統合参謀本部の定例会議を終えた総長は自室に戻ると積み上がった書類に目を通しつつ客人を待っていた。
そして暫くして客人がやって来た。
「わざわざ呼び出してすまないね」
「いえいえ。同じ建物に居るのです、気軽に来れますよ」
そう言ったのは防衛艦隊司令部首席参謀の武内宏明大佐である。
武内は総長と同じ転生者であるが、武内は地球圏艦隊では無く国連宇宙海軍出身であり、ガミラス戦争では多数の作戦を成功させた経歴を持つ。地球防衛艦隊結成後は作戦部に所属しガミラス戦争同様、数々の作戦を成功させた他、モビルスーツ開発にも関わっており特に運用面では新開発のエネルギーパックをモビルスーツに装備、その結果ショックカノンを運用可能なライフルを装備させることで、モビルスーツを小型砲艇のような運用が出来るようにし、また艦隊防空においてモビルスーツは艦艇に着艦したまま迎撃できる点を活かした戦術を考案するなどしていた。
そして現在は防衛艦隊司令部首席参謀として防衛艦隊の行動を支援している傍ら、総長直属の部下としても働いている凄腕大佐である。
「そう言ってもらえると助かる。ところで艦隊司令部は大変なようだね」
総長はそう言いながら椅子に座った武内にコーヒーを差し出した。
「えぇ、まぁ大騒ぎですね」
そう返事をし、総長から差し出されたコーヒーを一口飲み武内は続けた。
「突然の未知の新型戦艦に拡散波動砲と同類の兵器の登場ですからね。各艦隊への情報共有に敵の情報分析等々で大忙しです。もし拡散ボラー砲が波動砲並みの威力があればパニックだったでしょうね」
武内はスラスラと言ったが事実、戦闘情報到着直後の防衛艦隊司令部は第77統合任務部隊が交戦した敵の情報分析やら対策の立案やらで大忙しであった。
「私としては苦労を掛けて申し訳ない気分だよ」
「まぁそう言わないでください。今回はボラーが上手だったのです。尤も既に敵の情報は情報部が死に物狂いで収集してくれたので大分助かりました」
あっさりとした雰囲気でそう武内は言ったが、情報部は未知の新型戦艦の情報獲得の為にデスマーチを繰り広げ、ボラー連邦本星では幾人かの協力者を失いながらもある程度の情報を仕入れ居ていた。
未知の新型戦艦について仕入れた情報は下記であった。
・艦名 ベルカ型大型戦艦
・武装 艦首拡散ボラー砲、4連装主砲5基(前部2基、後部2基、艦底部1基)、隠顕式対空砲多数、艦首ミサイル発射管8基他多数
というものであった。
このベルカ型戦艦について情報部は先の戦闘まで一切その存在を掴めていなかった。これはボラー連邦がクロンタット型、ソユーズ型戦艦の建造を隠れ蓑にしてベルカ型を建造していたためであった。
また拡散ボラー砲についても情報仕入れ、その威力は波動防壁展開で一発は防げるものという事も確定していたのであった。
「確かに今回はボラー連邦が上手であったな。我々は公表されている新鋭戦艦の建造情報に引っ張られすぎた」
総長は情報収集の際に失敗した点を悔やみながら言葉を口にした。
「確かにそうですが悔やんでも仕方がありません。幸い被害も大きくはありませんでしたので今後の方針に役立てればよいのです。むしろソユーズ型も拡散ボラー砲を装備している事を把握できたのは厄介ですが大きな被害が出る前に確認できたので良い事です。クロンタット型も装備している可能性を考慮しておく必要はありますが」
武内は方針を間違えたと悔やんでいる総長をフォローするような言葉を口にすると話題を変えた。
「ところで総長、今回呼んだのは例の件ですよね」
その言葉を聞いた総長は頷くと話題を変えた。
「うむ。例の件だよ」
総長はそう言うと、武内を総長室の隣の部屋に案内した。
その部屋は総長室の隣にある情況把握室と名付けられた部屋であり、部屋には大小様々なモニターの他に中央には3次元立体地図も表示可能な大きなテーブルがあり、通常時は総長や芹沢などの高官が状況を把握するために使用されている他、緊急時はこの部屋で作戦指揮も執られる事になっていた。
そしてこの状況把握室に入った2人は中央のテーブルでは無く、別の小型テーブルの前に立つと総長は「これが、計画中の機動要塞だ」と言い3次元のモデルを映し出した。
「これは…小惑星アクシズですか」
「そうだ。正確にはアクシズを模した機動要塞だ。君も知っての通りアクシズは現在移動可能な小惑星基地として運用されている。そしてその運用実績も含めてこの形の機動要塞を建造する計画だ」
総長はそう答えた。
