鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第五話 裸のお付き合い♂

モークスの一声により、破けた服を取り換えるからとここまでの疲れと汚れを取る為に風呂に入ってきてと言われたカモ君は風呂場へと通された。

モカ邸に唯一設置された風呂場は貴族の所有にしては少し狭い。

ワンルームほどの広さに少し深めに作った浴槽があるだけの質素な物だ。はっきり言って、ギネが自分を着飾る時に着ていたスーツとか指輪。マジックアイテムなんかを売り払い、増築したほうがましだっただろう。

そんなギネも鉱山送りになった時に身ぐるみを剥がされ、財産の大半も没収された。僅かに残った財産もローアの政策で売り払い、借金だけが残った。

そう考えると自分がいるこの風呂場も手狭に思えてくるカモ君。用意された石鹸や垢こすり。今座っている椅子の代わりにもなる桶もみすぼらしく見える。

小さくため息を零しながら頭を洗っていると、後ろから気配を感じたと同時に声が駆けられてきた。

 

「エミール君。背中を流してもいいかな?」

 

そこには裸に腰にタオルを巻いたローアが入って来た。

少し狭いが、成人男性並の男が二人くらいは余裕をもって入る事が出来る。というか、ここで断ったらどうするつもりだったのだろう。まあ、断らないけど。

 

「よろしくお願いします」

 

カモ君の後ろに回ってカモ君の背中を洗うローアはその背中の広さに驚いていた。

自分も魔法以外にも剣や槍、弓を使ったりしているので一般人よりは体が鍛えられているが、カモ君の背中はそれ以上に鍛えられていた。

毎日体を鍛える事を止めず、魔力を練り上げることを怠けない。

その雰囲気から自分よりも格上と思わせるカモ君にローアは言葉を投げかけた。

それは彼の妹。コーテへの接し方だった。

これまで彼女に対しては何の不自由も無く愛情を持って接してきたつもりだが、彼女は無表情であることが多く、我が儘も滅多に言う事は無かった。

しかし、先程の悶着。ルーナとカモ君を取り合いに見せた表情を見てローアは自分の不甲斐なさを感じていた。

 

「あんなに我儘を言うのは初めて見た。表情もああまではっきりと変化させた事も」

 

コーテさん。無表情でいろいろやらかすからな。クールな表情で何考えているんだか。

…何だろう。お前が言うなって誰かのゴーストがささやいた気がする。

 

「君みたい人がコーテをあそこまで変えてくれたんだね。一体どんな事をしたんだい?」

 

「なにって」

 

カモ君は魔法学園に入学してからの事を思い出していた。

 

入学早々に決闘騒ぎにコーテを巻き込み、

ドラゴン騒動では彼女を心配させ、

校内アルバイトのダンジョン攻略の時は介抱してもらい、

モカ領ダンジョン発生時にはアイテムをねだり、

武闘大会ではミカエリとの関係を疑われ、ギネの復讐で死に掛けたことを凄く心配された。

 

…コーテには迷惑と心配しかかけていないんじゃないか?

 

いや、確かにカモ君も空いた時間にはコーテと王都でのデートやお茶をしていた。

だが、どう考えてもマイナス要因の方が原因と思われるほど濃い要因に考えられるのだ。

コーテは駄目男に関わると変化する。いや、女でなくても変化するだろう。大抵はそいつから離れて行くか、カモ君の母。レナのように言いなりになる事に甘んじるかだ。

カモ君はギネという反面教師を知っているからそうならないようにと頑張って来たが、実は自分もベクトルが違うだけのダメ人間なのではないかと自己嫌悪をしそうになった。

 

…お、王族からお仕事貰っている。ある程度社会的地位もある程度補償もされているからでぇじょぶだ。これから挽回できる。

そのお仕事も命の危険があるが、成功すればいいだけだから。

 

まるでギャンブル中毒者の言い訳にしか聞こえない自己弁護に気が付かないカモ君だが、そんなアホな事はカモ君のクールフェイスからは分からない。

 

「コーテには世話になりっぱなしですよ。きっとこれからも。好意を持つ相手に当たり前のことをやっただけです」

 

世話になりっぱなし。本当。

当たり前のことをやった。最低限。

 

この二つの事を改めて直視したカモ君は死にたくなってきた。どれだけコーテの手を焼かせればいいのだと。

 

「君は…。本当に強い人間だ。君にならコーテを任せられる」

 

カモ君の内情を知っていたら正気を疑われる言葉を投げかけるローアにカモ君は苦笑で返す。

 

いや、もう本当にすいません。迷惑ばかりかけてしまって。事が済んだら一生をかけて恩返ししますから。

 

ローアがカモ君の背中を洗い終えた後は、お返しにローアの背中をカモ君が洗う事を願い出た。それに快く応じたローアはカモ君に背中を向けて素直に背中を洗われていた。

コーテを想いあう男が二人。そこに言葉は生まれなかったが、確かな意思のやりとりはあった。誤解が半分含まれているが。

そんな二人のやりとりの最中に風呂場に繋がる扉の向こうから何やら言いあう女子の声が聞こえてきた。

 

「にぃにの体は私が洗うのっ」

 

「エミールの背中を流すのは妻の私の役目。彼の泡にまみれていいのは彼の妻か危機的状況を共にした戦友だけ」

 

え?結構な数の人が該当するんですが?

 

カモ君はダンジョン攻略やモカ領の治安維持のための見回りをやって来た。そのため、多くの冒険者や衛兵達とかかわりがある。

 

…彼等となら泡にまみれていいのか。コーテさんは許容範囲が広いなぁ。なんて言うかっ、馬鹿っ。大半が男やぞ!

 

「にぃには私のにぃにだもんっ」

 

「許容範囲の狭い女は嫌われるよ、ルーナ。エミールみたいな人ならいろんな人からもモテモテ。だからこそ余裕をもって接しないと駄目」

 

…誰がこんな風にコーテを変えた?

 

そんなカモ君とローアの問いに、王都にいるどこかの侯爵令嬢がくしゃみをした。

彼女は日本にあるサブカルチャーに似た創作物の本をたくさん所有している。そこから突出した内容の物をコーテに見せたことがある過去を持つ。

 

そのやりとりの声にモークスが加わって来た。

カモ君はお疲れで、領主代理と裸の付き合いをしているのでお下がりくださいと言いながら彼女達を連れて行った。

 

「裸の突き合い?!冗談だったのに…」

 

そんな言葉を零したコーテにモークスは苦言を入れながら、そのような物を読むことはお勧めしませんと注意しながらコーテとルーナを連れて遠ざかって行った。

三人の気配が完全になくなったところでローアはカモ君に言う。

 

「私にはハント領に残した身重の妻が」

 

「俺にあのような趣味はありません」

 

彼の言葉を遮るようにカモ君は喋った。

俺にもそんな趣味は無いよっ!まだね!という心情を込めて。

しかし、その心情から可能性はある事が無自覚なカモ君に本人含めて気が付く者はいなかった。

 

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