霊夢からどれくらい前の巫女かは決めてないガバガバの模様。
夜の帳が訪れたルーマニア某所。吸血鬼伝承が未だとある存在により長続きしている。幻想郷の外であるというのに、力落ちる事なく妖怪達が活動しているのが証拠だ。まぁ、最もその吸血鬼に従属しなければならないのだが。
「我に服従する決心はついたか?ほら、口にしてみると良い、『貴女様の下僕になると』お前の様な弱小にプライドも何もなかろう?」
首元まで少しウェーブのかかった長さの青みがかった銀髪。それに負けない鮮やかさの縦に割れた真紅の瞳。口元からは鋭く尖った犬歯が見えている吸血鬼が、自身の目の前で蹲る妖怪へと声をかける。
「どうした?言葉を発するだけの余力は残したつもりだが……やれやれ、我が言葉を無視するならいらぬな。殺してしまおうか」
聞くものを畏怖させるカリスマに満ちた声。意志が弱い者が聞けば思わず傅き、言葉によっては自ら命を断つだろう。
絶対王者。その言葉が相応しい。その圧を受け、口を開く。
「…す、すみません…余りの御威光に呑まれ言葉を失っておりました……」
それだけ残し、妖怪の首が飛ぶ。
驚愕に染まった顔が何度か跳ね、やがて壁に当たり停止する。腐っても妖怪、首が飛んだ程度ではまだ死なない。
「…我が許した言葉はただ一つ。我に仕えるという言葉のみ。それを悟れぬ愚者など我はいらぬ」
ゆっくりと歩み、妖怪の首を踏み潰す。戻るべき頭部が消えればさしもの妖怪と言えど死に絶える。
「はぁ…妖怪の質も落ちたものだ……なるほど、これでは妖怪が落ちぶれていく訳だ」
自身の力で見たそう遠くない未来。妖怪が落ちぶれ、やがて消える。その時は、あり得んと鼻で笑っていたがこうも連続で雑魚妖怪を見ていたらよほどの愚か者でない限り理解するだろうよと思う吸血鬼。どうしたものかと目を閉じた時、とある運命を拾う。
「クッ……なるほどなるほど。遥か向こうの妖怪は面白い事を考える。幻想郷か、極東も縁遠い場所ではない。
さて、どれほどか。私の希望に沿わなければ…滅ぼしてしまおうか。美鈴!」
「はっ、此処に」
腰まで伸ばした赤い髪の女性が傅く。目の前の主に絶対の忠義を捧げている。
「直ちに我の下僕達に通達しろ。極東へ行くぞ、選別の意味を兼ねて攻め込むとしよう」
「はっ、御意向のままに。我が主、レミリア様」
「…お前にそう呼ばれると少しこそばゆいな美鈴」
「今はそう感じかと。では、行ってきますねお嬢様」
笑みを浮かべ返答し、紅鈴の姿が消える。幻想郷の底力が試される時が訪れ様としていた。
『今、良いかしら?』
ちょうど仕事が終わったタイミングで八雲から連絡が来る。狙いすましたかの様なタイミングですが…まぁ良いでしょう。
この妖怪なら暇じゃないと嘘を吐いても気が付いたら横に居そうですし。
「仕事が終わったタイミングですよ。暇なんですか?」
『偶々ですわよ?ちょっと貴方に頼みたい事があるの。来てくれます?』
荒事でしょうか?いや、それにしては落ち着いた声ですね。
「良いですよ。四季様に話は……どうせ、貴女の事ですから話は通っているのでしょうね」
返事をすると同時に視界が一瞬、暗闇に呑まれ次の瞬間には明るい場所に立っていた。これが八雲の転送術ですか。
辺りを見渡せば鳥居や賽銭箱が見える。どうやら神社の様だ。しかし、当の八雲は何処にいる?
