東方死線華   作:マスターBT

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死神さんの名前決定回!
なんと、ここまで決めていなかった作者です。


200年目

「お久しぶりです。華扇さん」

 

月が天を彩る少し前に私は華扇さんの屋敷へと到着する。

待っていたと言わんばかりに瞑想をしていた華扇さんが目を開き私を見る。開かれた瞳が私を射抜くと同時にゾクゾクとした感覚が全身を走り抜ける。

 

「…本当に久しぶりですね死神さん」

 

「あれ以降休みはありませんでしたからね。会いたくても会いに行けませんでしたよ。

ですから、今日この日をどれだけ待ちわびたことか」

 

鋭い視線を向けてくる華扇さんを同じように見返す。

まだだ。月はまだ上りきらない。まだ、我慢をしなければならない。

 

「それは嬉しいですね。私もずっと待ってましたよ。貴方とこうして話せる時を。

今度は一緒にお酒でも飲みながらゆっくりと話したいものです」

 

座禅を組んでいた状態から立ち上がる華扇さん。

その言葉は姿は、今のこの場で自分が死ぬとは微塵も思っていない。ははっ、上等だ。

 

「それなら特別に向こうで用意してあげますよ。これでも顔が利きますから」

 

「それはとても嬉しい誘いですが、私のお気に入りを貴方にも知っていただきたいのでお断りします」

 

「……やれやれ、これだから長生きは頑固で困る」

 

「えぇ。私は頑固ですから。貴方に殺されてあげる訳にはいきませんし、まだ貴方と一緒に過ごしてみたい事が多いのよ」

 

月が天に昇りきる。

前座はここまで。さぁ、殺し合おう華扇!

ほぼ同時に駆け出し拳をぶつけ合う。

 

「100年前の命、ここで落としてもらおう!」

 

「此度は屋敷の後片付けを手伝って貰いますよ死神!」

 

ぶつけた拳をそのままに、左足を華扇の顎目掛けて蹴り上げる。

半身逸らす事で避けた華扇は、そのまま左手で裏拳を俺の米神に向け振るう。

それを左手で勝ちあげるように防ぎ、そのまま捻りを加えた掌打を放つが距離を開ける事で避けられる。

 

「逃すか!」

 

縮地を利用した高速移動で再び華扇の目の前まで距離を詰める。

限界まで引き絞り縮地の勢いを乗せた右腕の拳は華扇の左手で受け止められ、そのまま腕を掴まれ投げ飛ばされる。

空中でバランスを取り、華扇の場所を見る。しかし、そこには華扇がいない。

 

「上か…!

 

「ご名答です!」

 

腕を重ね、華扇のかかと落としを防ぐ。

ドンッ!!という凄まじい音ともに叩き落とされ地面に飛ばされる。

これが最初から全力を出している華扇の強さ…!ははっ、滾る。実にいいなぁ華扇。

地面に叩きつけられる前に地面に向け掌を向ける。

 

「確かこうするんだったな…霊衝波!」

 

殺した仙人の一人。霊力コントロールに長けた仙人が用いた技。

霊力に性質を与え、外の常識では理解できない現象を起こす。今回使ったのは、霊力に音と質量を与え放出する技。

音速で打ち出された霊力が俺を地面に叩き落とそうとする力と打ち消し合う。結果、空中で一瞬停止した俺は無傷のまま着地する。

 

「人の庭に風穴開けないでくれる?」

 

向かい合うように着地した華扇。

その顔には若干の呆れが浮かんでいた。

 

「悪い悪い。何せ、こうでもしなければ赤い華でも咲かせそうだったんでな」

 

再び縮地で距離を詰める。

 

「そう何度も!?」

 

華扇が驚いた顔になる。

そりゃ何度も同じ手段が通じる相手なんて思っていないさ。俺がしたのは縮地の連続。

縮地なんて簡単に言えば、物理法則を無視した直進だ。使えば正面から攻撃が来ると伝えるようなものだ。

それじゃ華扇には通用しない。だから、縮地を連続で使う事で攻撃する場所を判断つかなくさせる。

 

「そら、こっちだ華扇!」

 

「くっ!」

 

結果、華扇の不意を突き真横から蹴り飛ばす。

手応えが薄い。どうやら、反射神経だけで俺の攻撃が当たる瞬間、その力が抜ける方向に跳躍。勢いを流されたようだ。

そうなれば当然、即座に反撃がくる。

視界には飛ばされた華扇が地に脚をつけると同時に俺に向かって跳躍するのが映る。

その姿はダメージが余り通ったようには見えない。

それが堪らなく嬉しく、俺は口角を上げ吠える。

 

