鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第五話 初めてのダンジョン

 カモ君がゴブリン退治してから十日が経過した。

 あのゴブリン退治から三日後の昼に、衛兵の皆さんが探索して、モカ領内にある森の中に自然発生したダンジョンを発見した。前日のゴブリン達はここから生まれたのだろう。

 この世界ではモンスターを生み出す迷宮。ダンジョンが時折発生する。発生する場所は戦場跡や古代遺跡。廃墟の村など人気が無い所に出てくるのが多い。なんで発生するのかは解明されていない。

 ゲーム上では魔法を扱う人間を含めた全ての生物から発生する魔素とやらその大地に沈着して、一定量溜まったらダンジョンコアと呼ばれる宝玉がポンと出て、それを中心に迷宮が作られるそうだ。

 ちなみに王都など人の行きかう町でも結構な魔法が使われているがそれを取り除くのが協会の人間。光属性の魔法使い。プリーストやシスターといった聖職の魔法使い達が定期的に魔素を散らして発生を抑えているらしい。

 それってモカ領みたいにまあまあ広いけど、教会の人間が光属性の素質を持っていても魔法の力が弱いおじいちゃんとかおばちゃんくらいの人しかいない貧弱領地じゃどうにもならないんじゃないか。むしろ散らしている魔素のしわ寄せはこうやって地方領地に来ているのではないだろうか?

 まあそれを解決するための魔法の使える貴族。領主。衛兵。そして冒険者と呼ばれる人達である。ちなみにギネはやらない。汗水流すのは部下の仕事だと考えているから。

 冒険者とはその名の通り、主に地方に出現するダンジョンを攻略。そのダンジョンの中にあるコアを破壊してその領地の主から報酬を得て生計を立てている荒くれ者達だ。他にも未開の土地に赴きその土質や生体の調査、戦争の時の傭兵として戦いを主にしている人達である。

 そのような猛者三十人を隣の領まで行ってかき集めた。更にゴブリン退治のときは距離があって来ることが出来なかった者も合わせて衛兵は五十人。一般領民十名ほど一週間で集め、ダンジョンの前で先導しているのは領主のギネではなく、その息子カモ君である。

 

 「これからこのダンジョンを攻略する。衛兵、冒険者の皆には苦労を掛けるが報酬もきちんと出す。勿論脅威度C級以上のモンスターを討伐した者には別途の報酬を用意する。ダンジョン前にある野営地の設備も存分に使ってくれ。数は少ないが回復ポーションはもちろん解毒、麻痺治しは揃えている。あまり良い物は出せないが量だけはある。食事の方も遠慮なく食べてくれ」

 

 「ひゅーっ!今回の領主様は当たりだな!太っ腹じゃないか!」

 

 「というか本当に領主の関係者か?体格が俺達より何だが」

 

 「ポーションは持って行ってもいいか?駄目か。そうか」

 

 本来、冒険者達の準備は自前。受けた傷や体力を回復させるポーション。剣や鎧は自己負担が当たり前だが、カモ君が父親とやりたくもない協議の末、彼等を最大限にサポートすることを約束させた。

 貴重で高価なポーションの持ち出しを禁止しているのはそのまま持ち逃げされないためだ。だが、食事や怪我の面倒まで見ることはない。それを行うのは彼等の士気を高めるため。

 それがダンジョン前での休息地点を儲ける事だ。ちなみに彼等を先導しているのはカモ君だ。ギネはまた事務作業に戻っている。本当に下の者には愛想のない人間だった。

 流石に装備品は用意できないがダメージからの回復や空腹でのパフォーマンスの低下を危惧したため、彼等をサポートする人達。衛兵以外に志願してきた領民から十名が支援に来てもらっている。勿論、彼等にも報酬は払う。

 どうせ自分の見栄を張ることぐらいにしか使わない金だ。ダンジョン攻略費用と考えれば安いものだろう。それに報酬を多めに用意することで冒険者達からモカ領への印象アップも狙える。

ダンジョン攻略は早ければその日で、長ければ一年はかかる大仕事である。

 それを短期的に、関係した人達には好意的に終わらせるためにギネから初期投資は多めにぶんどって来たカモ君。勿論彼等だけを働かせるわけにはいかない。自らも率先してダンジョン攻略に出向く。むしろそっちがカモ君の狙いだ。

 ダンジョンはモンスターを生み出すがそれだけではない。そこでしか手に入らないレアアイテムも生み出すことが出来るのだ。ちなみに所有権は発見者にあるので率先してダンジョンに入るつもりだ。

 その見た目に似合わず大容量のモノを入れることが出来るアイテム袋。

 魔力を少しだけ使うだけ六時間の明かりを灯す魔法のランタン。

 所有者の魔力を吸って威力を増すマジックメイス。

 その色でその属性魔法に対してある程度ダメージを緩和することが出来るアクセサリーなど。

 勿論カモ君の狙いはダメージ軽減の効果を持つアクセサリー。それを入手して来たるべき主人公との決闘に負けた時に渡すアイテムを入手する為だ。

 あ、急にカモ君のやる気が下がったぞい。

 いやいや、あくまで主人公に渡すまでは自分が使っても構わないだろう。摩耗や損傷で使えなくなることもあるがそんな乱暴に使う事なんて…。あ、クーとの魔法訓練で壊すかも。だ、大丈夫だ。滅多に壊れることは、うん、たぶん、ない、と、思いたい。

