東方死線華   作:マスターBT

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紅魔館で、一番肉弾戦に優れてるであろうあの方の登場回


吸血鬼異変其の弐

 八雲紫によって呼ばれた私達が参戦して数刻。戦況は有利に進んでいた。吸血鬼が率いる軍勢は、数こそ多いが大半はこの幻想郷で奴らの軍門に下った弱小妖怪達だ。人々の恐れが薄くなった幻想郷でも、強者として君臨している八雲紫達が負けるわけがない。

 

「師匠ー!下がってーー!」

 

「分かりました」

 

 目の前の妖怪の頭を蹴り飛ばし、一旦後ろへと下がる。直後、降り注ぐ大量の霊力で作られた砲撃。私達で陣形が乱れ塊になった所に博麗の巫女による爆撃ですか……これだから策士は敵にしたくないな八雲紫。妖怪達の悲鳴が響き渡る。聞こえてくる悲鳴の中には、こちらへの投降を願い出ているものすらある。寄せ集めなどこんなものか。

 

「……この程度が私達の本気だとお思いですか?」

 

 爆撃により巻き上がった煙の中から、強力な殺気と共に声が聞こえ、同時に土を踏み締め進軍する軍隊の様な足音や空を飛んでいるのか翼をはためかせている音も聞こえだす。やがて、土煙が晴れその軍勢は姿を現す。

 軍の戦闘を歩くのは、海を隔てた大陸の服装……確か淡い緑の華人服の様なものを着て、腰まで伸ばした紅い髪の女性。腕を後ろに組み、軍隊を引き連れるその姿は正しく強者のそれ。背後に率いる軍勢も、今まで戦っていた連中とは一線を画す存在。紅色で統一された戦闘服を身に纏い、それぞれが思い思いの武器を持ち一糸乱れぬ行軍をしている。

 

「……このまま、腑抜けた連中ばかりかと思っていましたが漸く本腰を入れられる相手が現れてくれた様で。私達の主もご満悦です」

 

 先頭の女性が手を横に出すと揃って後ろの軍勢が足を止める。

 

「本来であれば、主の元へお連れしても良いのですが一つどうやら、何か思いついた様子でして」

 

「その思いつきが後ろの軍隊ってことかしら?」

 

「はい。主の言葉をそのままお伝えします。『強き者達よ、お前達の相手をするには少々、情けない相手を用意した私の不備を謝ろう。そして、是非楽しんでくれたまえ。これが、これなる紅美鈴が率いる軍勢こそが真なる兵だ』……とのことです」

 

 姿勢を変えることなく主の言葉を告げた紅美鈴。どうやら、主とやらは私達を楽しませる為にこの軍勢を差し向けたらしい。なんというか、相当に負けず嫌いでプライドの高そうな方ですね。ただ、こっちも負けず嫌いが多いので先程の言葉で完全にスイッチが入っている。萃香も、風見も華扇も、そして俺も。ここで誘いに乗らなければ、自分たちが弱いと認める事になる。それは出来ない。

 

「どうやら、皆様方準備は完了しているご様子。では」

 

 右手を上げ、振り下ろす紅美鈴。それが開戦の合図となった。武器を構え、向かってくる数百の紅い軍勢に対し、最初の攻撃が風見が行った。傘を前に突き出し、高出力の砲撃が放たれる。まともに受ければひとたまりも無い攻撃だが、盾の様なものを持った連中が飛び出し砲撃を受ける。本隊に着弾する前に邪魔され、風見の砲撃は届かなかった。

 

「チッ、何度も変えが効く肉盾って訳」

 

 舌打ちと共に風見が言葉を溢す。その言葉の通り、吹き飛んだ盾持ちの肉片が再び集まり、再生する。

 

「死のうとも主に忠誠を誓った者達です。例え、肉片一つになるまで吹き飛ばされようが、幾らでも再生します」

 

「へぇ?じゃあ、こういうのはどうだい?」

 

 むせ返るほどの酒の香りが戦場を漂う。口に酒を含み、霧状に吹き出している萃香の仕業だ。無差別攻撃に見えて、しっかりコントロールされており匂いのほど酔いが襲ってくる事はない。だが、敵の何体かは前後不覚に陥り崩れ落ちている。が、紅美鈴を含む大半には効いていない様だ。相変わらず乱れのない動きでやってくる。

