取りあえず、どうぞ!
「いや、だから!なんで空きがあるのに受注しちゃいけないんだよ!」
「何回いわせんだよガキンチョ!もう一人先客が居るんだっていってんだろ!」
「いねぇじゃん!」
「後から来んだよ!」
そこには、黒い髪に深い蒼色の目を持ち、全身にレザーシリーズ一式を身にまとい背中には太刀、その名も【骨】を背負う少年ティオがいた、ちなみに彼がふざけてこんな武器を持っているわけではない、【骨】はれっきとした武器である。
そして、もう一人の男はクックSシリーズを手足にだけ装着し背中には、なにやら珍しい素材で作られた黒い太刀を携えていた。
この如何にもな素人と玄人な二人が真っ向から言い争いをしており、それをなだめようとしていた青い衣装のギルドガール、ドリスはギルドの入り口にいた人影を見つけた。
「おぉ!良いところに!レイちゃーん!」
ティオがドリスが向いていた方向に目を向けると、そこには呆れてものも言えないといった風の見慣れた目つきが自分を刺している。
「おい、お連れさんが迎えに来てくれたみたいだぜ、サッサと帰んな」
クック男は、手をヒラヒラとさせながら向こうへ行けの合図を送る。
「はっ、関係ないね!オレはこの素材ツアーを受注するんだよ!」
「しなくていいわよ」
そこにはいつの間に接近したのか、ティオの受注用紙を取り上げたレイがいた。
「ウチのが迷惑かけたみたいで申し訳ありません…家に帰ったらキツく言いつけときますから」
「物わかりの良いお嬢さんだな、お前、ちっとはこの嬢ちゃん見習うこったな」
「レイ!それを返せって!今から素材ツアーに行かなきゃならないんだって!」
「受付の姉ちゃんもいってんだろ、定員オーバーだって」
「それはあんたの居もしない先客とやらだろって!」
「バーカ、もう来たよ…ほれ」
男がアゴでティオの後ろ側を指さす、それに釣られて振り向くと、開いてるのか開いてないのかよく分からない細い目の女性が立っていた。
クック男とは色違いの装備と同じ防具の付け方を見れば、その女性が男の同伴者なことは一目瞭然だった。
「ま、そういうこった諦めなガキンチョ」
男は勝ち誇ったようにしたり顔を向けてきた、実に不愉快である。
「ほれクルシュ、お前の用紙だ、最後の一名だったんだぜ」
「あ~それで言い争ってたってことね、キミお名前は?」
「え、ティオだけど…」
クルシュと呼ばれた女ハンターは、そっか~とだけいいながら用紙を書き終え、カウンターにいる受付嬢ドリスに提出した。
「はい、じゃあ承りまし…あれ?」
その用紙には、クック男の名前とティオの名前が記載されていた。
「じゃあねそういうことだからワタシはこの子に村を案内してもらうんで~、二人は、素材ツアーにいってらっしゃ~い!」
女ハンタークルシュはレイの腕を取りギルドの出入り口へと向かっていった。
「え?」
理解が追いつかないティオ。
「え?」
困惑するレイ。
「え?」
唖然とするクック男
三者三様の困惑した声は、ギルドの喧噪に溶けて消えていったのだった…。
◇ ◇ ◇
ハンター達を狩り場へ送る荷台は重い空気をまとっていた。
その原因は荷台の席に座る2人のハンターである。
片方は新米丸出しの少年ティオ、もう一方はクックSシリーズを手足と腰だけに装備したクック男、2人が互いに敵意を向けながら黙っているものだから、周りにいたハンター達も押し黙ってしまっていた。
