鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第八話 セーテ兄弟による魔法講座

武闘大会三日目。

昼過ぎに行われる予定だった準決勝第二試合は第一試合で白騎士マウラの対戦相手が自身の武器を前日の試合で失った事を理由に棄権した為、第二試合が繰り上げられた。

 

「準決勝第二試合。荒ぶる剛腕で相手を叩き潰すパワフルスマッシャー!冒険者のゴンメ選手!」

 

うぉおおおおっ!と野太い男性陣の声援があがる。主に冒険者達を中心とした人達からの声援を受けながらゴンメが入場する。

その筋肉で膨れ上がった体は遠くから見ると丸い岩のようにも見えるが、その実態は筋肉が肥大化したボディビルダーも真っ青な体。

魔法などいらぬ。技などいらぬ。ただ素早く近づいて叩き潰す。そんな事を言ってもいないのに彼の体と彼の持つ武器が無言の圧力を放っていた。

 

「対!その静かで動きで気配を消し、無駄ない一撃で相手を倒してきたエレメンタルマスター!カモ君選手!」

 

カモ君の紹介になるとゴンメを応援していたブーイングが起こる。

この国での魔法使いは冒険者を低く見て舐めきっている。そんな風潮がある為、エレメンタルマスター。魔法使いのカモ君に対しての当たりが酷い。しかも使う魔法がどれもレベル1のしょぼい魔法だから魔法が好きな一般人からも受けが悪くファンが付きにくいのだ。その為、多少の建前を含めた拍手や歓声よりもブーイングの方が勝ってしまう。

以前はカヒーに窘められた観客達だったが、カモ君の地味な戦い方に嫌気がさしていた。魔法を使うならもっと派手な事をしろと。

カモ君だって派手な事をして勝てるならいくらでもするが、生憎自分のレベルではそんな魔法は使えない。だからこそ、体術と魔法を組み合わせて戦っているのだ。文句があるならお前が戦ってみれば?と言いたい。

そんな対照的な二人がお互いを睨み合うように立った。

カモ君は十二歳とは思えぬほど長身だが、ゴンメはそれの倍近く背が高く恰幅も良かった。その為、ゴンメの背中から観戦する人たちからはカモ君の姿が覆われて見えないくらいにゴンメは大きかった。

 

「お前。弱い。その体で殴っても俺に効かない。魔法も効かない」

 

ゴンメの挑発にも似た発言にカモ君は不敵な笑みで返す。

 

知っていますが、何か?

 

内心では殆ど自分に勝機が無い事に絶望しているカモ君。

自身の最大火力である。無数の大岩を相手の頭上に発生させて押し潰すロックレイン。それをまともに受けたとしてもゴンメなら平気な顔で這い出てくるビジョンが見えた。

そんなカモ君に出来ることはゴンメを相手にしての長期戦。彼が疲れ切った隙を見て護身の札を燃やすといった搦め手しかない。

 

「でも、強い。オマエ、頭がいい。だから」

 

ゴンメはカモ君を馬鹿にするような素振りは見えない。その逆に彼を警戒していた。だからこそ。

 

「何かされる前に潰す」

 

カモ君がシュージにしでかしたように短期決戦を宣言したゴンメはハンマーを肩に担ぎ直し、体勢を前かがみにして、いつでも襲い掛かれるようにした。

ゴンメは馬鹿かもしれないが間抜けではない。自身の本能と経験でカモ君を危険人物と判断した彼は最初から全力でカモ君と戦う気のようだ。

 

見下してくれれば付け入るチャンスはあったのになぁ。

 

と、カモ君も長期戦は諦めて、ミカエリから借り入れたコットンジャケットに魔力を通す。

カモ君も最初から全開だ。

 

「試合開始!」

 

審判の掛け声と同時にゴンメはカモ君に襲い掛かり、ハンマーを振り降ろしたが、その時既にカモ君はそこには居なかった。前にも後ろにも左右に移動して交わしたわけではない。三次元的な位置。五メートルはあるだろう上空へと魔法を使って逃げていた。

 

カモ君は最初から全力で逃げることを選んだのだ。

 

「…か、カモ君選手が宙に飛んだぁああああ!?」

 

