東方死線華   作:マスターBT

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予想以上に長くなったので前後編で分けます。殺し合いは次回です!!


300年目 前編

 瞑想。

 部屋で一人、私は座禅を組み目を閉ざし自らの内側へと意識を落としていた。理由は単純。

 今日は華扇さんとの殺し合いを行う日だからだ。深く深く自分の内側へと意識を落とし、脳裏に網膜に焼き付けた華扇さんと戦う。

 華扇さんの戦い方は前に戦った萃香と似た力任せだ。だが、ちらほらと技の様なものも垣間見える。

 習得中か、もしくは私の真似か。後者であれば嬉しい。そう思った直後、記憶の華扇さんの動きがブレる。余計な雑念が入りましたねこれは。気を抜くとすぐブレてしまう。華扇さんとの戦いが楽しいのもあって、再現を維持し続けるのが難しいのが辛いですね。

 

「……ふぅぅぅ」

 

 再び意識を落としていく。

 目の前にいるのは、俺と同じ笑みを浮かべた華扇。お互いが同時に相手に向かって駆け出す。

 攻め込むタイミングは同じだ。あとは、純粋な力比べだが俺の勝ち目はない。純粋な力であれば華扇に軍配が上がる。故に、衝突後素直に力比べはせずに次の行動を起こす。蹴り上げて気絶を狙うが上半身を逸らす事で避けられる。もちろん、避けられるのは想定済みだ。即座に次の手を放つ。

 そんな感じで記憶の華扇さんと戦っていくが、結果はいつも同じ。今回も時間切れだった。

 

「…記憶の中とは言え、殺させてくれませんか華扇さん」

 

 自分での再現というある意味、都合よくいく世界ですら華扇さんは殺させてくれない。その事実を確認する度に私は歓喜で震える。

 茨木華扇という仙人は、終雪雫という死神が持ち得る全てを賭しても殺せるのか分からないという事実。それが堪らなく嬉しい。

 役目を放棄したという訳ではない。それを放棄すれば私は消滅するだろう。……あとどれくらい私は外で活動出来るのだろうか。

 

「さてとそろそろ人里に行きますか」

 

 幻想郷では、人里が大きく発展する事はないという。八雲から聞いた事だが、妖怪を恐れて貰わなければ困るからという事だ。

 人は未知を既知に出来る生命体であり、私達は彼らの恐怖心から生まれている。大元が無くなればそれは当然、我々の消滅に繋がる。

 私個人としては人には、尊敬の念がある。ごく僅かな限られた時間でその命を燃やし、物事を成し遂げる。肉体を用いた戦いであれば私も強者になるだろう。しかし、それは無限にも等しい時間を費やしたからだ。人の様に睡眠や食事を取らなくても害はない。

 一年という時間を全て鍛錬に注ぎ込む事も出来た。だが、人間はそうではない。

 食事をして、睡眠を取られなければ肉体は弱り短い時間をより短くする。故に、それらの時間も確保した上で自らが思い浮かべる極致へと向かっていくのだ。一武人としてこれを尊敬しない訳がない。

 

「…まぁ、こうして呑気にお団子を食べている仙人様もいるのですが」

 

「んっ……顔を合わせての第一声がそれですか雫!?」

 

 甘味処で山になった団子に目を輝かせ頬張っていた華扇さん。ある程度時間は決めてますが、よく人里で会いますね。

 暇なんですかね仙人は。少し呆れながらも予期せぬ会合に心躍る。

 

「それ、全部一人で食べきるおつもりで?」

 

「そのつもりですけど…」

 

「太りゴッ!?」

 

 続きを発する事は出来なかった。凄まじい勢いで、華扇さんが団子を3本手に取り、私の口内に叩き込んできた。

 別にこれで死ぬ事はないけど、万が一串が貫通したら人里中で悲鳴が上がるぞ。

 

「それあげます。それに、これから激しく身体を動かすんですから太りませんよ」

 

 とりあえず口の中に放り込まれた団子を咀嚼し、一旦串を掴み口から話す。

 

「んっ…むしろ返せと言われたらどうしようかと思いましたよ」

 

 やはり美味しいですねと言いながら華扇さんの隣へ座る。今日も相変わらず人里は平和だ。生命に溢れている。

 楽しげに笑う大人達。無邪気に駆け回る子供。空を見上げお茶を啜る老人。

 あぁ、やはり良いものですね。生きているというのは。

 