「此処ですわ」
「……わざわざ背後から現れる必要はないんじゃないですかね。ところで、なにを頼みたいんですか?」
「あの…一応、ここ神社ですから……妖怪がそんな簡単に二体も来られると困るんですけど」
背後の八雲にばかり意識を割いていたせいか目の前の少女を見逃していた。脇出し紅白の巫女服を着た少女。
身に纏う霊力は一級品だ。恐らく、ただの人間が100年全てを修行に費やしても到達できない場所に彼女はいる。
「あぁ、なるほど。博麗の巫女ですか」
「人をじろじろ見て第一声がそれですか?……紫、この妖怪は?」
「前に話した貴女の修行相手よ。安心して良いわ、貴女が全力で攻撃しても彼には傷一つ付かないから。
雫、貴方に頼みたいのは彼女に霊力の扱い方を教える事ですわ。既に気付いているとは思いますけど、彼女の霊力は一級品なんだけど…その扱い方が下手でして」
八雲の言葉にムッとした表情を浮かべるも博麗の巫女。しかし、それだけで反論をしないところを見ると図星なのでしょう。
「そういう事でしたか。別に構いませんよ。仕事として引き受けますよ、どうせする事ないですし」
仕事がない時は華扇さんと甘味を食べに行ったり、人里で会話してたりするが仕事がある時は仕事が優先される。
私の返答を聞き、博麗の巫女は私を睨み付ける。
「…本当に強いんですか?」
「調べますか?全力で良いですよ」
このタイプの人間は挑発すれば簡単に乗ってくる。目の前の博麗の巫女が霊力を吹き出させる。
確かに出力としては申し分ない。しかし、あれはただ溢れ出させているだけだ。巫女が持っていた大幣を私に向ける。大幣の周りをこれまた大雑把に霊力が纏わり付く。
「これが私の全力全霊です!」
砲撃の様に大幣から霊力が射出される。
ふむ……確かにこれは純粋に力の弱い中級程度なら消炭に出来るかもしれない。だが、私の様に霊力や妖力のコントロールに長けている者、上級やそれ以上の存在には全くと言って良いほど通用しないだろう。余り趣味ではないが、これから教える事になるのなら強さは見せつけておいた方が良いだろう。
「…この程度ならまぁ」
片手に霊力を流し、密度を上げる。向かってくる霊力に対し軽く横撫でする様に触れる。それだけで、巫女の霊力は霧散していった。
「なっ!?」
驚愕に染まった表情を浮かべる博麗の巫女。そのまま膝をつく。
あれだけ遠慮なしに使えば身体への反動もあるでしょう。博麗の巫女へ近づいていき、その首を斬る様に手を動かす。もちろん、本当に斬るわけがない。
「私が敵ならこれで貴女は死んでますね。制御が如何に大切か分かりましたね?」
「うっ……」
それなりに自尊心が高い様だが、理性的な性格をしている。私の強さと言葉を理解したからこそ、悔しそうにしているが罵詈雑言は口に出さない。
「八雲。期間はどれくらいですか?」
「そうね…基本的には貴方に任せますわ。でも、早ければ早い方が好ましいですわね」
敢えて期間を明言しない事で私を測っている…はぁ、ほんとこの妖怪は面倒くさいですね。
先ほどの霊力行使的に恐らく彼女は、強すぎる霊力を宿しているが故に制御が出来てないのだろうと推測する。真面目に話を聞いてくれそうな感じもあるので、早ければ一年ほどである程度は掴めるだろう。
「一年です。それである程度は使える様にしましょう。その先は彼女自身が目指すべきです」
「なるほどなるほど。では、頼みましたわ」
スキマの中に消えていく八雲。私と博麗の巫女だけとなる。
「さてと、引き受けてしまった仕事ですので。面倒ですがよろしくお願いしますね」
「…よろしくお願いします」
「とりあえずは貴女を休ませましょうか」
霊力の使い過ぎで動けない博麗の巫女をこのまま放置するわけにも行かない。横抱きで彼女を担ぎ、軒下まで連れていく。
「ちょ、はな、離してください!?」
「あのまま放置するよりは良いでしょう」
暴れる彼女を運び、休ませる。適当に水を汲み、飲ませる。
1時間ほど休めばまた動ける様になるでしょう。此処は彼女と縁深い場所ですし。
「妖怪の世話に……いや、紫と取引してる時点であれなんだけど……でも、巫女が妖怪の世話になるのって……」
「貴女も大概真面目ですね…自分が強くなる良い機会だと思えば良いじゃないですか」
休んでいる彼女の近くへ腰掛ける。神社に妖怪が来るとは思えないが、今の弱っている彼女を狙ってくるかもしれない。