レベル3の上級の風魔法の使い手でも困難である空中飛行をカモ君はお披露目することになる。

 

「ま、まさかカモ君選手、空を飛べるほどの上級魔法使いだったのかぁあああ!」

 

勿論そんなわけがない。カモ君の風魔法は未だにレベル1。初級魔法しか使えない。

ウールジャケットの効果で体重をゼロにした上で大きくジャンプ。更に軽い物を浮かべることが出来る初級魔法のフロートを自分の体に使って上空へと逃げただけだ。しかし、それをわざわざ言う必要はない。

そしてそんな状態では息を吹きかけるだけで飛んで行ってしまうので、エアジェルという簡単な風の膜を作る魔法に切り替えることでその場を漂うクラゲのようにプカプカと浮いて見せた。浮遊魔法のフロートを解除して、そこからカモ君ならもう一つ魔法を使う準備をする。

魔法使いや弓矢使いのように遠距離を攻撃できる人間でないと攻撃が届かない位置から一方的に攻撃できるというアドバンテージを作り出したカモ君。これが最初からの狙いでウールジャケットを今回の武闘大会に選んだのだ。

ゴンメの武器はハンマーだ。普通に考えると五メートルもの高さに届くハンマーなどない。投げつけるというのももっての外。武器を失くした所をカモ君が火属性の魔法を撃ち続ければ護身の札にいずれ着弾して決着がつく。

ただ、ゴンメは普通ではなかった。身体能力だけを見れば彼もまたカヒー等といった超人の部類に入った。

ゴンメは大きくジャンプした。ただそれだけでカモ君のいる上空五メートルの場所に手が届く。それだけの身体能力を有していた。

 

くそっ!やっぱり、武器は手放さないか。

 

カモ君は内心毒づいた。

ゴンメが短慮にハンマーを投げつけてくれれば、二つの魔法を同時扱えるカモ君は、今の自分にもう一つの風魔法をぶつけ回避に専念することになる。

ゴンメはカモ君に油断はしない。だから武器を手放すなんてこともしなかった。だから自分の身体能力に物を言わせて高く跳躍。自身の体重とハンマーを合わせれば総重量四百キロはあるそれをカモ君のいる高さまで運んだ。

カモ君はそれを予期していた。

自分達を最初に襲った時も同じ高さの民家の屋根に跳躍して襲ってきたのだ。出来ないはずがない。

だが、カモ君がやる事は変わらない。プカプカ浮かんだ自分にエアショット打ちこんでその空域から離脱。数瞬遅れてゴンメのハンマーが其処を通り過ぎて行った。

重力に従って大地に轟音と共に着地したゴンメは再び自分の足に力を込める。また飛び上がってくるつもりだ。

カモ君はその様子を見て、こう思った。

 

これ、詰んでね?

 

 

 

カモ君とゴンメの戦いが始まってから三分もしないうちに観客達からは「お・と・せ!お・と・せ!」というコールが鳴り響く。

空に浮かび上がったものはいいものの逃げてばかりのカモ君に見どころを感じなくなった観客は早く決着をつけて欲しいと願ったのだ。

ゴンメがこのまま短時間で決着をつけてくれれば、白騎士との決勝戦を開始するかもしれないからだ。しかも相手は威張りつくす魔法使いだ。ここで痛い目に遭って欲しいと言う非魔法使い達の声も混ざっていた。

そんな彼等にカモ君の応援に来ていたシュージは文句を言いかけたが、それを両端にいたコーテとキィに止められる。

 

「やめなさい!ここで問題起こしたらあんた、ここに居る奴等にタコ殴りにされるかもしれないわよ」

 

「それにまだ大丈夫。エミールは勝負を捨てていない」

 

ゴンメがジャンプでカモ君に襲い掛かる度に彼はピンポン玉のように空中で跳ねて回避していたが、三分もしないうちに滑らかな飛行をするようになった。心なしか最初は焦った顔を見せていたが余裕を持った不敵な笑みを浮かべていた。それが何を意味しているのかコーテにはわからない。だが、諦めていない事はわかったのでシュージを落ち着かせて席に座らせる。

そんな三人とは観戦している位置が真逆のところで、三人とは逆の心持ち。つまり、お・と・せ!コールをしている一人の豚がいた。

 

