ソロモンで実施された地球防衛艦隊の観艦式は無事に大成功を収めた。
銀河大戦の最中に実行された大規模観艦式は同盟国には絶大なる安心感と勇気を与えた一方、敵対する諸国に対しては地球防衛艦隊の余裕を見せつける結果となった。
中でも主敵たるボラー連邦軍上層部は底知れぬ地球連邦の国力に恐怖を感じると共に、その勢力に見合わぬ勢いでの軍事力増強に疑念を抱きつつあった。
統括司令部の情報作戦部長室にてジャミトフ大将は情報保安局長である藤堂信乃少将から報告を受けていた。
「報告書の通り時間断層についての情報が軍内部から漏れた事実は存在しないと確定できます」
「ふむ。ということはボラーが自ら時間断層の存在に感づきつつあるな」
「はい。軍内部でないとするとボラー自ら表向きは新都地下基地としている時間断層工場の出入り口を監視するなりでその存在を疑っていると思われます。保安局として多少越権行為となりますがボラーの工作員の排除に動きましょうか」
「その通りだろうな。まぁ、そうとなればボラーの工作員の排除が必要だがその対処は保安局でも良いが、情報保安局はあくまで軍内部での情報保安が主任務だ。あまり表立って工作員狩りに動くと越権行為となるからな。今は静観でよい。後の対処は任せてくれたまえ」
「かしこまりました」
藤堂はジャミトフの返答を受けると部屋を後にした。そして藤堂が部屋を後にするとジャミトフは総長に電話を掛けたのであった。
新都・旧地下都市
旧地下都市内にて一人の男が全速力で逃げていた。
「くそぉ。何人いるんだ」
男は内心そう叫びたくなりながら走っていた。未だ緊急時の避難所としての機能のある地下都市内の路地を巧みに使いながら逃げていた男だが、角を曲がった瞬間、目の前に現れた黒い人影が男の最後に見た光景であった。
新都内
「これでドレッドノート級が15隻目」
新都内のアパートの1室にて窓から双眼鏡で新都地下基地の出入口を監視している男は呟くと顔を下ろしメモに数を記した。そしてメモを記入し再び顔を上げた瞬間、男の意識は飛んだのであった。
統括司令部総長室
「本日、地下都市内及び新都内のアパートでそれぞれ1人のボラー連邦の工作員を確保しました」
総長にそう報告するのは総長指揮下の特殊作戦部隊の指揮官たる星名透であった。
星名が指揮する総長直轄の特殊作戦部隊、特戦隊は総長並びに総長直轄の部隊であり。主に時間断層に関する情報の保全や軍に対する敵の工作の妨害及び高官の警護が任務である。なお敵の工作妨害や高官警護は情報作戦部の部隊とも連携を取り任務を実行するものの、時間断層に関することについては特戦隊が主に対処することになっている。
そして、時間断層について探っていたボラー連邦の工作員は彼等特戦隊によって次々と捕らえられていたのであった。
「ご苦労。やはり観艦式の規模を見て本格的に探り始めたか」
「その様です。今までも監視等はありましたがここ数日、観艦式以降は積極的に探りに来ています」
「あそこまで見せびらかせば怪しむのは当然だ。色々と嗅ぎまわって当然だろう。だが同時に潜んでいるスパイを摘発するチャンスだ」
「はい。泳がせているのも含めて適宜拘束していきます。それなりの人数が潜り込んでいるのは確実なので」
「承知した。今後も頼むよ。あまり足元で動き回られるのは気持ちの良い物では無いからね」
「かしこまりました。期待に添える仕事を致します」
星名はそう返事を返すと部屋を後にした。
星名が退出した後、総長は椅子に深く座り直すとぽつりと呟いた。
「諜報合戦でも負けんよ」と。
一方、ボラー連邦軍宇宙艦隊司令部の一室では地球防衛艦隊の観艦式の映像を観ながら戦力分析が行われていた。
