鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第四話 セクシャル、パワー、モラル!奴にハラスメントを仕掛けるぞ!!

 王都の南東に位置する馬車乗り場にたどり着いたカモ君。

 そこには貴族だけではなく貴族も大型の馬車から個人用の馬車といった多種多様の馬車が並べられていたが、そこに場違いな物があった。

 赤い装飾が特徴的な豪華な天蓋付きの大人が三人横になっても余裕があるサイズのベッドがあった。そしてそこに腰かける女優な美女がいた。

 

 「来たわね。エミール君。さあ、(このベッドに)乗って」

 

 ざわっ。と、周りにいた衛兵や平民達が変態を見る目でこちらを見てくる。

 そんな目で見ないでくれ。出来る事なら君達と同じ目で眼の前の美女を見たいんだ。

 空飛ぶ絨毯ならぬ空飛ぶベッド天蓋つきですか?

 脳内で何度もツッコミを入れながらカモ君は侯爵の元へ歩み寄る。

 

 「セーテ侯爵。これが例の物ですか」

 

 「ええ、貴方が御所望の物よ。…天国を見せてあげる」

 

 ざわわっ。と、周りにいた皆さんから更に白い目線を浴びる。

 やめてやめて。誤解されるような言い方やめて。あんた侯爵令嬢やろ。いい所のお嬢様やろ。立場があるでしょ。弟妹達の事になると馬な骨と鹿の骨が入っていそうな輩と変な噂がたったらまずい立場でしょ。…なに、笑てんねん。

 

 「冗談は困ります。侯爵」

 

 「あら、(ダンジョン攻略に)本気だったのは私だけ」

 

 ひそひそとこちらを見ながら指をさす人達。

 クー。ルーナ。…兄ちゃん。(外聞を)汚されちゃった。

 目尻に涙が出てきそうな事態だがカモ君はぐっとこらえる。

 格好いい兄貴は泣かないもん。

 それにこうやってからかってくる人でも大事な協力者だ。大事なアイテム提供者だ。我慢我慢。

 

 「すぐにでも行きましょう。侯爵」

 

 「すぐイキたいの?我慢が出来ない子なのね」

 

 カモ君は我慢している。

 カモ君の脳内ツッコミ力が上がった。

 そろそろ俺の堪忍袋が火を噴くぞこらぁあああっ!

 もう行こうぜ。早くこの場から離れようぜ!身元が特定される前にこの場から去りたかった。

 

 「からかってごめんなさいね。服と上着を脱いでくれない。ベッドの下に小物入れが収納されているからそこに入れて頂戴」

 

 「…いえ。お願いしたのはこちらなのですからそれくらいは」

 

 そう言ってカモ君が服を脱ごうとするとすかさずにセーテ侯爵は口元を手で隠しながらこう言った。

 

 「まあ、服は嘘なんだけどね」

 

 テメエぇえええええっ!!

 立場が上で、侯爵令嬢で、協力者だからといって、からかっていい時と悪い時があるぞ!

 

 「…侯爵。周りの目があります」

 

 こんな衆人観衆の目が無ければこの令嬢をドつきまわしている。

 何でこの人逆セクハラ。いや、この場合はパワハラか。どっちでもいい。どっちでもいいからこれ以上の風評被害はやめてくれ。モラルまで混ざっているじゃねえか、この女郎。

 その翡翠色した瞳がこちらをじっと見つめてくるが、今度は何を言われるかたまったもんじゃない。

 というかゲームにこんな奴いたか?多分ゲームには出てこなかった有能キャラだ。某モンスターゲームでもその特殊な闘技場を制作した人物の名前なんて出てこなかったし。

 おら、ベッドに乗ったぞ。あくしろよ。

 

 「エミール君。ここまで言った私だけど…。もしかして男性にしか興味ないの」

 

 「おふざけはもうそのくらいにしてください侯爵。私にも我慢の限度という物があります」

 

 ふざけるな。ふざけるなっ。馬鹿野郎ぅうううう!

 女に興味がありまくるに決まっているだろう!

 年齢は十二。もうすぐ十三歳になるけど体は立派な男だぞ。精通もしたわ。

 あんな娘といいな。デキたらいいな。あんな夢。こんな夢。いっぱいあるお年頃だぞ!

 だけど今はそんな事にかまけていられるか!弟妹達の危機なんだぞ!

 

 「私って魅力ないかしら?」

 

 「私は貴方程に魅力的な女性はあまり見ませんね」

 

 一番は我が妹のルーナ(七歳)。二番目がコーテ(十三歳)。三番目がモークス(四捨五入すると六十歳)。四番目がお前だ!このショタコン侯爵令嬢が!今までのやりとりが無かったら二番目になれたかもしれないがな!中身が駄目駄目だ。カモ君的にはいい女は中身もいい女でないといけないんだよ!

