鴨が鍋に入ってやって来た   作:さわZ

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第七話 マスク・ド・カモ

コーテを女性更衣室まで連れて行った後は、カモ君は男性更衣室に出向いて、汗を吸った燕尾服を脱ぎ、シャワーを浴びて、ラフな体操服に着替えた。

着替えたカモ君を待っていた執事達は従者専用の食堂に連れて行かれ、そこで食事をとるようにした。

 

カモ君はこの食事にも何か盛られているのではないかと思い、魔法で調べるとビンゴ。盛られていないパンとサラダ。スープを選び取ってようやく朝食にありついた。

ちなみに盛られた食事は責任もって、これから休日。主に合コンにいく執事とメイドが食べていきました。

 

カモ君が朝食を終える頃にコーテもやって来た。

彼女もいかがわしいメイド服から動きやすい庶民の服に着替えていた。

朝にあった顔の赤みも収まっているが、まだ少し赤い。

どうやら、先程の痴態を引きずっているのだろう。カモ君から離れた所。カモ君からは見えない所に座って黙々と食事をとっていた。

そんな彼女を想って早めに食堂を出る事にしたカモ君。叶う事ならセクハラ抜きでの訓練を課してほしいと願うのだった。

 

「じゃあ、次は水着姿でこの中に入ってね」

 

カモ君達が食事をとっている間に運動場に用意されたのはグツグツと煮えたぎるお湯が入った真っ黒なバスタブだった。そのすぐ近くで何故かジャージ姿のミカエリと従者達がいた。

エロの次はお笑いだった。

 

押すなよ、絶対押すなよ。

 

と、目の前に用意されたバスタブを見たカモ君が内心怯えているとミカエリが風の魔法を使いカモ君を空中に強制連行。そのまま、バスタブの真上に運ぶ。

 

「水の魔法で幕を張って耐えるの。このバスタブはいろいろな魔力を帯びた鉱石で作っているから色んな魔力の波動も感じられるはずよ。魔力の波動を感知しながら魔法も使う。私が笑える訓練よ」

 

もう言い繕う事もしなくなったミカエリにカモ君とコーテは光の灯っていない瞳で彼女を見た。

確かに魔法を撃ちあう戦況に陥れば相手の魔法の波動を感知出来たら対応できるし、自分の魔法使いながらそれが出来たら大分有利に立ち回れるだろう。

ミカエリのおふざけにはちゃんと利があるから文句が言えない。

 

「じゃあ、カウント行くわよ。1、0!」

 

「はやっ、あっづうううああああああああっ!!」

 

ミカエリ。まさかの一秒カウントでボッシュート。カモ君のクイックキャスト(笑)を発動させるまもなく、熱湯の中に落とされた彼はバスタブの中でしばらく暴れてからバスタブが這い出る。それとなくバスタブの横に用意された冷えた水の入った桶を頭からかぶって熱を逃がすのに必死だった。

クールぶっているカモ君だが、このような状況ではそう言ってはいられない。というか、このような拷問にそんな余裕もない。

そんな彼を見て、コーテもカモ君に魔法で作り出した水を浴びせていた。が、ミカエリはそこに容赦なく突っ込んでいく。

 

「ほらほら、今度はコーテちゃんの番よ。はやくしないと熱湯の代わりに激熱ホットローションにするわよ」

 

訓練とは厳しいものだ。鍛錬とは痛みを伴うものだ。泣き言は言っていられないのだ。

それでもコーテが魔法で自分の体に水の膜を展開する猶予を与えたミカエリにも幼女をいたぶらない良心はあったらしい。

放り込まれた熱湯の中はもちろん熱いが、水の膜でカモ君程熱がらずにすんだコーテ。しかし、熱気と湯気のむさくるしさを覚えながら、このバスタブに使用された魔法の鉱石。その波動の種類と数を数えるように言われたコーテにそんな余裕は無かった。

少しでも気を散らせば熱湯で体を焼かれる。しかし、数えきれなければずっとお湯の中らしい。

これまでにない集中力を要する特訓にコーテは十分ほど耐えたが、それ以上はかなわずギブアップしてバスタブから這い出た。

 

「じゃあ、次はエミール君ね。はいどーん」

 

「知っていた」

 

コーテが這い出て数秒もしないうちにバスタブに放り込まれたカモ君。しかし、それを予想していたので今回は余裕をもってお湯の中に放り込まれる。

カモ君はコーテと違って常に集中力を散らしている。よく言えば分割して生活している。ブラコンでシスコンな意識とそれを隠すための思考を常にしている。

水の膜の展開と魔力の波動の探知くらいは余裕をもって出来た。

ミカエリは少し意外そうに。コーテは悔しそうにそれを見守っていた。

 

「意外だわ。すぐにこれが達成されるなんて」

 

ふふん。もっと褒めてもいいんだよ。

 

カモ君は内心、鼻高々だった。

 

「やっぱりすごいわね。四天の鎧の宝玉。その欠片でもこれだけ利用できるんだから」

 

おい、それは重要な物だって昨晩話したよな。

 

カモ君は馬鹿を見るような目でミカエリを見た。

しかし、それを無視してミカエリは執事とメイドにこれからの特訓メニューを伝えて、自分は王族が住まう王宮に向かうといって、その場を離れて行った。

その際の特訓メニューを聞いたが、

 

迫りくる巨大な鉄球を受け止める。

回り続けるベルトコンベアーの上を走り続ける。

有刺鉄線で囲まれたリングで従者達との百人組手。

などなど。

 

ミカエリは自分を虎仮面にでもしたいのだろうか?

まさか、やらないよね?と、カモ君が視線で訴えると、残された従者達は優しい笑顔でこう言った。

 

昼食をとるまでやりませんよ。と、

 

ご飯を食べたらやるんですね。わかります。

 


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