鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

26 / 205
フラグ職人による後悔のごった煮風味。
序章 ダンジョンに行こう


 リーラン魔法学園。

 そこは国中の貴族。魔法使いの卵達を集め、その国力。魔法兵団の育成場所でもある。

 そんな魔法学園では貧乏貴族といったお金に困った生徒達の為にアルバイト募集の広告を食堂や講堂の前に張り出されている。

 その内容は王都周辺の見回り、野良モンスターの駆除。遠出になるが魔素によって自然発生したダンジョン攻略といった荒事から、

 朝日が昇るかどうかの時に清潔な水の確保の為に病院や飲食店へ赴き魔法で水を生成し提供する。町中に配置された下水道のひび割れを地属性の魔法で塞ぐといった細かい仕事をすることでわずかながらの報酬を貰う。

 当然、モンスターと出くわすことがある荒事の方が実入りはいいがそれでも貴族が平民。衛兵や冒険者のような真似をする事に抵抗がある。しかし、いっそのこと吹っ切れた生徒やどうしてもお金が必要な生徒達はアルバイトを求めて放課後の講堂や食堂に集まる。

 

 アネス・ナ・ゾーマ。

 パーマの掛かった赤い髪をした女子生徒もそのうちの一人だった。

 

 彼女の場合、趣味に使えるお金が少ないため、定期的に講堂の前に張り出されている張り紙を見て実入りの良いアルバイトを探す。

 彼女の場合、学園での成績も中の上なため多少授業をさぼっても後で取り戻せるのでアルバイト料が高いダンジョン攻略でもないかと探していた。

 だが、残念ながらそれはないようで仕方なく王都の見回りのアルバイト広告に手を伸ばそうとしていた彼女の頭上に影がはいる。

 その影の主は頭脳労働派の魔法使いの卵達が通う魔法学園にしては似つかない肉体労働派な戦士のような筋肉の持ち主だった。

 

 エミール・ニ・モカ。

 その肉体からは想像できないが全属性の魔法適正があるエレメントマスターと呼ばれる魔法使い。

 

 アネスの友であるコーテ・ノ・ハントの婚約者で一学年下の新入生でこの魔法学園では異色を放つ魔法使いだ。

 入学する前からレアアイテムを賭けた決闘をやったかと思えば、バトルロワイヤル式の決闘も行い、つい二ヶ月間にはブラックドラゴンとも戦った後輩だ。その風貌からだと二十歳間近の青年にも見えるがまだ十二歳である。

 そんな彼はお金には困っていないが自己鍛錬の相手に困っていた。

 先に述べた決闘とブラックドラゴンとの戦い。それらが原因で彼に決闘を挑む者はめっきりいなくなった。それだけではなく賭けアイテムの有り無しに関係のない模擬戦の相手も少なかった。

 強弱あるが陰謀が渦巻くこの魔法学園では決闘どころか模擬戦を行う事で自分の手札を見られることを危惧した生徒達が多くいる為に、いくら彼が願おうとその対戦相手は殆ど現れない。

 これでは自分を鍛えられないと感じた彼は、このアルバイト募集で行っているダンジョン攻略などモンスターとの戦闘がある危険な場所に身を置いて鍛錬にするつもりだった。

 

 「こんにちわ。アネス先輩。…ダンジョン攻略は、…ないか」

 

 「残念だったね。エミール君。私の期待していたんだけどね。まだ時期じゃないのかな」

 

 こちらに挨拶をして張り出された広告から自分の鍛錬に使えそうなアルバイトを探したが見つからなかった彼は何事も無かったかのようにその場を去ろうとしたが、そこに学園の職員が数枚の用紙を持ってこちらに歩いてきた。

 

 「あの、新しいバイト広告があるんですけど見ますか?」

 

 そう言って職員は二人に見えるようにその用紙を渡した。

 新たに張り出されるバイトの広告用紙に二人が望んでいたものが記されていた。

 

 コノ・ネ・ゾーダン伯爵が収めるゾーダン領でダンジョンが発生。

 仕事内容 冒険者と協力してダンジョンの攻略。及び、その補助。

 報酬 金貨20枚。貢献度により授業課題の免除。

 滞在期間は一週間。

 ダンジョン発生から二ヶ月未満。危険度下の上。

 王都に設置された転移陣からの移動。定員は十名まで。

 

 学生の身で金貨20枚。前世の世界だとサラリーマン一ヶ月分の報酬

 これを見た二人は迷うことなくこう言った。

 

 「「このバイト受けます」」

 

 お金に困っているアネスは勿論、対戦相手に飢えていたエミール。もといカモ君はダンジョン攻略という命の危機もあるかもしれないこのバイトに飛びつくのであった。

 だが、実際のところこの金貨20枚。魔法使いを雇って支払う報酬としては安すぎる。命の危険があるダンジョン攻略に魔法使いが協力するという事はそれだけ他の協力者の危険度が下がる。その貢献度に対して金貨20枚は安すぎるのだ。

 これはあくまでも生徒の手によるもので、その際の不祥事は勿論起こした本人にもあるが、何割かは学園側になる。それが起きた場合、どうして学園はこのような使えない輩を送りつけたのかと責められることになる。

 その為、このアルバイトを受けるには学園長との面接を受け、その人柄、戦闘力からOKサインが出た者だけが受けることが出来る。

 カモ君はその図体にあった膂力。

 そしてこの世界。シャイニング・サーガという世界観を知っている転生者としての知識とエレメンタルマスターという魔法使いとしての全属性の魔法という手札の多さで力量は問題ない。何よりブラックドラゴンと相対して生き延びたという胆力も見れば十二分に合格するだろう。

 転生先の実家にいる弟妹達に良い顔をしたい為に頑張った座学も優秀でダンジョンで出てくるモンスターやトラップなどの知識も豊富。

 今回のダンジョン攻略も今度の夏季休暇で戻った時の土産話にする予定だ。弟妹達に兄の冒険譚を聞かせる。想像するだけで鼻から幸せな愛が生まれそう。

 そんな残念な事を考えているカモ君の外見はダンジョン攻略をクールな表情で受ける向上心溢れる青年に見える。

 この男、思考と言動のリンクが殆ど働かない。学園一、心情が読めない人物なのかもしれない。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。