 

「ありゃりゃ。砲撃もダメ、絡め手もダメ。それなら、やる事は単純だと思うけどみんなどうかな?」

 

 萃香が戯けた様子で聞いてくる。無論、返事など決まっている。

 

「「殴って蹴って最後に立ってた奴が勝者。それで良い」」

 

「二人揃ってまぁ……でも、久しぶりにステゴロもありね」

 

「決まりだね。じゃ、そういう感じで」

 

 全員で駆け出す。呼応する様に相手の軍隊も駆け出し、衝突した。迎え撃とうとするより早く、風見幽香が飛び出す。

 

「砲撃だけが私の得手じゃないの」

 

 咲き誇る花の様な笑みを浮かべて、手に持つ日傘で一纏めに敵軍を吹き飛ばす。吹き飛ばされた先で、気色の悪い動きであらゆる関節を鳴らしながら起き上がる敵兵。妖怪が生命力に満ちているとはいえ、気色が悪い光景だ。

 

「ふふっ、起き上がってくるのなら、起き上がれなくなるまで何度も何度も潰してあげる」

 

 そんな光景を恍惚とした表情で見てる風見幽香はきっと加虐趣味なんだろう。努めて不思議なほどに返り血を浴びていない彼女を無視して駆ける。すると今度は図体のデカイのが二体立ち塞がる。

 

「ふーん……こいつらは私が引き受けるよ、先に行きな」

 

 いつの間にか大きくなった萃香が二体と組み合う。片手で一体ずつ押さえ込んでいる辺り馬鹿力だな。

 

「吸血鬼の傀儡になってまで、生きたかったか?人間ども!そぉら、鬼が来たぞ」

 

 押さえ込むどころが投げ飛ばしやがった。紅美鈴までの道中を塞ぐ敵を華扇と共に薙ぎ払いながら進む。俺たちは、風見幽香みたいにいちいち相手にしない。復活する奴を相手するだけ無駄だ。

 

「「はぁぁ!!」」

 

「来ましたか。思ったよりは早いですね。貴方達は手を出さなくて良いですよ。私よりあそこで楽しそうにしてる方の所へ」

 

 周囲を囲む連中にそう指示を出す紅美鈴。随分と余裕な態度をしてくれる。

 

「あら、自分から二対一になるなんて舐めてくれますね」

 

 華扇も同様の事を思ったらしく、青筋を浮かべた笑みをしている。向けられた殺気に一切怯む事なく、紅美鈴は俺たちを値踏みする様な視線で眺めたあと、視界から消える。

 

「ッッ!?華扇!!」

 

「余裕ですよ?まずは、一人」

 

 一瞬で詰め寄ってきた紅美鈴に華扇が吹き飛ばされる。武術には、相手との距離を一瞬で詰める独特の歩法縮地がある。紅美鈴は、俺より練度の高い縮地で華扇に詰め寄り、更に攻撃を気取らせない無拍子という技術で華扇に攻撃を悟らせなかったのか。会話をせず紅美鈴の動きに注視していたから、僅かな重心移動に気がつけた。それでも、華扇への忠告が遅れた。吹き飛んだ華扇が心配だが、あいつの生命力は伊達じゃない。信じるとしよう。

 

「……相方が吹き飛んだのに随分と落ち着いていますね。咄嗟の忠告と言いやっぱり、貴方は武術の心得があるようだ」

 

「だから俺に初手に攻撃しなかったと?」

 

「はい。武術を嗜んでる妖怪など中々いないもので」

 

 そう言うや否や俺の瞬きに合わせて蹴りを放ってくる紅美鈴。頭部狙いの蹴りを半歩下り避け、その足が地につくより早く腰を落とし、横腹を狙い拳を放つ。だが、それはまだ足も地面についていない不完全な状態にも関わらず左手で流される。

 直後、衝撃と共に俺の身体が紅美鈴から離される。視界に捉えている紅美鈴の格好から何を受けたのか理解する。八極拳の中の一つ靠撃──所謂、体当たりを受けたようだ。一気に身体から排出される酸素。

 

「こんなものですか?」

 

 ドンッ!派手に叩きつけた訳ではないのに、地面が爆ぜたかのような音を出し震脚が行われる。離されたとはいえ、まだ近距離である事に変わりはない。体当たりにより体勢を崩され、生半可な受けも回避も許されない。紅美鈴から放たれる砲撃の様な拳をどう対処するか。いいや、此処で受けに徹しても勝機はない。であれば、攻めるのみ!

