鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第二話 少年よ、ゴリラになれ

ウェインの右腕が変色するまで握りしめたことでコーテへのナンパを辞めさせたカモ君。

今回のダンジョンアタックには大会出場者の強化が狙われている。

 

いるんだけどなぁ・・・。

 

シュージから己の限界を告げられたカモ君は、完全にサポートに回ることにした。

シュージはもちろんだが、先輩達のサポートも行う。

特にネインはシュージの次に大事な人物だ。彼女はシャイニング・サーガではヒロインの一人だった。

魔法とその腰に下げたサーベル。魔法と剣技の両方で敵を圧倒する。万能キャラと、聞こえはいいが、実は器用貧乏である。しかもレベルを上げても主人公の数段格落ちした物であり、プレイヤーからは乳に経験値が吸われていると言われる始末。

はっきり言って、ライバル君こと、ラインハルト君の方を選手にした方が将来性はある。だが、彼には実績がない。そのため、ネインや他のモブキャラが選抜されたのだろう。

更に、ネインはシュージ。主人公の仲間として行動し始めてから成長し始める。これは仲間になる魔法学園キャラ共通のルールだ。

 

ネインのステータスは現状低い。そして、混沌の森はゲーム中盤か終盤の入り口に当たるダンジョン。

 

つまりは、

 

「…嫌ですわっ。もうこんなところに居たくはありませんわ!」

 

「明らかにさー、学生のレベルを超えているダンジョンだよねぇ。ここ」

 

「まったく理知的ではない。ここは軍隊や王族が突入を担う場所ではないのかね」

 

混沌の森のほんの入り口。

そこに入って五分もしないうちに彼等は撤退を余儀なくされた。

最初に現れたフォレスト・エイプという緑色の大猿三体相手に意気揚々と殴りかかったが、このサル達のレベルは推定35。今のシュージと同じくらいの力量を持つ猿を相手に、ネイン達が敵うはずもなかった。

 

ネインの持っていたサーベルはへし折られ、戦意喪失。

ウェインとギリの魔法も詠唱途中に攻撃されて強制中断。しかもギリは魔導書を奪われ、びりびりに破られた。撤退した後に気が付いたが骨にひびが入っていたため、今は治療中だ。

 

まともに戦えたのはシュージとカモ君だけ。

付き添いの先生方は先輩達の命が危ない時だけ手を出す予定だったのだが、はっきり言ってカモ君とシュージの邪魔にならないように戦闘不能状態の先輩達を担いで、早々に撤退して、キャンプ場へと戻ってきた。

カモ君もシュージもあまり己を過信していないので、フォレスト・エイプを倒した後は彼等の後を追うように撤退した。

そして、ご覧の様である。

 

うっそだろ、おい。俺の未来。ひいてはこの国の未来を担っているんかい。

弱すぎだろお前らっ!

俺もさっきはいっぱいいっぱいだったけれども!

 

フォレスト・エイプは群れで襲い掛かってくるモンスターである。あと一匹でも多ければカモ君も彼ら同様に撤退を余儀なくされていた。それでも彼は思わず片手で顔を覆った。

しかし、弱音を吐いている場合ではない。

決闘まで後一ヶ月半しかないのだ。どうにかして彼等を強化しないといけない。

ここで自分がこれ以上強くなれないという事も重なってカモ君の戦意まで落ちてきているのだ。

 

「…コーテ。すまない。バフをくれ」

 

「もう?早くない?」

 

混沌の森から帰ってきたカモ君達のお世話をしていたコーテに声をかけたカモ君はコーテから一枚の栞を受け取る。

モカ領から送られてきた、愛する弟妹が作ってくれたタンポポが挟まれた栞だ。

最初はダンジョンで落とすといけないからコーテに預けていたものだが、今の状況を見ると少しでも戦意を上げたい。

この栞を持っているだけでカモ君のテンションは上がってくる。逆に無くしてしまえば一気にがた落ちするが。

 

「先輩達。落ち着いたらまた行きますよ」

 

そうカモ君がネイン達に声をかけるが、彼女達から返ってきた言葉は案の定否定的な物ばかりだった。

 

「貴方ねっ、これが見えないのっ!私のサーベルはもう使い物にならないのよっ!」

 

「いやぁ、さすがに僕らの手に負えるダンジョンではないよ。ここは」

 

「武器である剣が折れ、魔導書を失った。現状をよく見たまえ」

 

現状を見ていないのはお前らだろうがっ!

