東方死線華   作:マスターBT

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お久しぶりです。一度、沼ってなんだか全く手が動かなくなってましたが、時間が解決してくれました。


吸血鬼異変其の参

「合わせろよ華扇!」

 

「そっちこそ!」

 

 戦いに向ける本能が唸り上げ、昂っていく。今まで身につけた武術は人を殺すためのもの。妖怪を殺すためのものではない。だが、目の前の紅美鈴は力のまま暴れるのではなく、精錬された技を以って向かい撃ってくる。しかも、背を預けるのは俺がこの幻想郷において最も、信頼する華扇だ。昂るのも仕方がないと言うもの。

 

「ははっ、いい気ですね!ですが、もっともっと引き出さないと私は倒せませんよ!」

 

 右手で俺が頭部を狙って放った拳を受け止め、左足で華扇の蹴りを受け止める紅美鈴。その表情はかなり余裕だ。どうやらまだ、彼女の底を引き出すには足りない様だ。さて……どうしたものか。

 

「考え事とは余裕ですね?」

 

「チッ」

 

 目の前に突き出された拳に両手を盾にして後ろに飛ぶ事で勢いを殺すがそれでもなお、余りある力が俺を襲う。両足を地面に着け、地面を砕きながら完全に勢いを殺した。痺れる両手を何度か開きながら、感覚を取り戻し正面を向く。そこでは、吹き飛ぶことの無かった華扇が紅美鈴を力に任せた攻撃を行なっていた。まともに食らえば、大穴を空ける事すら出来るその攻撃を紅美鈴は、衝撃を逃したり逸らしたりしながら立ち回る。

 

「せいっ!」

 

 華扇の攻撃を弾き、胴がガラ空きになった所で体当たりを繰り出し華扇を吹き飛ばす紅美鈴。吹き飛ばされた華扇は空中で回転し、地面に着地するが僅かに体勢を崩す。どうやら彼女を以ってしてもかなりの衝撃だった様だ。

 

「──どちらも、優秀ですが足りないものがあります。心技体という言葉はご存知ですか?」

 

 背中に手を組みながら土煙より姿を現す紅美鈴。俺達が否定も肯定もしないと、涼しげな顔をしたまま彼女は言葉を続ける。どうやら別に返事は求めていなかった様だ。

 

「先ずは、其方の桃色の髪の方。貴女は、心と体は大したものです。敵として立ちはだかる私を一切の容赦なく、殺すつもりなのがよく分かりますし、まともに食らえば流石の私もタダでは済まない攻撃を放てる体は凄まじい。ですが、技がない。少しだけ技の様なものは感じられますが、まだまだ。素人に毛が生えた様なもの。悪戯に振るわれるだけの力では私を捉える事は出来ませんよ?」

 

「はっ……言ってくれるじゃない」

 

 元々が鬼であり仙人としての道を歩み出したばかりの華扇。鬼として圧倒的な力を振るえば良かっただけの彼女には確かに技はない。俺から盗んだり真似たりしてる節はあるが、紅美鈴が言った通りそんなの素人に毛が生えた程度だ。

 

「そして貴方」

 

 紅美鈴が俺を見る。なんとく言われる事に予想はつくが、大人しく聞いてやるとしよう。

 

「逆に貴方は心が無い。何年掛けたかは知りませんが、成熟した技を持ちそれに耐え得る身体を持ちながら、貴方は空虚なままだ。私という強者との戦いを楽しんではいますね。それは分かります。ですが、倒すという気概を感じない。そんな半端な気持ちで私は倒せませんよ。幻想郷でしたか。失っても良いのですか?」

 

 紅美鈴の言葉に俺は何も驚かない。楽しんでいるだけか……それはそうさ。私は死神であり、輪廻の理を守る者。私が殺すべき対象は、理を乱す仙人などであり妖怪は関係ない。紅美鈴に当たる前に吹き飛ばした妖怪がいた気もするが、そんなのは本気で殺そうとすら思わずに殺せるだけという事。わざわざ手加減をする道理は此方には無いのだから。

 だから、私は紅美鈴の言葉に微笑と共に返す。

 

「でしょうね。私が今、全力を尽くし殺したいのはこの世界にたった一人のみ。それが果たせるのなら別に『幻想郷など消えても構わないと思っていますよ』支配者が八雲紫から其方の大将に変わって頂いても別に構いませんよ。えぇ、認めます。私は貴女との戦いを道楽とすら思っています」

 

 あんなに啖呵を切っておきながら心の奥底で煮えたぎらないものを感じていた。それは何故か?少し考えればすぐに答えは出た。強者と戦うのは確かに楽しい。だが、それは本分ではない。華扇の時の様な己すら焼き尽くす様な闘志を、殺し合い以外を考えられなくなる様な狂気を私は感じなかった。

 

「……舐められたものですね」

 

 紅美鈴の闘気が殺気が膨らむ。どうやら、私の返事が気に食わなかったらしい。本気でないだけで、全力ではあったのだが。とは言え、そういうものと気が付いてしまえば熱意は下がる。口調が元に戻ってるのが良い例でしょう。

 

「ならば、その余裕引き剥がしてみせます」

 

 ドガンッ!っと地面を砕き、紅美鈴の姿が消え、次の瞬間には私の目の前に現れた。音すら置き去りに放たれた拳を受け、私は吹き飛ぶ。全く、いきなりやってくれる……!

