ディンギル帝国艦隊出撃の報を受け防衛軍は警戒態勢を引き上げた。
月軌道上には土方大将指揮の第一主力艦隊が展開し、そのバックアップにはムバラク中将指揮の第十一主力艦隊が付いた。一方、タイタン基地近海には第二機動艦隊が臨戦態勢で待機、太陽系外周にはティアンム中将指揮の第五主力艦隊が展開した他に、無人哨戒部隊やパトロール艦隊が増強された。
そしてボラー連邦と再開戦後暫く経った2205年5月10日に彼らは来た。第十一番惑星沖に展開していた第五主力艦隊が空間歪曲装置によって強制的にワープアウトさせられた艦隊を探知したのだ。
第五主力艦隊旗艦タイタン
「レーダーに反応あり。何かが強制的にワープアウトさせられます」
「全艦戦闘配備、情報では友軍は来ないはずだ。偵察の潜宙艦の情報が正しければ敵だ」
「了解」
ティアンム中将がそう命令を出し終わった時に彼らはワープアウトした。第五主力艦隊の正面に200隻以上のディンギル帝国艦隊が出現したのだ。
「識別確認、ディンギル帝国軍です」
「わかった。通信兵、司令部へ打電。内容は{ディンギル帝国来襲、我が艦隊は対応に当たる}だ」
「了解」
この打電内容は直ちに統括司令部に送られ、太陽系内では事前の手順通り艦隊が展開することとなった。
この時、第五主力艦隊が冷静な行動を取っているのに対して、ディンギル艦隊は大混乱に陥っていた。予定では移動要塞母艦を含む本隊は冥王星沖に空母艦隊は月付近にワープアウトするはずだったのだが何故か十一番惑星沖に要塞母艦を含む全艦が強制的にワープアウトしたためである。
旗艦である巨大戦艦ガルンボルスト艦橋は大混乱であった。
「全艦が強制的にワープアウトさせられました!」
「艦隊正面、地球艦隊確認!待ち伏せです!」
「どういうことだ!?」
司令であるルガール・ド・ザールは参謀に尋ねるが誰も返答できず、一部の参謀が「わかりません」と言うだけであった。
「よろしい。原因が不明なら仕方ない。このまま正面の地球艦隊を殲滅し太陽系を制圧する。本隊は前進、要塞母艦と水雷母艦、空母と直掩部隊は後方で待機。それと水雷母艦は水雷艇を発進させよ」
「了解」
「水雷母艦へ連絡します」
ワープアウト直後の混乱はあったがもののルガール・ド・ザールは命令を下し、兵士達は素早く命令をこなしていった。
そして命令を受け本隊は前進し水雷母艦からは多数の水雷艇が発進しつつあった。
第五主力艦隊旗艦タイタン
「敵艦隊、要塞を含む一部の艦艇以外前進してきます」
「敵水雷母艦から水雷艇が多数発艦」
「よし本艦及びマゼラン級全艦は電磁パルス砲発射用意。敵水雷艇が射程に入り次第発射し水雷艇を迎撃。主砲、ミサイルは敵艦隊が射程に入り次第攻撃開始だ」
「了解、全艦に打電します」
「主砲、ミサイル発射用意!」
オペレーターの報告を聞いたティアンム中将は素早く命令を出し、命令を受けたオペレーターも素早く行動に移す。こうして第五主力艦隊は素早く戦闘態勢を整えることができたのであった。
艦隊戦の戦端を開いたのは第五主力艦隊であった。第五主力艦隊のマゼラン級、サラミス級の主砲から一斉にショックカノンが撃ちだされ、ディンギル艦隊の前衛艦十数隻をまとめて轟沈させたのである。
ディンギル艦隊旗艦ガルンボルスト艦橋
「敵砲撃前衛艦隊に着弾!17隻轟沈」
「なに!17隻が一撃だと!」
「はい、間違いありません」
司令のルガール・ド・ザールは一瞬驚いたが直ぐに落ち着き命令を出した。
「艦隊は回避行動を取りつつ直進。数では此方が上だ!射程に入り次第各艦順次攻撃を開始せよ」
「了解しました」
「それと水雷艇の攻撃急がせろ!」
「はっ」
ルガール・ド・ザールの命令は各艦に素早く伝達され艦隊は速度を上げた。そして命令伝達の1分後にはディンギル艦隊も攻撃を開始した。
第五主力艦隊旗艦タイタン
「ディンギル艦隊発砲しました」
「全艦応射しつつ波動防壁展開。続いてビームかく乱幕展開」
「了解」
ティアンム中将の命令により艦隊は波動防壁とビームかく乱幕を展開し攻撃を防ぐ体制に移った。だがそこへ悲鳴のような声で報告が入る。
「下方より敵水雷艇多数接近!電磁パルス砲の射程に入ります!」
「マゼラン級全艦電磁パルス砲撃ち方始め!敵にハイパー放射ミサイルを発射させるな」
オペレーターの報告を聞きティアンム中将は冷静ながらも少し声を大にして命令を出した。
