東方死線華   作:マスターBT

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サブタイは経過時間を表す感じでいきます。
ざっくりこの年数のどこかで今回の話があったんだなー程度の認識でどうぞ。


101~199年目

「華扇さん、これをどうぞ」

 

興奮状態から解放されれば当然、痛み出す体。

当たり前だ。丸一日、殺し合いをしていたのだから身体がボロボロなのも仕方ない。

そんな事を思いながら私は華扇さんへハンカチを差し出す。キョトンとした顔で私を見てくる。

 

「女性がいつまでも煤汚れている訳にはいかないでしょう。尤も、原因である私が言うのもアレなのですが」

 

「…え、あ、ありがとうございます」

 

暫く固まった後ハンカチを受け取り、顔を拭く華扇さん。

その間周りを見渡す。最初、ここに来たときはかなり綺麗だったのだが、私と華扇さんの戦いの余波で無残な状態だった。

殴り合いをしていた場所は大きな穴を空けており、周囲の草木は吹き飛んでいるか折れている。

これがただの拳と脚のぶつかり合いの結果だと言って誰が信じるのでしょうか。

 

「あまり長居するのも悪いでしょう。私はこれで」

 

激痛を努めて無視して立ち上がる。

しかし、私は忘れていた。華扇さんと支え合う様に寄りかかっていたという事を。

 

「キャッ!」

 

「危ない!」

 

完全に脱力した状態で寄りかかっていたのだ。

支えを失えば簡単にバランスを崩す。

手を伸ばし華扇さんを支えに行く。しかし、私も全力を尽くしたあとだ。不完全なバランスを制御出来ず華扇さんに引かれる形で倒れ込んでしまう。

 

「…いたた。大丈夫で…す…か……」

 

視界一杯に広がる華扇さんの顔。

どうやら勢いよく華扇さんを押し倒す様な形になってしまった様だ。私の視線が華扇さんの綺麗な紅い瞳へ吸い込まれていくのが分かる。

ずっと見ていたい様な衝動に駆られる。今すぐにでも退かなければならないというのに。

 

「「………」」

 

お互いにまっすぐ相手を見つめる。

月光に照らされ見える紅い瞳。とても澄んだ瞳だが、どこか寂しさを感じる。

例えるなら、自分にとって大切な何かが抜け落ちてしまったかの様な。死者の瞳ではない。

私には虚なこれから、彼女にとって大切な何かが満たされていくそんな空の器の様なものに感じられた。とても不思議だ。

私は死神だから数多くの仙人を見てきた。

仙人は誰しも何かの目的を持って仙人になっている。それ故に、邪気のない天人になる事が出来ないのだが、目的があるからこそ輪廻を外れその命を伸ばす。

だから、華扇さんの様な瞳にはならない。

今まで出会ってきた全ての仙人が例外なく、その瞳には強い熱を宿していた。

 

「……華扇さん。貴女は一体……」

 

私の中の戸惑いは口から言葉として現れた。

分からない。私は死神として生まれ、今までその全てを死神の役目に費やしてきた。

誰かと接するのが苦手という訳ではない。ただ、死神としての役目を最も優先した結果、友人もいなければ趣味もない。

天命が来た者を迎えに行き、抗う者の命は刈り取り、輪廻を正常に動かす。

そんな装置の様なものが私だ。最も、感情が昂り楽しいと感じるのは強者との殺し合いというロクデナシ。

だからなのだろう。

仙人の在り方が、あの自分で目的を見出しその為に駆け抜ける。その在り方が私には眩しかった。

私に宿ることのない輝かしい熱を持つ仙人が。

 

「…なぜ、私と同じ瞳をしているのですか…」

 

私が問いかけると華扇さんは困った様に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の前に現れた死神はとても異質だった。

容姿がという訳じゃない。むしろ、黒いフードから覗く夜の闇でも輝く銀髪に、鋭くそれでいて何処か覇気に欠ける黒い瞳。

その服装の上からでも分かる鍛えられた肉体。瞳に覇気さえ宿っていれば私でも見惚れていただろう。そう異質だったのはその攻撃方法。こっちの心の隙を探ってくる様なそんな精神攻撃をしてくる死神がその肉体で襲いかかってきたのだから。