車輪が小石を噛む音だけが木霊する荷台の中、長い沈黙を破ったのはティオであった。
「なあ、アンタどうして素材ツアーなんかに着いてきたんだ?見た感じ金に困ってるようには見えないけど」
「アンタじゃねえ、レダンだ“レダン・エスカノーラ”わかったかガキ」
「ガキじゃねえ、ティオだ」
「そうか」
またしても、沈黙が始まるのか、周りに座るハンター達が辟易としたとき、荷台が止まる。
「皆さん、着きましたよ~」
やっとか、ひやひやした、サッサと始めちまおう、重苦しい雰囲気から解放された彼らは我先にと荷台を下りる。
ティオもそれに続けとかけだした瞬間、ものすごい力で荷台に引き戻された。
レダン、そう名乗った男が、ティオの首筋を掴み後ろに思いっきり引っ張ったのである。
「いってぇ…おい!なにしやがる!!」
「お前こそなにやってんだ?」
「は?なにって狩り場に出ようとしてんじゃん?」
「そんな実力でか?自分から死にに行くようなもんだぜ」
「おいおい、アンタに俺の実力が判るってのか?」
「そりゃ全部はわかんねえさ、けどランポス程度に苦戦して死にかけてるって事ぐらいはわかる」
「え!?」
正直驚いた、この男は会って間もない自分の実力を見抜き、なにに手間取っているかまでも明確に言い当ててしまった。
「は、はん…はったりだね、そりゃ一番出会う確率が高いモンスターをいえば当たるだろうぜ」
「そのレザーシリーズ、肉食獣の素材は一切使われてない、皆が最初に使う防具だ」
「?」
「その手の防具はある程度モンスターが狩れれば真っ先におさらばするんだ、なのにお前のその防具の使い込みようはなんだ?ただの愛着じゃねえ修繕を繰り返したものだ」
ティオが大人しく聞いているのが楽しくなったのか、レダンはそれにだ、と言葉を続ける。
「その直し方は、地面や岩で擦れたものじゃない、鋭利な爪で割かれたもんだ、それも傷の深さからしてほぼ同一の個体で全身を囲むような傷の付き方、そこまで来ればどんなアホでもわかるってもんだ」
「だ、だとしても!それはアンタには関係ないことだろうが!」
この男のいったことは正しくその通りだった、それでもティオは何か反論してやらねば気が済まなかった、その結果自分の実力を晒そうと食い下がるしかなかった。
「関係大ありだアホ…、思い出してみろあの依頼書にどういう風に名前が書いてあったよ」
「…俺とアンタの名前」
「そうだ、オレらはペアだ、もし仮にお前がのこのこ狩り場に出て死んでみろ、死亡報告書は誰が書く?そんな、面倒なことをなんでオレがやらなきゃならないんだ」
「……アンタの言い分は、実力が無いから狩り場に出るなってことだよな?なら先に行った連中は良いのかよ、あいつらだって俺とほぼ変わんねえだろ」
「はぁ~……」
レダンは乱雑に頭を掻き床に溜息を吐く、まるで判ってないなこいつは、とでも言いたげな露骨なリアクションはティオを余計に苛立たせる。
「お前さんにいっても仕方ないけどな、荷台に乗ってたハンターのウチ一人は結構な実力者だぞ、恐らく残りはそいつの弟子かなんかだろうぜ」
---お前、全然周りが見えてないな
ティオは完全に口を閉じてしまう。
自分の実力のなさを見抜かれた上に、焦りから来る視野の狭まり方、これではまたいつも通りクエストに失敗してしまう、レダンのいった言葉が深く心に刺さる。
沈黙していたからだろうか?