「強くって……良いんですか?巫女が強くなれば辛いのは妖怪側ですよ」
「幻想郷の仕組み的に、狩られる妖怪が悪いですし。それに貴女がどれだけ強くなろうと私はやられませんからね。
巫女が出てくる様な案件には手を出しませんから」
ついでに淹れてきたお茶を啜りながら答える。妖怪が巫女に討伐される。これは人間に被害を出し過ぎた妖怪が悪い。
人間に恐れられるのが妖怪の役目だが、やり過ぎれば反感を買い過ぎるというもの。反撃に出た人間達より頭や力が弱い妖怪ならそのうち、同じ妖怪に敗れていただろう。
「妖怪達は弱肉強食ですから。狩られるほど弱いのが悪いんですよ」
「…貴方達の価値観が私とはズレてるってのは分かりましたよ。それで修行ってなにをするんですか?」
「貴女が動ける様になるまでの暇つぶしとして話しておきましょうか。修行の為の確認ですが、貴女は普段霊力を使う時、流れを意識していますか?」
霊力の制御に最も必要なのが流れを意識する事だ。どんな人間であれ霊力は流れている。先ほど、博麗の巫女が膝をつき疲労した様子を見せたのは、霊力が生命力に繋がっている為だ。その為一度に使い過ぎれば反動として疲労が訪れる。
ただの人間が霊力を使えないのは、この流れてる霊力を知覚出来なかったり少な過ぎたりする為だ。巫女ほどの霊力があれば後者は当てはまらない。なら、前者かと言われれば違う。大幣に霊力を集めていたから知覚は出来ている。だが、具体的には把握し切れていないのだろう。
「流れ?んー……そこまで意識してないかもですね。こう集まれ〜ってやれば勝手に集まりますし」
手を前に出しギュッと目を瞑る巫女。掌の前に小さな霊力の玉が出来る。
即座に霧散していく。想定より回復が早いですね。
「それが原因です。あの時、私が手に集中させた霊力は貴女以下なのは気がついてますね?
貴女の霊力は密度がないんですよ。だから、簡単に打ち消される。紙袋を空っぽのまま膨らませたものと、中に何か入れておき膨らんだもの。どちらが潰れやすいかなど説明するまでも無いでしょう」
一度お茶を啜る。隣から熱心な視線が来ていることから続きを求められているのでしょう。
…少しばかり楽しみになってきましたね。この少女がどこまでいけるのか。
「貴女が自分で知覚できる霊力が増えれば増えるほどより強くなれますよ。私が保証しましょう。それだけの霊力を貴女は宿しています。
その為にもまずは、集中力を高めましょう。今日から数週間ぐらいは一日を瞑想して過ごしてください。あぁ、心配なさらなくても食事や睡眠の時間はありますよ。その後、私が監視しますから神社での生活を送ってください。ただし、霊力を一切偏らせることなく全身に回してくださいね。どこか一つでも乱れれば…そうですね、私との組み手でもしましょうか」
「……え?」
急激に青ざめていく顔。何を恐怖しているのでしょうか?これぐらいなら簡単に超えてもらわなければ困るというもの。
お茶を飲み切り、立ち上がる。巫女の霊力も回復している、早速始めますか。
「では、始めますよ。好きな体勢で良いから瞑想を始めてください。意識する点は一つです。
自身に流れている霊力に意識を向け続けること。暫くはそれだけで良いでしょう。次の段階に進むときは私が合図します」
「い、いや…今日はほら疲れてますから……明日からのほうが」
「ん?」
「は、はい!やらせていただきます!!」
背筋を立たせ綺麗な正座をし目を閉じる巫女。さてと、私もただ見てるのは暇ですから仮想の華扇さんでも思い浮かべて身体を動かしておきますか。
飲み込み自体はそれなりに早く巫女の周りを漂っていた霊力が既に彼女の周囲で固定され始めている。だが、まだ甘い。あれは彼女の意識に引っ張られて停止してるだけの霊力。身体を動かしながら見ていると再び霊力が霧散し始めた。
「集中力、切れてますよ」
仮想の華扇さんの頭部に蹴りを入れながら、注意する。完全に知覚出来てる訳ではない霊力は本人の集中が少しでも乱れればああやって即座に霧散していく。本来、流れ出るのが正しいものを無理やり押さえ込んでいるのだから仕方ないのだが。
この日は仮想の華扇さんを殺すことはできず、博麗の巫女に二十回以上注意して終わりを告げた。
縁が連れてきた妖怪との鍛錬は正直、人間の私にはとても辛いです。理由?聞きたいならたっぷり教えますよ!!