「ふふっ」

 

「どうかしました?」

 

 隣の華扇さんが笑う。殺し合いの時の様な笑みではなく、朗らかな優しい笑みで。

 

「人が好きなんですね」

 

「…好きかどうかは分かりませんが、短い時間で何かを成し遂げ活力に満ちている姿というのは尊敬に値します。

 だからこそ、それを終わらせる私達は彼らに悔いない終わりを迎えさせなければならないのです」

 

 私には分からない苦痛や困難に満ちた時間を過ごした筈だ。死ぬ瞬間まで後悔に濡れて終わるというのは、余りにも報われない。

 だから、死神は優しい夢を見させてその命を刈り取る。私は不得意だが。そもそも、そういう殺し方をしてたのはどれほど前だろうか。

 

「…人はそこまで弱くないわ。後悔はあってもそれを継ぐ次代がいるのだから。

貴方達から見れば、確かに短く苦しい生命かもしれない。だけど、人はそれを笑って過ごせるのよ」

 

「……あぁ、確かに。かつてそんな仙人がいた気がします。名前も姿も覚えていませんが」

 

 彼は天下無双の武人になると言っていた。その為に、寿命の枷を外し私が対処する事となった。

 私がこうして今ここにいる事から分かる通り、その武人は私に敗北した。彼の最期の言葉を思い出す。

 

『あぁ……残念だ…某はここで潰えるか…天下無双には終ぞ至れなんだ……か、かかっ!だが、実に良き死合いであったぞ死神!

見ていたか!!我が弟子よ!!某はここで死ぬ!だが、お前は至れ。そして、我が武を天下無双にしてくれ!は、ははははは!!!』

 

 目的を果たせなかったというのに彼は笑っていた。当時の私には何故笑っているのか分からなかったが、今なら分かる気がする。自分の全てを持ってしても超えることの出来ない壁と出会い、全てを賭けた。自分は死ぬがその戦いは武は受け継がれる。

 彼は詰まる所、自分の武がどこまで通用するのか天に届き得るものなのか試したかったのだろう。

 

「ね?人は貴方達に優しい死を貰わなくても、満足して死ねるのよ」

 

「そうかもしれませんね。ですが、それと私の使命は別です。

 私でなければ満足のいく死を迎えられない人がいるかもしれない。私はその為に存在し続けますよ」

 

「残念。仙人に誘うのをアリかと思ったのに」

 

「死神をクビにされる事でもあれば考えておきましょう」

 

 自分でも驚くほどあっさりと出た言葉に内心驚く。

 どうやら私は華扇さんと共に仙人をやるというのを悪くないと思っている様だ。

 

「クビって…ふふっ、でも雫と一緒に修行するのも良いですね。退屈しなそうで」

 

 人里を照らす太陽の下、輝く笑みを私を見ながら浮かべるものだから。余りにも綺麗なその表情に私は魅入られる。

 何故、こんなにも彼女の表情一つ一つに私は魅入られるのだろうか。

 

「とても疲れそうですけどね」

 

「む。何故ですか?」

 

「俺と華扇だぞ?修行が殺し合いになるだろ」

 

「……死神で無くなっても私を殺そうとするのですか?」

 

 すぅぅと目を細め、俺の内心を推し量ってくる。

 わざわざ答える必要があるのか?まぁ良い。言葉として出して欲しいのなら出してやろう。

 

「お互い、自制できると思うか?感じた事ぐらいあるだろう。俺と永遠に殺し合いたいと」

 

 華扇の胸を指差し、俺の胸も指差す。

 

「ここが互いを求めてやまないんだよ。死神であろうと仙人であろうと俺はお前という女に溺れている。

 抜け出すことなんて出来ないししたくない。どんな形だろうと俺達は殺し合いを避ける事はできない。違うか?」

 

 第三者の目がなくなれば。暴れても問題のない環境に行けば。修行という名目で手合わせでもしたら。

 殺し合いという手段を、心の渇きを潤す唯一の術を求めずにはいられない。ゆっくりと全身を巡る毒の様に中毒性の高いソレは既に俺という存在を侵食し尽くしている。もうすでに抜け出すことなんて不可能なんだ。

 

「全くまだ、私達の時間じゃないのですよ?でも、そこまで熱烈に求められるのは悪くないですね」

 

 会話だけ取れば男女の愛の囁きにも聞こえるかもしれないが、そうではないのを俺と華扇の表情と雰囲気でわかる。

 人里を歩く人には気づかれない様に、小さくだが確実に闘志満ちた笑みを浮かべる。あぁ、ここが人里でなければ今すぐにでも…!