 そうテンションが下がりそうになりながらもダンジョンに突入するメンバーの選出や順番について最終確認をした後、第一班としてカモ君を含めた選出された三十人がダンジョンに突入することになった。

 

 

 

 とある冒険者は思った。

 こいつはいい支援者だと。

 本来ならダンジョンでの生き死には自己責任だが、ダンジョン攻略してそこで終わりという訳ではない。ダンジョンコアを破壊したとしても既に生み出されたモンスターが消えることはない。ダンジョンの帰り道で死ぬ奴なんて片手で数えきれないほど見てきた。だが、そんな被害者を少なくするためにわざわざ野営地やポーションを準備する領主。正確にはその息子だが見たことはない。

 このような地方領地に発生するダンジョンは年月が経っていてその分。階層が増え、モンスターの質も、ダンジョンでのトラップも凶悪になってくる。それこそ莫大な資金を定期的に必要とする。

 それを短期的に解決しようとするのは効率的だ。自分達をこのようにサポートすることでやる気を出させて、報酬を約束し、同じ釜の飯を食う事で友好的に接してこちらとの連携も上手くいくように人を動かしている。

 モカ領にある駐屯所に冒険者の募集を呼びかけたのもこの領地を守る衛兵達の負担を軽くするためだ。冒険者だけでなく衛兵達からの信頼をこのエミールという少年はやってのけた。

 それに度胸もある。今もこうして初めてだというダンジョンに突入するのも中衛とはいえ先陣を切る。冒険者たちに声をかける時にも、

 

 「報酬も出す。その支援もしよう。報酬はこれだ。特別報酬もある。文句があるなら来なくてもいい」

 

 わかりやすい。あまりにもわかりやすい。しかもそれを堂々と言うだけあって余剰な報酬を要求する冒険者もいたがそういう奴等はお呼びではない。自分と衛兵達でどうにかすると言ってのけた。十歳だというこの少年を脅そうにも共に声をかけて回った衛兵十名ほどに気圧されてそうする事も出来なかった。

 更に、このダンジョンは出来たての可能性が高い。アイテムは期待できないだろうが攻略はたやすいだろう。それに対してこの報酬で文句があるなら冒険者達の協力は諦める。

 確かに出来たてのダンジョンならこの領地にいる衛兵達だけで事足りるだろう。それなのに自分達のような荒くれ者にも報酬の機会を与える。やる気の出し方を心得ているエミールは大した奴だと評価せざるを得ない。

 一回の報酬は多めだが、二回目以降。もしかしたら一回の突入で攻略してしまう仕事に残念だと思う冒険者だが、命の危険が少ない仕事がまた定期的に来るかもしれないと考えればこれもいいかもしれない。少なくても今回の報酬で半年は暮らしていける。ダンジョンの発生も短ければ半年から二、三年のスパンで発生する。運がよければまた半年後に食い扶持にありつけると考えるとこのモカ領は気前のいい仕事場でもあった。

 

 

 

 そんな冒険者の考察と裏腹にカモ君はというと、少なくても五階層はあってほしい。深層が深ければ深い程、質のいいアクセサリーやアイテムが手に入るのだ。出来れば風か地に抵抗のあるアクセサリーが欲しい。風はクーとの魔法訓練。地はいずれ殴り合うギネとの悶着の時の為に入手したい。

 地属性レベル2にしたのもマッパーというダンジョンの地図を製作するのに必要な魔法の習得のためだ。これでダンジョン攻略も楽になる。あと同じ属性の魔法は感知しやすいのでこれもギネを殴るための必要経費だと割り切っていた。

 残り三点どれに割り振るべきかと悩んでいる所で十日前に対峙したゴブリンが数匹ダンジョンの奥から現れたので撃退するために戦闘態勢に入る。

 ダンジョンでのレアアイテム入手はこの世界の男のロマンでもある。ルーナは心配するだろうがクーはそれを見たら目を輝かせて喜ぶだろう。そう考えると口角が上がるのを押さえられない。

 だが、ここはダンジョンであるという事を思いだし攻略に専念する。にやけるのは弟妹達に無事を報告してからだと。

 そして手に入れたアイテムで余ったものは冒険者や衛兵達に出している報奨金として黙っていてもらおう。あのギネならそのアイテムを寄こせと言ってくるに違いない。レアアイテムを入手したらそれを黙って押領し、来たるべき時まで自分が使う事にする。ギネも騙せて自分も楽が出来て一石二鳥だ。あまりレアじゃないアイテムは目くらまし用にギネに押し付けて有用な物はクーやルーナにもあげる予定でもある。

 報酬を用意しているとはいえ、人が命を賭けていることをそっちのけで私利私欲にまみれているカモ君。

 モンスターが現れるたびにレアアイテムに期待を寄せてにやりと口角をほんの少しだけ上げて不敵な笑みを浮かべたカモ君を見て、冒険者・衛兵達は心強いと信頼を寄せるのであった。

 

 ギネの金で他人の命を扱い、戦利品を横領する。血の繋がりを感じずにはいられないカモ君でもあった。

 


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