鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第四話 危ない二人

混沌の森での強化合宿二日目。

カモ君達はまたもや撤退を余儀なくされた。

その理由は先輩達のレベルの低さにある。

 

とにかく打たれ弱い。

フォレスト・エイプといったこの森の一般モンスターの一撃だけではなく、この森最弱と評されるレッサー・コカトリスという二メートル近い大きさを持つ鶏のモンスターに小突かれるだけで戦闘不能になる。

彼等を情けないと言ってはいけない。この世界の一般成人男性がこの森のモンスターの攻撃を受ければ戦闘不能どころか後遺症が残るダメージを負ったり、即死もあり得るのだ。

前もってカモ君やコーテ。教師達が付与していた強化魔法が、先輩達も無ければそうなっていてもおかしくないのだ。

 

シュージは主人公ゆえのステータスの高さからか、どうにか混沌の森からの入り口から一キロメートル中心に向かって進むことが出来る。

カモ君のステータスは低いが、レベルMAX。これまでの経験が活かされ、どうにか涼しい顔でシュージと共に進めている。しかし、内心は肩で息をするくらいバテバテだ。

 

それでも先輩達は弱いとしか言いようがない。

フォレスト・エイプのキックで腕を骨折。

レッサー・コカトリスに突っつかれ、大出血。

巨大なイノシシ(3メートルクラス)に体当たりされて筋肉断裂。

 

以上が先輩達の戦果だ。

何度も挑戦していく間に要領もつかめるだろうという脳筋な訓練だったが、とうとう音を上げたのがウェーイ兄ちゃんのウェインだ。

 

「やってられっかーっ!強すぎるんだよっ!この森!こんな事をして強くなれるかよ!」

 

まあ、確かにモンスターを倒して強くなるというレベルアップ現象なんて主人公のシュージ関係者しか理解できないもんな。

ウェインの言いたいことはわかる。たとえモンスターを数十体屠れたとしても主人公に関与していない人間はそう強くなれない。

せいぜい、モンスターの動きに合わせての戦術を組み、効率的に倒せる方法を見出す。それが普通だ。

 

「そもそもだね。僕らが戦うのは人だ。モンスターじゃない。こんなことするくらいなら軍隊の人間に模擬戦をしてもらった方が何倍も効率がいい」

 

ウェインに続いてギリまでも文句を言いだす。

確かに魔法使いを育てる学校の生徒だ。彼等の武器は魔法。そしてそれの殆どが遠距離攻撃であり、相手の射程外からの攻撃を主にしている。

彼等の言い分もわかる。だが、カモ君はそれだけでは足りないと断じる。

 

「いくら生徒同士の決闘とはいえ、国の代表が出てくるんですよ。ここのモンスターも完封できないようでは勝てるはずがありません」

 

何より、この強化合宿の狙いは。不意の事態に対応する能力を鍛えるものだ。

自分が想定していない事が起きても魔法の詠唱を行えるように。

そもそもその事態から脱するためにもすぐさま行動できる瞬発力を身に着ける為にこの森に来たのだ。

これは今行っている決闘のための心構えだけじゃない。

貴族の務めであるダンジョン攻略。そしてモンスター討伐での突発事故や未知との遭遇でも活かせるものだとカモ君は解いたのだが、ウェインとギリは納得しなかった。

 

「そりゃあ建前ってやつだろ。貴族がダンジョンで前線に出るなんて事は滅多にないんだ。稀に前線に出る貴族は三男以下のやつか、貧乏貴族。殆どは冒険者の奴らだろうが」

 

「生憎と僕はモラ家の長男でね。前線に出るなんてことはないのさ。そもそも今回賭けられた領地と人。そのどちらも僕にはどうなろうと関係ない」

 

関係ない。その一言をギリが発した時点でこの場に漂っていた空気が変わった。

まるでダンジョンボスを前にしたかのような緊迫感にコーテとシュージ。そして一人の教師はその身を強張らせた。

この緊迫を察せられたのはダンジョンに深く関与したことがある者。その命が危機に瀕したことがある者だけだった。

その他にはわからないだろう圧倒的な殺気が漂っていた。

 

賭けられた領地と人に関わっているカモ君は、無言でギリに近づき、彼の首を左手一つで掴んで持ち上げた。

当然、ギリは痛みと苦しみでそれ以上の言葉発することが出来なくなった。

そこまでされてようやくギリは自分が虎の尾を踏んだことに気が付く。だが、言葉は発することが出来ない程、左手一つで締め上げられていた。

 