 

「あらあら。こんな所でお熱いですわね」

 

「「!?」」

 

 俺も華扇も近くに寄られるまで気がつかなかった。

 

「うふふ。互いしか見えていない様でしたので。

 ーー気をつけないと愛しい方を失ってしまうわ。こんな風に」

 

 スルリと華扇の首へと手を伸ばす女性。間合いが掴み辛い……仙術か。

 しかし、それはよく見た。華扇へと伸ばされる手を横から掴み、目の前の女性を睨み付ける。髪から何まで青で統一された女性。

 こちらを値踏みしてる様な視線と真正面から向き合う。

 

「……悪いが、その程度で死ぬほど安い女ではないし見逃すほど俺も甘くない」

 

「ふ、ふふっ!良いですわぁ……その目、その空気、紳士であろうとするお姿より魅力的に見えますわよ?」

 

「…喜ばれましてもね。それで何者ですか?」

 

 スッと手を離せば大人しく引き下がる。くるりとその身を翻し私達を見るその目はなんとも欲に塗れていた。

 直感が囁く。こいつはめんどくさいと。

 

「これは失礼。私は霍青娥、以後お見知り置きを。死神さん?」

 

 ……悪い奴ではない気がする。欲に素直なだけで。

 いや、それを悪いと捉えれば悪いんだが。誰かを貶めようとかそう言う類の悪意からは程遠い気がする。

 

「えぇ、どうも。私は終雪 雫。覚えなくても大丈夫ですよ」

 

「あらあら、随分と嫌われたものですわぁ。ただの女にそこまで警戒しなくても良いのですよ?」

 

「ただの女性は仙術なんて使いませんので。それと私を一目で死神とも見抜きませんよ」

 

 私の返答何がおかしいのか笑い始める青娥。

 

「…なんですか」

 

「いえいえ…ふふっ、仙人様と殺し合いをしてる時と全く違って真面目すぎて。おっと、今はまだそこまで長居する気もありませんし。

 とりあえずお近づきの印にこちらをどうぞ。興味があれば是非、次の機会にお話をしましょうね〜」

 

 私と華扇さんの間に何かの本を置いて、立ち去っていく青娥。呼び止める理由は私達にないのでそのまま見送るが…

 一体、なんだったんだあの女性は。

 

「…これ、道教ですね」

 

「アレで宗教家なのですか……なんともちぐはぐですね」

 

 そう言いふと思ったが口には出さない。そうでした、私の隣に座る仙人も甘味は大好きだし、戦いには溺れる。

 割と欲に塗れているなと。それならまぁ、ああいう宗教家が居ても問題はないでしょう。

 

「どうします?一緒に私の屋敷まで行きますか?」

 

 団子を食べ終えた華扇さんに提案される。空は赤くなりカラスが鳴く夕暮れ、まだ私達の時間ではないが妖怪の山に到着する頃には良い時間になっているだろう。青娥の襲来で気が逸れてるし我慢できるだろう。

 

「行きましょうか。時間は無駄に出来ませんし。あぁ、そうでした。これ、先程貰った分のお金です」

 

「へ?…あぁ!あの団子の良いですよ!私が勝手に食べさせてしまっただけですし」

 

「しかし、華扇さんが注文したのを食べたのは事実です。それなら私が払うべきでしょう」

 

 私が差し出したお金が一瞬なんなのか全く理解していなかった華扇さんに説明する。

 結局このあと、私が前回飲みを奢ったのを理由に華扇さんが払うことになった。言い合いしてたらどちらも譲らなかっただろうと予測できる。人里を出て妖怪の山へと向かっていく。

 

「雫は何か夢って持ってます?」

 

 しばらく無言で歩いていると唐突に華扇さんが聞いてくる。

 

「夢ですか?……特にはないですね。私には私が死神として全うすべき役目がありますから」

 

 夢や目標を持たなくても問題はない。なぜなら私には死神として果たさなければならない役目がある。

 それ以外を考える余裕がなかったのもあるが、必要性も感じていない。だが、どうやら華扇さんは違う様だ。少し悩んだ素振りを見せたあと、語気を強め話す。

 