ふと、風に乗ってある声がティオの耳に入る。
「悲鳴?」
確証はない、ただ微かにモンスターの声とは違う震える声が聞こえた気がした。
バカだと罵られるだろう、勘違いに終わるかも知れない、けれどもこのティオという少年はそういったことを見過ごすことが出来ない人間なのだ。
◇ ◇ ◇
時間は少し戻って、ココット村。
ここに、二人の女性がいる。
一人は、幼いながらも整った顔立ちの少女レイ。
もう一人は、クックU装備の女性ハンター、クルシュ。
彼女たちを見て親子と勘違いする人も居るかも知れない、もちろん容姿ではなくクルシュとレイの距離感が妙に近いからである。
というか、一方的にクルシュがグイグイ詰め寄っている。
「あの~」
「ん~?どうしたの?」
クルシュの両手には、ココットライスをパン代わりにしたホットドッグやサシミウオの串焼きその他いろいろな食べ物が握られており、同じものがレイにも握られていた。
ティオとレダンがクエストに向かった後、クルシュはレイに村の案内を頼んでいて、代金代わりにお店の商品を手渡していったのだ。
「クルシュさんのお連れの方って、旦那様か何かでしょうか?」
「ええそうよ、レダンは私の夫!あ、敬語じゃなくてもいいよ?さん付けもね?」
「まぁ、そこは追々ということで…」
レイは、この女ハンターに訪ねたいことがあった。
「どうして、旦那様とティオをクエストに同行させたんでしょうか?」
「…レダンのこと不安?」
「いえ、そこは別に、素人の私が見ても判るぐらいお二人が強いことは理解出来ます」
そう、この人とあの男の人は強い、村に駐在するハンターやここを訪ねてくる街のハンター達と見比べても頭何個分も飛び抜けている。
問題なのはそこではなく。
「私がいえた義理でもありませんが、ティオは弱いです」
「ティオがクエストの足を引っ張っちゃうのは、目に見えてます、もしティオが何かをやらかして相方さんに何かあったとき、私は責任を負いかねます……」
「大丈夫だいじょーぶ!レダンは一人新人が増えたからってヘマするような人じゃないから!」
まるで、疑うことなく夫のことを信じるクルシュにレイは少し面食らった。
「信用してるんですね」
「まーね!こんな仕事だもんパートナーは第一に信頼しなくっちゃ!……レイちゃんはティオ君のことあんまり信じてないの?」
「いえ、私が気になるのは強さ云々じゃなくて、ティオの性格面といいますか」
「?」
それは、今よりもっと前、二人がこの村に住み始めた頃、ティオはツアーや採取クエストで小銭を稼ぎ、レイはお店の手伝いやティオが集めてきた素材などを売って生活費を稼いでいた。
ティオがいつものように採取に向かった後、普通は3日ほどすれば帰ってくるはずが、5日経っても帰ってこず、7日目にしてようやく帰還した、左腕の骨折と左肋骨にヒビ、その他打撲と擦り傷をお土産に。
彼は命からがら帰って来たのだ、しかもその逃げ切った相手というのが、空の王者〈リオレウス〉である。
「言い方が悪くなっちゃうけど、命があっただけでもすごいよティオ君」
「ええ、本当に…」
しかし、レイが不安を覚えたのはそこではなく。
「ティオはいったんです、『行商の人は無事か』って」
「それって…」
「はい、ティオはクエスト中リオレウスに襲われている行商人達を逃がすために、囮になったんです、一般のハンターでも勝てるか怪しい化け物に、一人で立ち向かった、それも見ず知らずの商人達のために」
見捨てろとは言わない、しかし助けを呼んでからでも遅くはなかったはず。
本人曰く、そんなことしてたら皆丸焦げになっていたらしい。
「ティオは…そういう所があるんです、人のためなら自分の犠牲もいとわない所が」
「なるほどねぇ…うん、でもそれなら尚更だいじょーぶ!」
「え?」
「レダンが居るならね…さ!次はあのお店いこう!」
「あ、ちょと!」
クルシュはレイの手を取り甘味処に向かう。
レイは、一抹どころではない不安を覚えながら、仕方なくクルシュについていく。
この人はさっきの話を聞いていたのだろうか?レダンが居るから大丈夫とは?そもそもティオは無事に帰ってこれるのか?
頭の中がグルグルと回るレイに春の生暖かい風が吹く。
その心地よさが、より一層彼女を不安にさせていくのだった。
はい、というわけで第二話如何だったでしょうか?
お恥ずかしい限りですが、多分ここからかなり不定期になるかと思います…
ですが!遅筆でも必ず完結させて見せます!
どうかよしなに!