組織体制が一新された参謀本部では何度目か分からない会議が開かれていた。
「防衛艦隊の艦隊増強ですが、主力となる艦隊は新たに戦闘群と呼ばれる艦隊を4個編成予定です」
そう発言したのは防衛艦隊司令長官であるマンフォード元帥だった。
「詳細につきましては皆さんのお手元の資料の通りです。戦闘群の艦隊規模はそれなりに大きい物となる予定ですので艦隊司令には選りすぐりの人物を任命します。第一戦闘群には古代守中将、第二戦闘群にはウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ中将、第三戦闘群にはアレクサンドル・ビュコック中将、第四戦闘群にはイスラ・パラカス中将を抜擢します。なお各司令には着任後大将に昇進していただきます」
防衛艦隊司令長官は艦隊司令の名前を淡々と読み上げた。
第一戦闘群司令の古代守中将は戦艦ムサシの艦長経験があり、防衛軍最強(最凶)のヤマト戦隊の指揮官でもある。
第二戦闘群司令のウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ中将と第三戦闘群司令のアレクサンドル・ビュコック中将は長年の経験を持つ名将であり、ガトランティス戦役では主力艦隊を指揮し、その後は後任育成の為後方に下がっていたが、この度の艦隊新設に伴い艦隊司令に抜擢されたのであった。
第四戦闘群司令のイスラ・パラカス中将は元ガトランティス帝国の軍人であるが、戦闘経験と地球連邦への貢献度の高さから任命されたのであった。
そしてこのイスラ・パラカス中将に対して質問が飛ぶのであった。
最初に発言したのは情報作戦参謀長のジャミトフ・ハイマン大将であった。
「マンフォード司令長官、イスラ・パラカス中将は信頼できる人物ですが艦隊司令への抜擢は拒んでいたのではなかったですか。確か第三機動艦隊司令へ推薦された時も『敗残兵として救助された身で艦隊をお預かりすることはできない』と仰っていたと聞いていますが、中将は今回の抜擢を快く許諾されたのですかな」
ジャミトフ大将はそう発言した。
事実イスラ・パラカス中将はシャンブロウ攻防戦でヤマト艦隊に乗艦の部下と共々捕虜として救助され地球にやって来たのであった。
ガトランティス戦役後は亡命ガトランティス人としてガトランティスの兵器の解析などに協力していた。そして鹵獲艦隊の第三機動艦隊の司令にならないか打診された時に上記のように言い打診を断り、以後もガトランティス兵器の分析や新規の生産に携わっていたのであった。
「それについては私がお答えしましょう」
ジャミトフ大将の質問に対してそう発言したのは首席参謀兼調整役のワルター・G・F・マイントイフェル大将であった。
「まず第四戦闘群ですが、この艦隊は全てガトランティス製兵器で編成されます。理由はガトランティスからの亡命してきた兵士達の再雇用先です。しかし地球連邦防衛軍でガトランティス製兵器を扱い尚且つ多人種の部隊を扱っているのは第三機動艦隊だけです。その第三機動艦隊も大きな艦隊ですが戦闘群ほど大きな艦隊ではないので、この度パラカス中将に艦隊司令への打診をしました。パラカス中将は最初、以前のように打診を断られていたのですがなんとか説得して受諾していただきました」
マイントイフェル大将はそう言った。
「なるほど。疑問が晴れました。ならば活躍を期待するまでですな」
ジャミトフ大将はマイントイフェル大将の回答を聞き満足した。そして質問が終わったのを見計らってマンフォード元帥は続けた。
「他に質問が無いようでしたら続けさせて頂きます。主力クラスの固定艦隊の増強はこの4個戦闘群の増強をもって一区切りとし、護衛艦隊や哨戒艦隊などの補助艦隊の増強に力を入れます。なお戦闘群に所属しない主力クラスの艦艇は全て本国艦隊所属とします。また本国艦隊では地球初の本格的な空母機動艦隊を編成します。以上です」
マンフォード元帥がそう言い終わった後も会議は続いた。そしてこの会議の間にマンフォード元帥の言った空母機動艦隊は編成されつつあった。
本国艦隊第38任務部隊。地球連邦防衛艦隊が編成した空母機動艦隊の名前である。
これまで地球連邦防衛艦隊には機動艦隊と航空艦隊の2つの艦載機を要する艦隊があったが、機動艦隊の艦載機は艦隊戦支援がメインの任務の艦載機であり、航空艦隊の艦載機は艦隊戦支援や惑星攻撃支援がメインの任務で、敵艦隊を艦載機だけで確実に葬り去る能力は持って無かった。
だが第38任務部隊は違った。機動艦隊と航空艦隊で得られた教訓やデータを反映し編成された艦隊であり、総数30隻を超えるエセックス級正規空母とそれを護衛する無数の艦艇を保有する防衛艦隊最大規模の艦隊になる予定である。
この第38任務部隊は未だ編成途上ではあるが、竣工した艦は現在アステロイドベルト帯など太陽系各地で猛訓練をしており、いずれガルマン・ガミラス帝国北部戦線など各地の戦線に派遣される予定であった。
一方、会議で注目を浴びたパラカス中将はシリウス恒星系へと向かう船団の中に居た。
船団護衛艦隊旗艦のパトロール艦トルネードの一室で本を読みながらパラカス中将はマイントイフェル大将の言葉を思い出していた。
「あなたは防衛軍に大きな貢献をしています。改メダル―サ級の波動火焔直撃砲の開発、改メダル―サ級の生産、カラクルム級の衝撃砲の実戦配備、他にも多くの装備の開発などに関わられている。あなたは立派な防衛軍の軍人です、敗残兵などは過去の話です。防衛軍の軍人として、戦士としての誇りを持って胸を張ってください」
この言葉が敗残兵の身として艦隊司令への打診を断り続けたパラカス中将にとって第四戦闘群司令への打診を受諾する決定的な言葉であった。
パラカスの祖国がガトランティス帝国に併合された後も「戦士としての誇り」を捨てずに軍人として生きていた。グタバ遠征軍では上官には恵まれなかった。おそらく上官には戦士としての誇りが無かったのだ。
苦戦する味方を見捨てたあの司令の事は今でも忘れられなかった。そして地球軍の捕虜となった後、ガトランティス戦役が勃発し、この戦役中も捕虜でありいつか殺されるのでは無いかと思っていた、だがそれはただの杞憂で終わるどころか戦役後には亡命ガトランティス人として防衛軍に入隊しないかと提案され、熟考の末入隊し恵まれた上官の下で持てる知識を使いガトランティス製兵器の解析を手伝った。
その活躍はしっかりと認められていたのだと先日のマイントイフェル大将との会談で認識できた。そして「戦士としての誇り」という単語がマイントイフェル大将から出た時に司令への打診を受諾することを決めたのであった。
パラカス中将はマイントイフェル大将との会談を思い出しながらシリウス星系で待つ新たに指揮する艦隊とその艦隊の一員となったかつての部下達との再会、新たな部下との出会い、そして戦士としての誇りを持って再び戦場に立てる事を期待していた。
こうした中、アンファ恒星系のディンギル帝国の監視の任務に就いていたU-12から緊急電が発信された。
「アンファ恒星系よりディンギル帝国艦隊出撃。進路は太陽系の可能性高し」