既にディンギル帝国の必殺兵器であるハイパー放射ミサイルについては、前回の遭遇時のデータと転生者の持っている情報を混ぜてミサイルの威力と電磁パルス砲で迎撃できることが防衛軍全軍に通達されていた。この通達された情報を見た将官達はその威力に驚愕すると共に対抗策があることに安堵していた。だがハイパー放射ミサイルの威力は強力であることに変わりはない為、流石のティアンム中将も声を大にしたのであった。
そして「撃ち方始め」が命令された次の瞬間、16隻もの戦艦の艦底部から電磁パルス砲が一斉に撃ちだされ第五主力艦隊にハイパー放射ミサイルを撃ち込もうとしていたディンギル帝国水雷艇群前面で炸裂した。これによりディンギル帝国水雷艇群は電磁パルス砲の影響をもろに受けハイパー放射ミサイルが誘爆し一瞬で数十隻の水雷艇群は全滅した。
「敵水雷艇群全滅。水雷艇群第二陣射程圏内まで30秒!」
「電磁パルス砲はそのまま水雷艇群を狙え。主砲、ミサイル目標は正面敵艦隊。攻撃を続行」
「了解、主砲てっー」
水雷艇群第一陣を余裕で壊滅させた第五主力艦隊はその牙を再度ディンギル艦隊に向けた。司令の命令を受け主砲はショックカノンを撃ちまくり、各艦のミサイル発射管からはミサイルが次々と発射されディンギル艦を宇宙の藻屑へと変えていった。そしてデザリアム帝国水雷艇群には電磁パルス砲が襲い掛かる。
「敵水雷艇群第二陣全滅!」
「ディンギル艦隊隊列乱れます」
「統括司令部より入電、現在第十一主力艦隊と強襲揚陸艦が急行中とのこと」
「了解した。艦隊前進このまま敵を押し込む」
ティアンム中将はモニターを眺めながらそう命令を出した。
この時第五主力艦隊には落伍艦どころか損傷艦も1隻も無かった。波動防壁とビームかく乱幕は正に鉄壁ともいえる防御力を発揮していたのだ。後の調査で判明するのだがこの時、第五主力艦隊の波動防壁は殆どの艦が命中弾を連続で受けつつも75%以上の出力を発揮していた。これはディンギル帝国の艦砲が速射重視で威力が比較的低いのも理由の一つであった。
一方、ディンギル艦隊司令のルガール・ド・ザールは地球艦隊の圧倒的な強さに困惑していた。二陣に渡る水雷艇群はディンギル帝国自慢のハイパー放射ミサイルを撃つことなく全滅し、艦隊の艦砲による攻撃は効果がある様子が無かったのだ。
ディンギル艦隊旗艦ガルンボルスト
「前衛艦隊壊滅」
「水雷艇群全滅」
「地球艦隊前進してきます」
「司令ご指示を!」
続々と損害が報告される中、参謀は司令に指示を求めた。
「空母へ連絡し艦載機を全機発艦させよ。水雷艇も全て発進だ。艦隊はこのまま前進し至近距離で敵に砲撃を浴びせる。流石に至近距離ならあのバリアも意味をなさんだろう。それと損傷艦は要塞まで後退し整備を受けよ」
「了解しました。各艦に伝達します」
参謀はそう言いその場を離れた。
この時、ルガール・ド・ザールは艦載機、水雷艇、艦隊の飽和攻撃で地球艦隊を壊滅させられると思っていた。
第五主力艦隊旗艦タイタン
「敵艦隊前進してきます。また後方の空母より艦載機の発艦確認。水雷艇の発進も確認できます」
「うむ。全艦密集体形を取りつつ対空戦闘用意、射程に入り次第迎撃せよ」
「はっ」
ティアンム中将の命令により第五主力艦隊はディンギル艦隊に対して応戦しつつ密集体形を取った。
この時点で両軍の戦闘は激化し凄まじい砲撃戦が行われていたが、数で勝るはずのディンギル艦隊はティアンム艦隊の圧倒的な火力の前に徐々に数を減らしていっていた。だがそこへディンギル艦隊最後の頼みの綱である艦載機部隊と水雷艇群が到着したのであった。
第五主力艦隊旗艦タイタン
「上方敵艦載機多数、下方敵水雷艇60接近!」
「全艦各個に迎撃始めっ!」
ティアンム中将の号令が下った瞬間各艦がパルスレーザー、対空ミサイル、電磁パルス砲を乱れ撃ち始めた。パルスレーザーとVLSから撃ち上げられた対空ミサイルは次々とディンギル帝国艦載機を撃墜していき水雷艇群には16隻の戦艦から一斉に電磁パルス砲が放たれ、ハイパー放射ミサイルが誘爆を起こし一瞬で水雷艇群は壊滅した。
「電磁パルス砲命中、敵水雷艇群全滅!」
「よしその調子だ。全艦このまま対空戦闘継続しつつ敵艦隊を殲滅する」
「はっ」
ハイパー放射ミサイルを搭載した最後の水雷艇の攻撃を防いだ第五主力艦隊は敵艦載機に対してパルスレーザーを盛大に撃ちまくり得意の対空戦闘をしつつ主砲でディンギル艦隊本隊への攻撃を続行した。
ディンギル艦隊旗艦ガルンボルスト
「水雷艇隊全滅!」
