「雑務の手伝いですか?」
いつもの様に鍛錬をしていた所に四季様がやってくる。仕事の時間かと思ったがどうやら違うらしい。
いや、正確には仕事ではあるが私の分野ではないと云うのが正しいですね。部屋に来た四季様から頼まれたのは今日一日、閻魔の仕事の支援。つまり、書類仕事だったり判決が下された魂の誘導といった地獄を運営する上での雑務をやって欲しいとのこと。
「はい。死神にはそれぞれの役目があるのは分かっていますが、どうやら本日担当の死神が体調を崩した様でして。
幻想郷配属になってるのは少なく、私がこう云うことを頼める相手で暇だったのが貴方だけでしたので。駄目でしょうか?」
「鍛錬以外にする事もなかったので構いませんが、そちらの分野は初めてやるので不手際があるかもしれませんよ?」
「基本的には私が近くにいますからその辺は教えながらになるのでご心配せずとも大丈夫です。
では、引き受けてくれると言うことで良いですか?」
不安そうな困り顔から一転、嬉しそうに目をキラキラさせる四季様。態度が露骨過ぎませんか?
元々、暇ですし断る気などありませんでしたが、この表情を見て断る事が出来る死神はいるのでしょうか。
「分かりました。すぐに準備しますので少々お待ちを」
「本当ですか!では、お待ちしています」
四季様が部屋を出て行く。気配で扉のすぐ側にいる事が分かる。
仕事場に行ってても大丈夫なのですが……待たせてしまっているなら急ぎますか。仕事着に着替え、髪を縛る。
鏡の前で軽く乱れている箇所が無いか調べて部屋を出る。
「お待たせしました四季様」
「寧ろ早いぐらいです。では、行きましょうか」
四季様の仕事場まではここから徒歩で30分ほどの場所にある。私が部屋を是非曲直庁内に借りてるからそこまで距離はない。
とは言え私と四季様では歩幅が全然違うので四季様に合わせ歩く。
普段は外へと向かって行くから奥へ向かって行くのは少しばかり新鮮な気分になる。
「そう言えば身体の方は大丈夫なのですか?」
「大丈夫ですよ。ボロボロになるのは慣れていますし、華扇さんとの殺し合いは心も体も満たされますから」
「そういう心配をした訳ではないのですが……まぁ、先ほどその服の下を見た時に目立った外傷はありませんでしたし大丈夫なのでしょう。
古傷はたくさんありましたが、全て鍛錬の結果なのですか?」
「仙人達から受けた傷も当然あります。鍛錬を始めた当初は今ほど戦えませんでしたからね。
古傷は大体が仙人達から受けたもので、跡にならない程度なら鍛錬のものかと。余り気にしてないので覚えていませんが」
どの傷が何によって出来たかなど覚えていない。そんな事に頭を使うなら自分がどうすればより強くなれるかに頭を使う。
「貴方の様に戦うものは傷を栄誉とするものなのではないのですか?」
「そういう者もいるでしょう。しかし、私は傷がなんであれ過ぎた過去のこと。
いつまでも覚えておく様なものではないのですよ。まぁ、傷を付けた人物に覚えていろと言われれば覚えるかもしれませんが」
人は二度死ぬという。一回目は肉体が滅びた時、二回目は関わった全ての人達の記憶から消えた時らしい。
それが本当なのだとしたら、私が相手を覚えている事で死を本当の意味で迎えられないかもしれない。そう考えれば殺した相手の事は忘れておくに限る。最も私はそこまで誰かを覚えておくというのが得意ではないのですが。
「色んな方がいると言う事ですね。覚えておきたいという方はいないのですか?あの華扇という仙人も含めて」
四季様の言葉に思わず立ち止まる。
仮の話だ。華扇さんを殺せたとして、私は今までと同じ様に彼女を忘れられるだろうか?