 吹き飛ばされた先で、風見優香が永遠に再生する連中を挽肉にしているのが見えた。あいつの怪力なら私を打ち返すのも容易でしょう。どうやら向こうも私に気が付いたようで、傘を横に構える。

 

「利用料金はどちらに?」

 

「四季様にお願いできますか」

 

 両足に衝撃を感じると共に勢いよく打ち出された。どんどん加速しながら、吹き飛んできた道を戻る。しかし、綺麗に打ち返すものですね、ほらもう紅美鈴さんが見えました。まさか私が吹き飛んで戻ってくるとは思っていなかったのか此方を驚いた顔で見ている紅美鈴さんの頬を、勢いよく殴り飛ばす。

 

「ぐあっ!」

 

「流石の貴女も、奇策には弱い様ですね」

 

「いや、飛んで行った勢いと同じかそれ以上で戻ってくるのを予想できる奴はいないと思いますよ。どうやったの?雫」

 

「風見優香さんに打ち出して貰いました。凄いですね、彼女。的確に送り返してくれました」

 

 そう言うと華扇さんが引いた表情になる。はて?そんなに悪い方法でしたでしょうか。こうして、すぐに戻って来れましたし紅美鈴さんも殴り飛ばせたので良い事だらけだと思うのですが。

 

「やってくれましたね」

 

 ゆらりと立ち上がる紅美鈴。その身に纏う闘気のせいか、彼女の周辺が陽炎の様に揺らめく。服に付いた土埃を払いながら、私達を睨みつける紅美鈴。華扇さんと共に反射的に構える。どうやら眠れる龍を叩き起こしたようですね。……ふと、思いついた事があるので華扇さんの方を向く。

 

「華扇さん、一つ提案なのですが良いですか?」

 

「えぇ。良いですよ」

 

「先程、紅美鈴さんに好き放題言われた私達ですが、それに対する正解を見つけまして」

 

「え?でも、私の武術の腕がいきなり進化はしないわよ?」

 

 不思議そうな顔をして首を傾げる華扇さん。しかし、向けられる視線に一切の不信感はない。その態度に嬉しくなりながら、続きを話す。とは言え、これ物凄く脳筋な回答なんですよね。

 

「違います。紅美鈴さんを挟んで、私達で殺し合いをしませんか?いつもの様に」

 

 その提案に暫く瞬きをした後、笑みを浮かべる華扇さん。どうやら同意を頂けたようですね。

 

「死神にも融通が効くところがあったんですね?」

 

「えぇまぁ。でも、そう簡単に殺されないでしょ貴女は。では、私が挟みに行きますので」

 

 紅美鈴に向けて跳躍。攻撃をする素振りを見せて、そのまま駆け抜ける。不思議な行動をした私を視線で追いながら、紅美鈴は身体を正面に向けたまま口を開く。

 

「挟み撃ちですか。その程度で私がやられるとでも?」

 

「……さぁ、どうだろうな?」

 

 華扇と同時に走り、間に紅美鈴を挟む形で距離を詰める。俺たちの動きに注意しながら構える紅美鈴。鏡合わせのように、振り上げられる俺と華扇の脚。それらを迎撃しようとして紅美鈴は気が付いたようだ。自分が狙いではない事に。慌てて、飛び退いた紅美鈴。その隙間を埋めるように勢いよく俺と華扇の脚がぶつかり合う。

 

「──は、ははっ、正気ですか?敵を挟んでいいえ、全く見ようともせず自分らで殺し合おうとするなんて」

 

 勢いよく弾かれる脚を引き戻し、華扇の拳を飛び退いて避ける。この時に砕かれた地面の破片が紅美鈴も巻き込む形で俺に向かって飛んでくる。それら避けると華扇が飛び蹴りを放つ。受け流し、紅美鈴の方に飛ばしながら俺自身も追いかける。

 

「くっ」

 

 飛んできた華扇を受け止める紅美鈴。だが、それによって華扇に足場として利用される。追いかけた俺の拳を紅美鈴を足場にする事で跳躍して、避ける。結果、なにが起きるかと言うと、華扇に足場にされ体勢を崩した紅美鈴のガラ空きの胴体に俺の拳が突き刺さる。

 

「気を読んでも意味がない……!本当に私が眼中に無いなんて!!」

 

 くの字に曲がった彼女がこのとんでもない戦い方に文句を言ったタイミングで、跳躍していた華扇が戻ってくる。俺が一歩後ろに移動すれば、それだけで華扇の攻撃は当たらない。そう、俺には。

 

「はぁぁ!!」

 

「こんの!!」

 

 紅美鈴の後頭部に華扇の両足が叩き込まれる。ふらつきながらも、反撃するがそこに華扇は居ない。俺が避けたから即座にその場を離れている。再び、紅美鈴を挟む形になった俺たち。止まる事を知らない俺たちはまた同時に攻撃に移る。俺は拳、華扇は掌底が紅美鈴を間に挟んだまま放たれる。前後から全力の攻撃を食らった紅美鈴。

 

「……こんな、ことって……」

 

 力無く彼女が崩れ落ちる。それと同時に、まだ戦う気だった俺たち耳に言葉が響く。

 

『戦いはそこまで!幻想郷代表、八雲紫』

 

『紅魔館代表、レミリア・スカーレット。この両者の間で同盟が締結されたわ。無駄な争いはここまでよ』

 

 一兵卒にはなにも分からないまま、戦いは終着した様だ。




戦術が過去最高に頭悪い……

感想・批判お待ちしています。ちなみに、あと一話か二話吸血鬼異変編は続きます。

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