シュージが養殖ダンジョンから帰ってきて待っていたのは停学処分ではなく、反省文を百枚書かされるだけで終わったことは学園。いや、リーラン王国の思惑が透けて見えていた。
停学している暇があったら鍛えて、学期末にあるネーナ王国と共同で行う決闘に勝てと。
この決闘は今まで使っていた安全装置。護身の札が使われていない。本当に死ぬ恐れがある。殺す恐れがある試合に出ろというものだ。
シュージも最初は拒否感を覚え、辞退しようとしたが、決闘に勝った時の報酬が養殖ダンジョン関与をなかったことにするというものだったため、引き受けてしまった。
彼は地元の領主から援助を受けて魔法学園に来た。それなのに養殖ダンジョンと言う犯罪の温床に関わってしまったことは、領主を裏切ると同じことだ。
犯罪をもみ消してもらうなど後ろめたい事もあったが、決闘に勝てればなかったことに出来る。
しかも、それだけではない。勝てば、報酬も目玉が飛び出るのはないかと思わんばかりの額が記載されていた。マジックアイテムも複数手に入るといったもの。
だが、負ければ報酬は無しになるという。まさに0か100だ。
更にシュージは知らない事だが、彼の身柄がネーナ王国に引き渡されることが決まっている。ついでにカモ君も。
だから、シュージは勝たなければならい。
負けた時の損害もそうだが、それ以上にここで停学を受ければカモ君と肩を並べることが出来なくなると考え、今回の決闘を受けることにした。
命の危険があるとは言ってもきちんと審判もいる。危なくなったらギブアップ出来ると知らされているからシュージの気分はそんなに重くはなかった。
反省文をかき上げるのに丸二日かかったが、その翌日には強化合宿として決闘に出るメンバーで混沌の森へ行くことになったシュージ。
見知ったいつものメンバーに中等部。高等部の先輩達と一緒の馬車に乗ることになった。
決闘に出場するメンバーで唯一の女学生。いかにもお嬢様なネインと陰湿そうな雰囲気を醸し出すギリはカモ君とシュージを見るなり、なんでこんな奴らといかなければならいと声に出していた。
最初はその態度にイラっと来たが、シュージには主人公としての能力で意識すると相手のレベルを見ることが出来る。
ネインはレベル18。ギリは20と表示されていたため、呆気にとられたのだ。
…こんなに、低いのか?
今のシュージのレベルは37。彼らの倍近くのレベルだったのだ。
考えてみればシュージは、一般魔法使いの上限と言われている上級魔法も使える。
そのシュージが普通なわけがない。そして、それもまた普通ではない。
普通の人間はモンスターを何百と屠ろうと、そのレベルが上がるわけではない。地道な鍛錬でしか己の力量を高めることは出来ない。
知識と技術。そして環境が整ってこそ人のレベルは上がる。それでもレベル20もあれば十分恵まれていると言えるだろう。
シュージのレベルが彼らの倍以上あるのは『主人公』としての力。そしてカモ君という『踏み台』の恩恵が大きい。
キィが言っていた。自分達は特別な存在だと。
こうやって見るとそれを実感できる。
まるでズルをしている気分になるが、その気分もすぐになくなった。
レベル50:MAX
それがカモ君のレベル表示だった。
数字ではなく上限一杯を示すMAXと言う文字。
馬車の中でこれから共に行く混沌の森について説明を受けている自分達だが、カモ君だけが特筆して真面目に聞いていた。
誰よりも知識と経験に貪欲で、礼儀正しい。
誰よりも前に出て傷を負いながらも活路を見出す。
そんなカモ君こそが主人公なのではないか。
そう思わずにはいられない。だが、へこたれてもいられない。
そんな暇があるのなら前を向け、一歩踏み出せ。
もう突き放されることはない。後は自分が追いつくだけだ。
そんな決意に溢れているシュージを不思議に思ったカモ君が声をかけてくれた。
それに甘えそうになるが、己を鼓舞するため彼には必ず自分も追いつくと力強く言い返したシュージは、これから向かう混沌の森に目を向けるのであった。
「必ず、俺も最強になる。だから待っていてくれ」
まるで戦地に向かう恋人のようなセリフを言ったシュージに対して、カモ君は「…そうか」とクールに対応したが、内心は全然違っていた。
そっかー、俺ってば最強なのか。
今、俺ってば、最強なのかー。
今、レベルMAXなのかー。
ステータスがカンストしたのかー。
…もう、これ以上強くなれないのかー。
え、待って。マジで?
確かに魔法のランクを上げられそうな手ごたえはあるけど、それって俺がもう限界だから?野良の犯罪者やタイマン殺しにボコボコにされている弱さなのにもうこれ以上成長できないの?
え、やだ。俺のステータス低すぎ。
学期末の決闘に勝てる見込み殆どないじゃん。
今のは嘘だと言ってよ、シュージィイ!
ちなみにシュージ達、シャイニング・サーガの主要メンバーのレベルは99でMAXになる。
そして、カモ君と同じレベル50になったら、カモ君に比べてそのステータス内容が3倍近くになっていたりする。
衝撃の事実にカモ君が内心のたうち回っている事を、シュージが知る由もなかった。