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その後、川内たちは一旦部屋から出ていった。出ていく際、川内が明石に「提督と一緒に夜戦に行く上手い方法ない?」と聞訪ねていたのが聞こえた。
……どうやっても提督を夜戦に連れていきたいようである。
連れて行って何の役に立つのか?「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応する」しか今の所指示できそうにないクソ雑魚提督だ。が、指揮能力等はお察しでも、彼女らのモチベを上げるのには役に立つのかも知れない。少なくとも、一人は「提督に自分の戦っている姿を見てもらいたい。それも一番自身がある夜戦で」という、何か飼い犬が飼い主に構って欲しい理由である。
そしてもう一人は「那珂ちゃんと一緒に地獄に落ちよう」という、道連れ欲しさを一切隠そうとしない清々しい理由である。
「それで、提督。夜戦、行かないんですか……?」
「え?話をぶり返すんですか?」
よーし今日はこれでお開きだ―――とはいかないが、一先ずは問題は落ち着いたと思ったらこれである。
今まで蚊帳の外で提督が出したお茶と追加の茶菓子をちゃっかり頂いていた神通は場が落ち着くのをのんびりと待っていた。
「ですが提督……。夜戦がどういったものかを知るには、実戦の空気を味わうのが一番です……。」
「ドローンじゃ駄目なんですか?」
魔改造されたドローンは最早肉眼で見るより良く見え、そして広く戦場を見れる。態々直接行かなくてもドローンで良いのではないか?と聞くと、神通は首を横に軽く振る。
「カメラ越しだけでは実際の戦場がどういうものなの分かりづらいと思います。戦場は視覚だけ頼って勝利し続けられるほど甘くはありません。実戦の空気、音……それ以外にも実際に経験しなければ得られないことが多々あるはずです。その得たものがきっと提督にとって得難いものになる、と思います。だから、提督にも出来る限りは旗艦に乗ってもらい実戦を見て欲しいです……。」
凄く真面目な回答。これには提督は黙るしかない。姉の方は夜戦大好き大型犬、妹は芸人気質のバラドルなのに……。本当に同じ姉妹なのだろうか?―――いや、逆に彼女らの抑え役としてこう真面目気質になったのだろう。
「(しかし、これは逆に困ったことになったぞ……)」と提督は思う。
もっとふざけた理由なら反論できたが、こうまで言われると行きたくないことには変わりはないが「あれ?行かないとまずくない?」と思ってしまう。実際、そこの提督はさっきまでは此処から出たくない~の一点張りだったのに、今は行くかどうかで心が揺れている。内容はさておき、人の言葉で意思があっさり揺らぐのは詐欺に引っかかりやすいタイプなのでもっと自分の意思を強く持ってほしいものである。
そんな悩んでいる提督に、彼女は更に話を続ける。
「――――それと、実戦にはただ見ているだけには無い重要なものが一つあります。」
「重要なもの?それは一体。」
「それは―――――『痛み』です。」
「『痛み』……―――――うん?」
もっと為になる(と提督は思っている)話が聞けると思っていたが、何かおかしな方向に話が行こうとし始めた。
「自分の技量が上がった、と実感出来るのはどんな時だと思われますか?」
「も、物事が自分が考えた通りにうまくいった時かな~……。」
「いいえ。……自分が成長したと実感出来るのは『失敗しなくなった』時です。1万回やって1万全部成功出来る位自信が持てた時、人は一番己の成長を実感出来るのです。」
「そ、そうかな……そうかも……。」
「では、失敗を0に近づけるにはどうしたら良いでしょうか?―――そこでさっきお話した『痛み』が関わってくるのです。主砲を外す、敵の攻撃を避けるのを失敗する、索敵を失敗する等々……どれも失敗すれば手痛いしっぺ返しを貰ってしまします。痛いのは誰だって嫌です。故に己の止めに必死で自身の技量を磨こうとするのです。ただ、画面の前で大人しく見ているだけではそうはなれません。提督、痛みです。痛みこそ誰もが忌避するものであり、最も人を成長させてくれるものなのです。
