鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第二話 手のかかる後輩達

 幼馴染のキィと共にダンジョン攻略のアルバイトを申し込んだ翌日。

 面接で資格ありと合格を貰ったシュージは困っていた。

 なんでわざわざ火属性の魔法使いである自分が水属性のモンスターが出現するゾーダン領のダンジョン攻略に赴かなければならないのか?

 ゴブリンやコボルトといった何の属性を持たないモンスターならいざ知らず火属性の魔法は水属性のモンスターには効果があまりない。

 そして面接を受けたはいいもののまさか合格するとも思わなかったから。

 カモ君のように全属性が使える魔法使いでもなければ、剣術や体術で対応できる戦士でもない。

 それなのに今回のダンジョン攻略に合格したのは、あえて不利なダンジョンに挑み経験を積むという向上心を代われたからだろうか?

 カモ君に憧れを持つシュージは、彼が挑戦することは自分もやってみたいというある意味、アイドルの行動を真似るファンのようなものだ。

 魔法使いとして、一人の男として憧れているシュージは今回のダンジョン攻略にカモ君も参加すると聞いたから受けたら本当に受かった。

 キィと違ってシュージは座学でも優秀な成績を収めていた事、キィが受け答えできなかった水辺のモンスターの対応にも答える事が出来たので合格を貰ったのだ。何より、彼の持つ魔法の才能は威力だけを見れば初等部では最強と評価することが出来るので学園長のシバも今回のアルバイトを許可したのだ。

 正直、ダンジョン攻略にかかる日程の一週間はカモ君と模擬戦をしていたかったが、そのカモ君が今回のダンジョン攻略に乗り気だった。

しかもカモ君自身がシバにダンジョン初心者がいたらサポートすると言ってのけたのだ。

 カモ君は実家の領地と婚約者の領地で発生したダンジョンを何度も攻略した事がある猛者だ。経歴とその体格から魔法使いではなく冒険者といった方がいいかもしれない。それなのに魔法の成績も優秀と絵に書いたような優等生だが、それらは全て愛する弟妹達に褒めてもらいたくてやっている事を婚約者のコーテ以外誰も知らなかった。

 

 カモ君はブラコンであり、シスコンである。

 

 いずれは自分を倒してのし上がるだろうシュージにはもっと強くなってもらう為に今回のダンジョン攻略、シュージとその幼馴染キィをサポートするだろう。

 勿論、シュージ達の成長を阻害しないように必要最低限のサポートしかしないだろうが、今回のようにお金に困って装備やアイテムに不安がある彼等に対して、ダメージや毒を受けるようなことがあればその多彩な魔法で彼等を助けるつもりである。

 カモ君にとって、万が一にでもこのダンジョン攻略でこの世界の主人公と思われるシュージが死んでしまう事があれば、ひいてはこの国の滅亡につながる恐れがあるので出来る限りのサポートをする予定である。

 この国が滅べばこの国の貴族である弟妹達にその被害が及ぶ。それはそう遠くない未来で起こる戦争で英雄になるはずのシュージに何かあった時だ。そうなればカモ君は弟妹達を連れて他国に亡命するつもりだ。余力があれば婚約者のコーテも連れて逃げる算段である。

 愛される兄貴が婚約者を見捨てるという自分の株を下げるような真似はしない。

 第一に弟妹。第二に自分。第三に自分の婚約者。四以降はその他になる。

 

 カモ君はかなりブラコンであり、かなりのシスコンである。

 

 いずれは自分を踏み越えるだろうシュージに対してこうやって援助するのも全ては弟妹達の為である。

 そんな事を知らないシュージは次の休みまでに必要な道具を準備するためにキィやカモ君と共に図書館にやって来た。

 ゾーダン領で見かけられるモンスターや過去のダンジョンで出現したモンスターの履歴。それに必要なアイテムを調べ上げて次の日の休みに市場へ出向きそろえられるだけの事をする予定だ。

 

 「今さらだけど俺なんかが役に立つのかな…」

 

 「何言っているのよ、シュージ。ダンジョンよ。ダンジョン。マジックアイテムをゲットできるチャンスを見逃してどうするのよっ」

 

 「そうだぞ。それに今のうちに得意な事ばかりじゃなく、苦手な事。不利なモンスターにも慣れておけ。その経験はいつかきっと役に立つ」

 

 全属性が使えるエレメンタルマスターであるが故に全属性が弱点のカモ君が言うと説得力がある。

 