「獄式焦熱!」

 

上からくる蹴りを迎え撃つように蹴りを放つ。

大焦熱が爆ぜる拳なら、焦熱は爆ぜる脚。俺の脚と華扇の脚が激突する瞬間、大爆発を起こす。

直後、煙の中から華扇が現れ、俺と同じ笑みを浮かべ先ほどの爆風など無かったように一回転し蹴りを放つ。

 

「無傷とはなぁ!少しばかり技への自信が無くなるってもんだ」

 

「私以外になら十分、致命傷ですよ!」

 

「はっ、お前に効かなきゃ意味がねぇ」

 

霊力を脚に流し込み、腰を落とす。

放たれた脚を右手で掴む様に受け止める。地面にヒビができるほどの衝撃を受けるが霊力でカバーした分俺へのダメージはそこまで大きくない。

 

「そう言えば100年前はこうして受け止めてくれたなぁ?」

 

「仕返しですか。意地が悪いですよ」

 

「かかっ!生まれて初めて言われたなそんなこと」

 

万力の様な力で潰す事は出来ない。

だから、地面に叩きつけるように振り下ろす。しかし、それは華扇が両手を地面に突き出し支えきる事で防がれる。

直後、ぐんっと身体が持ち上がる感覚を感じる。おいおい、まじか。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

逆立ちする様に腕と体幹だけで脚を掴んでいる俺を持ち上げた華扇。

そのまま脚を広げ、腕の力だけで跳躍。俺の身体を両脚で挟み込み、地面に叩きつけられる。

 

「ガッ!」

 

「漸くまともに一撃ですね」

 

首と腹部に衝撃が走り意識を一瞬だけ失う。

意識を取り戻したときに感じたのは歓喜。意識を失いかけるなんて何年ぶりだろうか!!

これこそが戦い!これこそが殺し合いというものだ!

だが、俺が押され続けるというのも些かつまらないというものだ。

 

「私が言うのをアレですけど。すごい顔してますよ?」

 

脚を離し、離れながら華扇が言う。

頭を振りながら立ち上がり、空を見上げ輝く月に手を伸ばす。当たり前だが掌に月が触れることなんてない。

月がいくら綺麗で手に入れたくても、地上にいる限りそれは叶わない。

 

「はっ、はははははは!!!」

 

名も知らない人間が綴った歌を思い出す。

『わが心慰めかねつ更科や 姨捨山に照る月を見て』

詳しい意味は興味がなかった。だが、月を見たところでなんの慰めにもならないという事は知っている。

正しく、今の俺に当てはまる。月は100年前と変わらず綺麗だが、この欲を満たすことは出来ない。

本当に俺のこの心を慰めるいいや、満たしてくれるのは華扇だけだ。

 

「折角の殺し合いだ…久方振りに意識を失いかける感覚なんて感じたから、無駄に回想に時間を使った。

もったいない。身体は鈍ってなかったが、心が鈍になっていたか」

 

首を鳴らし、息を吐くと同時に待ってくれていた華扇に向け駆け出す。

俺の独り言を見守っていた華扇が構え、俺の攻撃に対して身構える。

 

「獄式無間焦熱」

 

「なっ!?」

 

全く試したことのなかった連撃を放つ。

ただの思いつきだが、上手くいった。拳での連続攻撃で華扇の意識を上に向ける。

ここまで攻撃を撃ち合って分かったが、俺の攻撃は華扇より威力が低いが手数に優れている。故に、無間の様な連撃を放つと華扇は全力で叩き落とすか迎え撃つ。それ即ち、僅かな隙が生まれるというもの。

俺の下半身への意識が薄くなったところで、焦熱を華扇の腹部へ叩きつける。手応えは直撃。

爆発音と共に華扇が吹き飛ばされる。

 

「さっきのお返しだ」

 

どうやら吹き飛ばされ木に叩きつけられた華扇がこれまた楽しげに俺を見ている。

 

「ゴホッゴホッ、受け身すら取れませんでしたよ。でも、私を殺すには足りませんよ?」

 

一撃もらって煽ってくるとは、まだまだ余裕そうだ。

もっと楽しめる。あの程度じゃこいつは殺せない。

 

「なら死ぬまで叩き込むだけだ」

 

「野蛮ってよく言われない?」

 

「言われないな。ついでにその言葉そのまま返すぜ。華扇」

 

「失礼な。私は仙人ですよ死神」

 

「「まぁ、飢えた獣みたいな顔してたらなんの説得力もないけど」」

 

重なる言葉と表情。

潤った心が華扇を求めてやまない。全身が沸騰する様なこの戦いを続けたい。

 

