鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第六話 これなんてエロゲ?

ミカエリ邸で一泊したカモ君達。睡眠時間六時間きっかりに叩き起こされた二人はここで働く従者達と共に訓練を始める。

ここで働く従者は五十人以上。四交代制で奉仕。訓練。休憩を複雑かつランダムでその日程を過ごすことで、外部からの侵入に備えている。

そんな鍛錬の時間に叩き起こされたカモ君は複数の執事やメイドと共に準備運動としてミカエリ邸に設けられた運動場でランニングをすることになった。

燕尾服やメイド服のままでかなりのハイペースで走る彼等において行かれないようにカモ君も走っていた。カモ君も同様に燕尾服を着せられて、走っていた。

片腕を失ってから初めてのランニングにバランスを崩しかけたが、これまでの訓練で鍛えてきたバランス感覚で走り抜く。

ランニングが終わり、次は魔法の詠唱をしながらのストレッチを開始する。

中には魔法が使えない従者もいたが彼等は代わりと言わんばかりに何やらたくさん書かれたメモ帳を片手に見ながらストレッチを行っていた。

カモ君はストレッチしながらも彼等のメモ帳をちらりと覗き見た。

 

エミール君専用昼食

彼が疲れ切って集中力が切れている状態で出す食事。

 

ピンクブレッド(媚薬効果り)。

ラブラビットキャロット(媚薬効果あり)とボーキパンプキン(媚薬効果あり)のサラダ。長さ三十センチ以上の山芋のドレッシング添え(媚薬効果あり)

ピンクパール(食用・媚薬効果あり)の粉を混ぜたピンクヒラメ(媚薬効果あり)のソテー。

プリプリプリン(媚薬こ

 

カモ君が覗けたメモの内容はそこまでだった。

 

媚薬の文字が多すぎて逆に安心。

・・・するわけねぇえだろっ!馬鹿かっ!あんな物をばかりを食べ過ぎたら破裂しちまうよっ!ナニが!

 

カモ君の視線に気が付いた執事がメモ帳を閉じながら、良い笑顔で見なかった事にしてくださいと言って、運動場から従者の寝泊まりする待機室。とは言ってもマンションくらい広さと高さを有した建物に戻っていく。

 

なんだそのウインクは!分かっていますからみたいな理解者目線は!

こちとらクールを装って何も見なかった態度をしているが、ムカつく。

 

決してそんな事を顔には出さずカモ君は傍で同じようにストレッチしていたメイドさんの一人から飲み物を貰い、それを一気に苛立ちと共に飲み干した。

 

なんだ、コーテとようやく分かり合えたことをからかっているのか、それともミカエリのふざけた要求を呑ませるためにわざと見せたのか?!

…あり得る。何せ、ここの従者達は下手な兵士よりも強いし、主人に対しては気が利く。

まだ十五にも満たないこちらを手の平で転がすなんて楽勝だろう。

こっちは割と危機的状態なのになんでこうもお気楽な行動がとれるのか、不思議を通り越して陰茎が苛立つ。じゃなかった、神経が苛立つ。いや、陰茎が…。

 

カモ君は自分の異常事態にようやく気が付き、メイドが再度渡してくる飲み物に鑑定魔法をかけた。

 

意味深スポーツドリンク:媚薬効果あり

 

やられた!

さっそくブッこんできやがった。もう油断の隙も見せられない。

 

カモ君は思わず内またかつ腰を引いた体勢になりながらこの媚薬の打ち消すために徐々に冷静さを取り戻す魔法を使う。

カモ君のレベルでは興奮を一気に解消する魔法は修得していない。子守唄の様にじわじわと効くような魔法しか使えない。そして、そんな物を渡してきたメイドから距離を取るようにじりじりと後ろに下がった。

渡してきたメイドも一般人よりも器量よしの女性だ。

ミカエリは沢山のサンプル(子ども)が欲しいと言っていた。まさか、自分に彼女達を当てつけて作り出そうなんて考えているのではなかろうか。

 

そんなカモ君の不安をよそに残っていたメイド・執事達も待機室へと戻って行った。

その様子に拍子抜けしたカモ君だが、もう油断はしないと気合を入れ直す。

少なくても状態異常が治るまでは、誰も近づけないように周囲に気を配る。すると、そこに良い笑顔でやってくるミカエリと数人のメイド。そして何故かメイド服に着替えさせられているコーテがやって来た。

 

嫌な予感しかしない。もう油断はしねえよ。

 

そう及び腰になって身構えるカモ君。

そんな彼を嘲笑うかのように話しかけてきたのはミカエリだった。

 

「エミール君。…油断大敵よ。ここはもうモカ領じゃないんだから」

 

「助けを求めた側だから何とも言えんが、応じた側がセクハラを仕掛けてくるとか思わないだろう。普通」

 

「エミール君。…私の事を普通の人間だと思っていたの?だとしたら敗因はそこよ」

 

畜生め、何も言い返せねぇ。

ミカエリの世話になるようになってから彼女のセクハラ行動は何度も目にしてきたではないか。確かにお前は普通じゃねぇ!

