夢が醒めたなら   作:ペン皇

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狩場での出来事はここで終了です!
あと一話、短い奴も出します


夢の始まり④

 「お聞きしたいことがあります」

 「ん~?どうしたの~?」

 

 ココット村のどこか、レイとクルシュの二人は店のベンチで一休みしていた。

 

 「私はハンター業のことはよく分かりませんが、ぶっちゃけた話ティオはこのままハンターを続けていって大丈夫なんでしょうか?」

 「ん~……」

 

 クルシュは迷った、話を聞く限り失敗も多く、猪突猛進過ぎる、それを素直に言ってしまうのは簡単だが……。

 

 「確かに、今のまま続けていくのはちょっと危険すぎるかなぁ」

 「……」

 

 やっぱり、そういいたげな表情をするレイの頭をクルシュは撫でる。

 

 「でもね?才能がないわけじゃないと思うの」

 「え?」

 「ハンターにとって一番大事なこと、それは狩猟能力じゃなくて、生き抜くこと」

 「生き抜く……?」

 「そう、モンスターに勝てなくてもいいの、いまを生きて明日の糧にする」

 

 今のままで勝てないのなら、武器や技を鍛えて、一人で勝てないのなら二人で、生きているのならどうとでもなる、それがクルシュのハンターとしてのモットーである。

 

 「そういう意味では、ティオ君はすごい才能があると思うな~」

 「褒めすぎですよ、クエストはいつも失敗ですし」

 「でも、ケガはほとんどないんだよね?」

 「え?まぁ、そうですけど」

 「それがすごいんだよ~、どんなハンターもケガには悩まされるし最悪引退しちゃうこともあるの、でも彼はケガも少なく帰ってくる、それってすごいことだよ?」

 

 実際大したものなのだ、ケガの絶えない新人時代を少ない負傷で乗り切っていることは。

 

 「ま、話の続きは二人が帰ってきてからだねぇ~、そもそも採取クエストだからケガの心配なんてほとんど無いけど~」

 「そうですね」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 突進、たったそれだけの行動でティオ達の命は簡単に絶える。

 

 「危ねえ……」

 

 現在、ティオとライラはイャンガルルガと交戦している。

 

 イャンガルルガの無造作な突進で起きた風圧が、体がかすめる。 

 たったそれだけでだけで死を予感させるには十分だった。

 

 しかし、大雑把な行動には必ず隙が生じる、それを見逃すティオではない。

 

 突進によって体勢を崩したイャンガルルガの足に太刀を叩き込み、ライラは羽の根元に剣を振る。

 が、なまくらなのか相手が堅すぎるのか、明らかに鳴ってはいけない音とともに太刀と片手剣は弾かれてしまう。

 

 ---クルルル……

 

 お前たちの攻撃など何の支障もない、そんな声が聞こえてきそうなほど二人を意に介すことなく悠然と立ち上がる。

 イャンガルルガの次なる行動それは得物の選定、さっき撃ち込まれた攻撃、より危険度が少ない方を視界にとらえる。

 

 「ライラッ!」

 

 それは余りにも急な行動だった。

 イャンガルルガの足は尋常ならざる瞬発力と跳躍力を秘めており、それをフルに活用したならば、ノーモーションで標的にまで急接近することが可能なのである。

 

 ライラはなんとか反応はできたものの、回避は不十分になってしまい、咄嗟に右手の盾を体の前に構えた。

 バチンッ!と甲殻と盾がせめぎ合い火花を散らし、ライラは吹き飛ぶ。

 

 「あぐ……」

 

 打ち所が悪かったのか、ライラはピクリとも動かなくなった。

 大ケガを負ったのか気絶してしまったのか、今すぐ見に行きたいが自分自身にはそんな余裕はない。

 ただ分かるのは、事態が最悪の方に向いてしまったということだけだ。

 

 助かる方法がないわけではない、例えばこのまま全力疾走すればどうだろうか?

 多分いける、自分の足の速さとライラという餌を加味すれば目の前の黒狼鳥はなんとかしのげるだろう。

 

 しかし、この男にそんな選択肢は万に一つもない。

 では、どうする。

 

 (はは……)

 

 ティオは、分かり切った未来に絶望するわけでもなく不思議と笑いが込み上げてきた。

 頭がおかしくなってきたのだろうか?

 否、きっと覚悟が決まったからだろう。

 

 「やるしかないよなぁ?」

 

 この状況、リオレウスと対峙した時とよく似ている。

 目の前には絶対的な敵、一歩も下がることを許されず、ただひたすら正面から立ち向かうしかない状況。

 

 「こっちだ!」

 

 ティオが叫ぶと同時に下からイャンガルルガを切り上げる。

 当然刃は通らないが、鱗の何枚かははじけ飛ぶ。

 

 (こいつだって無敵じゃない!)