勿論実戦だけではありません。これから行っていく訓練も、この神通含め、骨が折れようが血の小便が出ようが容赦一切しません。―――大丈夫です!実戦でやらかした時より酷いものなんて無いですから、それを避けるために皆全力で訓練に打ち込んでくれる筈です。……ええ、まあ……、何が言いたいかというと――――」
――――その時の事を提督は忘れることは無いだろう。
安牌かと思われていた次女。実際、お気遣いが出来る大和撫子の様な大人しめの美少女だと思ったし、平時はそうなのだろう。しかし、どうも戦いに関すること――――特に訓練になると人が変わるようで。もし此処に彼女の姉がいたら「あいつ、鍛錬の話になると早口になるよね~」と言うことだろう。
「かのミヤモトマサシ先生曰く――――『痛くなければ覚えませぬ』です……。」
「言ったのはフジキゲンノスケ先生だよ馬鹿野郎。」
長女は夜戦バカ、三女はバラドル、そして次女は『シグルイ』。提督はまとも枠だと思っていた前の自分を殴りたいと頭を抱え、そして新しい胃痛枠に対し敬意を払うことを止めた。当方に迎撃の用意あり。阿呆なことを言うようだったら、反撃で殺されようが鉄拳制裁する覚悟完了である。
「それと、訓練は行います。―――が、追い込むのは止めなさい。」
「―――!?」
「何だその顔は?させるわけ無えでしょうが。昔ならいざ知らず、今の御時世、駆逐艦の娘達にDV紛いの訓練なんてしたら私の首が憲兵さんの手で物理的に飛ぶわ。寧ろ、私が全面的にGOサイン出すと思っていたことに驚きですよ。」
「わ、分かりました……。訓練は、限界一歩手前で「神通?」……あれ?何か提督から壁を感じますけど、気の所為ですよね?――――少し余裕を持って終わるようにしますから、冷たい目―――『養豚所の豚を見るような目』でこちらを見ないで下さい……。」
ああ、やっぱり次女だけ安牌なんて無かったよ。これからこの三姉妹達に振り回されるのだろうか?その時、果たして自分ごときが手綱をしっかり握れるのだろうか?この先の事を考えると頭とお腹が痛くなってきた提督であった。
「あのう……。それで、提督。夜戦行かないのですか?」
「行きたくなると思ったのですか?」
「―――!?」
「その顏、気に入ったんですか?―――どうやったらさっきの話で行きたくなると思えるんだ……。」
シグルイで天然とか、もしかしなくてもこの娘が一番問題児なのではないだろうか?提督はますます頭を抱えるのであった。
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「兎に角、夜戦に私が着いていくかどうかは後日「提督!!」―――よおし!川内!!私のこと少しでも好きなら何も言わずに回れ右して大人しく寝なさい!!」
もう疲れた、寝たい……。そうだ!彼女らのことはバックレて寝ちまおう。流石に勝手に出撃はせんやろ。と考えていた時の件の夜戦バカが扉を勢いよく開けて入ってきた。
「それより、提督!」
「え?私嫌われてんの?」
「姉さんがマイペースなだけですから気にしないほうが……」
結構心にキてよろける提督とそれを支える神通の二人を他所に、川内はズカズカと提督の目の前にやって来る。何かいい案でも思いついたのかと身構える提督。一方の川内は部屋から出ていった後に明石から貰ったアドバイスを思い出す。
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『プレゼントで媚を売―――好感度を稼いだらどうですか?』
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好みの異性からのプレゼントは誰だって弱いのだ。ちょっとした我儘だって許してしまうものだ。
なのでアドバイスを貰った川内は早速購買に行き、「これだ!」と思った物を買ってきたのだ。
「提督!これ、あげるから頑張ろうね!!」
そう言って差し出された物を見ると
"夜戦打破~ガラナエキス従来品の3倍!!これで夜戦を乗り切れ!!~”
とどっかで見た栄養ドリンクのパチもんな物が何十本も入った袋を渡された。
一本手にとって栄養成分を見てみると、自分が知っているやつとは比べ物にならない成分が入っていた。本当に飲んで大丈夫なのだろうか?安心信頼の第本宮プロデュースと書かれているのが余計不安を煽る。国産と表示されているもので口に入れるのを此処まで躊躇してしまうのは初めてであった。
はて?……これはパワハラではないのか?
