鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第一話 リーラン王国金貨の高騰

あれは、なんだろうか。パーッと光っていてまるで豆電球のようなガス灯のような。でも人工物ではないような。彗星。いや、彗星はもっと明るいはずだし。大きなものではない。

しかし、息苦しいし、暑い。まるで棺桶に押し込まれて蒸し焼きされているような。あつ。あっつ。あっつい。あっつぅうううういっ!

いや、マジで息苦しいし、熱いわ!暑いじゃなくて熱い!それなのに体はまるで動かん!スタンビーの麻痺毒とシュージの魔法を食らったみたいに身動き取れないでいて熱い!気がつけば目の前で大きく光っていた謎の光が強く輝きだすと息苦しさと熱さもまして、このままではマジで蒸し焼きで死ぬ?!や、やめ、やめろーっ!こっちくんな!輝くな!

 

 

「俺の傍に近寄るなぁあああ!」

 

あまりの寝苦しさに飛び起きたカモ君は一週間ぶりに目を覚ました。そこはいつも寝起きしているベッドではなく、なぜか使われなくなった巨大な寸胴だった。スープや食材を煮込むための食器の中に何故かカモ君。寸胴の中は煮立つ寸前の高温のお湯で満たされており、カモ君はパンツ一丁の状態だった。

 

「エミールっ。目を覚ましたんだな!」

 

寸胴から飛び出したカモ君の視界にはジャージを着こんだシュージが寸胴に向かって火の魔法を使っている状況だった。

 

この惨状の犯人はお前かシュージ!

 

「エミール。目が覚めてくれて本当によかった。回復魔法の混ざった水で洗っていた事は間違いじゃなかった」

 

寸胴から飛び出したカモ君に駆け寄り、涙を零すジャージ姿のコーテ。しかし、カモ君の目にはしっかり映っていた。彼女が使っている不渇の杖が寸胴の鍋に入っていることを。

 

まさかの共犯がコーテだったなんて。

 

恐らくだが、コーテの魔法で作り出した水を寸胴に入れてシュージがそれを温めていた。というか過熱していたのだろう。だからと言って、何でスープを作るような拷問をするのだろうか。

 

「ちぃっ、目が覚めましたかご主人様。一週間も寝ていたのですよ。もう半世紀くらい寝ていてもよかったのに。あひぃんっ」

 

追い炊き用なのか、数本の薪を手にしていたライツ。

 

ちょっと、目の前の奴隷姫メイドに立場をわからせる必要があるようですね。おら、搾取の腕輪でお前の魔力、貰うぞ!んでもって、ヒール。あー、癒されるぅう。

 

「本当に効果あったんだ、『死人でも口を割る拷問』」

 

拷問の時点で適切な処置とは言わんのだよ。そんな部屋の隅っこにいないでこっち来いキィ。最近周りに流されるくらいに臆病になっていたけど、こういう時くらいは強気で出てもいいんだよ。誰だよ。こんな拷問をしようとか言ったやつは。

 

「効果があってよかった。書庫の奥にあった古ぼけた書物だったから自信は無かったんだけど。効果がなかったら暴行罪だった」

 

図書委員のイタ。お前かっ。お前がこの拷問を立案したのは!そのすぐ傍に置いてある目覚める被虐の扉の方法とか物騒な本には付箋張ってあるし。もしかして、もう試した?!

