東方死線華   作:マスターBT

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病んでるなぁ……


自らを閉ざした華

 理由が分からない。だが、華扇さんは泣いていた。

 その事実に驚き、反射的に手を伸ばすが、その手が届くことはない。そもそも離れているのだから届くわけがないのに。伸ばした手に力が入らなくなり落ちる。何が起きた?何が彼女を悲しませた?何故、こんなにも私は焦っているんだ?

 考えても考えても答えは見つからない。

 

 ドンッ!!

 

 背中を叩かれ、脚が前に出る。振り返ればそこに博麗の巫女が立っていた。

 

「なにぼーっとしてるんですか?」

 

 不思議そうに首を傾げている巫女。全く気がつかなかったが、水汲みから戻ってきていた様だ。

 台所をチラッと覗いてなんの準備が出来てないのを確認し私と台所を二度見する。

 

「…え?師匠、大丈夫ですか。体調が悪いなら私が変わりますよ?」

 

「いや…大丈夫ですよ」

 

「大丈夫ならボーッと立ってないと思います……ってどうしたんですか!?」

 

 グイッと引っ張られ、顔を近づけられる。

 

「師匠!!もしかして何処か私の攻撃が入っちゃいけないところに入りました?顔色が凄く悪いですよ!」

 

 焦った顔の巫女を見て酷く冷静に自分の状態が宜しくないことを悟る。人ではない私は精神の状態にかなり引きづられる。

 仕事で無茶が出来るのは人間より精神さえ折れなければ大概どうにもなるからだ。

 

「…実はですね…」

 

 私一人では進展しない直感に襲われていた為、素直に状況を巫女に説明する。

 華扇さんという名を出した時にピクッと動いたが、話は聞いてくれてる様でそのまま説明を続ける。とは言え、詳しく説明したところで1分もかかるかどうかと言う説明。最終的には巫女は呆れの表情を浮かべていた。

 

「…はぁ…今からで良いので早く華扇さんを追いかけてください!」

 

「だが」

 

「だが、だけども無しですこの唐変木!!ああもう、師匠が感情とか考えないのは知ってたけどここまで重症でしたかぁぁぁ」

 

 頭を抱えてしゃがみながら叫ぶ巫女。あまりの姿と声量に瞬きをして考えていた事とか、思っていた事が全て吹き飛んでいく。

 今までとは別の意味で真っ白になりそれはそれですぐ動けない私を凄い勢いで首を動かし見てくる。鋭い視線に思わず半歩下がる。

 

「自分が考えてたりする事を相手も同じように考えてるとか思わない方が良いですよ師匠。

 ほら、走って追いかけてくだい。華扇さんに嫌われても良いんですか?」

 

 立ち上がった彼女にトンっと肩を押される。自分の意思じゃ動かなかった脚が簡単に動いた。

 一歩、下がり彼女に背を向けて走り出す。

 

 迷いは不思議となかった。

 

「すまない、感謝する」

 

 それだけ告げて俺は博麗神社を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幾らでも引き留められたのに良かったの?」

 

「……何がですか紫。なんのことかさっぱり分かりません。というかいるなら手伝ってねご飯作るの」

 

「え?」

 

「え?じゃない。私達は見せ物じゃないんだからそれで許してあげるって言ってるの」

 

 スキマから現れた八雲紫を雑にあしらいながら背を向け、台所に向かう博麗の巫女。その目に浮かぶ涙を見る者も掬う者もいない。

 

「……馬鹿師匠」

 

 それでも彼女は笑みを浮かべる。

 迷いは断ち切った。私は弟子として彼の側に居られればそれで良い。いつか別れてしまう私より時間を共に出来る彼女の方がきっと幸せになれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が降る中、人里の甘味処、飲み屋、橋。それ以外にも華扇と共に過ごした場所を駆け抜けていく。場所が中々におかしいのは許してほしい。

 あいつも言っていたが、俺は感情とかを考えるのが得意じゃない。だから、泣いた華扇が何処に行くかなんて分からないのだ。とりあえず人里には居なそうだ。

 それなら妖怪の山か。空を飛び全力で向かう。華扇と話しながら歩いた道も見ながら最高速度を維持する。しばらくすれば妖怪の山へと到着する。いつもの見張りをしている白狼天狗が凄い形相で詰め寄ってくる。