私は華扇さんとの殺し合いを楽しんでいる。心の底から永遠に続けたいと願うぐらいには。しかし、それでは私の役目を果たす事は出来ない。故に彼女は殺すと決めている。
だが、しかしだ。その彼女を忘れる………あぁ、きっと無理だ。私は殺し合い以外の彼女を知ってしまっている。
「終雪さん?」
「…大丈夫です。行きましょう」
四季様に声をかけられ思考から帰ってくる。そのまま、歩き出す。
まるで自分の思考から逃げる様に私の足は早くなる。
「……不味いのかもしれませんね」
背後で呟いた四季様の言葉は急ぐ私の足音と、私が来た事に驚く同僚達の話し声で聞こえなかった。
「本日は助かりました」
全ての業務が終わり四季様に感謝される。
「寧ろ邪魔になっていませんでしたか?」
「いえいえ。一度教えれば全てを理解してくれますし、少しでも理解しきれないものがあればすぐに聞いてくれますから。
寧ろ部下としてはとてもありがたかったですよ。こっちに異動しませんか?」
「気持ちは有り難いですが、私の仕事は別ですので」
「それは残念です。それで、お礼と言うわけではありませんがこの後、どうですか?」
手をクイっと動かし何かを飲む様な動作をする四季様。どうやら飲みの誘いらしい。
ちょうど奢らなければと思っていたところだ。
「構いませんよ。料金は私が払いますから」
「え!?今日のお礼に行くんですよ?貴方に払ってもらう訳には」
驚いた顔で真面目なことを言う四季様。
これは完全に私がなぜ、こんな事を言い出したのか分かっていない。私が思うのもあれだが、もう少し感情を考えて欲しい。
「ここ最近、四季様には色々と世話になっていますから。私から誘うタイミングも掴めなかったものですし、この機会にお礼をしてしまおうかと。生憎、私には四季様に対してお礼に当たる行為がこれ以外思い浮かびません」
顎に手を置き、目を瞑り何かを考える素振りを見せる四季様。
数秒後にやがて目を開き私と目を合わす。
「分かりました。貴方なら万が一もありませんしお言葉に甘えましょうか。場所は私が決めても?」
「良いですよ。飲みに適した場所など知りませんから」
「貴方が知っていると答えたら驚いていましたよ」
「何気に失礼じゃないですか?四季様」
「そう言う言葉は仕事以外で部屋を出る様になってから言ってくださいよ。
幻想郷管轄である私の部下達は、他に比べて仕事量が少ないので顔ぶれがほとんど変わらないのはご存知だと思いますが、そのせいで偶に仕事から戻ってきた貴方を見て住み着いてる変な死神がいると言われてるんですからね」
やれやれといった感じに肩を竦める四季様。
「それは……確かに関わりはほとんどありませんからね。とは言え、そういう死神がいるという事前連絡はあった筈ですが」
「関わってない若しくは、見たことすら僅かな存在をずっと覚えていられると思うんですか?」
「殺していなければ。仕事関連であれば私は覚えていられますよ」
「……貴方が仕事馬鹿だということを忘れてました」
「四季様も大概だと思います」
幻想郷へと向かいながら四季様と話す。
普段から雑談をする仲ではないが、私も四季様も相手に遠慮して言葉を発しないというタイプではないので話が続いていく。
周りから見ればそこそこ仲の良い二人に見えるかもしれない。
「思ったのですが、事務仕事などはどこで覚えてきたのですか?
一回、説明されたからと完璧に熟せるものではないのですが」
「頼まれた時にも言いましたが実際にやるのは初めてですよ。
どんなことをするのかぐらいは、ここに配属になった時に説明されたのでそれを思い出し足りない部分は四季様からの説明で補填したまでです」
「その仕事に対する記憶力はなんなのですか……死神が全ての業務を説明されるのは適性もまだ不明な新人時代ですよね。
その言葉が真実なら何千年前のことですか」
妖怪の山を抜け、人里への道を歩きながら四季様の質問を答えると、驚いた顔で呆れを含んだ声で言われる。
それが役目なら覚えるのは当然でしょう。あの時は何をこれからする事になるか分からなかったのですから。
「役目ですからね。それに一度覚えればある程度法則に従えば処理できる事ですし。
数多の魂を裁く四季様には遠く及びませんよ」
「褒められてるのに褒められてる気がしませんね。しかし、何やら良い空気ではありませんね」
どうやら四季様も気がついていたらしい。
先ほどからどうにも殺気を向けられている。とは言え、私達に危害を加える訳ではなく遠巻きに。
幻想郷の妖怪達に何かあったのだろうか?まぁ、私に出来る事があれば八雲から何か行動があるでしょう。
