何をやってしまったか、読んでいただければ……
鬱蒼と木々が生い茂る森の一角。
春の温かい風が、木の幹を抜けレダンの頬を撫でる。
「……遅くね?」
狩り場に来たのだから、何かしら採取して行きたいというティオの願いを聞き自分は地面に腰を下ろし休んでいたが、彼の帰りが妙に遅いのだ。
「あのガキ、もしかして欲を掻いて丘の方面にいったんじゃ無いだろうなぁ」
彼らが来た狩り場の名前は『森丘』マップ全体に広がる西側は木々がひしめき合う森のエリアで、反対の東側には見晴らしの良い悠久な丘が広がっており、場所によっては鉱石の採掘場があったり、小型のモンスターも多く、素材の質からいえば東側の方が質が良い。
しかし、素材の溢れる潤沢な土地だからこそ、危険も多く、ティオには面倒ごとに巻き込まれないように西側だけ探索するように言い聞かせたのだが……。
「よし、シバキ倒そう」
レダンはエリアを移動することにした。
◇ ◇ ◇
「特産キノコ、ゲットォォォ!!」
ここは森丘のエリア9、岩壁が南北に走る天然のトンネル、ここもエリア8と同様に日の光を遮るほどに木々がひしめき合う。
そんな場所だからこそ、地面にはキノコが群生し、その中には『特産キノコ』と呼ばれる小さな高級品も眠っていたりする。
「う~ん、有り難いけど一個だけじゃなぁ……」
ティオは手元のキノコ達を見る。
アオキノコ5個にニトロダケ4個、毒テングダケは6個、そして特産キノコが一つだけ、どうにも微妙なラインナップである。
「いや待てよ?たしか薬草とアオキノコを上手い具合に調合すれば回復薬になるってレイがいってたな……」
以前、レイが単体の素材は安くても、何かを掛け合わせれば売値は倍になったりするというようなことを話していたことをティオは思い出した。
「回復薬かぁ、普段は高くて手が出せないもんなぁ……よし、まずは薬草だな!」
ティオはさっそく薬草捜しに躍り出るが、すこし歩いたところでピタリと足を止める。
「あれ?そういえば何処に生えてんだ?薬草って??」
彼はハンター稼業を生業とする者としてあるまじき発言をしてしまう。
そんな哀れな少年にどこからともなく助けの声が掛かる。
「あ!さっきのハンターさんニャ!?」
「お!無事だったか!」
ティオに話しかけたのは、ランゴスタに襲われていたアイルーである。
「はいニャ!おかげで無事死なずにすみましたのニャァ……あ、そういえばなにか捜してたのかニャ?」
「あぁ、薬草をちょっとなー」
「薬草ですかニャ?」
すると、アイルーは少し考え込み、何かを思いついたのか垂らしていた頭を上げる。
「そういえば、日当たりのいい丘の方面にたくさん生えてるのを見たことあるニャ!」
「ホントか!……あーでもその方角は」
ティオはさっきレダンから仰せつかった命令を思い出す。
先ほども記述したとおり、丘側のエリアは採取できる素材が豊富ではあるが、その分危険も大いにはらんでいる。
しかし、その魅力は危険を天秤にかけてもお釣りが来るほど魅力的なのである。
(ちょっとぐらいなら大丈夫……だよな?)
とうとう、ティオはいいつけを破る決心をしてしまう。
「そーと決まれば、いざ出発!」
「ニャ!」
キョヨヨョォオォォッッッッ!!!
