場所は変わりメルデーリング星系外縁部、此方では第77統合任務部隊とメルデーリング星系方面軍司令部直属艦隊が両者引かず譲らずの激しい艦隊戦を繰り広げていた。
だが両陣営の艦隊にモウルド近傍での戦闘結果が伝わると状況は変わった。
「全艦応戦しつつ後退。現宙域より撤退する!」
第77統合任務部隊旗艦ベガの艦橋ではボラー連邦軍のモウルド救援艦隊撃退の一報を受けた尾崎は命令を下した。
第77統合任務部隊の任務が『メルデーリング星系にてボラー艦隊を拘束する』だった以上、新手の出現に伴う作戦目的の変更があったもののモウルド防衛が成功した為、第77統合任務部隊がメルデーリング星系にて戦闘を続ける意味が消えたためだ。
そして命令を受けた第77統合任務部隊の各艦は後退を開始し始めた頃、ボラー艦隊でも動きがあった。
「モウルド救援は失敗したか」
司令部直属艦隊司令ヴァガノフ中将は救援失敗の報を受け、そう言葉を口にすると副官が状況を説明した。
「はい。想定通り救援艦隊本隊は敵艦隊本隊と交戦しました。しかし予定通りモウルドに肉薄した2個強襲部隊が敵艦隊の待ち伏せと別働のガルマン艦隊の襲撃で任務を果たせず撤退。本隊は作戦継続不可と判断し戦域より離脱した模様です」
「そうか。トゥーロフ中将は悔しいだろうな。しかし侮れない敵だな」
「はい。侮れない敵ですがその分張り合いがあるというものです」
「言うじゃないか」
副官の言葉にヴァガノフは少しニヤリとしながら返答すると言葉を続けた。
「張り合いがあるというのは実に良い。それは目の前にいる敵にも言える」
そう言いながらヴァガノフはモニターに映る第77統合任務部隊を見つめた。
この新鋭戦艦ベルカ率いるボラー連邦軍でも練度が高い司令部直属艦隊相手に一歩も引かずに戦い、あまつさえ互角以上に戦う地球艦隊。通常の艦艇も十分驚異だが航空隊も此方と互角に張り合いお互いに制空権が取れなかった。通常艦隊も強いがやたら大火力な未知の新鋭戦艦(敷島型)2隻、強靭な艦隊防御兵器を持つドレッドノート級改装の飛鳥型と思われる艦艇。それらを有効活用した戦闘によって司令部直属艦隊はかなりの損害を受け、新鋭艦のクロンタット型やソユーズ型は戦闘可能艦が半分まで撃ち減らされていた。しかしヴァガノフにとっては強敵であると同時に久々に張り合いがある敵であった。そして目の前の地球艦隊は後退を開始している。恐らく撤退だろうとヴァガノフは推測していた。
「さて。地球軍にモウルド救援艦隊を撃退され我が艦隊も敵に対したダメージは与えられてはいない。そして敵は恐らくこの宙域から離脱するだろう。留まる意味も無いだろうしな」
「はい。敵は急速に後退をかけております。もう間もなく本宙域より撤退するかと」
ヴァガノフの推測に副官も同調した。そして同調した副官の言葉にヴァガノフは頷くと語気を強めて命令を下した。
「うむ。だがやられっぱなしは性に合わん。地球軍にはボラー連邦の力を見てもらおう。拡散ボラー砲発射用意だ!」
それは突然であった。双方の有効射程から各艦が離脱した瞬間旗艦ベガの艦橋でオペレーターが叫んだ。
「敵艦隊旗艦の大型戦艦及びソユーズ型2隻から高エネルギー反応!」
「なに!全艦波動防壁を展開しつつ射線より回避行動!飛鳥型は直ちに波動防壁弾発射!」
オペレーターの報告を聞いて尾崎は素早く命令を出した。
そして波動防壁弾によって波動防壁が展開された直後、ボラー艦隊からボラー砲が発射された。
波動防壁が展開された時、第77統合任務部隊各艦の将兵は攻撃を防いだと思った。しかし全将兵にとって予想外の事が起きたのもその時だった。ボラー砲が拡散したのである。
拡散したボラー砲は殆どが波動防壁によって防がれたが、一部は第77統合任務部隊の艦艇に命中し爆炎が発生、各艦に損傷を発生させた。
「被害報告!」
尾崎は拡散ボラー砲の攻撃が終わるとそう命じた、そしてボラー連邦が拡散波動砲を模した兵器を開発したことに驚愕すると共に、いつか来ると思われていたボラー連邦版拡散波動砲実戦投入をなんとしてでも司令部に報告しなければいけないと決心していた。
そして尾崎がそう思っている間に損害報告が入ってきた。
「報告します。先程の攻撃により行動不能、沈没艦はありませんがドレッドノート級ロイヤル・オーク、秋月型フリースラント艦首大破、長門型エリン艦首主砲使用不可。サラミス級仁淀、アラスカ級アムステルダム戦闘不能他に波動防壁再展開不可能艦多数です」
「了解した。全艦ビームかく乱幕展開及びビームかく乱粒子散布をしつつ反転。飛鳥型は波動防壁弾を発射し艦隊を防御。全艦現宙域を急速離脱する。急げ!」
副官からの被害報告を受けた尾崎がそう命令をすると。飛鳥型は波動防壁弾を発射し波動防壁を展開しその他の艦艇はビームかく乱幕を展開しつつ更にビームかく乱幕粒子を散布しつつ反転、ワープで逐次離脱し最後に旗艦ベガが離脱した。
その様子をヴァガノフ中将は旗艦ベルカの艦橋から静かにモニターで見ていた。
「みすみす逃がしてよろしかったのですか。司令」
「構わんよ。既に敵も我が艦隊もモウルドでの戦闘が決着した時点で戦闘意義が終了しているのだ。このまま戦闘を継続すれば損害が増えるし、帰還する救援艦隊も巻き添えになる。無益な戦闘は辞めるべきだよ」
「なるほど。承知致しました」
副官の問いに答えたヴァガノフは帽子を被り直すとそのまま艦隊に帰還命令を下した。
これによってモウルドを巡る攻防戦とそれに付帯した戦闘は終結したのであった。