「危害を加える事がなければさほど気にする必要もありません。もちろん、その時はお守りしますので四季様」
「そこまで弱くはありませんけどね?そもそも私達に襲いかかってくる妖怪なんて、格の違いが分からない弱小だけでしょうし」
「だと良いですね」
私の含みある言い方に首を傾げる四季様。やはり、閻魔として外に出ず争いから遠い場所に身を置いていたから気づいていないのでしょう。一体、殺気ではないが強烈な存在感を放つ存在がいる。不思議な事に具体的な場所まで知覚出来ない。
だが、流石に攻撃に移る気配なら分かる。
「四季様!」
「きゃっ!?」
四季様の肩を抱き、こちらに引き寄せる。
反対の手で気配のする場所へ殴りかかる。しかし、まるで手応えがない。感覚としては霧の様なそこにあると分かるのに実態の乏しいものを殴った感じだ。これは、相性が悪いな。
「……何者ですか?」
霧の様な存在感が一つに集まっていく。集まった気配はやがて目視出来る形になっていく。
薄い茶色のロングヘアーに真紅の瞳。小さな身長とは不揃いな長く捻れた角が二本生え、大きなリボンと瓢箪を持っている。
見た目こそ幼いが、纏う気配は強者のものだ。
「あの状態の私に気づくとはやるねぇ〜人間じゃないのが残念だ」
「そうですか。では、お引き取りをお願い出来ますか?」
「答え分かって聞いてるだろ?久しぶりに見つけた面白そうな奴を見逃す手はないさ」
薄い笑みを浮かべ、こちらを見下す様な態度。
なるほど。自分より格下として見ている様だ。断っても了承しても面倒ごとしかなさそうだ。
それならーー
「そうですか。なら、退け」
俺にとって楽しい方を選ぶとしよう。
一切の遠慮なく拳を目の前の妖怪へと振るう。狙いは真っ直ぐ顔面だ。
「…良いねぇ」
身長差の都合上、下から振り上げる様に放った拳を目の前の妖怪は笑みを浮かべて見ている。
見ているという事は捉えているという事。だというのに避ける素振りは見せない。
俺の拳が妖怪の顔面を捉える。しかし
「良い、一撃だ。幾ら私でもそう多くは受けられないかもしれないねぇ」
笑みを浮かべ言葉とは裏腹に余裕そうな態度のままだ。
さて、どう対処したものか。今の一発は恐らくただの小手調べ。次からはこう素直に殴られてはくれないな。
「私相手じゃ雑念塗れかい?」
「ッッ!」
下からくる凄まじい殺気に半歩自分の身をズラす。すると、先ほどまでいた場所をその小さな脚でどうやったのか不思議なほどの風圧を放ちながら蹴りが放たれた。風圧を後ろに飛び退く事で軽減し、目の前の妖怪へと視線を向ける。
瓢箪から酒を飲みながら、剣呑な気配を一切隠すことのない妖怪。圧倒的な強者として君臨し続けた者の姿だ。
「…悪いが、仕事以外で戦うのは不本意だからな」
「ふぅん。もっと自分の欲に素直になれば?隠してるつもりだろうけど、笑み溢れてるよ」
「…なんのことだか分からないな」
口元が緩んでいるのは自覚している。強者との戦いに心躍らない訳がない。
だが、俺にはこいつを殺す理由はない。不必要な殺しは輪廻を乱す結果になる。
「あぁ、なるほどね」
目を細め納得した素振りを見せる妖怪。
「心配せずとも私は死なないさ。そういう存在だからね。
仕事とか役目とか、そういう無駄な事を考えるのはやめて楽しみましょう」
「黙れ」
「お?」
俺の反応に嬉しげにする妖怪。だが、今の俺の気分はこいつと真反対だ。
俺は確かに強者との戦いが好きだ。あぁ、戦闘狂だと言っても良い。だが、死神としての誇りは当然持っている。
「死神の誇りを侮辱するなよ。妖怪風情が」
「くっ、あははは!良いねその殺気!いつぶりだろうか、こんなにも心地よい殺気をぶつけられたのは」
もはや、こいつと話す気はない。縮地を使い距離を詰める。
まずは、四季様からこいつを引き離す。避けても当たってもどちらを選んでも距離を取れるように蹴りを選択する。
縮地の勢いを落とさず、重心を落とし力を込める。上段回し蹴りを酒に酔った相手に放つ。
「おっと」
やはり動体視力が高い。縮地による詰めも蹴りも全て見切られていた。
しかし、俺とこいつの身長差のお陰で蹴りを受け止められてもまだ余裕がある。華扇がやった様に片脚に力を込め受け止めた相手ごと持ち上げる。霊力を下半身に重点的に流し込みそのまま、脚の力だけで投げ飛ばす。
「おー、こりゃ凄い」
「演技下手だなお前」
投げ飛ばした妖怪を追いかけ、かかと落としを放つ。
「んー、ちょっとだけ体勢が辛いな」
そう言って目の前で掻き消える妖怪。なんだ、全く目に見えなかった。
いや、そう言えば最初の時、姿を霧の様にしていたか。面倒な能力だな、自分の体積を弄る能力か?