咆哮が木霊する。
◇ ◇ ◇
「今のは!?」
「お、恐らくモンスターの声ですニャ!」
「わかってる!種類は判るか!?」
「流石に判らないニャ……」
それはそうだろう、向こうは野良のアイルーだ。
それに引き替え、自分はハンターだ、本来なら自らで分析し判断しなければならないところである。
想像以上に焦ってしまっているらしい。
(落ち着かなきゃ)
ティオは一旦冷静になるように努めた。
「怒鳴って悪い……質問を変えるよ、声の正確な位置は判るか?」
ポケットにしまっていたフィールドマップを広げアイルーに指示を仰ぐ。
「それならお任せニャ!……声の反響具合と方向から考えるに、恐らくここニャ!」
彼が爪で指したのはエリア3、ティオ達のいるエリア9と隣接したエリアだ。
「あぶね~、とりあえずベースキャンプに行こうぜ、来るだろ?」
「はいですニャ!」
ティオも流石に自分から向かっていくほど愚かではない。
危険ならその場から去るぐらいの危機管理能力は備わっている。
二人がエリアを南下しようとした時、ガサガサ!っと後方で草木が揺れる音がした。
「モ、モンスターが来たニャ!?」
「いや、これは……」
比較的落ち着いていたこともありティオは目の前から来る物体をよく観察していた。
「ひぃ……ひぃ!……っ」
「ニャ?」
「あれ?」
茂みから飛び出してきたのは人間、それも自分と同様のハンターだった。
それにこのハンターよく見ればこの狩り場に来るとき一緒に乗っていたハンター達の一人だ。
「おい、大丈夫か?」
「や、やめて!許してぇ!」
このハンターは酷く混乱しているようで、ティオが話しかけると暴れてしまう。
「オイってば!……お、ち、つ、け!!」
ティオは錯乱するハンターの両腕を掴み、がら空きになった頭にヘットバットを打ち込む。
「いったぁ!?!?」
頭突きを打ち込まれたハンターは数十秒ほど転げ回り、痛みがマシになったのか涙目で二人を見る。
「ら、乱暴です……」
「緊急事態でしたからニャ……」
ある程度、会話になってきたところでティオは先ほどから気になっていることを聞いてみることにした。
「あんた、行きに一緒に竜車に乗ってた人だよな?……ほかの三人は?」
「そうでした!あの!仲間を!?師匠は見ませんでしたか!?」
「落ち着くニャ!ボクたち以外に人間はいなかったニャ!」
ティオはエリア3に続く道をジッと見つめる。
その先に確実にいる脅威を見定めるように。
「君の仲間だけど、俺が探してくるよ」
「え!?」
「ダメだニャ!危険ニャ!?」
「狩場で危険じゃない場所なんてないよ……それに、この子の仲間もまだ生きてるかもしれない」
そう、可能性は0ではない、勿論1%以上では無いかもしれない。
しかし、この少年は切り捨てる、という選択をひどく嫌う、とても愚かかもしれないがティオという人間はそういう人物なのだ。
「ここを南下した先にベテランっぽいハンターがいる、その人に頼めばきっとベースキャンプまで安全に送り届けてくれるはずだ」
ティオはそれだけ伝えると歩き始めた。
「わ、私も行きます!」
「ニャ!?」
その提案は完全に予想外であったが、それほどおかしな考えではないかもしれない。
なぜなら、見ず知らずの相手であるティオが危険を冒してまで仲間を探しに行ってくれるというのだ。
パーティーのましてや付き合いの長い友人たちや師匠の帰りを自分はただ安全な場所で待っているだけというのはどうにも我慢ならない。
そう考えても不思議ではない。
「モンスターの種類は……経験が浅くて、師匠もその場にいなかったのでわからないですけど、行動パターンなら覚えてます!今度はうろたえませんから!」
「……わかった」
「いやいや!ダメニャよ!?」
「いったって聞かないよ俺もそういうタイプだし……アイルーくんキミはさっき俺がいってたハンターを呼んできてくれ癪だけどあいつは多分かなり強いから、もしもの時にさ」
「う~~……わかったニャ!けど、危なくなったらすぐ逃げるニャよ!?」
アイルーは何度も念を押しながらより緑が深い森の方角に走っていった。
「さて、時間も惜しいし、行くか!」
「はい!」
かくして、奇妙な即席コンビは、森を抜け、丘へと足を運んだ。
一体なにが待ち受けているのか、仲間たちはどこに消えたのか。
分からないことだらけではあるが、答えは必ずこの先にあるのだろう。
はい!というわけで続いちゃいました!!
4000文字前後を目安にしてるんですが
どうしても、越えてしまいそうだったので
今回、区切りのいいところで切らせていただきました!!
テンポよく行きたいなぁ