 カモ君が得意な事。愛する弟妹達と戯れる事。三日三晩、休むことなく戯れることが出来る。むしろ体調は良くなる。

 カモ君が苦手な事。ハイレベルな力量を持つ弟との魔法訓練。補助と回復魔法無しでは確実に完敗する上に筋肉痛。及び周りへの被害が甚大になる事。なにより弟妹達に嫌われる事である。

 

 カモ君が愛する弟。今年で八歳になるクーに、カモ君は全力を挑んだ上に兄の意地も賭けた上でようやく勝てるかどうかの実力である。

 毎回どうにか兄の威厳を保つ事が出来たカモ君は、その過酷さを乗り越えることが出来たお蔭で新入生どころか初等部三年の中ではトップクラスの実力を有していた。

 我ながら自分の言葉に納得するカモ君だった。

 

 本当にうちの弟は天才である。でもお兄ちゃんまだ負けないぞ。

でも毎回負けそうだぞ。(震え)

 

 エレメンタルマスターという全属性の魔法が使えるカモ君の強さはその手札の多さ。

そんなカモ君が追い詰める事が出来る彼の弟クー。彼こそこの世界の主人公なのではと今でも疑うカモ君は弟に強くなるという約束をしたため、今回のようなダンジョン攻略に飛びつかずにはいられなかったのだ。

 そんなカモ君と似たような想いを持つのがシュージとキィだ。

 レベルアップというステータスを上げることが出来るチート能力を持つシュージとキィはモンスターとの戦闘、魔法使いとの戦い、魔法の鍛錬や勉学で生物としてのレベルを上げて強くなることが出来る。

 シュージは世話になっている地元の領主。ツヤ伯爵への恩返しの為に強くなろうとしており、キィは贅沢気ままな生活をするために強くなろうとしていた。

 そんな三人を待っていたかのように図書館に設置されたテーブル席に座っていたコーテとアネスが手招きをしていた。

 

 「お、後輩君達やって来たね」

 

 「あ、遅くなってすいません。ゾーマ先輩」

 

 頭を下げながらやって来たシュージにアネスは気にしていない様子で自分達が確保していたスペースに迎え入れる。

 対するキィとコーテは明らかに違う雰囲気で話し合っていた。

 

 「あなたはこっち。あとこれに着替えてきなさい」

 

 「…いやぁ、もう、無償労働はいやなの」

 

 コーテに渡された紙袋の中にあったのは学生寮の手伝いを従者達がよく着る服装。メイド服だった。

 これは二ヶ月前の決闘に負けた時にパシリを強制させられた負の遺産でもあり、キィにとって無償労働の証と認知されつつあり、忌避する物でもあった。

 

 「毒消しアイテム代。個別に請求してもいいなら着なくてもいい」

 

 「…わかりましたっ。着ればいいんでしょっ、着れば!」

 

 コーテとカモ君がいればダンジョンで毒を受けても解毒魔法を受けることが出来る。 しかし、ダンジョンでは不測の事態がよく起こる。もしも二人とはぐれた時にも解毒のアイテムを持っていれば対処できる。

 コーテは後払いになるが、キィからの報酬の金貨十二枚からそのアイテムを購入し、今回の五人メンバーに割り振ると約束していたが、キィはその対価としてゾーダン領のダンジョン攻略まではコーテの特別講義を受けることになっていた。要はパシリである。

 メイド服を受け取って女子更衣室に向かうキィの後ろ姿を見ながらカモ君達。

 

 「容赦ないな」

 

 「これくらいしてもらわないと彼女はここでやっていけない」

 

 こうやって言葉を気軽に交わす彼等だが、貴族と平民。身分が違う。平民が貴族に何かしでかせばそれを起因に手打ちにされるだろう。

 未だに貴族への接し方が成っていないキィへの教育として、あえてコーテは厳しく接するのだ。決してキィにメイド服を着せたがっているわけではない。

 

 「手のかかる子の面倒を見るのは大変」

 

 「そうだな」

 

 カモ君も今はまだ弱いとはいっても初等部では中の上か上の下の実力を持つシュージのレベルを上げるため。決闘に負けて装備品を渡すために模擬戦や今回のダンジョン攻略に向かうのだ。

 コーテの気持ちは分からんでもない。

 

 「・・・手のかかる子の面倒を見るのは大変」

 

 「なんでこっちを見ながら二回言った?」

 

 コーテの視線がいつの間にか自分に向いている事がわからないカモ君だった。

 


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