攻撃を避け、間合いの取り合いすらあの能力なら無視できる。
少し離れた場所で再び、姿を現す妖怪。俺の戦い方は、こういう特殊な相手には相性が悪い。
「まぁ、それで諦める気などないが」
「諦められたら興醒めさ。次はこっちからいくよ」
瞬きの瞬間に、距離を詰められている。腹部に衝撃が駆け抜けて、呼吸が乱れる。
ほんの1秒にも満たない時間に距離を詰められ殴られた。
体勢が崩れ、前屈みになる。それを利用し、近くなった妖怪の頭を鷲掴みにして地面に叩きつける。
地面が砕け散り、土煙が立ち込める。妖怪は頭を掴んでいる俺の右手ごとその身を起こす。力を込めるが相手の方が上だと判断し、頭を離し一旦離れ、口元の血を拭いながら構える。ゆっくりと土煙の中から妖怪が歩いて現れる。
首を鳴らし、準備運動は終わったと言わんばかりの態度だ。
「殴られても平然とやり返してくるとは。あんたも頑丈だ」
「その言葉そっくりそのまま返す。遠慮なしに叩きつけた筈なんだが」
「はっはは!地面に叩きつけられたぐらいで死んでちゃ名が廃る」
楽しげに笑う妖怪。しかし、その笑みはどこか渇いている。
退屈凌ぎにはなっているが、求めている戦いではないのだろう。そう言えばさっき、人間じゃないのが残念とか言ってたか。なるほど、こいつは人間との戦いを何より欲しているのか。益々、腹が立ってきたな。退屈凌ぎの為だけに俺の誇りは馬鹿にされたのか。
再び距離を詰める。相手がなんであろうが、俺に出来るのは自らの肉体を使う事。霧になられるのは厄介だが、一応対抗策はある。
「ふん!」
攻撃するタイミングを敢えてズラす。縮地での距離詰めを一歩踏み込みが足りない場所で止める。
「おっと?少し遠くないか?」
不思議に思ったのか挑発してくる妖怪。
ここまでの攻防で分かったが、基本的にこいつは自分の身体能力に身を任せた戦い方をする。華扇とは違い技がない。
元々の性格か技なんて技術が必要ないほど圧倒的な存在だったのかは分からないが、こいつは技を使わない。使わないのであれば知識として認識していても理解していない。だから、俺の行動が分からない。
霧になり避けるのならその霧すら吹き飛ばす一撃を放つだけのこと。
「獄式大焦熱」
この間合いで蹴りを放つのは予想できるだろう。だが、距離が足りない拳なら何かあると読む筈だ。
俺の目はこいつが、不思議そうな顔をしながら再び身体を霧状にしようとする姿を捉えた。その瞬間、能力を使う。
地面に叩きつけられたぐらいじゃ死なないとは言っていたが、それは逆にこいつが不死の存在ではないという事。それなら俺の能力が使える。刹那の時間だが、能力を行使するには十分だ。俺の目に見えるこいつの命の天秤を片方に傾ける。今回は死の方向に。
幽明をあやふやにする程度の能力。
これを行使すると俺の目には、相手の背に天秤がある様に見える。相手の命の大きさに合わせこの天秤の大きさは変動する。今回はかなり大きい。天秤の大きさはバランスを崩すのに使う俺の霊力の消費量に関係してくる。つまり、今回はかなり多くの霊力を使わなければならない。後先を考えるのはやめだ。この一撃で終わらせる。
「…なんだ、この感じ。上手く身体に力が入らないねぇ」
妖怪の霧化が乱れる。
俺の能力により身体の状態が変化し普段の容量で変化出来なくなったのだろう。
「爆ぜろ」
拳の霊力を解き放つ。
巨大な爆発が起きた、煙幕の中から妖怪が吹き飛んでいく。どうやら目論見は上手くいったらしい。空中で体勢を直す事なく、妖怪はドサリと地面に落ちる。死んではないが立ち上がる気配はない。気絶でもしたか?