この時、小惑星アクシズは大型波動エンジンを装備し移動可能な小惑星基地として運用されており、現在はシャルバート星への入口がある宙域とスカラゲック海峡の間の宙域に進出していた。
「なるほど。確かにアクシズは他の要塞に比べて大きさも丁度いいしエンジン取り付け位置がありますし艦隊収容能力もある。悪くはないですね」
武内は3次元モデルを眺めながら言葉を発した。
そしてここで言う「他の要塞」とは小惑星基地では無く、地球連邦に合流したデザリアム軍が保有ないし譲渡されたゴルバ及び中間補給基地とディンギル帝国が運用していた要塞を占領、接収した物、時間断層使用権と引き換えにガルマン・ガミラスから納入予定の司令部要塞の事と地球連邦が建設したイゼルローン型要塞を指していた。
この内、ゴルバについてはデザリアム製の純粋なゴルバと譲渡され地球仕様で配備予定のゴルバの2種類がある。また中間補給基地については防衛艦隊主導でデザリアムと協力し近代化改修が行われている。一方、ディンギル帝国が運用していた要塞については移動要塞母艦がディンギル帝国の地球侵攻迎撃の際に鹵獲した1隻とアンファ恒星系侵攻の際に、どさくさに紛れて占領したのが1隻の計2隻とボロボロながらも回収され解析・改修中の都市衛星ウルク及びそれを小型化した移動要塞ギルスが1つである。そして地球連邦が建設したイゼルローン型要塞であるがこちらは惑星型要塞である為、移動が極めて困難なかつデカイため建造費が高く量産も効かないものであった。
「しかしアクシズも良いですが移動要塞ギルスも悪くはないと思うのですが」
「うむ、それも考えている。特にギルスについては場所を気にせず大型の物質転送装置の搭載が可能だ。だから前線にもでる機動要塞としてはアクシズを模した物を用意し支援型要塞としてギルスを模した物を揃えようと思うのだがどうだろうか。他に中間補給基地がいずれ自前で建設できるしガルマン・ガミラスから司令部要塞も引き渡されるが地球自前で様々な要塞が用意できるのは悪くない」
総長は武内の疑問にそう答えた。
要塞を数種類揃えるというものであった。要塞の整備・運用には莫大な資金がかかるが要塞があることで作戦支援や補給面で有利に立てるのは明白であった。
「悪くはないですね。一つの要塞に色々詰め込むと碌なものが出来上がらない可能性もありますからね。それに多機能なイゼルローン型が拠点型かつ移動に向かない事を考えると用途を分けた要塞を揃えるのがいいでしょう。進行中の建艦計画もありますし」
「そうだな。イゼルローン型は強力だが便利さが無いからな。それに例の建艦計画は要塞代わりにもなるからね」
総長はそう言うと進行中の建艦計画を思い浮かべた。
そしてその建艦計画の進捗について武内に伝えた。
「ついでに例の建艦計画だが順調に進んでいる。そう遠くないうちに前線に出せるようになるだろう」
総長がそう言った「例の建艦計画」とは防衛艦隊が進める複数の大型艦の建造計画である。
1つは大艦隊の旗艦として運用するブルーノア級の建造計画。2つ目は超大型工作艦であるドロス級の建造計画。そして3つ目は宙域制圧戦艦という名で建造が進んでいるグワダン級の建造である。
中でもこの宙域制圧戦艦たるグワダン級は全長900mを超える超大型戦艦であり80㎝連装砲2基の他に40.6㎝連装砲等多数の武装を装備し約200機ものモビルスーツが搭載可能な破格な規模を誇る戦艦である。そしてグワダン級に与えられた任務はその名の通り宙域制圧であり、前線には余り出ずに航路の防衛や艦隊集結地点の守備等で、定められた航路や宙域を守備するというのが求められている他、大規模船団の護衛部隊旗艦や揚陸作戦部隊の旗艦かつ上陸支援を行うことが求められている艦艇である。またドロス級と組み合わせて運用する計画も存在していた。
またこれらの建艦に合わせて既存艦艇では防衛艦隊向けのフレッチャー級駆逐艦の建造が終了し後継の秋月型に移行、その秋月型もブリストル級軽巡洋艦の就役が進むと火力重視のA1型で無く対空能力等が高く、汎用性がより高いA2型メインの建造へ移行、エンケラドゥス級巡洋艦は火力増強型優先の建造となる他、改トラファルガー級の建造が縮小し変わりにアイリッシュ級戦艦に移行、サラミス級流用の武装輸送艦の建造と建艦計画にもちょっとした変更が起きていた。
閑話休題
「なるほど。いよいよ超大型艦艇群が出来上がりますか」
「如何せん初めての事だから時間が掛かったけどね」
総長はそう言いながらそれぞれの艦艇の3次元モデルを映し出した。
「これらが出揃えば防衛艦隊はより強力になるだろう」
総長のその言葉に武内は静かに頷くのであった。