンに関わったという『共犯』にすることでライツから離れられないようにするためだろう。そうする事でシュージは彼女から離れられなくなる上に、リーラン王国には居づらくなる。

これは急いで彼を見つけないといけない。また、コーテ達が自分達の跡を追っていることに感づいたライツは急いでシュージを共犯にしようとするだろう。

 

「私達も急いで養殖ダンジョンを見つけないといけない」

 

出来る事ならシュージがそこに辿り着く前に自分達がそこに出向き、現場を押さえなければならない。未遂ならまだ刑罰は重くならない。

この国の救世主が前科持ちとか。格好がつかない上に決して王家との連携が上手くいくはずがないと考えたコーテはFとH。そしてギルド職員の一人を連れて隠しダンジョンの捜査に移った。

 

 

 

その頃のカモ君はというとビコーの警備隊と共に王都から少し離れた場所を巡回することが決まった。魔法学園にはミカエリが話を通しているらしく、お給料がもらえると聞いたカモ君も最初は気楽に考えていたが、巡回の途中。突如、遠くの空から一匹のスカイドラゴンが表れていた。

空を優雅に飛行し、風魔法を放つことが出来るドラゴンが襲来してきて、ビコーの警備隊と共に死闘を繰り広げることになっていた。

 

ドラゴン襲来の知らせにより、コーテ達の聞き出した養殖ダンジョンよりもそちらが優先される事をコーテ達は知る由もなかった。

 


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