「ふむ。厄介者は一掃されたか」
宇宙艦隊司令部でボラー連邦軍宇宙艦隊司令ベルド・ガルゴフ元帥は報告書に目を通しながら呟いた。
「はい。どうやらベムラーゼ首相の逆鱗に触れた連中は悉く粛清されたようです」
副官のエゴール・ミロノフ大佐はそう言いながら粛清されたもののリストを追加で渡した。
「なるほどな。統治大臣と外務大臣は責任を取って辞任となっているが、これは表向きで実際は脅迫に近い感じでの粛清だろう。懲罰部隊送りにはならなさそうだが」
「大臣は今回の件には関与していませんから当然と言えば当然でしょう。まぁ二度と表舞台には出てこれないでしょうが」
ミロノフ大佐はそう言うと温かい飲み物を差し出した。
「ありがとう」
ガルゴフはそう言うと一口飲むと続けた。
「しかし馬鹿なものだ。艦隊指揮権剥奪に腹を立てて抵抗しようなど連中は地球の手先かね」
ガルゴフは呆れた感じで言った。
事の発端はガルゴフ等宇宙艦隊司令部の要望がベムラーゼ首相に認可されたことにより外務省及び統治省から艦隊指揮権が剥奪され、組織改革により両省の役人が宇宙艦隊司令部からも追い出されたことであった。そしてこの改革に腹を立てた若手の役人が強固に反発しクーデターに近い事を起こし、艦隊指揮権を取り戻そうと計画していたことが内務省の情報局にバレたことで、彼等若手の役人は悉く逮捕されたのであった。
それに伴い外務省や統治省では情報局による大規模調査が行われ、「疑わしきは罰す」の号令で粛清の嵐が発生し逮捕された者や逮捕こそされなかったものの監督責任などで立場を追われた者が数多く発生していたのであった。
「まぁ宇宙艦隊司令部としては厄介連中が始末されたと思えば都合がいい。艦隊司令部も一新でき、これで我々は漸く後顧の憂いなく連合国軍と対峙できる。ゴルサコフ総参謀長とベムラーゼ首相の後押しもある。他の外務省や統治省からの反乱鎮圧以外での出動要請も拒否でき、安心して援軍を指揮できる」
ガルゴフはそう言うとミロノフ大佐に言った。
「艦隊司令部員を招集してくれ。会議を行う」
「かしこまりました」
ミロノフ大佐はそう言い司令長官室を後にした。
そしてミロノフ大佐が部屋を後にした後ガルゴフは少し考えていた。
(ベムラーゼ首相も案外しっかりしている。いや連敗で焦りが出てきて今後の責任は私に押し付け軍の中にあるベムラーゼ首相への不満を抑えるつもりか)
そのような事を考えていた。
数時間後、ボラー連邦軍宇宙艦隊司令部にある会議室には役人や役人の息のかかった要員が排除され、一新された艦隊司令部の面々が招集されていた。
会議室に集まったのは以下の面々であった。
ベルド・ガルゴフ宇宙艦隊司令
エゴール・ミロノフ副官
キリル・ヴォロノフ参謀長
アルノリト・サハロフ作戦参謀
アナトリー・ククシキン情報参謀
エル・ブベーニン補給参謀
ナターン・モスカーリ通信参謀
アヴラアム・イグナートフ兵器開発局局長
チマフェーイ・レオニドフ総参謀長補佐
地球防衛艦隊司令部がこの倍近い人員で構成されている事を考えたらかなりスマートな艦隊司令部であるこれはガルゴフが少数精鋭を望んだ為であった。
「さて。諸君」
そう言いガルゴフは参加者を見渡し言葉を続けた。
「まず。昨今の改革に伴い親衛艦隊、特務艦隊等一部の艦隊を除く全ボラー連邦軍が保有する宇宙艦艇の指揮権を我々は手に入れた。これにより我々は漸く連合国と対等に戦えるようになったと言っても過言ではないだろう」
ここでガルゴフは一旦区切ると続けた。
「よってこれから我々は対連合国戦に横やりを入れられず進める事が出来る。諸君には知恵を出し合い戦いを有利に進められるようにしてほしい。またベムラーゼ首相やゴルサコフ総参謀長から支援の確約も得ているので多少の無理も通せる。その点はよく理解してもらいたい。では会議を始めよう」
そして改革が行われたボラー連邦軍宇宙艦隊司令部の方針会議が始まった。
会議ではこれまで散々外務省や統治省の横やりがあった分の鬱憤を晴らすかの如く、様々な意見が出された。代表的なものだと「一部有力艦隊の解体と船団護衛艦隊への再編」「新型小型艦であるフリゲートの設計・量産」「通商破壊部隊の編成」「ボラー連邦版アンドロメダ級であるソユーズ型大型戦艦とボラー連邦版ドレッドノート級であるクロンタット型戦艦の生産」「空母機動部隊の設立」「既存艦種の増産」「次元潜航艦の実用化」「合流したデザリアム帝国との技術交流」「新兵器開発促進」等々であった。
また一部の意見については大規模な予算が必要なため、レオニドフ総参謀長補佐を通してゴルサコフ総参謀長やベムラーゼ首相に予算増額の要請が届けられることにになった。
こうしてボラー連邦軍は新たな段階へと踏み出しつつあった。
一方、反ベムラーゼ首相派のフルチフ氏もまたこの改革の情報を手に入れていた。
「ふむ。暫くは様子見だな」
秘書からの報告を聞いたフルチフはそう言うと続けた。
「今は外務省と統治省の粛清の件がある。暫くはおとなしくしてないと情報局に逮捕されるかもしれん。ただでさえ反ベムラーゼ派の政治家として睨まれているのだからな」
そう言うとフルチフは溜息をついた。
事実、反ベムラーゼ派の政治家は肩身が狭く、どんな理由で逮捕されるか分からない状態であった。
ベムラーゼ首相の独裁下で反ベムラーゼ派の政治家が逮捕・粛清されないのはベムラーゼ首相の生かさず殺さずの方針が根底にあり、反体制派に対して発言権という飴を与えて革命やクーデターなどを抑止する思惑がある為であった。
そんな厳しい状況ではあったが、それでも反ベムラーゼ派のフルチフ氏等は組織改革の情報を地球にひっそりと流したのであった。