鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第一話 たつな、じっとしていろ

朝での騒動の後、湯浴みと朝食を終えたカモ君。その様子を見た家主のミカエリは一言。

 

「元気になったみたいね」

 

視線をもっと上にあげんかい。

 

そう突っ込みたいカモ君だったが、コーテがすぐ傍にいるところで地の性格を見せるわけにはいかない。

支援者であり、恩人でもあるミカエリに対して地の性格で接するとコーテ経由で弟妹達に知らされるかもしれない。自分の本当の性格はがさつだから知られたくない。

そう考えるとミカエリは本当の理解者なのではないだろうか。相手の立場を理解してハラスメントしてくる相手を理解者と言っていいのだろうか?

そんな理解者?は魔法のルーペを取りだし、カモ君の状態を改めて詳しく調べ上げた。

体力・魔力共に全快。後遺症の様子もないと太鼓判を貰ったカモ君はミカエリ邸の門付近に準備された空飛ぶベッドにミカエリから渡された王都で有名な焼き菓子店のクッキーの詰め合わせ。そして、カモ君だけに直接渡された謎の粉薬。

 

(年若い男女には必要な物でしょ)

 

コーテに聞こえないに小声ですり寄って来たミカエリにオブラートに包まれたピンク色の粉薬を複数持たされたカモ君は嫌な予感がした。渡されたクッキーは包装されている缶詰から高級な物だとわかったから粉薬をすぐには返せなかった。

 

(それとなくコーテちゃんの飲み物に混ぜてね)

 

カモ君はコーテに気が付かれないように解析魔法をかけてみると詳細は媚薬。

彼はぐっと我慢した。

良い笑顔でグッドサインを出したミカエリの親指をひん曲げたくて仕方ない。

 

「エミール。何を貰ったの」

 

「媚薬」

 

「おいこら」

 

普段のクールな無表情を変えて、少しだけ怒っているような表情で詰め寄って来たコーテをどう誤魔化そうかと思案したカモ君だったが、ミカエリがさらっと持たせたお薬の内容をばらした。

ばらすのならなんで、小声で渡した。

 

「…エミール」

 

コーテが更にカモ君に詰め寄る。何考えているの?と言いたげな視線で。

カモ君も何を考えてんだとミカエリを見る。

ミカエリは言わせんなよ。と言いたげに頬を赤らめてそっぽを向いた。

ミカエリの顔にアイアンクローをかましてこっちを向くようにしたかったカモ君だったが、その前にコーテが渡された媚薬を取り上げた。

 

「使うタイミングは私が決める」

 

「お前は何を言っているんだ?」

 

コーテの言いそうにない言葉に思わず疑問を投げかけたカモ君。そんな彼に納得がいかなかったのか、コーテは取り上げた媚薬のうち一回分を彼に返した。

 

「二回目はエミールが決めていい」

 

「お前は何を言っているんだ?」

 

最近、婚約者が何を考えているか分からない。

自分を想ってくれているのはなんとなくわかるのだが、方向性とパワーがどうにも違う気がする。

空飛ぶベッドに乗せた荷物の確認も終えたカモ君とコーテはミカエリに一応、お礼を言って出立した。

空飛ぶベッドは改良されただけあって、力強さに軽さ。そして前に使った時よりも少ない魔力で飛んでいく。

高スピード故に普通なら吹き付けてくる風をしっかりとカットする結界もうまく作動している。はっきり言ってこれを作り、少ない期間で改良したミカエリは正真正銘の天才であり魔法知識の怪物だった。

それを実感しているカモ君の横ではコーテがそれとなくカモ君を支えている。

彼女には何度も支えてもらった。経済面。精神面。戦闘面。そして生活面すらも。

カモ君にとってコーテは大切な存在になっていた。彼女の頼みなら何でも聞いてあげたいそう思えるほどに心を許していた。

王都を出てから一時間程経過した。その間、無言という訳ではなく今日の天気は良かったとか、体の調子は良かったとか、ミカエリ邸で出された食事は美味しかったとか。そんな雑談もしていた。

 

「ミカエリさんって結構話しやすい人なんだね」

 

「あれを話しやすいと言っていいのか」

 

たしかにカモ君にとって一般貴族令嬢や王族に比べれば話しやすいかもしれないが、それ以上に疲れるのだが。

 

「私達の事も色々手助けしてくれるし」

 

「それは、確かに」

 

モカ領での異常事態対応から始まり、武闘大会。そして今は長期休暇の支援までやってくれた。ミカエリがいなかったら今のカモ君は無かった。だからこそミカエリにちょっかい掛けられても無下にはできない。

彼女の頼みもまたカモ君は断れないだろう。

 

「それに媚薬もくれたし。良い人だね」

 

「未成年に媚薬を盛ろうとするのが良い人と言っていいのか」

 

あの悪戯心が無ければ本当にいい女だ。しかし、悪戯心があるからカモ君の中では『ミカエリ様』じゃなくて『ミカエリ(呼び捨て)』と評しているのだ。

 

「エミール。…喉乾いていない?」

 

「この話の流れで乾いているわけないだろう」

 

ミカエリから渡された媚薬を片手にコーテはコップを取り出した。

もちろんカモ君はそれを拒否。

コーテが嫌なのではなくて、空飛ぶベッドを操作している途中で媚薬なんか飲んだら操作が出来なくなる。

そのうえ、もう王都を出ているからそこに繋がる街道はあるが一歩外れれば自然あふれる野道なのだ。狼やゴブリンといったモンスターや強盗目的の野盗が出ないとも限らない。空飛ぶベッドは高スピードだから追いつけるとも思えないが気を付けるに越したことは無い。

以上の事により媚薬は飲めません。

薬をきめての操縦。駄目、絶対。

カモ君がそう伝えるとコーテは無表情ながらもどこかドヤっている顔で答えた。

 

「大丈夫。用法と容量は守るから」

 

「時間と場所を弁えろって言ってんだよ」

 

「…エミール」

 

コーテが少しむくれた表情を見せた。

つれない返事に機嫌を悪くしたのか。と、カモ君が会話の趣旨を変えようと思案し始めた。

 

「…なんだか。…ムラムラしてきた」

 

「もう飲んだのか?!」

 

風邪でも引いたかのように体全体を赤らめ、浅い呼吸を繰り返すコーテにカモ君は思わずつっこんでしまった。

カモ君は見晴らしのいい、野原のど真ん中に空飛ぶベッドを下ろして、媚薬効果を消すためにコーテに解毒魔法をかけたが効果は無かった。

どうやらこの状態は対象者にマイナス状態を付与するデバフ効果ではなく、プラス要素を付与するバフ効果だったらしい。解毒魔法はデバフを消すものであって効果は無い。

バフを解除する魔法もレベル三以上の光もしくは闇属性の魔法だ。カモ君は習得できていない。

見ていられなくなったのでカモ君は彼女に落ち着きを取り戻すために水と風を掛け合わせた魔法をかけて、リラックス状態になってもらい、媚薬が抜けるまで寝ていてもらう事にした。

それを行ってカモ君は再びベッドを飛ばすことになった。

ベッドの上で悶える婚約者のコーテ。

 

お、出番かな?

 

お前の出番はまだだから。落ち着いてくれマイサン。

 


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