そもそも、私はまだ余裕があった筈だ。そう理由を問うてやれば、なんとも事務的な返事をされた。

直後、振り下ろされたかかと落としは受け止めたものの私の全身に衝撃が駆け抜けた。あの肉体は見せかけでもなんでもなかった。

そして、私達は殺し合いをした。彼はとても強く、戦いに魅入られていた。

いっそ狂気を感じるほどの覇気のない瞳はなんだったのかと言いたくなるほど戦いに濡れたその瞳。

 

あぁ、そんな瞳で私を見ないで。この身がどうしようもなく疼く。

やめて、それは私が失ったもの。そんなに真っ直ぐと魅せられては求めたくなる。彼との殺し合いを存分に味わいたくなる。

そんな私の内心の抵抗を彼はとても簡単に引きちぎった。

 

「仙人であろうとするのは構わないが………殺すぞ?」

 

本気を出せとか、手加減は無用とか、本性を現せとか。いっそそんな言葉をくれれば意地にもなれた。

でも、彼は仙人としての私の在り方を肯定してくれた。その上で殺すと。

あぁ、あぁ!!それは完全に私へのトドメの言葉だった。彼は私の在り方を理解し私の欲を見た上で仙人であると。

それならもう我慢する必要はない。

彼の攻撃に合わせ、私は右腕こそ戻らないがかつての自分に近づいた。完全に失われたが、長年感じていた欲だ。

忘れるわけが無い。この強者との戦いの高揚感を。ただ、真っ直ぐに己を殺そうとしてくる相手との戦いを。

この先の私は仙人としては未熟すぎるほどに戦いを楽しんで楽しんで楽しみ尽くした。

彼との一撃が終わり、あとは互いに動けるまで回復が済めばそれでもう終わりだと思った。

 

「(なんで私は押し倒されてるの!?分かってる、私がバランスを崩して彼を引き込んでしまったから。だけど、なんで何も言わずに私をジッと見つめてるの!?!?)」

 

はい。すごく混乱してます。

だって、幻想郷には強い男性が居ないですし、そ、それに死神さんは整った顔つきをしてますから近くで見せられるとちょっと心臓に悪いのです。うぅ〜、本当に私をジッと見てる。死神さんの瞳を見つめ返してみる。

やっぱり、先程の戦いとは打って変わって熱のない瞳。私を押し倒しているから月明かりも差し込まず漆黒に吸い込まれる錯覚に陥る。 

 

「…なぜ、私と同じ瞳をしているのですか…」

 

ふと言われた言葉に私の意識は戻ってくる。

うーん…これはどういう意図での質問だろうか。側から見たら私の瞳な死んでる様に見えるのだろうか。

どうしたものかと悩みながら、私は困った様な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「まだ修行中の身ですから。真に目指すべき場所がわかってないの」

 

まだ理想とする天道の先の景色を私は見えていない。

かつての私を考えれば当然かもしれないが、私はいつか必ずその景色に辿り着いてみせる。……これが苦渋の選択であった事は否定しない。

 

「そう…ですか…」

 

あまり納得の出来てなさそうな態度。

ううん、これは彼の欲していた答えじゃなさそうね。

 

「……おーい、ご両人。いつまでそのままでいるんだい?

四季様に言われたから見に来てみりゃ、あんた何してんのさ」

 

ばっと離れれば、そこにはもう一人死神が立っていた。

 

「小町さん…そう言えばすでに帰らなければならない時間をとっくに過ぎてましたね」

 

「そうだよ。仕事に馬鹿がつくほど真面目なあんたが戻ってこないから、四季様が心配してるよ。

しっかし、仙人様と良い関係だとは思わなかったなぁ〜?あんたもすみに置けないねぇ」

 

「ちょ!?私と彼はそんな関係じゃ、そもそも出会ったのだって今日が初めてよ!!」

 

「はい。小町さんが何を邪推したかは分かりませんが、私と華扇さんはその様な関係ではありませんよ」

 

少しくらい動じてくれても良いのに……私って魅力ない?

 

「ほほぅ?まぁ、あたしはあたしの仕事を済ませるかね。ほら、帰るよ」

 

「そうですね。女性の家に長居は宜しくないでしょうし」

 

そう言って彼はもう一人の死神、確か小町とか呼んでたっけ。

彼女の方向へ歩いていく。

 

「あ、あの!」

 

「どうかしましたか?」

 

思わず呼び止めてしまった。自分でもなんでこんな行動をしたのかよく分からないから視線を右往左往させる。

そして、手に持っていた彼から受け取ったハンカチが目に入る。

 

「これを洗って返すので次はいつ来るのかなと…」

 

もっと他の言い方はなかったの私!?