 

「あの、あの!何をしたんですか!?凄い事になってるんですが!!」  

 

 俺も驚いている。

 妖怪の山、その華扇がいるであろう場所から凄まじい妖力と霊力が溢れ出ている。詰め寄ってきた白狼天狗には頭を下げて山に入る。雑多な妖怪達は姿を現さない。強力な妖怪達は静観を選んだのか動きはない。つまり、俺を邪魔するものは居ない。

 

「問題は……道が分からない。華扇の影響をモロに受けて、正解の道がどんどん切り替わってる……俺の速度じゃ対応できない」

 

 正解の道筋は見えてもこうも荒ぶっていては移動が間に合わない。仙人としての能力と彼女の精神状態が噛み合うとこうも難攻不落の道になるか……手を伸ばしてみるが風の壁が突如現れ、弾かれる。

 

「…華扇」

 

 弾き飛ばされた手を見つめ彼女の名を呼ぶ。見つめたまま拳を握り、目を閉じる。

 思い返す彼女との日々。何を躊躇っている?俺はまだ華扇とあの日々を過ごしたいから弟子に背中を押されてまで来たんじゃないのか。嫌われたくないんだ。このまま、華扇との関係がただの死神と仙人に戻るのが嫌なんだ。なら、俺に出来る事はなんだ?今まで何をしてきた。

 

「ふぅ…」

 

 霊力を拳に集める。俺が出来るのは力尽くの解決のみだ。

 仙術も使えるが、そんなものは見て覚えただけで齧っただけのもの。この結界を打ち壊せるほどは使えない。ならば、無理やりにでも突破するしかない。

 

「アァァァァァァァァァ!!」

 

 全力で拳を叩き込む。無理やり抜けようとする異物を認識した風の刃が結界から飛び出し俺の身体を傷付けていく。

 この身が傷付く事に恐れる必要はない。どうせすぐに治るのだから。目に見える傷より、見えない傷を負わせてしまった俺がこの程度で引き下がれるか……!

 力を込めて結界を破壊する。決して浅くはない傷が主に右手に出来たが、無視する。

 

「次…!」

 

 今度の結界は大岩か?まぁ、なんでも良い。壊して砕いて突き進むだけだ。

 

「それじゃ辿り着く前に身体が持ちませんわよ?」

 

「……何処から現れた。青娥」

 

「あら、名前覚えてくれてましたのね。ありがとうございます」

 

 ニコニコした笑みを浮かべ近寄ってくる青娥。さっきまでカケラも気配がなかったぞ。

 

「仙人様も貴方も随分と荒れてますねぇ…良ければお手伝いしましょうか?」

 

 何を考えている?

 青娥が俺を手伝う理由はない筈だが……しかし、このままでは確かに俺の身が保たない。手伝ってくれると言うのなら甘えるべきか。どんな思惑があるのかは知らないが、使えるものは使っていかないと華扇の元にたどり着けない。

 

「分かった。だが、どうやって手伝ってくれると言うんだ?」

 

「こうしてですわ」

 

 髪から簪を引き抜き、目の前の壁に円を描くようになぞっていく。

 すると、向こう側が見えるほど貫いた綺麗な円形の通り道が生まれた。壁に穴を空ける能力か?

 

「私の簪は壁に穴を開けられるの。便利でしょう?物理的な壁が邪魔をするならこの様に穴を。仙術で惑わしてくるなら私が同じように仙術で道を作りましょう。貴方様は私の後ろをついてくるだけで仙人様の元に辿り着くという訳です」

 

「お前が素直に案内すればな。別の道に連れて行こうとすればその時点で殴り飛ばす。俺には正解の道が見えているからな。

 対価は後で請求してくれ。今はそんな余裕はない」

 

 青娥を追い抜き、穴を通る。便利なものだな、簡単に向こう側に出れた。青娥もすぐにやってくる。

 

「信用ないですわねぇ。少しぐらいは信じてくださいまし?泣いてしまいますよ」

 

「……それだけ軽口が叩ければ泣かないな。次は霧か」

 

「それと迷路ですわね。闇雲に進めば方向すら分からず永遠に彷徨う事になりますね」

 

「よくこの霧で迷路だと分かるな」

 

