鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第九話 想い(私情)を重ねて

カモ君達が王都を出て、ネーナ王国の領土へと向かう最初の夜。

彼等はモカ領の手前にある旅館の大部屋で、決闘参加者である彼等は何度も繰り返した作戦会議を行っていた。

 

今回の決闘。一番手、二番手はシィとネインを選出。

相手側の様子を見て入れ替えるがそれに両者異論はない。先輩である以上、見栄を張りたいがそれ以上に二人はカモ君とシュージに期待していた。

二人共、後輩に出番は渡さないと強気な発言をしていたが、何となく察している。ネーナ王国の決闘参加者が強者であることを。

二人は試金石。悪い言い方ならば捨て石だ。だが、それをあえて言わないで後輩達を勇気づけていた。

 

先輩達が相手を削り、三番手であるシュージにバトンを渡す。

もし、先輩達が連続で敗退しても、ここで勢いを取り戻し、逆転。そのまま勝利をもぎ取る

それだけの火力がシュージにはある。実質、彼がエースだ。

 

そして副将であり、後詰め。もしくは最後の砦にカモ君。

シュージでも倒しきれなかった相手をカモ君がとどめを刺す。

何より、参加者の中では彼が一番戦いに精通している。が、それ以上に黙って入るが、カモ君自身は自分の『踏み台』効果を危惧した。

もし自分が先発されたとして、負けた場合、相手を強化してしまう恐れがあった。それだけは避けたいので、副将を願い出た。それをシュージや補欠のキィはもちろん、先輩達も賛成してくれた。

 

そして、対象のイタ。彼女は名ばかりの対象を務めてもらうが、彼女の出番=こちらの敗退という事になるだろう。彼女には他の参加者の補助に尽力してもらう。

 

作戦初期の段階で決まっていた選出に文句はないが、不安はある。

馬車での移動中は常に瞑想を行い少しでも魔力の精度高めていたが、負けるのではと言う不安は取れない。

コハクから盾をもらえたと聴いた時、カモ君は大いに喜んだ。カオスドラゴンの防具はゲームの中では最高の一品と評価されていた。のだが、それを扱える人間がいるかと言われれば難しいとしか言えない。

 

魔法使いタイプのシュージがこの盾を十全に使えるかは難しい。と言った具合だ。

彼は魔法使い。基本的に遠距離戦を主に訓練をしてきた。縦の使い方を学んでいる時間はなかったので彼は除外。

 

シィも風紀委員としての役職柄、多少は荒事。とはいっても喧嘩に対応する程度しか盾を使うことに精通していない。彼も除外だ。

 

カモ君なら盾を扱えるだろうと思ったが、彼は現在隻腕。盾を持ってしまえば時間稼ぎは出来るだろうが、打撃、関節技が使えない。そのため、彼も除外。

 

ネインはサーベルといった近接戦も使える。片手も開いているので今回の盾を持つことも可能かつ明確な戦力アップも見込める。だが、今の彼女はカモ君以上に器用貧乏だ。

今回の盾を持っていたとしてもカモ君レベルの相手が相手だと勝つのが難しいかもしれない。だが、彼女以上に今回の盾を活かせる人間もいない。

 

エースはシュージだが、勝負の行方を握るのはネインだろう。

そんな期待を背負わされた彼女は髪をかき上げながらも力強く言い切った。

 

「安心なさい。実家から送られたアイテムはなくとも、この小盾さえればどんな攻撃も捌ききってみせますわ。貴方達はそれを後ろで見ているだけでいいのです」

 

伯爵家令嬢。

決闘参加者の中で一番位の高い彼女は不安を思わせない素振りで微笑んだ。

本当は彼女も怖いのだ。

今回の決闘では本当に死ぬかもしれない。ただの町娘ならすくみあがって動けなくなるだろう。

だが、その恐怖以上に彼女を突き動かす物が貴族としての誇り。そして、シュージに向けるほんのわずかな恋心。

決闘に負ければシュージに会えなくなる。それを恐れた。

きっと貴族の使命感だけでは彼女は動けなかっただろう。それを動かしたのは思春期特有の恋という感情エネルギー。それが今のネインを突き動かしていた。

 