「が、がっ」

 

「…そうだな。俺も関係なければ先輩と同意見だ。だがな、関係あるんだよ。特に俺にはな」

 

カモ君の表情は無表情。何の感情も見られない表情だった。

だが、その目が。声が。

怒りという感情を発露していた。

 

ネイン達にも聞かされていたはずだ。

今回の決闘で賭けられた領地と民。そしてアイテムの数々を。

そして彼女達にとって、取られても何も感じないものがあった事を。

 

カモ君の身柄とモカ領とそこに住む民。

 

そこにシュージの身柄とシルヴァーナという国宝も含まれるのだが、先輩達はカモ君とその関係者がどうなろうと他の領の事。民の事だと無意識に切って捨てていたのだ。

自分にとって何の関係もないのだから。

 

「ああ、駄目だな。あんたは駄目だよギリ先輩。あんたはあらゆる面で駄目だ。決闘に対する姿勢もその後に対する想像力も。なにより戦力としてもダメダメだ」

 

その目には怒り以外の感情も漏れだした。そこには打算というよりも悪だくみを思いついた子供のような純粋な悪意。

 

「そうだな。あんたが死ねば他の人間がエントリーできるな」

 

そうすれば主人公の次に強くなるライバル君ことラインハルト君がエントリーされるだろう。そうだそれがいい。

貴族の長男を殺したら大罪になるかもしれないが幸いなことにここはダンジョンの入り口だ。モンスターの仕業だと言えばみなが納得するだろう。

根性を入れ直すためだと嘘をつき、このまま締め上げて殺した後、森に入り、現れたモンスターの前に動かなくなったギリを放り投げれば、モンスターがそれを食べて勝手に証拠隠滅してくれるだろう。

 

そこまで考えたカモ君。

その手には顔を真っ青にして泡を吹き始めたギリの姿があった。

もはや声を上げることももがくことも出来ずにいた彼の首をへし折らんと力を更に籠めようとしたところで彼の背中に軽い衝撃がかかった。

次に感じたのは人の温もりとカモ君が三番目に安心する声だった。

 

「駄目だよ。エミール。それ以上は駄目」

 

コーテがカモ君の背中から飛びつき、その首に己の細腕を回して、出来るだけ優しく声をかける。

 

「ここでそれをやったらそれこそ終わり。決闘どころじゃない。出場取り消し。リーラン王国は確実な負けになる。…クーとルーナが本当に手の届かないところに言っちゃうんだよ」

 

自分の恋人であるコーテに。そして愛する弟妹の事を言われてようやくカモ君の理性が戻る。

そうまでしてやっとギリの首からカモ君の手が離れた。

既に意識はないがギリの体は呼吸を何とかしようと、泡を飛ばしながらもその旨を上下させていた。だが、文字通り爪痕は深い。

掴まれた首筋には穴が開いたのではないかと思わんばかりの痣とそこから流れ落ちる血があった。

ギリの蛮行を覆いつくさんばかりの凶行にネイン達はもちろんシュージすらも怖気づく者だったから。

カモ君は弟妹の事が係わるとカモ君は死ぬ覚悟も殺す覚悟も決まるやべー奴である。

今でこそカモ君はギリを開放したが、ここで何か一つでも間違えれば二の舞になるのは確実だった。

 

「…すまなかった」

 

「それはギリ先輩に言って」

 

カモ君が正気に戻った事を確認したコーテは彼から離れ、今も泡を吹いているギリに回復魔法を施す。

カモ君につけられた傷がコーテの魔法で塞ぐ頃、ギリの意識が戻った。

ギリはカモ君に文句を言いたかったが、あの殺気を浴びてとてもじゃないが言える立場でもない。その上、自分を助けてくれたコーテに魔法学園の関係者たちの前でこういわれたのだ。

 

「次があったら私が殺す」

 

コーテもやると決めたらやる女だ。

カモ君の。自分達の障害になるのなら躊躇いも無く排除する。

 

後に、夕食に出されたタフナルバナナのポタージュスープ。

出来立てで熱々のはずなのに、氷水のように冷たく感じた人間は間違いなくカモ君に屈服したという表れなのだろう。

 

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