 

 「移動中に貴方が私に襲ってこないかしら?」

 

 「少なくてもダンジョン攻略するまでそれはないと断言できます」

 

 「私が攻略されないかしら?」

 

 「出来たらまず、この王都を早々に出ることにしますけどね」

 

 「…よし。合格」

 

 投げ槍になりつつある返事に何やら納得したという感じで頷いたセーテ侯爵は自身の魔力を腰かけているベッドに注ぎ込むと天蓋つきのベッドが浮かび上がる。やっぱり空飛ぶベッドだった。

 前世のヘリコプターやジェット機のような重苦しいプレッシャーは感じない。文字通り宙に浮いた感覚。水面に触れるボートのようにゆらゆらと前後に揺れるベッド。

そんな不思議な感覚を感じたカモ君の頭上。天蓋の中から一人の黒ずくめの人間が飛び出すとカモ君に覆いかぶさろうとする。

 ベッドの上で不安定とはいえ、これでも鍛えているカモ君は抵抗してみせたが数秒後には首元にナイフを突きつけられると抵抗を止める。

忍者。そんなジャパニーズなスパイを連想させるような黒ずくめは男か女かも分からない体格だった。

 

 「…七秒。それがお前に出来た僅かな抵抗だ。もっと周りに気をつけねばな」

 

 まるでこちらを侮蔑するような視線と声色にムカッとしたが、確かにそうだ。ダンジョン攻略だけではない。ここからモカ領に向かう途中で盗賊が現れないという保証もない。確かに侯爵とのやりとりで視野が狭くなっていた。

 まあ、空飛ぶベッド?に近付こうとする物好きな盗賊がいるかは疑問だが…。

 

 「仕方ないわよ。私が散々注意力を散らして、貴方の奇襲よ。王国騎士団長でもなければ防ぎようがないわ」

 

 なるほど。自分は試されていたという事か。

 …あれ?それって不合格って事じゃないか?もしかしてこのベッドの使用を禁止されちゃう?!それは困るぞ。凄く困る。

 

 「お嬢様の美貌と言葉遊びに惑わされない男などいるはずもないか。いや、女であっても惑わされるだろう」

 

 そりゃあ、な。でも俺の視野が狭くなっていたのは間違いなく言葉遊びだ。この人をイラつかせるグダグダを演じていたお嬢様(疑)二十二歳の口頭テクニックだ。さすが年の功は伊達では…。

 

 「おい、今失礼な事を考えなかったか?」

 

 どうして自分の思考は一部に限って読み取られやすいんですかね?表情筋はしっかりとポーカーフェイスなのに。

 辺りを見渡せば先程までひそひそ話をしていた平民のおばちゃん達はこちらに向かって膝をついて頭を下げている。そこでようやく気が付いた。この人達は皆、ミカエリ・ヌ・セーテ侯爵の関係者だったわけだ。

 考えてみれば長距離を短時間で移動すると言う技術的にも軍事的にも有効な代物が一般の目に付く恐れがあるのだ。それ相応に秘密保持が働いてもおかしくない。今も一般人が近寄らないようにそれとなく誘導している一般人に扮した侯爵関係者達。彼等の努力を無駄にしない為にも早く出発したほうがいいんじゃないか。

 

 「このベッドは元々私だけの物だったんだけどね。今回の出発には私とこの子。そして貴方の三人で出発するわ。このベッドに魔力を注ぎ込みながら行きたい方角に意識を向ければそこに向かって前後に動くわ」

 

 こんな風にね。と、セーテ伯爵が魔力をベッドに注ぎ込むとベッドが前に動く。

 なるほど思ったより簡単に操作できそうだ。

 

 「ベッドが動くってなんだかエッチね」

 

 もうハラスメントは勘弁してくれませんかね?

 ほら、未だにナイフを首元から離さない忍者さんも呆れた目でそっちを見ている。

 

 「お嬢様。いくら貴方が見定めた輩とはいえ、人目のない所に行って一時の気の迷いなどが生まれたらどうするんですか」

 

 「大丈夫よ。こう見えても私の冗談は人を選んでやっているから」

 

 ええ、そうでしょうとも。気の迷い?生まれるに決まっているじゃないか。人気のない所に行ったらこのハラスメント美人の頭をどつく。お前はそれだけの事をした。覚悟はいいですね。

 クスクスと笑いながらも捜査しているベッドは侯爵。忍者。踏み台の三人を乗せて徐々にスピードを上げて飛んでいく。

 その光景を平民に扮した侯爵家関係者に見送られながらベッドは南へ進んでいった。

 …あのお嬢様。モカ領は南というよりも西よりの位置にあるんで。沈みかけている月に向かって動かしてください。

 それとなく進言すると悪戯がばれたかのように舌を出すセーテ侯爵。

 美人は何しても似合うのだが、もう二十歳を過ぎたのにテヘペロは似合わな…。

 

 「エミール君」

 

 美人は何しても似合うな。似合うなぁあああっ。だから影のある微笑みをひっこめてください。お嬢様。

 

 王都を出発してから三分も経たないうちに空飛ぶベッドは早馬よりも速いスピードで移動している。ここで下手な事を考えていると知られれば、放り出されるかもしれない。

 沈黙は金というが自分の場合。考えるだけでもアウトらしい。

 こうしてようやくカモ君は王都を出発し、モカ領へと足を進めるのであった。

 




美人だから許される。

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