夢が醒めたなら   作:ペン皇

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後処理と後味

 ライゼクスを討伐した後、異変を察知した観測隊に保護されたティオ達は無事にココット村へ帰還を果たした。

 

 「あ、帰ってきた、お~い」

 

 ティオ達に手を振っているのはクルシュ・エスカノーラ、レダンの妻であり同業者である。

 

 「よ、帰ったぜ」

 「うん、お帰りなさい」

 「こ、こんにちはクルシュさん」

 「え~と?……どうして敬語なの??」

 

 ティオは記憶に新しいレダンの戦いっぷりを思い出していた。

 もし仮に、目の前の女性ハンタークルシュもレダン並みの戦闘力を持っているのだとすれば、とてもじゃないが気軽な口などきけないというものだ。

 

 「お気になさらず……」

 「…………」

 「いや!俺は何もしてないぞ!?」

 

 クルシュはやや冷たい視線をレダンに送るが、レダンはそれを必死で否定する。

 そんな、やり取りをしているとなにやら遠方から土煙を上げながら走ってくる人物がいた。

 

 「ティオ!!」

 「うお!レイ、なんだよ珍しくあわてて」

 「焦るにきまってるでしょ!……ほら!見せて!」

 「なにを……グゥ!?」

 

 レイは、ティオ顔を鷲掴みにしたあと、瞼を無理やり開き瞳孔を確認する、次は腕をブンブン振り、両方のわき腹を軽くたたいた後は、太ももをつまむ。

 

 「よし、脱いで」

 「は!?なんで!?」

 「細かい傷は見えないじゃない、ほら脱いで」

 「馬鹿じゃねえのか!?……ちょ!やめ!!やめて!?!?」

 「抵抗しない!」

 「あ~~ん~~ん゛ん」

 「……はっ」

 「ぐべっ」

 

 自分の暴走に気付いたのか、レイはティオを手で押しのける、その顔は若干赤い。

 

 「まぁとにかく無事でよかったわ、おかえりなさいティオ」

 「お前、なんつう仕打ちだよ……」

 「別にいいじゃねえか、これを機にもう少し自分の命を大切にするこったな、じゃあ俺たちは別件の用事があるから、もう行くぜ」

 「あ……」

 

 レダンは、手を適当に振りながらクルシュを連れて去っていこうとした。

 

 「まってくれ!」

 

 引き止めずにはいられなかった、何故かはわからないけれど、ここでサヨナラを受け入れてしまうともっとほかの何かが手から離れてしまうような、そんな気がした。

 

 「あんた、めちゃくちゃ強いよな、びっくりしたよ」

 

 それは嘘偽りのないティオの本心だった。

 レダンの強さ、それは嫉妬を通り越して憧れすら抱いてしまうほどに、ティオの心に刻まれてしまったのだ。

 

 「俺もアンタみたいになりたいんだ!俺に剣を教えてくれ!……いや、教えてください!」

 「……いやだ」

 「な、なんで!?」

 「見てみな」

 

 レダンが顎で指した方向には、膝から崩れ落ち一歩も動かない少女と号泣する女性とその横に小さな男の子、それらを囲むように白い布がくるまれたタンカーが一つ。

 地面に座る少女はライラでタンカーの中身はライラの師匠、ほかの二人はおそらくだが師匠のご遺族だろうか。

 

 「あのタンカーの中身は一歩間違えばお前だったんだぜ」

 「それは……」

 

 否定はできない、今日はたまたま調子よく捌けただけで、いつもの失敗回数を考えれば今回は本当に奇跡だった。

 

 「お前に技なんて教えたら絶対このままハンター続けるだろ」

 「そりゃ!」

 「いっとくがな、どれだけ卓越した技術を持ってようが、小さな綻びで命を落とすんだ、もし自信の付いたお前がしょうもないミスで死んじまったらどうする、あの遺族みたいに嬢ちゃん泣かすか?俺はそんな責任は負えないな」

 「それは……」

 

 レイの方をチラッと見る、なんとも複雑な表情をしながら目を泳がせている、彼女とて本心はレダンと同じなのだろう。

 

 「私はティオくんの意見に賛成だな~」

 

 せっかく見つけた希望に手が届かない、そんな現実を味わい顔を伏せていると、思わぬ方向から助け船が出された。

 

 「クルシュ、お前」

 「レダン、あなたいっつもいってたじゃない、技術は力の差を埋める為にある、弱い物こそ習うべきだって」

 「いったかもしれないけど……」

 「技を磨けば、その分死亡のリスクも格段に減るし一石二鳥だと思うな~、なんなら私も手伝っちゃう~」

 

 ふんす、そんな擬音が聞こえてきそうなガッツポーズを取る自分の妻に呆れながらレダンは首を振る。

 

 「クルシュわかってるだろ、修行ってのはそう簡単じゃないんだ、最悪その過程で死ぬことだってままある」

 「だいじょうぶだと思うけどな~」

 