「あはははははは!!!やってくれたじゃないか!!」
さらに増大する存在感と膨れ上がる妖気。
どうやら、俺の攻撃は化け物を叩き起こした様だ。直感で理解する。今の俺はアレに勝てない。
アレはそういう存在だ。戦闘という行為において、元々次元が違う。
身体を起こし、赤く光る瞳に射抜かれる。同時に身を滅ぼしかねない欲求が生まれる。アレに挑みたいと。自分がどこまで通用するのか知りたいという欲だ。
「そこまでよ」
足場の感覚がなくなったかと思ったら、気色悪い空間を経由し四季様の横に落とされる。
これは…八雲のスキマか。
「ちぇー、良いところだったのになぁ」
膨れ上がった妖気が霧散していく。八雲の登場によって戦う気はなくなった様だ。
「萃香貴女ね……はぁ、まぁ良いわ。雫、怪我とかはないかしら?」
「大丈夫ですよ。ほっとけば治りますし」
少し内臓系にダメージを負ったが、人間ほどヤワじゃない。
「そう。全く、幻想郷の数少ない戦力で殺し合わないでいただきたいですわ」
「私らが殺し合い?そんなのしてたっけ」
「私は貴女を撃退しようとしていただけですし、貴女は私で遊んでいただけですよね」
「はっはっは、よく分かってる。我々が殺すのは人だけさ紫。
おっと、忘れないうちに。さっきはあんたの誇りを不必要に貶めた。そうでもしないと楽しめないと思ってね」
あぁ、やはり態とでしたか。この萃香とかいう妖怪、腕っ節も強いが中々に頭が良い。
「ただまぁ」
ニヤリといやらしく笑みを浮かべる萃香。
なんだろうか。物凄く嫌な予感がする。
「華扇との戦いを見てたから言えるけど、お前さんどれだけあいつの事が好きなのさ。
私とはアレコレ考える素振りを見せてた癖に、あいつには熱く求めてたねぇ〜」
「言い方……そりゃ、私は仕事以外で戦いをする気はありませんしその仕事で楽しめる相手ですから頭が空にもなりますよ」
「ほうほう。つまり、華扇とは仕事だけの関係と」
「ですから言い方……別に彼女に魅力を感じてない訳じゃありませんよ。
認めます。確かに私の心は華扇さんを求めている。ですが、それがどういう感情なのか私には分かってないのですよ。
それに、これが例え好きだという感情だとしても私は彼女を殺します。それが役目ですので」
「ほうほう。愛されてるなぁ華扇?」
まるで話しかける様な素振りで言う萃香。この場に華扇さんはいない筈ですが。
そう思いながら人里の方を向くと見慣れた桃色の髪の女性が立っていた。というか、華扇さんだ。
「……雫、萃香。座りなさぁぁい!!人里近くで何をしてるんですか!!」
華扇の雷が落ちる。
私も萃香も反射で正座する。顔を真っ赤にし怒っている華扇さん。
こんな表情もするのですね。と叱られているというのになんとなく嬉しい気持ちになる。
「雫、なに嬉しそうな顔してるんですか!自分のした事わかってます?」
「そんな顔してました私?」
「してましたよ!大体ですね、戦うのが楽しいのは分かりますがこれだけ人里近くで妖怪が喧嘩してたら、みんな怖がってしまうでしょう。
それが分からない二人ではないでしょ。どうせ、萃香の方から煽ったのでしょうけど」
くどくどと腰に手を当てて、私達を叱る華扇さん。
やはり仙人としてちゃんと人の味方をしている。普段は見れない姿だ。
「…恐らく初めて見る貴女の表情が嬉しいのだと思います」
「ッッ〜〜!!」
結局この後、さらに顔を赤くした華扇さんにこってりと叱られる事となる。
叱られた後は折角という事で、全員で飲みをした。華扇さんと萃香が沢山飲み、私の財布が薄くなったと報告しておく。
四季様の分は奢るつもりだったけど、なぜ私が全員分支払いをしたのでしょうか。
「ありがとうございます、雫♪」
まぁ、嬉しそうな華扇さんの表情も見れたし良しとしておきましょう。
感想・批判お待ちしています。