「情報から推測するに観艦式参加艦艇は連邦加盟国の艦隊を除いて全て新造艦ないしモスボール艦や予備役を現役に戻した艦艇です。また内訳は想定にはなりますが新造艦が半数以上を占めると思われます。また大型艦も多く、観閲艦隊旗艦ブルーノアは勿論の事ですが、アンドロメダ級やバーミンガム級、ドゴス・ギア級等々の旗艦級戦艦も多く。また意図的に僅かに映されたと思われる黒く塗装されたアンドロメダ級とオレンジ塗装のドレッドノート級からなる艦隊も確認されております」
モニターに映し出される情報を読み上げるアナトリー・ククシキン情報参謀の言葉に会議参加者の表情は険しくまた困惑とも受け取れる感情を浮かべていた。
ガルマン・ガミラスの様に下地のある大国では無くぽっと出の新興国家、しかも異常な勢いで勢力を拡大する地球連邦はボラー連邦から見て恐怖であったが今回の観艦式、前線に大艦隊を張り付けたまま新造艦とモスボール艦、予備役等々で大艦隊を揃えて実施された観艦式は老舗の超大国のボラー連邦から見ても異常どころか恐怖を感じる物であった。
「なぜあの規模の国家がこれ程の艦隊をいとも簡単に揃え、我が国と互角に戦い、しかも前線に戦力を張り付けている片手間でこの規模の観艦式が実行できるのだ」
キリル・ヴォロノフ参謀長は指で額を抑えながら口を開いたが、多くの者は直ぐに返答が出せなかった。余りにも地球連邦が常識はずれであったのだ。だがククシキン情報参謀だけは少し違った。
「正直なぜこの規模の観艦式や艦隊が揃えられるのか。それは不明です。ガミラス戦争前から造船能力は高かったようですがそれでも艦隊規模が大きすぎます。ですが最近少し動きがありました」
その言葉で少し会議室がざわめいた。
「動きと言っても良い話ではありません。これは極秘情報ですがどうやら諜報部が地球に送り込んだスパイが観艦式以降次々と音信不通になっているようです。恐らく地球側に捕まったものと思われます。そしてここからが肝心なのですが音信不通になった者の多くは新都基地の監視に当たって居た者です」
ククシキンがそう言った瞬間、会議室は騒めいた。
「新都基地」それはボラー連邦軍上層部で色々と噂が流れている基地である為であった。
軍港等の見える範囲の基地は普通な物の、基地内に存在する巨大な地下への入口と思われる開口部。この中がどうなっているのか一切公表されておらず、数多くの諜報部員を使っても未だに何一つ情報を得られていなかった。その為噂は多くあり、「巨大な地下基地がある」「異次元と繋がっている」「巨大な造船所がある」「地球と未知なる勢力の連絡通路である」等々真っ当な物からぶっ飛んだ内容と様々な噂があり、中には真実に近い物もあった。
「新都基地か。噂の絶えない怪しい基地」
ガルゴフ宇宙艦隊司令はそう呟くと言葉を続けた。
「観艦式後に探りを入れて返り討ちに近い摘発を受けたとなるとやはり何らかの秘密があるのだろう。そして消息不明になる諜報部員。地球の秘密、それを知ろうとする者は只では帰されんのだろうな」
ガルゴフの言葉に参加者達は頷いた。
「地球連邦の秘密」、ボラー連邦軍を苦しめる物の正体であろうそれは、知ればメリットは大きいかもしれないが失う物が大きすぎるのかもしれない。ここにいる者達はそう考えていた。
「しかし地球の秘密が何であれ、諜報部が返り討ちにあっている以上、我々は直接秘密を暴く手段がない。艦隊が何重もの索敵網を潜り抜けても強固な本土防衛網を突破できるかは怪しい。秘密があるならそれは時間が見つけてくれるのを祈るしかあるまい。宇宙艦隊としては現在行っている艦隊再編が終わり次第、次なる攻勢に備える。それが精一だろう」
ガルゴフの言葉はボラー連邦軍宇宙艦隊の現実を会議参加者に突きつける言葉だった。だが誰も悲壮な表情は浮かべていなかった。それはこの艦隊司令部要員が非常に優秀な人員で固められている事の証であった。