「仙術で視覚を強化したんですよ。道教に入信するなら教えて差し上げますわ」

 

「便利そうだが、断る。案内を頼めるか?」

 

「良いですわ。こっちです」

 

 歩き出した青娥の後ろをついていく。道中では行き止まりに見せかけた正解の道もあったので青娥の簪の力で穴を開け通り抜ける。

 迷路を抜けた後も、青娥の仙術の世話になりながら華扇の元へ向かっていく。しかし、改めて仙術の便利さを感じた。降り注ぐ雷を片手を振る事で打ち消したり、荒れ狂う風雨を一言呟いただけで快晴にする。

 

「仙人の結界は基本、仙術で構成されてますの。故に、同じ仙人なら破りやすいのですよ。特に私の方が長いから簡単なのですわ」

 

「何も聞いてないが」

 

「顔に書いてありましたから」

 

 話しながら道を越えていけば、妖力と霊力の一番濃い場所に辿り着く。

 相性が決して良いとは言えない二つの力がぶつかり合い、それだけで侵入が難しい空間を形成している。青娥の力を借りればこれも簡単に抜けられるのだろうが、力を借りるつもりはなかった。

 

「青娥、助力に感謝する。この先は俺だけで十分だ」

 

「あら?良いんですか?」

 

 少しは楽しげな顔を隠してそう言う言葉を出せ青娥。こいつの気にいる方向に事が進んでいるのは癪だが、助かった事は事実だ。

 言葉を返さずに、全身を霊力で包み鎧の様にする。そのまま、一歩一歩踏み出し越えていく。全身に纏った霊力が凄まじい勢いで剥がされていく。当然だ。今の状態を例えるのなら、石や砂を巻き上げ吹き荒れる嵐の中を多少厚着をして歩いている様なものだ。

 道中で多少の傷は癒えたが、万全ではない。古傷を抉るように再び傷が深くなっていく。

 

「……見つけたぞ。華扇」

 

 嵐を抜けた先には、華扇が蹲っており、彼女のペットだろうか?霊獣達が、寄り添い俺を警戒するように牙を向けてくる。

 

「お前達の主を傷付けに来たわけじゃない。謝罪に来たんだ」

 

 周囲の嵐とは打って変わり、静かな場所。

 あぁ、此処は俺と華扇がいつも殺し合いをする場所だ。わざわざ此処を選んで彼女は閉じ籠ったのか。周囲を眺めながら歩き出す。

 

「「ガァ!!」」

 

 虎と龍が俺の両肩に噛み付く。

 痛みに顔を歪めるが、変わらず足を動かす。身体を動かすほどに二匹の牙が深く突き刺さり出血が酷くなる。この二匹は主を想っているだけだ。無理やりにでも外す事はできるが、無傷では無理だ。ペットまで傷付けたとあっては華扇に申し訳がたたない。ゆっくりと華扇に近づいていくと、やがて二匹は俺から離れる。……ありがとう。信じてくれて。

 

「……」

 

 年老いた大鷲が俺を一瞥すると、華扇の側を離れる。若い大鷲が驚いた様にそれを見るが、やがてゆっくりと離れる。

 

「華扇さん」

 

 しゃがみ、華扇さんに声をかけた。相変わらず蹲ったまま私を見る事はない。

 

「……私は貴女も同じ様に考えてると勝手に思ってました。でも、違ったのですね。すみませんでした。勝手な決めつけでした。

 恥ずかしながら、私は貴女以上に長く、深く時間を過ごした相手がいないのですよ。ずっと仕事ばかりしてましたから。他者と関わる事に関心がなかったのです。私の父も母も同じでした。そんな環境で育った私はそれが当たり前だと思うようになりました……いえ、どれだけ言葉をこねくり回してもめんどくさいだけですね。私は、華扇さん。貴女に嫌われたくないんですよ。どうか、俺を許してくれ」

 

 どれだけ体面を取り繕うと、言葉を選ぼうとも結局のところ、私は華扇さんに嫌われたくない。

 沈黙が場を支配する。言いたい事は全て言った。後は華扇さんの言葉を待つだけだ。もし、華扇さんが私を嫌いだともう二度と会いたくないと言われればどうしようか。死神として殺さなければならないが、その役目を達成できるだろうか。

 

「………わ、たしが、貴方を嫌いになる訳ありませんよ……」

 