こ、これじゃあまるで、こ、こ、恋に焦がれ乙女じゃない。

彼は視線を上に上げ何か考える素振りをした後口を開く。

 

「華扇さんが持っていてください。確定して来るのは次の100年だと思います。

仕事の合間があれば取りに行きますので。その時は小町経由で連絡しますから」

 

「え、なんであたし?」

 

「私が幻想郷以外にも仕事がある事は知ってるでしょう。ここ担当の死神で、まともに私と話してくれるのは貴女だけですから」

 

「寂しい事言ってる自覚あるかい?まぁ、良いよ。サボ…ううん引き受けてやるさね」

 

友達いないんだ死神さん。

というか小町の方から、何やらサボる?みたいな言葉が聞こえた気がするのは気のせいかしら。

 

「では失礼します」

 

小町と一緒に死神さんは飛んでいった。

少し寂しさを感じながら私は振り返る。

 

「…とりあえず、片付けからね。我ながら暴れたわほんと…」

 

景観が旅に行ってしまった屋敷周辺を眺めそっとため息を零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「連絡もなしに遅れてしまい申し訳ありませんでした四季様」

 

頭を下げて四季様に謝罪する。

連絡を忘れるなど仕事の上で最も忘れてはならない事を忘れてしまった。必要のない心配をかけるとは部下失格だ。

 

「いえ、大丈夫です。しかし、貴方でもあの仙人は無理でしたか」

 

「華扇さんは強者でした。私の技を受けてなお、反撃しその命を落とさないほどには。

あれでは、他の死神でも無理でしょう。故に私はこのまま華扇さん担当にして頂きたいと思います」

 

無意識だったが、華扇さんと先程、確実に会えるのは次の100年後と言ってしまった。

私が華扇さんとまた会えるかは、全て四季様引いては閻魔様達のご意向のままだと言うのに。

…きっと心の奥底で確信してきたのかもしれない。私と華扇さんはまた会えると。

 

「ふむ……むしろこちらからお願いしたいものです。

貴方はすべての閻魔の部下でありながら直属の部下ではない特殊な立場ですが私の方から頼み込んでおきます」

 

「ありがとうございます」

 

「ところで話は変わりますが、貴方はそのあの仙人と恋仲なのですか?」

 

「……………………………何か変なものお食べになりました?」

 

急に四季様が変なことを言い出した。

なんだ、一体。小町さんと言いなぜ、私と華扇さんをそういう仲の様にしたがるんだ。

 

「違うなら変な質問をしました!…その、いつも仏頂面の貴方が嬉しそうに戻ってきたので。

小町から押し倒していたと報告があったので、そう言うことなのかと」

 

小町さん……人が着替えて汚れを落としている間に何という報告を…

自分の同僚の雑な報告に頭を抱えたくなる。何かと仲の良い二人だから、報告が少し軽いのはまだ良いとして裏の取れてない報告をしないでくださいよ。……というか四季様まで何処か楽しげにしてるのはなんなんだ。

 

「違います。小町さんがどの様な報告をしたのかは知りませんが、私と華扇さんは知り合ったばかりですので。

そういう関係ではありません。嬉しそうというのはよく分かりませんが、華扇さんと戦うのはとても楽しかったです。

叶うのなら、あのまま永遠にどちらかが死ぬまで戦いたかったですね」

 

「そ、そうですか。分かりました。今日はゆっくり休んでください」

 

どことなく気疲れした様子の四季様に疑問符を浮かべながら部屋を出て行く。

自分に割り当てられた部屋へと向かう。私は基本仕事で色んな閻魔の場所に行っている為、特定の家というものがない。

故に、特例で部屋が用意されている。私の要望が通れば長期滞在になるだろう。

 

「我ながら殺風景な部屋だ」

 

必要最低限の設備に、筋トレ道具だけの部屋。

趣味もなければ友人を招くこともないから本当に殺風景だ。まぁ、長期滞在もしないから生活感が乏しいのは仕方ない。

 