「艦載機部隊損耗率60パーセント!敵艦に有効打は与えられず」
「我が艦隊の残存艦62」
艦橋には悲鳴のような報告が飛び交っていた。
水雷艇隊は電磁パルス砲によって赤子の手をひねるごとく殲滅され、艦載機部隊は分厚い対空砲火によって無意味に数を減らし、艦隊も着実に数を減らしていた。
そして報告を聞いたルガール・ド・ザールは一つの命令を下した。
「後方の要塞に打電、ハイパー放射ミサイルを瞬間物質転送装置で発射せよと」
「了解しました。しかしあのミサイルは」
「わかっている。だが参謀長、ここであの艦隊に負けてはあのミサイルは使いどころが無くなるぞ」
「かしこまりました」
ルガール・ド・ザールはここで要塞母艦に搭載されている地球軍基地攻撃用のハイパー放射ミサイルを第五主力艦隊に向け発射することを決めたのであった。
この命令を受け要塞母艦に連絡を取ろうと参謀長だったが、数分もしないうちに血相を変えてルガール・ド・ザールにある報告をした。その報告を聞いたルガール・ド・ザールもまた険しい顔をしていた。この時、後方の要塞母艦と空母、水雷母艦は攻撃を受けていたのだ。
この時、要塞や空母、水雷母艦を攻撃していたのはムバラク中将率いる第十一主力艦隊であった。第五主力艦隊からの一報を受けた司令部の命令により、月軌道より急行した第十一主力艦隊は戦場を大きく迂回し、一気にディンギル艦隊本隊の後方にいた要塞や空母に襲い掛かった。
「全艦突撃せよ」
旗艦ジャンヌダルクより発せられた命令を受け第十一主力艦隊はディンギル帝国軍に対して攻撃を開始したのであった。
まともな防衛戦力が居なかった後方の要塞母艦を含む艦隊は第十一主力艦隊の好きなようにやられていた。空母はドレッドノート級とマゼラン級のショックカノンで撃沈され、水雷母艦はフレッチャー級駆逐艦が放った亜空間魚雷が命中し轟沈、損傷艦は巡洋艦戦隊の猛攻を受け殲滅され、要塞母艦には統括司令部が送り込んだ強襲揚陸艦ミストラル、マキン・アイランド、海南、秋津、ポモルニク、アシュランド、サラトフが接舷し大量の地球版ガミロイドと空間騎兵隊を送り込み制圧を開始していた。そしてルガール・ド・ザール率いるディンギル艦隊本隊も最後の時が近づいていた。
ディンギル艦隊旗艦ガルンボルスト
「後方の部隊との通信、途絶しました」
「艦載機部隊全滅」
「本艦隊残存艦34」
最早艦橋はお葬式状態であった。艦載機は全滅。艦隊も最早組織的抵抗は不可能であった。そしてルガール・ド・ザールは険しい表情を浮かべていた。
「司令どうなされます。我が艦隊は最早戦闘不能です」
参謀長は力なく尋ねた。
「特攻だ。全艦敵艦隊に体当りせよ」
ルガール・ド・ザールは心では無意味だと思いつつも声を張り上げそう言った。「例え生きて帰っても粛清される」そう彼は考えこのような命令を出したのであった。
そしてディンギル艦隊34隻は第五主力艦隊に向けて勝ち目のない突撃を開始した。
第五主力艦隊旗艦タイタン
「敵艦隊加速、突撃してきます!」
「特攻する気だ。全艦全速後退しつつ応射だ。一隻も残すな」
ティアンム中将は一瞬でルガール・ド・ザールの目的を見抜くと艦隊を全速で後退させつつ応戦した。そしてディンギル艦隊は特攻しようとひたすら前進したが第五主力艦隊の圧倒的な火力には勝てずに1隻1隻と数を減らしていき最後に残ったガルンボルストは第五主力艦隊各艦からの集中砲火を受けルガール・ド・ザールを乗せたまま轟沈した。
このガルンボルスト轟沈の光がディンギル帝国太陽系侵攻艦隊全滅を知らせる光であった。
後に第二次第十一番惑星沖海戦と命名されたこの戦闘は防衛軍の圧勝であり。第五主力艦隊、第十一主力艦隊、強襲揚陸艦に損失艦は無く。ディンギル帝国太陽系侵攻艦隊は防衛軍に鹵獲された移動要塞母艦を除き全滅した。
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ミストラル級強襲揚陸艦
40.6㎝3連装砲4基 (上甲板2基、左右両舷1基)
連装対空パルスレーザー2基
3連装対空パルスレーザー3基
6連装大型艦橋砲1基
4連装対艦グレネード投射機2基
小型ミサイル発射管8門(艦首両舷)
拡散型対空パルスレーザー砲塔2基(司令塔基部後方)
物質転送装置2基
艦載機30機
揚陸艇4艇
改ドレッドノート級戦闘空母をベースに開発された強襲揚陸艦。艦首波動砲の位置は揚陸隊を搭載できるようになっている。