 華扇さんが俯いたまま言葉を発する。

 

「…でも……だからこそ、不安になるんです……貴方が私以外の女性と…私が知らないところで何かをしてる……それだけで、酷く落ち着かない。醜いと分かっていても!!貴方を!ずっと、私の手元に置いておきたくなる!!四肢を捥いで、何処にも行かない様にしたくなる!!仙人になっても、雫と出会ってから鬼としての本質が、感覚を思い出してしまう!!!もう私は鬼として生きる事なんて出来ないのに」

 

 ずっと我慢していたのだろう。溢れ出した言葉と共に俺を押し倒す。彼女の両手が先ほどの傷に強く触れ、痛みが走る。

 

「…華扇さんが元々鬼である事なんて気が付いてましたよ。

 私の能力は、相手の命の大きさを見る事が出来ます。人と妖怪ではそもそも大きさが違いますからすぐに気がつきましたよ。仙人になろうともその辺は変わりませんから」

 

「なら、どうして!!……変わらず私と接したのですか……鬼として恐れてくれれば……こんなに貴方を想う事はなかったのに…」

 

 手を伸ばし、華扇さんに背中をゆっくりと摩る。落ち着いて貰うために。

 

「だって、貴女は仙人じゃないですか。どんな選択が貴女に合ったのかは知り得ませんが、簡単な道のりでは無いのは分かります。

 過去に鬼だろうが、今はその選択を選び仙人になった貴女の意思を私が否定する訳がないじゃないですか」

 

 在り方が変化する事が基本ない妖怪が、在り方を変えると言うのは想像を絶するほど難しい。

 妖怪は概念的な存在。概念が進歩する事も、変化する事もほとんどない。

 

「…自分の想いすらよく分かっていない私が、それを否定する事は出来ない。

 それに、私は貴女の願いも我欲も、否定しません。何かがあればどうぞ、私に言ってください。遠慮など必要ないです。とはいえ、四肢を捥がれるのは困るので別の願いを頼みたいところですね」

 

「分かってない……私がどれだけ酷い欲望を抱いてるか雫は理解してない!!

 貴方が、別の女性といるだけで許せない。結界がこんなになるぐらい揺らぐ。此処に来た時だって、以前出会った女性と一緒だった!!それを見て……私はまた嫉妬した。どうして、私が貴方の隣にいないのだろうって……」

 

 グジュ!っという音共に華扇の爪が、傷に喰い込む。

 そのまま、指を動かし肉をかき混ぜられる。凄まじい痛みが走る。痛みを堪える私をどことなく恍惚とした表情を浮かべる華扇さん。

 

「…あ…あぁ、なるほど……理解しました。今の貴女はこういう事が平気で…出来てしまうのですね……」

 

 背中に回していた手を戻し、華扇さんの両手を掴む。

 

「…貴女の願いなら否定しないと言いましたが……訂正しますよ。

 止まれ、華扇。それ以上は戻れなくなるぞ」

 

「……戻れなくても良いですよ………それで貴方が雫が!!私の側に居てくれるなら!!!!!」

 

 あぁ…俺は本当に愚かな選択をしていた。巫女に背中を押されてもなお、理解してない。

 今の彼女を認める事も、否定する事も全てが間違いだ。仙人であろうとする華扇と、鬼としての本能に呼び起こされてる華扇が混在している以上、片方を必ず否定してしまう。それならどうすれば良いか。

 

「……華扇」

 

 殺気と共に言葉を出すと、俺の上から華扇が飛び退く。

 傷が痛むのを無視し、立ち上がる。

 

「お前が俺の意思を捻じ曲げてでも手元に置きたいと言うなら、やってみろ。全力で抗ってやる。

 俺はお前に殺されない。何故なら、俺が殺すからだ(取り戻す)!!覚悟しろ」

 

 謝りに来たはずなんだが、何故こうなるのか。だが、俺たちにとっては一番これがお互いを理解出来る。

 

「私は殺されないし、貴方も殺さない。でも、雫が殺し合い(愛し合い)を望むなら、それで私だけを見てくれるなら!」

 

 殺すために殺すのではない。正気に、普段の華扇を取り戻すために殺し合う戦いが始まる。

 憎ったらしいほどに綺麗な月が俺たちを照らしていた。

 




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