 

 ティオの孤高な戦いが幕を開ける。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 「ニャァァ!?なんで今日はこんなモンスターの妨害が多いニャ!?」

 

 ティオ達と別れ救援を呼びに行ったアイルーは、ブルファンゴに絡まれていた。

 

 「こんな所で道草食ってる場合じゃないのニャ!」

 

 彼と一緒に同行してきたという凄腕のハンターを見つけるために、エリア中を駆け巡っていたのだが。

 その肝心のハンターを見つけるどころか、厄介なモンスターに見つかってしまい、こうして危機に瀕しているのである。

 

 そうこうしている内に、ブルファンゴが突撃してきた。

 

 「それももう飽き……ブニャ!?」

 

 森丘を走り回った副作用か足がもつれてしまう。

 

 (あ、間に合わないニャ)

 

 一匹のアイルーの命が散ろうとしたその瞬間、アイルーの目の前に人間大の影が降り立った。

 すると、ブルファンゴは進行方向を90度変えて吹き飛び、近くの木の幹にぶつかった後あわてて踵を返し逃げていった。

 

 「ニャ、ニャ??」

 「おい、大丈夫か?」

 

 手を差し出してきたのはクックSシリーズを両手足と腰にのみ装着する奇妙な男だった。

 

 「あ、えっとありがとうニャ……魔法ですかニャ?」

 「ちがうちがう、横っ腹を蹴っただけだ」

 

 勢いが強いまっすぐに向かってくる物体に、真横から力を正しく加えると先ほどのような現象が起きる力学の応用だ。

 

 「そうなのですかニャ……あ、そんなことより!レダンって人は知ってるかニャ!?」

 「レダンは俺だけど?……まて、もしかしてなんだが軽装で太刀背負ったガキの知り合いか?」

 「そうニャ!あの!助けに来てほしいのニャ!」

 

 アイルーは、ティオが知り合ったハンターのためにモンスターの鳴き声の方向に向かっていったことを伝える。

 

 「やっぱり……おい、大体の位置はわかるか?」

 「わかるニャ!エリア4のあたりニャ!」

 

 それを聞いた瞬間、レダンはとんでもない速度で走る、それはアイルーである彼も追いつけないほどの速度だ。

 

 「ボクも行く、なんていわれちゃかなわねぇしな」

 

 なにやら後ろからモゴモゴ聞こえてきたが、あえて耳に入れないようにする。

 

 「次の角を右、そのあと二つ目の通路を左だな」

 

 すべての狩場にいえることだが、フィールド全体の面積は広大で、すべてを回るには普通の人間では1日あっても足りない。

 しかし、上位ハンターであるレダンは常識離れした身体能力に物を言わせ超スピードでティオがいるであろうエリアに近づいていた。

 

 「この臭い……」

 

 ペイントボールのに混じって微かに焦げた臭いがする。

 

 「あの咆哮の高周波具合と火炎袋が燃焼した時の臭い、イャンガルルガだな……なんだってこんな採取ツアー用の安全区域に、いやそれよりも竜車の件も気になるな」

 

 愚痴っていても仕方がない、まずは目の前の事象に専念せねばならない。

 黒狼鳥イャンガルルガ、優れた聴覚と強靭な足腰と堅い甲殻、極めつけは尾の毒と飛竜張りの火炎ブレス、危険な要素がこれでもかと詰め込まれた怪物。

 天地がひっくり返っても新米ハンターのティオが勝てる相手ではない。

 

 ドガン!っと岩が崩れる音がひっきりなしに聞こえてくる。

 

 「あそこか」

 

 そうこうしている内に、レダンはエリア4に到達していた。

 レダンは一気に跳躍し岩陰に身をひそめて、奥に見える巨大なモンスターを認識した。

 

 「やっぱりイャンガルルガか……ガキは……」

 

 さらに目を凝らすと、イャンガルルガは暴れてはいるもののなにやら地団太を踏んでいるようにも見える。

 そこで気づく、ティオがイャンガルルガの周りを付かず離れずの距離を保ちながらまとわりついていた。

 

 「うぅ……」

 「!……お前は確か行きの竜車にいた」

 

 どうやら、気を失っていたようでしばらくまだまともに動けそうにない。

 

 「この子をかばって?」

 

 レダンはもう一度ティオを見る、やはり受け入れがたい感情に苛まれた。

 

 なぜなら、自分の知る少年はランポスに苦戦しランゴスタに食べられかけていた、そんなへっぽこだったはずだ。

 しかし、いま向こうでイャンガルルガと対峙する少年はまるで熟練のハンターのようではないか。

 