「華扇!!」

 

「死神!!」

 

駆け出し拳を放つ。

互いの拳が交差し、それぞれの顔に突き刺さる。ここに来て守りを捨てる。

一瞬の静けさの後に、肉と肉がぶつかり合う音が響きだす。

俺の拳が華扇の腹部を殴れば、華扇の蹴りが俺の左腕をへし折る勢いで飛んでくる。

それに対して、俺が肘打ちで蹴りを叩き落とせば両手を合わせ、力いっぱいに振り下ろした一撃が俺の頭部を襲う。

頭蓋骨が陥没する様な錯覚を覚える。

衝撃で上半身のバランスが崩れるが、その体勢になったお陰で華扇から俺の手は見えない。

鋭く手刀をする形にして、霊力を手に纏わせる。霊力に与えた性質は切断。この霊力を纏わせている限り鋼鉄すらこの手は簡単に斬り裂く。

 

「少し趣を変えてみるか?華扇」

 

「何をッッ!」

 

いい直感をしている。

振るった手刀を一瞬は受け止めようとした華扇だが、触れる直前で大きく避ける。それでも間に合わず桃色の髪が宙を舞う。

 

「ほんと、多芸ですね…!」

 

「一芸だけで殺せる相手ではないからな」

 

見て覚え盗んだ殺してきた仙人達の技。

まさかこんなに使う時が来るとは思わなかった。

距離をとった華扇を素直に逃がす訳もなく、話しながら距離を詰め手刀を振るう。

流石の華扇もこれを受け止める気は無いようで、霊力を纏っていない部分に触れ受け流したり、大きく躱す事で対処している。

しかし、そろそろそれも限界だ。何故かって?

 

「後ろ、木だぞ?」

 

「しまっ…」

 

ドンッと華扇の背が木にあたる。

もう後ろに下がったりして避ける事は出来ない。永遠に楽しみたい殺し合いだが、死神の俺がそれを肯定する訳にはいかない。

手刀を華扇の心臓に向けて放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確認不足だった。

自分のテリトリーで戦っておきながら、背後に木がある事を失念していた。

目の前で死神が手刀を私に向けてくる。あぁ、私は殺されるのか?

いいや、認めない。認めてなるものか。

私を、仙人として肯定してくれ、殺し合いという形だけど既に欠けた私には必要不可欠とも言えるほどの彼を。

 

失望させた顔で幕引きにはさせない。

 

私を殺すのなら、もっと喜びに浸った顔じゃなければ許さない。

 

彼にそんな事をさせてしまった私自身を。そして何より。

 

「この茨木華扇の命、この程度で取れると思うたか!!」

 

死神の手刀を左手で受け止める。

ブシュッ!!という音ともに血が吹き出すが、関係ない。

 

何より、私をこの程度で殺せると思った彼を許さない。

 

「……かかっ!」

 

ゆっくりと口角が上がっていき、楽しげな笑みを浮かべる死神。

彼の想定を私は超えた。そしてそれを彼は心の奥底から喜んでいる。

殺し、命を奪わなければならない死神が、私との殺し合いが続く事を望んでいる。

それがとても嬉しいから私も、笑みを浮かべる。

 

「安い命ではありませんから」

 

初めから絶対強者ではなかったであろう死神は、対等以上の戦いに飢えている。

強くなり高みを目指す感覚を覚えているからだ。そして、飢えているからこそ喜ぶときに隙が出来る。

掴んでいる手を思いっきり引っ張る。グンっと近くなる彼の顔。

私はその顔に勢いよく頭突きを見舞った。

 

「ぐおっ…!?」

 

「はぁぁあ!」

 

気が乱れれば霊力の制御も崩れる。

ただの手に戻れば握っていても問題はない。仰け反った彼の手を再び引っ張り今度は鳩尾に拳を叩き込む。

が、これは当たる寸前で彼の手で防がれる。

 

「見えてないのによく防いだ」

 

「これぐらい気配でな!」

 

今度は彼から引っ張られる。

振り払う訳ではなく、やられた事をやり返す真っ直ぐさ。やっぱり死神らしくない脳筋だと思う。

とはいえ、膝蹴りは中々意地が悪いと思うけど。下から迫ってくる膝を右手で受け止める。

 

「…ん?」

 

あ、伝わる感覚で違和感を覚えられた。

まぁ、彼なら深入りしてこないと思うけど。そのまま彼の膝を支点にして飛び上がる。

もちろん、片手はちゃんと離している。そもそも自由を縛る必要性があんまりないしね。私の全体重がかかりバランスを崩した彼の背後を取る。これで位置関係が変わった。

 