要は『これ飲んで早う残業こなせや』と強制しているのではないか?そう思いこれを渡してきた川内を提督は見るが――――いい笑顔だ、感動的だな。だが(提督の心の癒やしとしては)無意味だ。悪気が欠片も感じられない、完全な善意であることが感じられる。間違いなく、彼女はこいつを飲んで夜戦をキメれば元気になると本気で思っているのだろう。
それが出来るのは君たち艦娘達だけで、一般人である提督にはその様な機能はついていないのだ。
しいて言うなら、徹夜しているといきなり頭と目が冴え始める「徹夜ハイ」と呼ばれるランナーズハイの親戚みたいなのがあるが、あれは寿命を削って元気を前借りしているだけだから違うのだ。
しかし、それを説明したからと言って目の前で散歩に行きたそうな犬みたいな目でこちらを見ている彼女に夜戦を止めさせられる様説得出来るのだろうか?……無理である。そんなこと出来るくらいなら昨日の時点で止められていただろう。
自分には出来ない。なので仲間に頼ろう。そう思って、川内と一緒に部屋に入ってきた明石を見る。
――――が、目をサッと逸らされた。この野郎……!
こうなったら此処で一番頼れる大淀さん、君に決めた!……と、助けを乞う視線を向けた。
「提督。――――明日の午後から私が代わりに努めますので頑張って下さい。」
遠回しに行けと言われた。助けてよと視線に力を入れるが、「彼女を顕在化させた貴方の責任です」と視線で訴え返してきてぐうの音も出ない。寧ろ、午後から休みを取れるように配慮してくれているだけでも上等だろう。
(勘弁してくれよ……)と部屋のソファにもたれ掛かり頭を抱える提督であったが、自分が座ったすぐ後に向かい側のソファに誰かがドサッと乱暴に座る音がしてそちらを見る。
那珂だ。自称艦隊のアイドルが、アイドルがしてはいけない、堅気の者では絶対出せない眼光でこっちを睨んできている。
その視線から「提督、私達はこんな所では止まれない。連れってくれるんだろう、夜戦に」と言ってきているかのような幻聴が聞こえ始めてきた。
もう他に逃げれる手段は無いのか?と藁にもすがる思いを込めた視線を目の前の那珂に向けると、彼女は目を据えたまま指をクイクイと、「寄越せ」というジェスチャーを見せる。
何なのか一瞬分からなかったが、自分が手に持っている物を思い出してすぐに分かった。―――そして、最早逃げられる状況でないことを察した。
―――ドサッと自分の横に誰かが座った。誰だと思いそっちに視線をやると神通であった。彼女は菩薩様の様な優しい表情で「提督が行く所には、この神通何処へでもお供します」と言った。――――それに対して提督は「いや君のお姉さんを物理で良いから止めてくれない?」と思ったが、彼女でさえもう夜戦止めるのは諦めたのだろうと、思わず「ハハッ……」と乾いた笑いを漏らしてしまった。
……袋から三本、川内から差し入れとして渡された栄養ドリンクを取り出す。一本は自分、ニ本目は那珂へ、最後の一本は神通の前へ置く。そして三人同時に手に取り、同時に蓋を開け、提督が乾杯の合図代わりに一度瓶を高く掲げ、それに追随する形で二人も瓶を上げる。
そして提督は一度二人を見ると、二人共首を縦にふる。どうやら覚悟はとうの昔に決まっていたようだった。それを見て提督も覚悟を決めたのか、何が入っているのか詳しく知らない……そもそも人間用なのか疑問に残る栄養ドリンクを一気に飲み干す。それに合わせて二人も飲む。
飲んだ瞬間、最初に感じられたのは苦い、まるでインスタントコーヒーの豆を直に食っているかのような味、その直ぐ後には舌に痛みが。唐辛子か?いや、これはハバネロだ。痛い、痛い。目も鼻も痛い。目も頭も覚めるが、これはキツイ。堪らず、飲み終わった直後に咽るが、今度は体が熱く感じられる。スッポンにマムシの血は間違いなく入っているだろうが、絶対他にも何か入っている事がわかる。