 

「どうやら、この塩は使わなくて済みそうですわね」

 

ネイン先輩。それは追い打ち。もしくはとどめと言うんですよ。だからその岩塩をしまってください。俺からとれるのは出汁じゃなくて経験値くらいです。

 

「シバ校長。こっちです!俺だけじゃあ、後輩達を止められなくて」「儂の生徒に手を出すのは許さん!じゃが、同じ生徒なら許す!」

 

許すな!拷問と知っていてなおそれを執行した輩を許すな!善意とはいえ許すな!校長なんだから生徒の蛮行を止めろ!あと、シィ先輩ちっす、ちっす。まともなのはあんただけか。

 

それからコーテの介抱を受けながらカモ君は自分が一週間もぶっ通しで眠っていた事を知る。普段の筋トレ時間になってもやってこないカモ君を案じてコーテがやって来たシュージに起こしてくるように申し出て、それを了承。カモ君の部屋に寮長の許可をもらって部屋に入ると安らかに寝息を立てているカモ君を発見した。しかし、いくら声をかけても体をゆすっても起きないカモ君を最初はひどく疲れているだけだと思ってそのまま寝かせていたコーテ達だったが、放課後になっても起きてこないカモ君に異常を感じた彼女達は彼の容態を調べた。保険医によれば確かに疲労は残っているがそこまでの事ではない。と、診断されたのに一向に目を覚まさないカモ君。

頬を軽くはたく、寝顔に水をかけるなどしたが起きる兆しがない。それどころか、耳元で「クーとルーナがお見舞いに来ているよ」と、囁いても目を覚ます気配を示すだけで起きるという事は無かった。さすがにこの状況を重く診たコーテは色々と試していった。最初のに三日は、耳元で大声や大きな音を立てるなどをしたが駄目。五日目あたりから心苦しいが彼にダメージを与える手段に出るが目を覚まさない。そして、七日目に当たる今日になると拷問にまで手をかけるようになった。

さすがにこの頃にはカモ君に投与された睡眠薬も抜け始めてきたのだが、カモ君で無く他の一般人がこの薬を盛られた場合は一ヶ月寝ていたか下手したら死んでいた。あと三日も寝ていたらミカエリが「こりゃいかん」と言いながら解毒剤を持ってきていただろう。そうしなかったのは彼に寝ていてもらった方が都合がよかったから。その方が安全だと踏んでいたからだ。

 

「俺、そんなに寝ていたのか」

 

そりゃ、拷問をしてでも起こそうとするわ。怖いのは起きていないだけで他は健康状態だったという事だ。また下の世話もコーテにしてもらったと聞かされた時はカモ君は死にたくなった。そんなに疲れていたのか俺?

 

あの翡翠色の彗星をすっかり忘れ切っているカモ君を今もなお甲斐甲斐しく世話するコーテに何度もお礼を言いながらカモ君は今いる部屋。男子寮の大広間の外から何やら騒がしい気配を感じた。

 

もしや、またコハクがなにかやらかして騒がせたかと思った。それなら仕方ない。相手はカオスドラゴン様だからな。逆らえない。

 

カモ君がそんな事を考えていたら、大広間の扉が開け放たれる。そこには唐揚げや魚フライ。焼きそばに焼き飯。焼き魚とフランクフルトが大量に入った紙袋を抱えたコハク。その背中には前世の野球球場などで見られるビールサーバーの樽バージョンを背負っていた。小さな体で120%お祭りを満喫しているような姿に呆気を取られる。

 

「失礼な。私は週三の頻度でしか騒ぎを起こさない」

 

月三にできませんか。さすがにその頻度で起こされたらこの国が滅んじゃう。

 

しかし、そんなカモ君の内情を知りつつもコハクは小さく鼻を鳴らしながら近くのテーブルに着席するともりもりごくごくとその小さな体に食べ物を収めていった。

 

その食べ物はちゃんとお金を出して買ったんだよね?巻き上げとかしてませんか?文句はないけど出したら死ぬから、されるがままなんだがね。

 

「一割はお祭りの戦利品」

 

残りの九割は何なんだ?あと、ドラゴンの戦利品とか物騒な事しか思いつかねえ。

 

「ちゃんとコーテからもらったお金で買った」

 

支払う時に力加減を間違って、店主の目の前で渡そうとした銀貨を真っ二つにした。その所為で無料で大盛のサービスを受けたことは言わなかったコハク。そのあと、ちゃんと真っ二つにしていない銀貨でお金を払ったが店主は青ざめた顔をしていた。