「これはどうかしら?」

 

彼のやっていた霊力制御。

もちろん、私も出来る。まぁ、制御するものが少し違うけど。バランスを崩しかつ背後を取られて反応の遅れている死神。

グッと腰を落とし、左手に力を込める。そろそろ時間だ。100年前は彼の一撃を私が受けて終わった。

なら、今回貴方が受けてくれる?死神。

 

「幕引きですね」

 

今の私の全力。もちろん、貴方なら受けてくれますよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギリギリ反転が間に合った。

しかし、目の前にはゴォォォ!という空気を切り裂く音を立てながら向かってくる華扇の拳があった。

理性が全力で避けろと俺に伝えてくる。確かにギリギリで避ければこの一撃は避けられる。

華扇が力を溜めるのに時間を使った事でどうにかする時間は生まれていた。

だが、この一撃を、本能は、避けるな、受け止めろと伝えてくる。

俺は華扇のこちらを測る様な目を見て、理性の選択を捨てる。あいつが何を望んでいるかは分からない。

だが、その目は真正面から迎え撃ちたくなるのが、戦闘狂の性というもの!

 

「舐めるな!!この程度、叩き伏せる!!!!!」

 

全身の霊力を一切この先を考えずに右腕へと流す。

隕石の如き華扇の拳へそのまま、ぶつける。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」

 

互いに喉が枯れんばかりに吠え、力をぶつけ合う。

ミシッという嫌な音が右腕から聞こえてくるが、無視する。ここで引き下がる訳にはいかない。

俺の腕が折れるより早く、足場にしている地面に大きくヒビが入る。

そして。

 

 

ゴォォォォン!!

 

という音ともに地面が砕け、ぶつかり合い逃げ道を失った霊力が爆発する。

降り注ぐ地面のカケラの先に、華扇は立っていた。着ていた服の右肩までが爆風で消し飛んでいるが生きている。無論、俺も生きている。

しかし、これはしばらく右腕が使い物になる気がしない。幸い折れてはいないが、筋肉系が疲弊しきっている。

 

「よく受けきりましたね。でも、今回も私の勝ちですね」

 

「…その様ですね。二度目の月が真上にありますからね。全く、流石は華扇さんです」

 

満足そうに微笑む華扇さんを見て私の選択は間違っていなかったと理解する。

避けていたら失望でもされていただろうか?……想像してとても嫌な気分になった。

彼女に失望されるというのは、何よりも避けたい事だ。

 

「っと、華扇さん。手は大丈夫ですか?」

 

私の手刀を握るとは思っていなかった。

自分の手を見ると真っ赤になっている事からかなりの出血だろう。既に期間は過ぎたのだからここで死なれては困る。

 

「え?あぁ、大丈夫ですよこれくらいなら」

 

パッと手を広げて見せてくる。

既に出血は収まっている様で血を落とせば元の綺麗な華扇さんの手になるだろう。流石は仙人の肉体だ。

 

「貴方も腕大丈夫ですか?少し震えてる気がしますけど」

 

「これぐらいなら。直ぐにとは行きませんが、私の実力不足ですので」

 

自分の不徳が成した事。華扇さんに心配して貰う必要はない。

しかし、鬱陶しいな。

 

「華扇さん」

 

「気づいています。もう出てきたら?八雲紫」

 

華扇が声をかけると空間にスキマが現れ、その奥から女性が出てくる。

金の長髪に毛先を束にしリボンで結んでいる感じられる気配が全て胡散臭く、なのに強者のそれを漂わせている不思議な妖怪。

 

「八雲紫……確か幻想郷の賢者でしたか」

 

「あら知っていたのですか。不思議な死神さん?」

 

「幻想郷に住んでいる訳ではありませんが、四季様からちょくちょく。

それで、私達の殺し合いを見学していた様ですが、何か用事でも?」

 

私が質問を投げれば、これまた胡散臭く微笑み扇子で口元を隠す。

余り積極的に関わりたくない手合いだが、この妖怪は私を片手で殺せる。なんとなくだが、そんな気がする。

 

「貴方に幻想郷を守る手伝いをして欲しいのですわ」

 

「…どういう事か説明を貰っても?」

 

「勿論ですわ。今の幻想郷に力のある者というと片手でことが足りる程しかいませんの。

これでは外部や幻想郷で何かが起きたときに、幻想郷を守る事が出来ない。それを私は許容していませんので使える戦力は一つでも多く欲しいのですよ。そこで、100年前の戦いの噂を聞き、華扇からも話を聞いたから実際に見てみようかと思って見ていましたわ」