 『リオレウスと戦ったことあるんだぜ』

 

 レダンは少し前のティオとの会話を思い出していた。

 その時は行商人たちを助けるために一歩も引けなかったこと、その時の戦い方でなんとか凌いだこと。

 

 そして、今は負傷した少女を背に、圧倒的な実力差がある相手に挑まざるを得ない場面、彼が自慢げに話していた状況とよく似ている。

 

 (まさか……)

 

 イャンガルルガが右足を軸に左回りに尾を振り回す。

 対するティオはギリギリで尻尾の先端部分を避け、がら空きの首元に太刀を突き刺す。

 当然、堅い甲殻はそれを弾く。

 

 ダメージの少ないイャンガルルガの次なる行動はクチバシによる突き刺し。

 乱暴に何回もティオに向かって凶器を振り回す。

 しかし、ティオは怯むことなく半歩ほど後ろに下がり、一回二回三回と凌ぎ

 攻撃が四回目に移ろうとした瞬間、その一番大きな隙を見極めイャンガルルガの懐に潜り込み縦一閃、腹を裂くように太刀を振るう。

 切れ味の落ち切った太刀ではさほどダメージは入らないが、首元よりは痛かったのかイャンガルルガがのけ反る。

 

 (間違いない……!)

 

 痺れを切らしたのか、イャンガルルガは咆哮と共に後ろに下がる。

 音と風圧、よほど対策していなければ大概の人間が足を止めてしまう、それはティオも例外ではない。

 

 

 硬直から解けたティオは顔を上げる。

 彼がとらえたのは、大きく開けられたクチバシ……ではなく。

 その奥に見える赤い揺らめき。

 

 イャンクックは火炎液と呼ばれる燃焼性の液体を吐き出すが、イャンガルルガのそれはその比ではない。

 

 とてつもない温度と速度で放たれた火球は、鬱陶しい小動物を焼き払わんといつも以上に燃え盛っているようにも感じられる。

 だが、それがどうしたとばかりにティオは前に突き進む。

 右に一発、これを左に回避、それを追うように左に一発いずれも地面に着弾した跡からその威力の高さがうかがえる。

 

 だが二つのブレスが着弾するころにはティオはもうかなりの距離まで接近していた、してしまっていた。

 

 なぜイャンガルルガの炎がイャンクックと差別化されるのか?

 威力、速度、どれも比較にならないが最大の理由は手数、連続で最大『3発』も吐き出せるのだ。

 右左に二発、では三発目は?

 

 必然的にティオの前に放たれる。

 

 

 眼前が炎で埋め尽くされる、吐き出す速度が早すぎて回避も間に合わない。

 

 ならどうするべきか?

 

 決まっている、ティオはいつだって前のめりで進んできた

 この瞬間だって変わらない、下がるのではなく一歩前へ

 

 ブレスの熱気が頬を焼く、だが燃えているわけではない

 

 生存が許されるギリギリの隙間に体をねじ込み、強引に距離を詰め。

 前に進む推進力を太刀の切っ先に込め、無防備な腔内にそれを突き立てる。

 

 いまだブレスの余韻が覚めぬ喉奥の火炎袋は急にねじ込まれた太刀に反応してしまう。

 

 本来のブレスとは程遠い小さな爆発。

 しかし、ブレスを出し終え負荷のかかった喉に意識の外から来た太刀の突き。

 その被害はイャンガルルガにとって甚大極まりないものだった。

 

 何メートルも転げまわったイャンガルルガは痛みにもがく。

 

 「おい」

 「うぉ!?!?いたのかよ……」

 「ずっと居たわ」

 

 レダンは、ジッとイャンガルルガを見つめる。

 

 「…………」

 

 さっきの戦い方で確信を得た、ティオの資質。

 

 タキサイア現象というものがある、人が危機に瀕した時にすべての事象がスローモーションになるあれだ。

 おそらく、ティオは【尋常ならざる集中力】をもってそれを自主的に引き出せる。

 しかし、それをするには条件が必要なのだろう。

 

 数刻まえ、いくつか投げかけた質問の数々、それはどれも散々なものだった。

 

 人助けのためなら命もかける。

 その精神は、仲間が気を失い離脱もままならない絶望的な状態でも逃げ出さなくさせ全身の神経を尖らせる、それが第一のトリガー。

 

 前のめりの戦い方は、ランポスやランゴスタ等の集団で個が強くない種族には合わない戦い方だが。

 もし、今回のような1匹の強敵ならば、相手にだけ意識を集中し一挙手一投足を観察できるようになる、それが第二のトリガー。

 

 この二つがティオの脳のリミットを解除し、所謂ゾーンの状態を作り出す。

 

 その驚異的な情報処理能力は、数ミリ先の死線を見極めさせるに至る。

 

 するとどうなるのか?