 

しかし、ここでカモ君は不思議に思った。コハクの話からすると大分大きな祭りが現在開催されているようだが、その祭りに心当たりがない。いずれ来るだろうクーとルーナの王都観光。それがいつ来てもいいようにイベントは大体把握しているカモ君。収穫祭や新年祭。他にも王国記念日といった年内行事から今日は無いはずだった。

 

「と、ところでエミール君も目を覚ましたことですし、私たちもお祭りに行きませんか」

 

「いいですよ。俺も王都のお祭りを楽しみにしていたんですよ。初めの一年はダンジョンとか決闘で行けなかった興味あります。キィとエミールも一緒に行こうぜ」

 

シュージ。お前ってやつは・・・。恋愛に関して色々と教えたはずなのだが、まだネイン先輩から自分に向けられる好意に気が付かないの見て。お前以外は呆れた目でお前を見ているぞ。

 

「でも、まあ。これだけ大きな祭りなら参加しないと損だからな。エミールも元気そうなら祭りに出たほうがいいぞ。なにせ、戦勝祝いの祭りだからな」

 

シィ先輩がそれとなくフォローを入れるが戦勝祭か。もしかして、この間の国家間の決闘か。それを祝してのお祭りなら少しずれてもおかしくはない。かな?それなら叙勲されたその日で行われるはずだろう。だが、ライツの表情が大きく曇ったように見えたがこれはいったい。

 

カモ君がそう疑問に思っている事を察したシバ校長がエミールに声をかけた。

 

「ネーナ王国との戦争に勝った祝祭じゃよ。まだ正式に勝利したとは公言されてはいないが,君が寝ている間に始まった戦争が起こり、ほぼこちら側の勝利で幕を閉じようとしている。お祭りを存分に楽しんでくるといい」

 

そう言って決して少なくない額の金貨と銀貨をカモ君達に渡す光景は孫にお小遣いを渡す好々爺のようで。

 

「ネーナ王国との戦争勝利記念ですか。それは大きなお祭りに。・・・は?戦争?ネーナ王国との戦争?!」

 

何もかもが初耳なカモ君はさすがに取り繕うことは出来ずに驚いていた。ネーナ王国との戦争は原作ではあと一年以上も先の事だった。それが起こってしまった。原作でも戦力差はリーラン王国が劣っていたが、そこは『主人公』であるシュージとその仲間たちの活躍で勝利するというもの。しかし、この様子だとシュージは今回の戦争に参加していないように見える。はっきり言って主人公の力無しで戦争に勝利するなんて考えたことが無い。ドラゴンの群れでも乱入してきたとか大地震からの地盤沈下。火山噴火から来る大災害レベルの被害が無いと勝てないと思っていた。

 

「カヒー様とビコー様が攻め入ってあっという間に決着がついたとかいう噂が流れているよ。こっちの被害はカヒー様の背中に剣をぶっ刺されたくらいだって」

 

あったわ。異常事態。え、あの人の形をしたドラゴンを超えた人に攻め入られた?背中に剣を刺せただけでもネーナ王国って、大金星じゃないか?まあ、勝てるとは思わないが。ていうか、無理だろ。裏ダンジョンのフロアボスをたった一人で撃退したお人とその兄貴だぜ。勝てるわけがない。俺なら敵対した瞬間、降伏して命乞いをするわ。

 

「そうだった。あの人達がいたわ」

 

あまりにもファンキーな雰囲気のセーテ侯爵だから忘れていた。あの戦闘能力は主人公達がラスボスを倒して、裏ダンジョンで鍛え上げたステータスでないとまともに戦えない事に。

 

「戦争中ではある。しかし、こちらの勝利はもはや揺るがぬものになっている。油断はしないが、あちらも圧倒的な戦力差を思い知っているだろう。その上、あちらの土地は謎の汚染が広まって、産業が軒並み壊滅している。もはや奮起するどころか国の維持も難しいじゃろう」