まずは、座禅で霊力を知覚する鍛錬の時です。彼、私を眺めるだけだと暇なのは分かるんですけど、暫くすると身体を動かすんです。ただ、身体を動かすだけなら別にちょっと音がうるさいなーって程度なんですけど、すぐに全身に鳥肌が出来るような殺気を放ち始めるんですよ。それに恐怖すると霊力の制御が乱れるので毎回。
「集中力、切れてますよ」
って言ってくるんですけどその時、私に僅かだけど殺気がくるんでこれがまた怖いんです。お陰様で一週間ぐらいで並大抵の殺気には怯まなくなりましたよ……鍛錬の間も妖怪が暴れれば対処に行くんですけど赤ちゃんってぐらい殺気が薄く感じられますからね。おかしいなー、彼と出会う前ならそれなりに覚悟する必要があったんだけどなぁ。って、そんな事はどうでも良いんですよ。
日が経って次の段階に進んだんですけど、瞑想して意識してた霊力を日常生活でも意識しろって難し過ぎます。乱れると彼が頭を叩いて外に連行されるんです。
「また乱れましたね。では、組み手です。今回は……私は右手しか使わないので来てください」
こんな感じで彼に縛りが出来て組み手するんですけど。その間も霊力制御を要求されますし、体術強すぎるんですよ。
私、博麗の巫女ですからある程度は戦えるつもりだったんです。そんな自尊心は一回で粉々になりましたけど。だって、全力で戦いに行ったのに受け流しもされず、その場から動かすことも出来ませんでしたもん。あと、あの人絶対性格悪いです。信じられます?私みたいな幼気な少女が土に塗れてそれでも向かってくる姿を見て、楽しそうに笑みを浮かべるんですよ?酷くないですか!?
え?嫌なら逃げれば良いって?……いやその、別に心底嫌って訳じゃないんですよ。実際、彼のお陰で確実に強くなってますし。そ、それになんだかんだちゃんと褒めてくれますから。
確か、調子が良くて丸一日ずっと霊力を維持できた日があったんですよ。その時にですね。
「おぉ、想定より早いですね。良いですよ、今日の感覚を忘れないでください。
もう休んで良いですよ、今日は私が夕飯を用意しますから」
頭を撫でながらそう言ってくれたんです。でも、流石に悪いので私も手伝いますって言ったんだけど。
「教え子が成果を出したんですから労うのが師匠というもの。いつも私の鍛錬は辛いと文句を言っているじゃないですか。
こういう時は素直に休んでください。人はしっかりと休息が必要なのでしょう」
ほとんど真顔で表情が乏しいんだけど、この時は口元がよく見れば上がってました。流石にそこそこの期間時間を共にしてますから変化にも気付けるようになりました。え?そんなに一緒にいるの?って。そうですよ、彼は私の鍛錬を見るのが仕事らしいので基本、神社に居ますし私も妖怪が暴れてる時以外は神社で鍛錬してるか、神社の掃除してますし。そうそう、彼掃除を手伝ってくれるんです。私の背や力じゃ大変なところもやってくれるんでありがたい限りですよ。
ん?何もなければ24時間一緒に過ごしてるんじゃないかって?流石に寝る時とかは別室ですよ。それに彼が私に何かするとかあり得ないですし。だって、華扇さんでしたっけ仙人の。彼女の話してる時の彼はすっごく良い顔するんです。だから、私に何かするなんてあり得ないんですよ…
「休憩は終わりましたか?そろそろ、次の鍛錬を始めますよ。おや?手紙でも書いてましたか?」
「大丈夫ですよ。紫に報告するためのものですから。半年近く経ってから教えろーって中々ズレてる気がします」
「妖怪の時間感覚なんて雑ですからね。私の想定より貴女の成長は早いので余裕があれば、何か戦闘術でも教えましょうか。今月からは霊力を全身に回したままの組み手です。当然、私も霊力制御を行うので加減を間違えればそれなりに怪我する可能性もあるので気をつけてくださいね」
その言葉を聞きながら筆を置く。今月からは戦闘術が主体かぁ……凄く脅かされてる気がする。
でも私は知っている。これだけ脅しておいて、彼なら絶対にそんな事にならないと。だからそこだけは安心して鍛錬に励める。まぁ、気を抜いてるとちょっとした怪我くらいなら負わせてくるかもしれないけど。
「はい。では、今日もよろしくお願いします師匠」
師匠呼びにまだ慣れてないのかこそばゆそうに身を揺する彼に思わず笑みを零しながら、歩き出したその背を追いかける。
「楽しそうにやってるわねぇ」
彼の背しか見てなかったから後ろで開いたスキマから、書きかけの手紙が回収される音と、言葉は聞こえなかった。
お陰様で鍛錬が終わった後暫く疲労を訴え続ける身体を動かして、手紙を探すことになったよ。ちゃんと、来たなら教えてよね紫!
感想・批判お待ちしてます。
あと1話ぐらいは華扇さんお留守かもしれない!