 

「なっ!」

 

 崩された体勢で無理やり、地面を蹴り紅美鈴との距離を詰める。死中に活を求める……俺が避けたり受け止めたりするのを想定していた紅美鈴の拳は距離を詰めた事で脇腹近くを掠めていく。本来、俺に当たる筈だった一撃は当たらず、力を込めた分体勢を戻すのにも時間がかかる。それは、紅美鈴であっても変わらない。その数瞬があれば今度は俺の体勢が整う。

 

「舐めるなよ」

 

 重心を落とし、引き絞った掌底を紅美鈴の鳩尾に叩き込む。派手に後ろに飛んでいくが手応えが薄い。どうやら、当たる瞬間に跳躍しダメージを抑えた様だ。

 

「こほっ……あそこで詰め寄ってくるとか命知らずじゃありませんか?しかし、私もまだまだですね。貴方の様な方を簡単に倒せると思っていたとは」

 

「よく言う。攻める以外の逃げ道を無くしたのは其方だろうに」

 

「えぇまぁ、こんな反撃を喰らうとは思っていなかったッッ!?」

 

 紅美鈴が錐揉み回転しながら吹き飛んでいく。彼女がいた場所に着地する華扇。

 

「仕返しは済んだか?」

 

「……随分と楽しそうですね雫」

 

「え?いや、別に」

 

「口調変わってますよ?私が吹き飛ばされたのに楽しかったですか?強い方と戦うのは」

 

「この戦い始まってから口調変えてませんよ!?」

 

 言い掛かりのレベルでいちゃもんをつけてくる華扇さん。まさか、戦い始まってから一度も変えてない口調を突っ込まれるとは……

 しかし、目の前で如何にも私怒ってますと頬を膨らませ、ツーンっと視線を合わせない彼女を見ていると、私が悪かった様に思えてくる。狡いなぁ…この仙人様。

 

「すみません、後でお団子でも一緒に食べに行きましょう?私が奢りますから」

 

「え!?そ、それなら許してあげます。ふふっ、楽しみにしてますからね」

 

 チョロいな、この仙人様。ニコニコしながらお団子の種類をあげてる華扇さんを見ながら、財布が軽くなる未来を感じた。

 

「…何、イチャイチャしてるんですか?戦いの途中ですよ?」

 

 立ち昇る闘気が龍に幻視する程の圧力を放ちながら、紅美鈴がゆっくりと向かってくる。華扇の一撃を受けて、吹き飛んだがやはり、意識を失っていなかった様だ。寧ろ、先ほどよりやる気に満ちている。外の世界で、よほど楽しめなかったらしいな紅美鈴。

 華扇と視線を合わせ、構える。二対一の絵面になるが、元より戦。正々堂々が正義では無く、勝った者が正義の場。現に構えた俺たちを見て、紅美鈴は笑みを強くしている。

 

「さぁ……さぁ!さぁ!来てください!もっと、もっと!苛烈に熾烈に武を競い合いましょう!!」

 

 俺と華扇の一撃は、紅美鈴から一軍を率いる将としての仮面を砕き、ただの武人としての紅美鈴を引き出した様だ。同時に俺たちも、強者と対面し戦いへの欲求が我慢できなくなる。互いに霊力を限界まで高め、紅美鈴へと左右から同時に攻撃を放つ。

 

「「上等!!」」

 

「ふっ─」

 

 両手を挙げ、俺たちの攻撃を受け止める紅美鈴。完全なゼロ距離で戦いに魅入られた三者が顔を合わせる。全員が、凶暴な笑みを浮かべている事は言うまでもない。

 




長くなりそうだったので、本格的な戦闘は次回。
感想・批判お待ちしています。

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