例え、何となくでも。それが叶わぬ物だと無自覚に理解していても。

 

恋する乙女はそれだけで前を歩くことが出来るのだ。

大部屋での作戦会議を終えた彼等は男子と女子で分けられた部屋へと戻り、就寝する事にした。

季節は真冬。ちょっとした事で風邪をひいてしまい、体調を崩す。そうならないためにも早めの睡眠は必要だ。

お互いの部屋に行く途中。引率の教師や護衛騎士に連れられたシィとは別に、最後尾にいたシュージにカモ君は振り向きながらこう言った。

 

「多分、俺は間違える。その時は止めてくれ」

 

相手はカモ君の素性を調べつくしている。そう考えると必ずそこを突いてくる。

すなわち、ブラコン・シスコンという本人が隠しがっている本性を狙った策が用意されている。リーランの王都にまで工作員が忍び込めているネーナ王国がモカ領にその手を伸ばせないわけがない。

決闘が行われる土地に一番近いリーラン王国の土地がモカ領。ネーナ王国はカモ君を確実に潰すためにその土地を、人達を狙う。

人質や脅迫は当たり前のように繰り出される。今でこそセーテ領から来た代理当主のローアさん冒険者ギルドを立ててくれた。

明日を迎える確証がない冒険者は基本的に気性が荒い。そこから少し治安が悪くなるが、それ以上に目立った悪行。すなわち、ネーナ王国の人間の進行をある程度抑え込めている。だが、それでも確実にネーナ王国関係者は潜り込んでいると考えた方がいい。

そんな輩が何をやらかすかはっきり言って不安しかないが、ローアさんの手腕に頼るしかない。彼は冒険者に理解のある貴族だ。冒険者達との連携で何とかしてくれると、カモ君は祈るしかない。

 

 

 

そんな不安の中。カモ君が脅されたら、きっと、彼は、足を止め、

屈して(●んで)しまう

 

 

 

そうなってしまわないように鍛錬を積んできた。だが、自分の相手は。いや、世界は常にカモ君の想像の上を行く。

名もなきモブに無双できてもイベントキャラとなると途端に不利になるのがカモ君。

だから、彼には勢いが必要なのだ。

死亡フラグをへし折り、相手のスペックを踏み越えるだけの確証が。

 

地道な鍛錬から技術。原作からの知識。愛する弟妹、恋人への想い。知人からの支援。

 

これだけあっても、きっと足りない。

世界がカモ君を押しつぶしにかかるだろう。だから、そんな世界にも歯向かえる存在からの援助が必要なのだ。

 

「俺は、きっと、躊躇ってしまう。その時は背中を押してくれ」

 

世界の『主人公』からの応援が欲しいのだ。

世界から祝福された『主人公』から激励を受ければ、少しはカモ君にも世界は振り向いてくれるかもしれない。

 

そして、『友人』のシュージなら容易く、自分の過ちを止めてくれる。正してくれる。

これから行われる決闘に。困難に逃げようとも、止めようとも言わず。立ち向かうと決めて共に戦ってくれる友人がいるのなら、自分でも少しは強くなれると信じているから。

 

「らしくないな。エミール。お前は今でも俺の前を走っているのに。でも、まあ、そうだな。追いつきそうになったら背中を押すだけじゃない、叩き出してやるよ」

 

シュージにとって、カモ君は今でも目標だ。いずれは追いつき、追い越すつもりで彼も『主人公』の力抜きでも努力している。

一発の魔法の威力ならばシュージはカモ君を凌駕したと自覚しているが、それ以外は全てカモ君が上だと考えている。

 

「大丈夫だって。お前は強いさ」

 

主人公から。それ以上に、今の状態でも十分強い友人からそう言われてしまっては嫌でも自信がついてしまう。

 

「…そうか。俺は強いのか」

 

質問のような、独り言のようなカモ君の呟きにシュージは笑って返した。

自分達が初めてぶつかり合った後。カモ君の強さに憧れて、カモ君のようになれるかと尋ねて、カモ君はこう返した。

 

「当たり前だろ」

 

あの時とは逆。

不安になっている友人を鼓舞する友人として。

シュージはカモ君の胸を軽く叩いて、今度こそ自分達に割り振られた部屋まで向かうのであった。

 

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