 

幻想郷を守るためか。

そもそも、私は幻想郷に思入れなどない。私はここの生まれではないのだから。

 

「説明を聞く限りその守り手に私は選ばれた様ですが、そもそも貴女一人でどうにか出来るのでは?」

 

「嫌ですわ。私一人で出来る事なんて限られてますもの。

それに貴方や華扇の様に肉体で戦うのは余り得意ではありませんから」

 

胡散臭い。

笑みを浮かべながら話しているところが実に胡散臭い。

 

「そうですか……しかし、その話を受ける理由が私には無いように感じますが?」

 

待っていたと言わんばかりにパチンと扇子を閉じる八雲紫。

 

「無論理由はありますわ。幻想郷が無くなれば貴方が華扇と戦う事はまず出来ないでしょう。

外の世界は幻想がとても薄いですから。外で戦うよりも動きやすいでしょう?それと、もう一つ利点が。幻想郷を狙う相手は間違いなく強者でしょう。

そんな相手の戦いしたくありませんか?」

 

八雲紫の言葉に私の心は揺らぐ。

強者との戦い。それは確かにとても魅力的だ。だが、それより華扇との戦いが出来なくなる?

それは困る。確かに幻想郷は動きやすいと思ったが、ここの仕組みが原因だったのか。

今の戦いを知ってしまったから、外で華扇と戦って力が出なければ?あっけなく終わりを迎えてしまったら?

不完全燃焼すぎる。とても満足できない。

 

「…しかし、四季様がなんと言うか」

 

「話ならしてあります。貴方の好きにする様にとおっしゃってましたわ。これが手紙です」

 

渡された手紙に目を通す。

そこには確かに八雲紫が言うように四季様から任せるという旨が書かれていた。それと閻魔様達に話しておくと。

四季様には今度、何か奢られなければいけない気がしますね。

 

「なるほど……」

 

手紙から顔を上げ、沈黙している華扇さんに目を向ける。

私の視線に気がついた華扇さんはただ笑みを浮かべた。華扇さんも私に任せると言うことだろう。

それならもう答えは決まっている。

 

「分かりました。私の力が必要な時は協力しましょう。しかし、私は幻想郷に居ないこともありますが」

 

「それもご心配なく。私と契約をすれば、私の意思で貴方を呼び出す事が出来ます。

勿論、強制力はありませんので。真名を教えてくれますこと?」

 

強制力がないのならまぁいいでしょう。

この胡散臭いのと契約するのは大変、心配ですが信用しましょう。

 

「私の名前ですか。私の名は、終雪 雫(しゅうせつ しずく)です」

 

名を告げると八雲紫は持っていた紙に私の名を書き込む。

そして妖力を流し込む。

 

「こちらを持っていてください。転送の術式を記しておきました」

 

紙を受け取り懐にしまう。

肌身離さずというのが面倒ですね。とはいえ、結んだ契約を反故にする事は出来ませんか。

 

「それでは失礼」

 

スキマが開き、八雲紫が消える。

多分、仕事に加え面倒な厄介ごとに巻き込まれることになるだろう。まぁ、それも仕方ない。

 

「死神さん、雫って言うんですね」

 

「そう言えば名乗っていませんでしたね」

 

「えぇ。本当はちゃんと教えて欲しかったんですよ?」

 

どことなく不服そうな華扇さん。

普段、仙人相手に名乗らないから癖になっていた。

 

「すみません。つい癖で」

 

「もうっ。罰として屋敷の片付けをしたら、私と一緒にお酒を飲んでくださいね!」

 

「それで華扇さんが満足するなら」

 

月を背に私を真っ直ぐと見ながら、華扇さんは笑みを浮かべる。

 

「当たり前じゃないですか。さっ、早く片付けますよ」

 

やけに煩い心臓を無視して私は頷く。

戦いの時とはまた違う綺麗な笑みだった。だからだろうか、私は初めての感覚に戸惑う。

だが、別に悪い感覚じゃない。

 

「なーにーしてるんですかー!早く、こっち」

 

「っと、すみません。今行きます」

 

考えるのは後にしよう。

今は何より華扇さんを優先する時だ。ーー戦い以外に心動かなかった男にはまだこの気持ちを理解する日はこない。

 




ちなみに幻想郷時間時空はまだ吸血鬼異変が起きてない頃です。
つまりはそういう事???
作者は東方にめちゃくちゃ詳しい訳ではないので、オリジナル設定や解釈が多いと思いますがご容赦を。

紫さんが渡した紙は電話とどこでもドアを融合させた感じです。
「今来れる?」「いいですよ」って感じで会話可能。

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