 何か自分ももう一押ししたい、ティオは必死に自分のプレゼンテーションを考えるが、悲しいことに思考能力の限界が来てしまう、どうやらゾーンには至らなかったようだ。

 

 「その点なら……大丈夫だと、思います」

 「レイ!」

 

 どういう風の吹き回しなのだろう、さっきまで半分くらいハンターを続けることに反対していたのに今度は自分を助けてくれている。

 

 「聞いた話ですけど、ハンターにとっての才能とは生き抜くことらしいです、ティオにはそれが備わってるみたいなので、きっとどんな修行にだって耐えてみせると思いますよ」

 

 レイは、クルシュから聞いたハンターにとって最も必要な才能の話を聞いていた、昔の話だが自分は、ティオのその才能に救われた口だ。

 少し話は逸れたが、ティオならばどんな過酷なことにも耐え抜いて見せるだろう、そう思ったから口利きをしてあげたのだ。

 

 「いいのかレイ?」

 「いっとくけど、完璧に賛成したわけじゃないからね!私じゃもう飼いきれないから他の人に頼みたかったの」

 「飼いっ、え!?」

 「レイちゃん、ナ~イス!」

 「いえ、クルシュさんのお話をまるまる使っただけですよ」

 「ん~ん、とってもいい後押しだったよ~」

 「え、いや……え?」

 

 なぜか話が勝手に進んでいく、一度も許可した覚えはないはずだが。

 ただ経験上、この手の状況では当事者はなぜか蚊帳の外であることが多いのだ、もう諦めよう。

 

 「は~、わかったわかった、ただ才能なしだと俺が判断すればすぐ修行は打ち切りだ、いいなガキンチョ」

 「わかったぜおっさん!」

 「おっさんじゃえ、レダンだ、今度からそう呼べティオ」

 「!!……了解だぜレダン!」

 

 ビュンッ!と強風が吹く。

 この季節は風が強くなる、強風はあらゆるものを壊し時には森を切り崩し新しい道を作ってしまうこともある。

 この日の風が作った道はおそらく茨の道だろう。

 

 とはいえ、少年は気にしない、それこそ風のように意志をもってまっすぐ突き進むのだろう。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 夜のココット村、二人の男女は木の根元に設置されたベンチに腰かけていた。

 住宅は光を消し、集会所の酒場はまだまだ喧騒が絶えない、騒がしすぎず静かすぎないこの時間帯は会話をするにはもってこいだった。

 

 「はい、どーぞ」

 「ん、サンキュ」

 

 クルシュは酒場から持ってきたケルビの腸詰めを手渡した。

 パンッと皮がはじける音と共に、口の中に肉汁があふれ出し、少し効かせたスパイスが鼻腔をくすぐる。

 

 「……なぁクルシュ」

 「お酒はダメ、話があるんでしょ?」

 「だよなぁ」

 

 レダンは残念そうに頭を掻く。

 

 「ねぇレダン、ティオくんのこと、ありがと~」

 「俺だって、同情だけで手は差し伸べねぇさ、パッと見ただけじゃ気が付かなかったけど、あいつには素質がある、今は自分の力と思想がごっちゃになってて才能が発揮できない状態だった、せめてそれの土台だけでも作ってやろうと思っただけさ」

 「ふふ……」

 「クルシュはティオのこと気づいてて、クエストに同行させたのか?」

 「まさか~、でもどこかの誰かさんによく似てるな~って思ってね」

 「はは……誰のことだか」

 

 レダンは手の中の腸詰めを食べ終えた後しばらくじっとし、クルシュも沈黙を貫いていた。

 

 「レダン、話って私たちの後ろの人も関係ある?」

 「大ありだぞ、さっさと報告してくれないと始まらん」

 

 二人の背後にある木、店の明かりに照らされ夜ながら影ができていた、その影が二股に分かれる。

 

 「流石は上位ハンターのレダン様とクルシュ様、気配は消していたと思ったのですが」

 

 背後から現れた男は、一見ただの村民のようで、道行く人の中に紛れれば見つけることは容易ではないだろう。

 

 「あんたらのギルドナイトの気配って独特だからな、なんとなくでわかっちまう……で?結果は」

 「はい、レダン様からご報告通り、森深くを捜索しましたところ、数十頭のアプトノスの死骸を発見、そのほど近くに竜車を牽引した痕跡アリでした」

 

 レダンが訝しんだアプトノスの遺体、それは不自然なエリアに食い散らかされていた。

 自分の予測が正しければ、その死体は一つではない、そう踏んだレダンは救助に来た観測隊を通じて狩場の調査を行ってもらっていた。

 

 「もう一つは?」

 「はい、残念ながらイャンガルルガとライゼクス二頭ともに侵入経路は不明でしたが、両者ともに頸部と足首の甲殻に微量の金属粉が検出されました、もちろん狩場にいた皆様が使っていた武器の素材とはどれも一致いたしませんでした」