「フー」と一度大きく深呼吸し、(他の二人も同じことをしている事からこれは艦娘にもキツイんだなと分かり余計不安になった)提督は瓶を割れない程度に思いっきりテーブルに置くと、スッと立ち上がり――――
「よしゃあああ夜戦行くぞテメーらあああ!!!私に付いて来い!!!」
―――――ヤケになって、部屋から出ていった。
そして彼の後を「止まるんじゃねえぞー!!」と言いながら那珂が付いていき、「私の持ってきた主砲は那珂ちゃんに渡してください。私には代わりのものを―――え?20.3cm砲しか無い?良いじゃないですかそれで。それを二本担いで出ますので急いで下さい。」と明石に早口で言うと急いで提督の後を追う神通。
残った者たちはその光景に数秒呆けていたが、ハッと我に返り「ちょっと!お姉ちゃん置いていくな~!!待ってよ~!」と急いで川内は追いかける。
「……まあ、結果オーライってやつなんですよね……?」と思うことにした大淀はふとさっきまで提督が座っていたソファを見る。其処には提督が最早ライフワークとかした日記帳があった。どうやら勢いよく立ち上がった際にポロッと溢れたのだろう。
大淀はそれを拾い、届けようと――――しようと思ったが、「あ!手が滑りました(棒)!」と言いいながら帳面を落とす。丁度ページが開くようにしながら。
「あー、これは不可抗力、不可抗力ですよ~……」と言いながら、拾う振りして一番新しく書かれたページを覗き見る。それを明石は白い目で見ていたが、それを無視して大淀は文章に目を通す。
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〈PM 8:30〉
今日は一緒に戦ってくれる娘達が沢山来てくれた。
自称アイドルの那珂ちゃん、胃痛枠な利根、特徴的な語尾以外常識人な球磨さん、電ちゃんの姉妹艦である雷、暁、響、そして神通さん。幸先が良い。彼女たちにはこれから苦労をかけると思うが、私も出来るだけの事はしていくから一緒に頑張ってこの鎮守府を盛り上げていきたい。なにはともあれ、今は今日の事を素直に祝おう。
そして、明日は今日より良い日になっていると良いな~。
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読み終わった大淀は目頭が熱くなった。感動からではない。哀れ過ぎて涙が出てきたのだ。きっと、これを書いた提督が約三十分後の自分の境遇を知っていたこんなこと書かなかっただろう。そして、苦労をかけると書いてあるが、寧ろ彼女らにこの先ずっと振り回されるのは提督ご自身である。それが分かって、大淀は提督のために涙を流した。
「お労しや、提督上……」
「ええから早う帳面届けてこいや。」
そんな同僚に白い目を向けながら明石は大淀の尻を蹴り飛ばした。
「ちょ、ちょっと何してるんですか!」と抗議するが、「いや、あんたの方が何やってんの?」と呆れている明石に何も言い返せない大淀は「し、失礼します」と顔を真っ赤にして部屋を出ていった。
そして残されたのは明石だけになった。
一人っきりになった明石は「あれとこれでしょう?そしてあれも引っ張り出さなきゃあなあ~、あ~忙しい忙しい」と呟きながら部屋を後にしようとする際、ポツリと独り言を漏らした。
「まだ二日目なのに、本当に退屈しないわ。良いこと何だけどね~……。
――――旗艦の冷蔵庫にブルーマウンテンのコーヒー豆でも入れといてあげましょうか……」
ため息を一度吐いて部屋を出ていく。向かう先は改装場。彼女らの装備の変更等を行わなければ行けないから。
だが、その前に提督の為にお高いコーヒー豆とその他諸々を買いに購買へと寄る明石であった。
連休のうちに後何話か投稿できるかな?