「ひはははははっ!いいぞいいぞ!そのまま奴をじわじわと追いかけませ!魔力もスタミナもあの調子ならすぐに底を尽く!そうなったらぶっ潰してしまえゴンメェエエエエエ!」

 

カモ君の実父であるギネである。彼を陥れる為に潰すためにこの武闘大会にゴンメを代理出場させたが、こんなにも早く潰す機会が来たことにギネは歓喜していた。もうすぐあのいけ好かないクソガキを叩き潰す光景が目に入る事をまだかまだかと期待しながらゴンメを声高々に応援していた。

 

「いいぞ!ゴンメ!そんなクソガキなんぞ叩き落してしまえぇええええ!」

 

本来向けるべき相手は息子だと言うのに、これが逆転するほど家族仲がこじれたのはどうしてだろうか。

どれもこれもギネがクーとルーナを大切にしなかったから。それにぶちギレたカモ君がギネをボコボコにしたせいである。しかし、ギネが普通の親の愛情を注いでいればこんな事にもならなかった。

この状況はいわば二人の歯車が完全に噛み違えた所為なのだ。そこを直せなかったのが尾を引いて今に至る。

唾を飛ばし、その肥満な体からは悪臭がする汗を飛び散らせ、たるんだ顔。唇から唾を飛ばしながら応援する姿は見ている方が気持ち悪くなりそうな光景だった。

そんなギネを見ていても仕方ないので近くにいた観客は試合へと視点を移す。カモ君は不敵な笑みを浮かべながらゴンメからの攻撃を回避するだけで未だに不敵な笑みを浮かべていたが、彼の顔から滴る汗と若干息を荒くしている様子からして長く持たないだろうと考えた。だからこそ気付かなかった。

有利に進んでいるはすのゴンメを何故だか息を荒くしながら呼吸をし始めたことに。

 

 

 

「ほう、風向きが変わったな」

 

「え?それはどういうことでしょうカヒー様」

 

解説役のカヒーは自分達の下で戦っているカモ君達を見て風向きが変わったというが、何がどう変わったかは理解出来ずにいた。

 

「これを言うと手助けになってしまうので言わないがな。このままだと面白い事が起きるぞ」

 

「なるほど。カヒー様にはまだカモ君選手に勝ち目があると思われているのですね」

 

審判のコメントにカヒーは頷いた。その上で彼はこうも思っていた。

 

既に勝ち目は出ている。が、正しいのだがな。

 

 

 

ゴンメは短絡的な思考で焦っていた。

此方がカモ君を攻撃しようとジャンプをした瞬間にカモ君は回避行動をとる。その回避行動は大げさな物から小回りが効いた物に変わっていた。

地面にいる場合は前後左右の平面的な方向に回避する。その方向だけなら自分が持っているハンマーを振るうだけで全てを叩く事が出来る。点への攻撃ではなく面への攻撃なので今まではそれでどうにかなって来た。

だからこれまで自分と戦ってきたモンスター・冒険者・魔法使いに攻撃が届いた。しかし、今回は空を飛んでいる相手だ。

平面から立体になった事で自分の線の攻撃は回避されやすくなった。だが、自分は中級冒険者。戦闘力だけなら上級冒険者だ。もうカモ君の回避パターンは読めてきた。後一分も攻撃すれば確実に仕留められると考えていた。

だが、今では体が重い。熱い。息苦しい。

十分ほどカモ君に向かって何度も攻撃している間に自分が気づかないくらい微小に。それでも徐々に体が言う事をきかなくなってきた。

まるで初めてモンスターの毒を受けたような感覚だ。しかし、自分の体は鍛えに鍛えた自慢の物だ。多少の毒など効かない。それなのにこの息苦しさは何だ。

もう一度体に力を込めて跳ぶ。だが、その行動は最初の頃に比べれば大分鈍い物だった。理由は分かっている。この息苦しさが原因だ。まるで水底に沈められて窒息するような圧迫感だ。

ここは陸上で、水など無縁な荒野を模したような試合会場。それなのにこの溺れていく感じは何だ。

ふと視線を感じた。その視線は対戦相手のカモ君。彼も息苦しそうに少し息は荒いが自分ほど苦しそうではない。まだまだ余裕がありそうな表情。まさか、この状況はお前が作り出したのか?