「それはあくまで死神としてでしょう?私が聞きたいのは、終雪雫として何かないのか?ってことです。

 役目とかそういうのを聞いてるんじゃないんですよ」

 

 ぷくっと頬を膨らませ抗議する華扇さん。

 

「……不躾な質問だと分かって聞きますが、その二つに何か違いがあるのですか?」

 

 私にとっては死神としてやらなければならない事と、私個人でやりたい事に差はない。

 終雪雫は死神である。これは変える事なんて出来はしない。

 

「役目は義務ですが、夢は貴方個人で決められるですよ。何をしたい、何かを成し遂げたい、何かが欲しい。

 種族や血筋などの生まれによる決め方をせずに貴方が自由に決めて良いのが夢です。私で言うなら天道歩める仙人になる事です」

 

 なるほどと思いながら思案する。しかし…種族や血筋で決まらないもの。私にそんなものがあるのだろうか。

 仙人を殺す事。それは死神としてやらなければならない役目でありこれまでも、これからも変わらない。ならば、私がやりたい事とはなんだ?死神としてではなく、私個人としてやりたい事。………分からない。これまで考えもしなかったものを考えろと言うのは難しい。

 

「そこまで眉間にシワを寄せなくても…楽に考えて良いんですよ?」

 

「そう言われてもですね……今までずっと役目以外は興味なかったのです。

 死神とは、命の終わりを告げる存在。私はそうあるべきだとずっと生きてきましたから。個人の夢や目的など必要ないと。何故なら、私は死神なのだからと。だからこそ、仕事に生きこの力を手に入れたのです」

 

 そもそも、こうして殺す対象と話していることすら珍しい。今までの相手は私を撃退するべく即座に武力行使を始めたり、そもそも何を言っているのか理解できなかったりと対話すらままならない事が多かった。私を撃退し、今の様に親しげに話しかけてくる相手など…華扇さん以外にいなかった。同僚である他の死神や上司である四季様とも私はそんなに話していない。

 あぁ、そうか。私は他者とこんなにも関わっていなかったのだな。だから、自己で完結した言葉や概念しか分からないのか。

 

「んー…これは思ったより重症…」

 

 横を見れば私の事なのに自分の事のように悩んでくれている華扇さんがいる。

 私はこんなにも誰かの為に悩んだ事があっただろうか?こんなにも誰かの為に自分の時間を使えただろうか?……そうだな、もし私が夢というものを持つのならーー

 

「貴女を知りたいです。華扇さん」

 

 そう。私の知らないことを次々と教えてくれる華扇さんを知りたい。

 

「……へ?」

 

「夢ですよ。今の私には死神としての役目以外に思い付く事がありません。考えてみれば随分と生きているのに、まともに接して会話をした事があるのは華扇さん。貴女だけなんです。こうして話しているだけで、私には知らない事を教えてくれる。そんな貴女を知る事が出来れば私にも成し遂げたい夢が出来るかもしれません。だから、その前段階として私は貴女を知りたいと思ったのです」

 

 殺すべき対象を知りたいと思うのは不自然だが、この人を殺すには私にはまだ何かが足りない。もしかしたら、それは夢かもしれない。

 だから、彼女から知り得る事、盗める事は盗んでいこう。

 

「わ、私はそんなに高尚な存在じゃないですよ!?」

 

「えぇ。知ってますよ。でも、私が知りたいともっと関わりたいと思えたのは貴女が初めてですから」

 

 話していれば早いもので妖怪の山にある華扇さんの屋敷へと到着する。

 天を見上げれば輝く月が見える。あぁ、私達の時間だ。

 

「ーーですが、これは別です。今宵も良い月だ。言葉でのやり取りは一先ず十分。これよりは、命の取り合いといこうか?華扇」

 

「全く……良いんですか?私を知りたいんでしょう?」

 

「あぁ。だが、殺し合いの最中でも十分知る事は出来るとも。それにそれとこれは別だと言っただろう」

 

「愚問でしたか。良いでしょう、先程お預けを食らいましたし……私も我慢の限界です」

 

 満月の下、三日月を浮かべて向き合う。既に闘志も殺気も十分。

 

「「さぁ、存分に殺し合おう!!」」

 

ーー三度目の殺し合いが、今開始された。

 




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