鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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カモどん、コメ100%
序章 モカ邸。思えば遠くに来たものだ


魔法学園二学期が始まって一ヶ月が過ぎようとしていた頃。

シュージは友人のカモ君が未だに登校しない事に不安を覚えていた。

武闘大会が終わって数日の間、魔法学園で短期のダンジョン攻略のアルバイトをこなしたシュージはその事をカモ君に話したかった。

そのダンジョンは比較的に浅く、初等部一年生である自分やキィでも参加できるダンジョン攻略だったが、そこでシュージは魔法金属ミスリルで出来た短剣を入手した。キィは銅の手鏡といったあまり価値のないアイテムだった。

その短剣は護身用として隠すように腰に装着している。これをカモ君に見せて自分の冒険譚を話そうと思っていた。

だが、それでもカモ君は戻ってこない。何かあったのか?あの武闘大会の傷が悪化したのか?それとも領主であるギネとまた何かあったのか?不安が尽きない。

キィもカモ君が登校してこないに心配していた。彼女の場合、カモ君の持つアイテムと彼がもたらす経験値が手に入らなくなるのではという心配だが。

 

「ねぇ、聞きました?あのカモ領?の戦士崩れの魔法使いが戻って来たらしいわよ」

 

「聞いた。聞いた。何でも今は職員室にいるんでしょ。ダンジョン発生にお家騒動。それで大怪我して休んでいたんでしょ」

 

「回復魔法もポーションもあるのに今まで休んでいたって、どれだけの怪我をしたんだよ」

 

「病気だったんじゃない。なんでも彼。彼の婚約者もそうだけど、あちこちのダンジョンに何度も目撃されているっていうじゃない。怖いわぁ」

 

シュージの思惑に応えるように、昼休みの教室でカモ君の話をしている貴族の男女グループを彼は発見した。

彼等とははっきり言って折り合いは悪い。

平民だから。貴族だからとないがしろにされることが多い。何も彼等だけではない。この魔法学園の半分以上の生徒はそのような態度を取る。

シュージやカモ君の決闘を観戦した者。共にダンジョン攻略のアルバイトに出た生徒達ならそのような態度はとらない。つまりシュージ達の事を良く知らない輩の印象は悪かった。

そんな彼等に詳しく話を尋ねようとしたが、躊躇いが出た。

普段は真っ直ぐな性格をしているシュージだが、ここで大きく出れば彼等からの印象をまた悪くしてしまうのではという予感があったために、足が止まる。が、止めない人間もいた。

 

「ちょっとっ。カモ君。じゃなかった。モカ子爵の事を話していたわよねっ。そうよねっ」

 

幼馴染のキィである。

ついアルバイトと評したダンジョン攻略で懐が温かくなっていた彼女は、昼食にデザートをつけたいがカモ君がいなくなったとなれば、それがこの先出来なくなってしまう焦りがあった。

そして、焦りがある人間に躊躇いは無い。

キィはカモ君の情報を聞き出そうとシュージの横を通り過ぎて貴族グループに詰め寄る。

 

「な、なんだ。平民のくせに馴れ馴れしく話しかけるな」

 

「あ、そう。じゃあ自分の目で確かめに行くわ。行くわよ、シュージ」

 

話すつもりが無いとわかるとすぐにキィは彼等から離れ、シュージの手を引いて教室を出る。行先は職員室だ。

キィは我儘な性格だ。自分に利になる事には積極的に。害になる物なら排他的になる。

あの貴族グループにどう思われようと、所詮モブだし、得もしないのなら関係ない。

だが、その行動はシュージから見れば魅力的に映っていた。

自分がやりたい事に真っ直ぐなキィの背中に動かされたことが沢山あるシュージはキィに連れられて職員室に着くころには表情は緩んでいた。

 

「では、午後から授業に戻ります」

 

「失礼しました」

 

職員室の扉から見知った人が見えた。彼女はカモ君と一緒に休暇延長していたコーテ。そして、彼女の後に続いて職員室から出てきた大柄の人物。キィとシュージが安否を確かめたかった人物。カモ君の姿を見つけた。

彼に声をかけようとした二人だが、カモ君の風体に出かかった声が詰まった。

まず、カモ君の顔。左目を中心に酷い火傷の跡があり、そこから明らかに普通じゃない何かがあったことを思わせる雰囲気があった。

そして彼の体の右側。そこにあったはずの右手は無かった。

いつもは筋肉で厚みを帯びている長袖の制服。それが彼の右肘から先は千切れたかのように揺らめいていた。

 

「…え、エミール。その顔。腕は」

 

あのマイペースなキィですら声をかける事を躊躇うほど、カモ君の風体は変化していた。

あの武闘大会の後、何があったのか聞かずにはいられない。ただ事ではない事が起きたのは間違いない。

 

「…シュージか。どうだ、男前になっただろ?」

 

カモ君はシュージに冗談を言い放ちながらも、その表情からは哀愁の色を隠せないでいた。

彼にとって、これまでの人生最大の騒動が起こったのだから。

 


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