 

 相手の行動の起こりをギリギリまで待ち、来ると同時に動き先手を取る、武術の世界ではこれを『対の先』といい、これはやろうと思って出来るようなものではない。

 しかし、その至難の技をティオはモンスター相手にやって見せたのだ。

 

 ---ゴジィイィィィ!

 

 それはまるで壊れた笛のような、おおよそ生物が出す音ではなかった。

 焼け焦げた腔内と喉、痛みによる疲労、それでもなお目の前のイャンガルルガは闘志を燃やし自分をこんな目に合わせた敵を排除しようと目を見開き立ち上がる。

 

 さぁ、最後の勝負だ

 大震動と共にイャンガルルガの頭は地面に叩きつけられ絶命した。

 

 「あ?」

 「は?」

 

 一体なのが起こったのか、二人があっけにとられたが、一人だけ答えを知る人物がいた。

 

 「こ、このモンスターですッ!!……私たちが師匠と離れた後に襲ってきたヤツです!!」

 「え?それはイャンガルルガじゃ……あッ!」

 

 彼女がイャンガルルガと対峙した時の反応は、まるで初めて出会ったかのようだった。

 そう、もう一体いたのだ、この森丘に、危険なモンスターがもう一匹。

 

 ---カカカヵヵ……

 

 攻撃的な印象を与える金色と黒色の鋭利な甲殻を持ち、鋏のような二股の尾、頭部に存在する巨大な刃の如き鶏冠状の器官。

 そして、巨大な翼の被膜には、まるで蝶の翅脈のような紋様が浮かび上がっており、思わず見惚れてしまうほど美しい。

 

 緑黄の電気を纏うそのモンスターは、電竜『ライゼクス』。

 その美しい姿とは対照的ともいえる類希なる兇暴性と残忍さは、森丘の主リオレウスと並び恐れられる大型の飛竜である。

 

 「くそ!」

 

 ティオはライゼクスに向かって走り出す。

 

 「あほか」

 

 しかし、レダンに襟首を捕まれ後ろに倒される。

 

 「なにすんだよ!」

 「お前こそ、そんな武器で何するつもりだ」

 「え?……」

 

 ティオは手元の太刀に視線を落とす。

 自慢の相棒は、イャンガルルガとの戦いで無茶をし過ぎたのか、中ほどからポッキリとへし折れてしまっている。

 

 「嬢ちゃん、そいつ抱えて下がりな」

 

 ドッ!とライゼクスは発達した翼で地面を叩きつけながら四足歩行で突き進む、その震動一つ一つが大地を揺らす。

 

 「おっと、焦らしすぎたかな」

 

 右翼での叩きつけ、それはレダンを狙ったのだろう、しかしそこにはもう彼はおらずライゼクスは大地に翼をめり込ませた。

 すると不思議なことに、ライゼクスは地面に崩れ落ちる。

 

 「倒れた!?」

 「……ッ!」

 

 ティオは見ていた、ライゼクスが叩きつける為に振る上げた翼、その翼から胴体にかけての第一関節を攻撃を回避するとともに太刀で切りつけたのだ。

 

 「ふっ!」

 

 ライゼクスの側面に回り込んだレダンは、軸足を起点に太刀に円運動を加える。

 加速した太刀の先端を両足のアキレス腱に滑らせる。

 

 ---ギャゴォォ!!

 

 追撃は止まらない、尻尾の付け根、甲殻と皮膚の間、首筋、ありとあらゆる場所に太刀を振り、どの所作にも一切の無駄がない。

 

 「料理じゃねえんだぞ……」

 

 ティオは絶句するしかなかった。

 自分がボロボロになり死に物狂いでやっと追い詰められたイャンガルルガ。

 そのイャンガルルガよりもはるかに強いであろうライゼクスを、かすり傷すら負わず、息を切らすことなく追い詰める目の前の男。

 

 「お前に恨みはない……けど、すまないな」

 

 満身創痍、ほとんど何もできずただ切り伏せられたライゼクスは種の生存本能か生まれ持った性か、目の前にいる小さな襲撃者を焼き殺そうと、雷撃を吐くために首を持ち上げる。

 

 「剣士を相手に首を差し出しちゃ終わりだぜ」

 

 一閃、聞こえてきたのは斬撃の音ではなく、ライゼクスの血潮の音と、地面に堅く重いものが落ちる落下音だった。

 

 「……さ、帰るぞ」

 

 上位ハンター、レダン・エスカノーラ、ハイランカーに恥じぬ絶対的な力。

 この場において、男の実力を疑う人間は皆無だった。




文字数多いなぁ(笑)

まとめるのがまだ苦手なんでしょうね(汗)
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