鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第二話 涙が出ちゃう。だって債務者だもの

カモ君とコーテが王都に戻り、ミカエリに土下座した。

その内容は大会で役に立ちそうなアイテムの借り受けである。

コーテが所有するマジックアイテムでもと思ったが、どれも決定力が足りない。首飾りや短剣。指輪など魔法のステータスを上げることが出来るが、それだけでは武闘大会にて好成績を残すことは出来ない。

カモ君の攻撃レベルは予想している大会参加者の平均かそれより下な物だ。魔法ではそのプロフェッショナル達の放つ威力には負ける。身体能力では冒険者に押し負ける。尖ったステータスでないと大会で勝つことが出来ない。

そんな事が出来るのはマジックアイテム。それしかない。出来れば魔法殺しのようなぶっ飛んだアイテムが欲しかった。だが、カモ君はこの三週間ほどの期間。ずっとダンジョンにいたがそんなアイテムを手に入れることは出来ずにいた。

そんな状況で頼れるのはもうマジックアイテムを自作できるミカエリしかいなかったのだ。

空を飛ぶベッドを作り出せる彼女なら大会に通じるようなアイテムを持っているかもしれないと。

カモ君はもう青狸に頼るメガネの小学生の気分でミカエリに泣きついたのだ。隣に婚約者のコーテがいようとなりふり構っていられなかったのだ。

そんなカモ君の祈りが届いたのか、ミカエリは一度自分の研究室に戻りしばらくしてから戻ってくると様々なアイテムをカモ君達の前に並べた。

 

血塗れグローブ。

装備した者の瞬発力が上がる手袋。代償として装備者は錯乱状態になる。自他。もしくはその両方合わせて300mlの血液を吸わさないと装備を外すことが出来ない。

 

オークネックレス。

くすんだ緑色の宝石でできた首飾り型。装備者に多大な膂力を与えるが、全体的な動きが緩慢になる。何故か悪臭漂う汗をかき続けることになる。あと、装備品自体がぬめっとしている。

 

ウールジャケット。

見た目は灰色のジャケット型のマジックアイテム。装備者が魔力を流すと羊毛のように体が軽くなる。ただ、軽すぎて本当にそよ風で飛んで行ってしまうほど軽くなる。軽さの調整は出来ない。

 

マウンテン・アーマー。

ごつごつした岩のような肌触りをした灰色のレザーアーマー。装備者が魔力を流すと装備者の体全体が物凄く重く硬くなる。ただ重すぎて立っていられなくなる。重さ、堅さ調整不可能。

 

成りきり忍者セット。

麻のような東洋の国のスパイのような着物。この国では目立つ着物姿なのに何故か人目につかない。影が薄くなる。ただ意識して注視されるとその効果は無くなる。

 

成りきり王様セット。

大きな灰色ザリガニのような着ぐるみ。

どんな状況でも自信過剰になる。口癖がふぉっふぉっふぉっとなる。

 

「…在庫処分?」

 

コーテさん。そうは思っても言ってはいけません。

確かに見た目はコスプレ衣装にしか見えませんが効果はもの凄いです。デメリット効果も凄いが。

 

カモ君達の前に並べられたミカエリの自信作の幾つものアイテム。どれもピーキーで使いにくい物ばかりだが、複数を持ち合わせたら多大な恩恵をもたらすことが出来る。

ウールジャケットとマウンテン・アーマー。この二つを組み合わせたら高速で動く人間砲弾になる。これが何を意味しているかミカエリも理解しているのだろう。

カモ君の視線に気が付いたミカエリは苦笑しながら答えた。

 

「残念だけど私のこの自作アイテムは強力な効果を持っている反面、一つだけでも発動させれば消費魔力も大きいの。はっきり言って、エミール君でも三十分くらいが限界ね」

 

その上、武闘大会では持ち込めるマジックアイテムは一つまで。

となると、コーテは自分が持っている抗魔のお守りが一番良い物なのではと考えたが、カモ君はそれらも考慮して灰色のコート。ウールジャケットに手を伸ばそうとしてミカエリを注視した。

このコートに決めたがこれを取ろうとした瞬間にカヒーやビコーのように不意打ちされるのではないかと警戒したのだ。現に、いつの間にかミカエリは乗馬で使う鞭を片手にカモ君を見ていた。

しばらく二人は見つめ合い。ミカエリが目を逸らした瞬間にジャケットを手に取るカモ君はその場で羽織って見た。

少し。いや、かなり大きめに作られたそのジャケットは成人男性並みの体型をしたカモ君でも袖が余るくらいに大きいジャケットだった。ミカエリが自分で使うには大きすぎるこれは何の為に作ったんだろうか。いや、このアイテムの数々も何の目的に作ったのか?

 

「私もお兄様達みたいに格闘戦をしてみたかったんだけど才能が無くてね。せめて膂力だけでもと思っていくつか作ってみたの。一応、このアイテム達を作るのに数千の失敗作が出来たんだからね」

 

え?あの濃いお兄様達みたいに?

ふはははは!と、高笑いしながら敵軍を素手で蹂躙していくセーテ侯爵の人達。ここは修羅の国かな?

 

カモ君はうすら寒い想像をしてしまったが、セーテ侯爵への恩義とコーテの前という事もあって外見上はクールに聞き流した。

 

「あ。あと、それのレンタル料取るから。ダンジョン攻略で入手した風のマジックアイテム一個でいいわよ。失くす。損失したら五個ね。現金はお断り」

 

ダンジョン攻略は大なり小なり命の危険がある物。

一般冒険者や魔法使いが壇上攻略でマジックアイテムを見つける可能性は五回に一回あるかないか。

つまり、カモ君は命懸けで五回もダンジョン攻略をしなければならない。

クールに笑って答える。内心は焦りと不安でいっぱいだ。

 

頑張れ俺。負けるな俺。武闘大会さえクリアすればいつもの通りじゃないか。

主人公のシュージとの決闘を繰り返し、負けて、アイテムを献上する。その献上する相手が一人増えただけじゃないか。

・・・泣きたい。でも泣かない。婚約者の前だもの。

 

「…エミール。そういえば私の渡したマジックアイテムは?」

 

喪失しました。地の首飾りは今もつけているが、地の短剣。水のマントはクーとの模擬戦(死闘)で焼失しました。

無言のカモ君だったが、気まずそうな顔をして婚約者のコーテから視線を逸らす。

 

「…エミール利子がつく前に代案を用意してね」

 

現状、モカ家から追われる身になった時点でカモ君は貴族ではなくなっている。それと同時にコーテの婚約も無かった事になっている。

彼女は善意で今まで支えてくれたが、カモ君が武闘大会で恩赦を貰えなかった場合、コーテから借りて消失させたマジックアイテムも弁償しなければならない。

頑張れ、カモ君。負けるな、カモ君。

武闘大会で優勝すれば現状は改善されるが、負ければ私刑・軽蔑・借金の三重苦が待っているぞ。負けられない戦いが待っているぞ。

 

「くっ」

 

今ある現状に呻き声を出したかったカモ君はコーテとミカエリに見られないようにそっぽを向いた。その時ほろりと涙が流れたが幸いな事に二人にはみられることは無かった。

 

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