 

ネーナ王国。踏んだり蹴ったりだな。いや、この場合は藪をつついて蛇が出るか?出てきた蛇が猛毒ドラゴンのバジリスクレベルだったろうけど。

 

『だからと言ってこちらは容赦しないけどねっ!』

 

と言うのが生徒会長であるサリエからのお言葉だ。今現在、彼女は魔法学園と王城の往復を繰り返している。ネーナ王国との戦争でざわついている生徒達の混乱を抑えるためのメッセンジャーとして大忙し。今頃、生徒会長室で生徒の親御さん。つまり、この国の貴族の関係者へ送る書簡整理を行っている。シバ校長よりも公爵家令嬢の方が立場は上のため、仕事量は多い。

 

この一週間ほぼ休みなしで働いている彼女のテンションはいつも以上に高かった。というのがサリエの証言だった。なんで、負けた国の元お姫様にそれを教えるのかな。いやがらせか?

 

「まあ、仕方ありませんわ。この戦争でこの国の裏切り者。売国奴達の嫡子、令嬢達の取り調べもありましたから」

 

リーラン王国の裏切り者はかなりの数がいた。この学園に通う生徒の五分の一が家族の命令とはいえ、それとなく実家に現状を報告。そして、その内容から学園の戦力を計算し、情報を横流ししていた。その中には原作のライバル君。主人公のライバル兼相棒になるラーナ君のご実家もあった。裏切り者の殆どが魔法の能力が高い、将来性の高い者達だった。彼等を味方に引き入れたからこそ、ネーナ王国は調子に乗っていたんだろう。モカ領の横暴を忘れたわけではないので同情はしないけど。むしろ、ざまあみろって感じだ。

 

「私達の実家にもネーナ王国の諜報員や裏取引を持ち掛けてきたらしくて、疑惑の目が向けられていて、大人達は大変らしいです。生徒は一応子どもだから今は遊んでいろってことで騒いでいるのかもしれません」

 

確かに祭りの喧騒は男子寮の大広間にまで届いている。ちらほらと浮かれ気味の男子学生の姿が見えるほどだ。・・・拷問されていた俺を放っておいて遊びに行くなんて、俺、嫌われ過ぎじゃない。

 

「アネスの実家にもその疑いがあったらしくて。取り調べを受けた後はアネスも夜通しでお祭り騒ぎではっちゃけて・・・。朝帰りしていたのを見かけた時はどう声を掛ければいいかわからなかった」

 

アネス先輩。ストレスからはっちゃけるのは仕方ないけど、ほどほどにな。一応、貴族令嬢なんだから。慎みをもって・・・。と、俺達が行ってもあまり説得力はないか。

 

「ほらほら。難しい話は夕食の時にでもしていけ。後輩たちは祭りを楽しんで来い。先輩命令だ」

 

シィ先輩は男子寮とその付近で起こる乱痴気騒ぎの監視と言う仕事を学園から任されている。

 

だからこそ、俺が拷問での起床を促されている場面を発見できたんだろう。本当にありがとうございます。

 

自分が寝ている間に今生の宿願が叶った。まだ実感は湧かないが、ネーナ王国が戦争で負けたからにはこれから先は自分の好きに生きていいのだと考えるだけで笑みがこぼれるカモ君。これからの未来は明るいぞ。と、コーテの手を取り大広間から自室へと向かった。そこで一度着替えて祭りに繰り出そうとした時、机の上にあった一枚の紙が視界に映りかかった。

借用書。私、エミール・ニ・モカはミカエリ・ヌ・セーテに複数のマジックアイテムの使用料、および弁済として

 

そこまで映った所で同じく、机の上にあった教科書を紙の上に置いた。

 

未来は明るいが、同時に重しもある。だが、未来の輝きは現実すらも埋め尽くすものだと自身に言い聞かせながら着替えたカモ君は自室を出るのであった。

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