カモ君は応えない。だが、今の自分の身に起こっている異常事態。それを引き起こせるのは目の前のカモ君だとしか考えられなかった。

水の無い陸上で溺れそうになりながらゴンメは大きく息を吸った。

これで決める。決めなければ此方が危ない。

だが、ゴンメの体は跳ぶことが出来なかった。体が重い。熱い。呼吸をしているのに呼吸をしている気がしない。もはや手にしたハンマーすらも持ち上げることが出来なかった。

ゴンメの瞳孔がひっくり返り、口からは泡絵を噴きながら仰向けに倒れた。その手で体に必要な酸素を掴むようにじたばたともがくが彼の体に酸素が入る事はなった。

そしてその息苦しさにもがき苦しむゴンメを見た。カモ君が浮遊魔法を解いて自分のすぐ近くに舞い降りた。

そのカモ君も少し息苦しさを感じさせたが、数秒後にはこちらに向かって小さな火の魔法を放ち、こちらが胸に着けていた護身の札を燃やした。

その行動を妨げることが出来なかった。まるで寝起きの状態のように思考に靄がかかり、体が痺れたように動かないのでされるがままだった。

転送が始まる中でゴンメは思い出したようにカモ君を見た。

 

ああ、やっぱりこいつは強いな。

 

 

 

武闘大会会場はあまりの展開に静まり返っていた。

今まで攻めたてていたゴンメが急に苦しみだし、泡を吹いて倒れ、動けなくなったところでカモ君に護身の札を燃やされて倒された。

まるで、見えない手で首を絞められたかのように苦しみだしたその光景に審判を含めた観客達は呆気にとられていた。

 

「酸欠だ。ゴンメ選手はカモ君選手が作り出した風のドームの中で動き回ったために意識を保てるだけの酸素が吸えなくなって倒れ伏したのだろう」

 

「然り。風のドーム内では空気が循環されない。あれだけの動きをすれば酸素が消費され二酸化炭素が吐き出される。その濃度が徐々に濃くなり呼吸しているにもかかわらずできていない状態になり、動けなくなったのだろう」

 

カヒーとビコーの解説に審判・観客一同目の前で起こったことを説明し出した。

 

「カモ君選手が空中に浮遊した時、発動したのは恐らくフロートという風の魔法かマジックアイテムの力なのだろう。そして、ゴンメ選手の攻撃を躱していた最初の数分は二つ目の魔法を使ってその浮遊していた場所を動かしていた」

 

「浮く事に一つ。移動するに一つ。二つの魔法を同時に使っていた。この重複詠唱。ダブルキャストと呼ばれる技術で空中でも彼は自由に動けていたのであろう」

 

超人たちの解説に審判は観客を代表して質問をした。

 

「では、いつ風のドームを作ったのでしょう。まさかカモ君選手はトリプルキャストが使えるほどの魔法使いだったのですか?」

 

審判と観客達は試合会場となったフィールドで審判が勝利宣言をするまで静かに立って待っていたカモ君を眺めながら説明の続きを傾聴した。

 

「否である。ダブルキャストでも高等な技術。それを越えるトリプルキャストとなればそれに比例するように魔法のレベルもあってしかるべきだ」

 

「しかし、それを使わなかった。いや使えないのだろうな。使えるのならあのように拙い空中浮遊はしないだろう」

 

確かにカモ君は最後の火の魔法を使うまで逃げの一手だった。タコのように逃げる時は一気に逃げるがそれは直線的な物ばかりで逃げるにしては短距離過ぎた。その為、ゴンメは絶えず攻撃し続けることが出来た。

それが自分の首を絞めることになるとは思ってもいなかっただろう。

 

「おそらく隙を見て魔法を切り替えたのだろう。エアジェルという空気の膜を自身の体に纏う魔法に。ただ、それが自身ではなく自分の周囲にまで展開したのだ。少なくてもゴンメ選手のいる範囲まで広げたエアジェルを展開したのだ。エアジェルの中は少ない量ながら簡単な風の方向くらいは操作できるからな」

 

「ちなみにエアジェルは、本来酷暑な場所では涼しい風の膜を。寒冷な場所では暖かな空気の膜を張るくらいの力しかない。カモ君選手の力量ではダブルキャストという技術を使っている以上小さなつむじ風を起こすのが精一杯であろうな」