「……ははっ」

 

華扇との戦いを思い出せば自然と笑みが溢れる。

かつては仙人と戦うことそれ自体が楽しかった。だが、いつの日か並大抵の仙人であれば本気を出さずとも殺せる様になっていた。

そこからだ。楽しいと感じはするが渇きを覚えていた。

本気を出せない戦いはつまらないと知ってしまった。しかし、華扇との戦いはそんな事はなかった。

ただただ楽しく心底から潤った。

 

「次の100年がこんなにも待ち遠しいと感じる日が来るとは。華扇、次も簡単にやられてくれるなよ」

 

渇いた心は華扇を求めてやまない。

だが、次の100年が来る前に戦う訳にはいかない。手合わせと行く訳にもいかない。確実に本気になる自信がある。

生まれて初めて抱いた感情。私にはこれの名前が分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく月日が流れた。具体的な時間は分からない。

あいも変わらず仕事漬けの時間を過ごしていたし、元々時間感覚が乏しい。

 

「明日はどこの閻魔様からも要請は無しか。珍しい」

 

人は数が多い。だからこそ、それなりに無窮の鍛錬を望む仙人もいる。

その全てを私は担当しているので、こうして休日が訪れるというのは中々にない。

 

「……華扇は暇だろうか」

 

仕事以外の記憶力が薄い私が片時も忘れなかった約束。

合間を見つければハンカチを取りに行くというものを果たすなら明日が良いだろう。そう決まればまずは小町さんに伝えよう。

河原にいるであろう小町さんのもとへ向かう。今日はサボっていない様だ。

 

「どうも小町さん」

 

「おう。あんたかい、何か用?」

 

寝転んでいた体勢から起き上がる小町さん。

幻想郷は人がそこまで多くないから、河原で見張り番になる事も多いと言っていた。サボる時は人里に行くから運良くここに居てくれて良かった。

 

「華扇さんへ明日暇か伝言を頼めますか?」

 

「お、漸くの逢瀬かい?良いよ、ちょうど暇をしてるしね」

 

「ハンカチを受け取りに行くだけですよ」

 

「ははっ、それだけじゃ済まなそうな気はするがね。んじゃちょっくら行ってくるよ。あんたも仕事だろ?」

 

「はい。では失礼します。あ、変な言葉は追加しないでくださいね」

 

今回戦うことになる仙人は、血を用いた術を得意とするらしい。

なんとも愉快な仙人だ。少しばかり戦うのが楽しみだ。華扇ほどは楽しませてくれないだろうが。

 

「はいはい。言葉は追加しないよ、言葉はね」

 

もう少し遅く移動していれば私はこの時、小町さんがニヤリとした笑みを浮かべてる事に気付けただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに変な術だったが、血を武器にしたり防具にしたりする程度だったな」

 

昨日の無事に輪廻に戻した仙人を思い出しながら待ち合わせ場所へと向かう。

小町さんから教えられた場所は私と華扇さんが初めて出会った甘味処。なぜ?と理由を説いたがはぐらかされてしまった。

全く、余計な事を言ってなければ良いが。

今回は仕事ではないから完全に私服だ。まぁ、黒い和服を着ているから余り大差はないが。

フードを着けていないから、雑に伸ばした髪が少し鬱陶しい。縛って後ろに流しているがそれでも腰まではある。

前髪以外も切るか?だが、それはそれで面倒。

などと考えていると目的地へと到着する。華扇さんの髪色はとても目立つから分かりやすくて良いな。

 

「すみません華扇さん。待たせてしまいましたか?」

 

「いえ!私も今し方来たところですから。大丈夫ですよ」

 

「今日は団子を食べていないのですね」

 

思い出すのは大量に食べていたあの光景。

 

「別に毎回あんなに食べてる訳じゃないですよ!?そ、それに今日は折角ですから前に言ったどら焼きを一緒に食べに行こうかと思いまして。小町から教えて貰いましたけど、今日を楽しみにしてる素振りだったそうだから」

 

小町さん!!!確かに言葉は追加してませんけど!!