 

カモ君が何も言い返せなかった事に満足したのか、今度はメイド服のコーテを見せつけるように自身の前に押し出す。その時、コーテには珍しく小さな悲鳴のような声を出した。

 

「コーテちゃん可愛いでしょ。私の新作アイテムを着せてみたけど、やっぱり似合うわぁ」

 

確かにコーテのような美少女に似合うメイド服だ。

コーテの空色の髪と白のカチューシャがまるで空に浮かぶ雲ように似合っている上に、白と黒というロングスカートタイプ。スタンダードなメイド服だが、コーテはこの運動場に来る前から耳まで赤くして俯いていた。

こんな事で恥ずかしがる女の子だっただろうか?こちらを隙あらば押し倒してくる気概を持った少女がこれだけで恥ずかしい思いをするだろうか?

それにさっきから一言もしゃべらない。もしや、こちらの感想待ちか?ここまで近づいてようやく息が荒い事にも気が付いた。

 

「コーテ、似合っているけど。大丈夫か。体調を崩したのか?」

 

まさか、先日のオークネックレスの影響がまだ残っていたかとカモ君は不安に思いながら膝を地面につけて彼女と視線を合わせる。

コーテの顔はずっと赤いままだ。もしや熱病でも患ったかと思い、彼女の手を取る。

 

「ひゃっ」

 

そう小さく悲鳴を上げて一歩後退したコーテを見て、カモ君はますます不安が募る。この状況を見て面白そうにしているミカエリが関係していると思い、彼女に再度声をかけてみた。

 

「コーテに何をしたんですか?」

 

「彼女にも訓練をしてもらおうと思ってね。どんな時も集中力を切らさないように」

 

切らさないように?

 

「常に微振動する下着をつけさせているわ」

 

「人の婚約者になにしてくれてんの?!」

 

良く見ればコーテの体は時々電流が走ったかのようにビクついていた。

微振動に耐えきれずビクついているのだ。

 

「その上、魔力を通すことによって『メイド服を着ているように見える』機能も付けているから。魔力を少しでも切らせば、彼女は微振動している下着だけをつけたままの状態になるわよ」

 

「あんたマジで何を考えているの?!」

 

ミカエリ曰く、常に魔力を流し込むことで魔力総量を増やす瞑想効果。今のような緊急事態でも魔力を練り続ける訓練。そしてそれらを持続するための下着姿を披露するかもしれない危機感を煽る事でコーテの魔力と精神力を鍛えるそうだ。

貴族令嬢は滅多に肌を露出することは無い。熱い時期は川や海で水着姿になる事もあるが、それでも親しい人間の前のみだ。

そしてカモ君は常に思考を切らさないように、危機感を持って物事に当たるように隙あらば、媚薬を盛るように従者達に言いつけているらしい。

この特訓を無事に成功出来れば良し。失敗したとしても二人を『条件を満たさないと出られない部屋』に押し込んでラブをクラフトしてもらおうと言う腹積もりらしい。

 

いやいや、未成年を欲情させる危険がある訓練ってどうなの。

それに任務も控えているからラブはクラフト出来ても子供作れないぞ。避妊魔法使うからな。

 

カモ君はミカエリの容赦のなさに畏怖を感じていた。

確かにこれは効果的だ。自分達の強化とミカエリの趣味が同時に消化できる訓練だろう。

納得はしないけどな!

そのようなやりとりの間にコーテのメイド服が時折透けるように見えたことで、カモ君はコーテを刺激しないように応援した。

 

「が、頑張れコーテッ。せめて女性更衣室に行くまでは耐えてくれ!」

 

「二人きりに慣れる部屋も用意しているけど」

 

お黙り!

 

カモ君は声には出さずともミカエリを軽く睨む。

そんな二人の間に小さな声が上がる。

現在進行形で辱めを受けているコーテである。

 

「だ、大丈夫だから。私もつ、強くなるから」

 

目には涙を溜め、顔は全体的に真っ赤、口元は震えているコーテの表情を見たカモ君。

 

…これってなんかNTRみたいだな。

 

なんて不埒な事を思い浮かべたがすぐに頭を振ってコーテを応援する。

もうすっかりスポーツドリンクの効果を取り除いたカモ君はコーテの手を取って出来るだけ刺激しないように女性更衣室まで連れて行こうと思った。

 

「あっ」

 

その手が触れた瞬間にコーテが何かエロい感じの声を上げた。

その瞬間、落ち着きを取り戻したはずのカモ君のナニかが再びもたげようとした。

 

「ふんっ!」

 

カモ君は器用に自分の右足の踵で自分の股間を蹴り上げた。

激痛が奔るが、ここで自制しなければミカエリの思うつぼだ。

やらせはせんっ!ヤらせはせんぞ!

自分の股間を蹴り上げた激痛で落ち着きを再び取り戻したカモ君。本来な顔が歪んでもおかしくないその痛みをポーカーフェイスで無理矢理隠し通す。

忘れがちだがカモ君はカッコいい兄貴を自称しているのだ。

カッコいい兄貴はこんな策略で欲情したりしないのだ。

時折体を震えさせ、下を向いたままのコーテの手を取り、メイド達に案内され女性更衣室の前まで連れて行くカモ君を見て、ミカエリは思った。

 

別にエミール君が連れて行くことはないわよね。

 

むしろ彼が連れて行く方がまずい気がしたが、訓練の成果は上がるので黙って、しかし、口元はニヤニヤしながら見送ったミカエリであった。

 

 

 

信じられるか、これまだ、朝飯前なんだぜ?

 


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