 「それって……」

 

 二頭のモンスター、イャンガルルガに触れたのはティオとライラ、ライゼクスはレダン、武器の素材は骨と虫、ライラは金属製の武器だがそれも一致はしなかったのだろう。

 

 「あの子の師匠や仲間の武器は~?」

 「もちろんぬかりなく、皆さん、体の損傷より武器の方が綺麗でしたので検査に間違いはないかと」

 「イヤな話ね~……」

 

 

 クルシュは軽い溜息を吐く。

 

 「報告は以上です何かありましたらまた追って連絡を」

 「あぁ、ありがとう」

 「……そうそう、ライラ様の恩師のご遺体、勝手ながら少し調べさせていただいたところ、体内からランゴスタの痺れ毒が検出されました」

 「刺し傷は?」

 「探しましたが見つかりませんでした、もっとも、あの損傷具合ですので……」

 「そうか」

 

 お二人もどうかお気をつけて

 それだけ伝えると、男は夜の闇に溶けていった。

 

 「ん~……」

 「考えてる通りだと思うぜ、イャンガルルガとライゼクスは本来あの付近を縄張りにしてる訳じゃなかったんだ」

 

 そう、あの二頭は森丘に出没することはあっても、観測隊が管理している付近の狩場には現れないのだ。

 もし、そんなことが起これば、それこそ空から監視している観測隊がいち早く事態を伝え対処する。

 

 「それがなかった、観測隊すら把握できていなかったとするなら」

 「密猟……ううん、密売ね」

 

 モンスターを使った商売、それ自体は何ら違法ではなく、剥ぎ取った素材を売ることもそれに当たる、もちろん儲けはそれほどではない。

 しかし、今回のようなモンスター丸々を違法に取引するとなると話は変わってくる。

 

 通常、モンスターを生きたまま正規の取引するとなると、ハンターズギルドの許可書をもらい、適正な搬送ルートとそれを護衛する人員を確保するが、それだけでかなりのコストが掛かるし、その間モンスターの状態を維持するためにさらに出費がかさむ、正直な話得られる利益は知れている。

 

 だが、手続きを踏まない裏のやり方なら、その手のコストを省ける。

 

 もちろん違法な商いであるから、処罰も相当なものになる、だがリスクと利益を天秤にかけてもなお実行に移してしまう、それほどまでに蠱惑的な儲け話なのだ。

 

 「その裏の商売、かかわってくるやつもそれに比例してやばい奴らだ」

 「もしかして、ライラって子のお友達やお師匠さんはそれに巻き込まれちゃった?」

 「友達はともかく、師匠ってやつはちょっと気になるな」

 「さっきいってたランゴスタの毒のこと?」

 「それもあるけど、あの焼かれたハンターは依頼ごとに装備を変えるらしくてな、その日装備してきたのはゲリョスシリーズ、思いっきり火耐性が低いものだ」

 「そりゃ、素材ツアーに大型のモンスターが現れるとは思ってなかったんじゃない?」 

 「それもあるだろうけどな、ゲリョスシリーズってのは火に弱い代わりに雷耐性が高い……穿ちすぎかもしれねえがな」

 

 毒怪鳥ゲリョスは、甲殻の下は伸縮自在のゴム質の皮で覆われており、生息地ゆえか燃焼に弱く電圧に強い性質になっていて、それを使った装備も必然的にその特性を引き継ぐ。

 そう、火に弱く雷に強いのだ。

 

 「じゃあなに、師匠さんはライゼクスの密売に関わっていて、だまし討ち的にイャンガルルガをけしかけられたってこと?」

 「確証はないけどな、けど竜車の中で見た感じからランゴスタにしてやられるような奴じゃないとは思うぜ」

 「取り分で揉めたからっていうより、計画的に消しに来たってことかな?……でも、一歩間違えれば被害は甚大だったはず、そんな危ないことを平気でできる連中って」

 「まぁ、いま考えたって答えなんかでねえさ」

 

 レダンは立ち上がり背を伸ばす。

 

 「それよりもクルシュ」

 「?」

 

 レダンは顔をにやけさせ集会所のある方向へ親指を指す、それは酒の席への誘いだった。

 

 「さっきのソーセージが効いてきた、ワインとかどうだ!」

 「もう、せっかく真剣なお話してたのに~」

 「メリハリが大事なんだよ、せっかくお前とまたこの村に来たんだ、今日くらいパーッといこうぜ」

 「……もう」

 

 惚れた弱みだろうか、こうなってしまってはどうも逆らえる気がしないし抵抗する気も失せるというものだ。

 しょうがない、今日くらいは付き合ってやろう。

 

 この後なんだかんだ、夜が明けるまで二人は飲み明かした、その結果どうなったか考えるまでもないがそれはまた次回に持ち越しになるだろう。




ということで、序章終了!

ここからですよ~、どんどん話を広げていかなくっちゃ!

ではまた、次話でお会いしましょう!
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