この後、領地や財宝。人材まで掛けた決闘が待っているというのにそんな生ぬるい事言っている場合か!

カモ君は魔法で作り出した石のサーベルをネインに渡し、ウェインやギリには魔力が残っている間魔法が使えるだろうと尻を蹴ってダンジョンに向かうように指示する。

先輩とか爵位と関係ねえ。ここで踏ん張らないと全部無駄になるのだから。

 

カモ君ほどの戦士然とした筋肉に圧倒されてネイン達は渋々、準備をする。

皆、わかっているのだ。この場で一番強いのはカモ君であることを。しかし、カモ君はこれ以上強くはなれない。強くなるとしたらドーピングぐらいだろう。

 

「…シュージ。それはどっから持ってきた?」

 

先輩達を押し出してすぐにシュージがカモ君に人の前腕くらい長くて太いバナナを三本も持ってやってきたのだ。

 

タフナルバナナ。

食べるとキャラの物理耐久力が1上がるというドーピングアイテムだ。

 

「いや、あのサル達を倒したらこの果物が落ちていて…。あと二本も落ちていたからみんなで食べようと思って持ってきたんだけど。余計な世話だったか?」

 

そんなわけないでしょっ。馬鹿っ!

神様!仏様!主人公様!!

確かに猿系のモンスターは倒すと果物系統のドロップアイテムが出てくることがある。

しかし、そのほとんどが換金アイテムで、ステータスアップを図るタフナルバナナは極低確率でしかドロップしない。

 

これも主人公力と施しのコインの効果か。

とにかくこれで少しは勝算が見えてきた。これを食べれば自分のステータスも上がる上にシュージの底上げも出来る。

効果を説明した上でシュージが一本。カモ君が一本食べることになった。

理由は明白。それだけでお腹いっぱいなったから。

考えてみなくてもわかる。人の腕一本分の果実を腹に入れればどうなるか?文字通り腹いっぱいである。しばらくの間、バナナは食べたくないと思うのが普通だ。

 

しかし。

 

混沌の森に突入。遭遇する大体のモンスターがフォレスト・エイプ。

そして、奴らを倒してドロップするアイテムが。

 

タフナルバナナ。

 

途中で見かけたアイテムが入っていそうな枝で組まれた箱を開けるとそこにあったアイテム。

 

タフナルバナナ。

 

小休憩に腰掛けた倒木の影に落ちていた果物。

 

タフナルバナナ。

 

教師がこの超レアアイテムを見かけたら必ず入手しろと言って見せてくれた果実。

 

タフナルバナナ。

 

そこに襲い掛かってきたフォレスト・エイプのボス。六メートルはある猿型のモンスター、ギガント・エイプを何とか倒し、ドロップしたアイテム。

 

タフナルバナナ一房。

 

果物と無縁そうな相手に巻き付いて全身の骨を砕いて丸のみにする大蛇型のモンスター。ジェネラル・スネーク。を、倒して出てきたアイテムも何故か。

 

タフナルバナナ。

 

それから何かとイベントが起こるたびにバナナが出現する。

 

あ“あ”あ“あ”あ“あ”―っ!!

 

貴重なステータスアップアイテムであるからタフナルバナナを叩きつけたりはしないが、誰も見ていないことを確認して、内心絶叫しながら食べ終えたバナナの皮を遠くの空に向けて大暴投するカモ君だった。

 




マナアップル(食べると魔法攻撃力アップ)とかもドロップしろやぁあああああーっ!

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