ああもう、今度からは用件以外を言わないでと約束させないと。しかし、今日を楽しみにしていなかったと言われれば嘘になるので小町さんへの苦情は心の奥にしまって置きましょう。

 

「良いですね。行きましょうか」

 

「本当ですか!?良かったぁ、断れられたらと少し心配でしたので」

 

ほっと安心した様に胸に手を置く華扇さん。

今度は笑顔になり私を見てくる。やはり、表情の変化が多い人だ。見ていて退屈しない。

 

「私の顔に何かついてる?」

 

「いえ、華扇さんの表情がよく変わるので。見ていて楽しいのです」

 

「ふぇ!?……は、早く行きましょう!」

 

顔を赤くしながら私の手を取り歩き出す。

以前に殺し合いをした時の万力の様な力ではなく、優しく包む様な力加減で。早く鼓動を刻み出す自身の心臓に首を傾げながら華扇に引っ張られる。

早歩きだった華扇さんの速度が徐々にゆっくりとなり隣り合う。

 

「お仕事の方は順調ですか?」

 

「えぇ。昨日も輪廻を正してきました。血を力とする仙術を主に使ってきましたね」

 

「なるほど。そんな仙術もあるのね。怪我はしませんでした?」

 

「はい。華扇さんほど強くありませんでしたから」

 

「なら良かった。あ、ハンカチ返しますね。ちゃんと洗っておきましたから安心してください」

 

懐から取り出されたハンカチを受け取る。

律儀だ。綺麗に洗ってある。

 

「受けとりました。そう言えばあの時、華扇さんの屋敷周辺をそのままにしてしまいましたが」

 

「戻すの大変でしたよ……いやぁ、我ながらよくもまぁあそこまで暴れたなと。

今度来る時は片付けを手伝ってくださいね。流石に一人は骨が折れますから」

 

挑戦的な目つきと共に言われる。

狙って言いやがったな華扇のやつ。

 

「今度は負けない。必ず殺すさ」

 

「嫌です。折角ですから貴方とも話したいですし」

 

「へい!らっしゃい!おや、これはこれは美人さんに色男さん。好きな場所に座ってくだせぇ!」

 

話しているうちに甘味処に到着していた様だ。

私と華扇さんの間に流れていた少しだけ剣呑な雰囲気は即座に霧散し、互いに苦笑を浮かべる。

適当な場所に座り、華扇さんが話していたどら焼き二つとお茶を注文する。

しばらく取り止めもない雑談をしたり、二人で無言のまま人里の活気を眺めていたりしていたら注文した品が届く。

 

「これが……なるほど。いただきます」

 

パクリと一口食べる。

少々甘めの生地に餡が追撃をかけてくる。疲れた身体や子供には人気が出そうだが、確かに華扇さんが言っていた通り甘い。

だが、これはこれで美味しいというもの。

 

「…確かに甘いですね」

 

「ですよね。まぁ、これはこれで楽しめるので。お茶を飲んでみてください」

 

ふむ?華扇さんに言われた通り、お茶を飲んでみる。

んんっ、これは渋い。とても渋いがこの甘すぎるどら焼きと合う。なるほど、個性が強いものに強いのをぶつけて相殺しているのか。

 

「両極端ですよね。でも、美味しいでしょ?」

 

「はい。やはり華扇さんは良い甘味処を知っていますね」

 

「大好きですから。とっても」

 

ん〜♪と美味しそうにどら焼きを食べる華扇さん。

足を少しパタパタとさせる姿はとても可愛らしい。なるほど、私はどうやら華扇さんの表情を見るのが好きな様だ。

 

「ん?食べないんですか?」

 

食べずに華扇さんを見ていたら不審に思ったのかジトーっとした目で見られてしまった。

 

「すみません。とても綺麗でしたから」

 

「ん?」

 

どら焼きを食べながら首を傾げる華扇さん。

その姿が面白くてついつい笑ってしまう。あぁ、華扇さんと一緒にいると私はこんなにも笑えるのか。

 

「ふふっ」

 

「もー、一体なんなんですか!」

 

笑いながら華扇さんと話をしてこの日は終わり、再び仕事漬けの時間に戻っていく。

休みなど当然なく、時間だけが過ぎていった。そして、漸く待ちに待った日が訪れる。

 

「今日で再び100年目。貴方へ華扇の魂を刈り取る事を命じます」

 

「分かりました」

 

そう。華扇との殺し合いの時だ。

 




華扇さんの脳内CVが坂本真綾さんに感じてきた今日この頃。

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