 

しかし、それだけで十分だ。カモ君はマジックアイテムのウールジャケットでほぼ体重がゼロだった為、つむじ風程度でも十分に回避行動がとれたのだから。

展開した風の膜は恐ろしく薄かった。これは我等兄弟のように風の魔法使い。これだけ遠くから観戦している上、高ランクの魔法使いでなければ気付かない程薄く広げられた風のドームだ。

恐らく、子どもが投げた石ころ一つで破けるほど繊細な膜。風の高レベルの魔法使いでなければ気付かない薄い膜。だが、中でどれだけ暴れてもその膜に影響しないのであればその効果は絶大だ。誰にも気付かれずにドームの中の酸素はどんどん減る。

どんな超人でも呼吸をすることが出来なくなれば苦しむ。戦えなくなる。

あの時、ゴンメが破れかぶれでハンマーを投げていれば、ハンマーは風の膜を突き破り、広範囲のエアジェルは崩壊。新鮮な空気を取り込むことが出来たゴンメは再び軽快な動きでカモ君を追い詰め、勝利していただろう。

だが、そうはならなかった。風の魔法使いでもないゴンメに風の膜を察知することなどできなかった。

冒険者。戦士にとって武器の損失は命の損失。武器を投げつけるという行為は確実に当てきれるという自信と確証があって行うべきことだ。それをあの時に持てるかどうか誰にもわからない事だ。

 

「では、何故。カモ君選手は酸欠にならなかったのでしょうか?同じ風のドームの中にいたのに」

 

「酸素は軽い。カモ君選手は空に飛んでいただろう。そこにはまだ少しの酸素があったのだ」

 

「逆に二酸化炭素は重い。地面にいたゴンメがいた所に大量に漂っていただろうな。ゴンメ選手が倒れた時に風のドームも解除した。だから火の魔法も使えたのだろう」

 

その上、ゴンメは激しく動いていた。それだけ動けば相応の酸素が必要になる。逆にカモ君は魔法を使って軽く移動するだけで良かったのでそこまで激しい呼吸をすることが無かったので酸欠にはならなかった。

 

「カモ君選手の魔法のレベルは低いのかもしれんな」

 

「だが、魔法使い。魔法を使うという点に関しては高レベルな物なのかもしれぬ」

 

つまり、この勝負は純粋な力ではなく、様々な効果を知っていたカモ君の勝利だということだ。と解説した後、審判と観客達はその身を震え上がらせた。

小さな力で大きなものを制する。それはまるで物語に出てくる軍師や賢者のような動きではないか。しかもゴンメのような凶悪な攻撃を仕掛けてくる相手にそれを行う度胸。そして、それを威張り散らすことなく粛々と受け止め、進んでいく姿はまるで英雄の様ではないかと。

 

「~~~っ!準決勝第二試合!勝者はカモ君選手!その頭脳とそれを行う事の出来る魔法の扱い!そして度胸に対して皆さま拍手でお答えください!」

 

審判の勝利宣言後に万雷の拍手と歓声が起こった。

そこに侮蔑や軽蔑な色はほとんど存在しない。

この一人の英雄の見せてくれた知識と技術。度胸の戦いに感動した観客達は、拍手と声援を絶え間なくカモ君に向けて行った。

そんな光景を見て、カモ君はというと。

 

あ、そういう事だったんだ。

 

ゴンメが何故もがき苦しみながら倒れた理由を知らなかったのだ。

あの時使っていたのはエアジェルという魔法を二つ。自身の体とゴンメを含めた広範囲の物。

その意図はカヒーとビコーが説明した通りだが、酸素と二酸化炭素の云々の事は頭になかった。

あの時はひたすらゴンメの攻撃を躱すことに集中していた。それこそ魔力がきれるまで足掻くつもりだった。しかし、足掻き切ったところでこちらの攻撃は届かない。下手に攻撃しても反撃でやられる。つまり、カモ君はゴンメの酸欠の事が無ければ詰みの状態だった。

しかし、そんなことはおくびに正さず、カモ君は静かに微笑みながら試合会場となったフィールドを後にするのであった。


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