2203年6月13日 火星沖
ここ火星沖には戦艦アマテラス、そしてアナンケ級インディゴ・ベルを中心とした数十隻の艦艇が集結していた。
防衛軍司令部は主力艦隊の撤退と同時にガトランティスの侵攻に対抗する為、稼働可能な戦力を火星沖に集結させていたのだ。
本来なら最終防衛ラインは内惑星戦争時の置き土産や多数の戦闘衛星や波動砲搭載戦闘衛星があるア・バオア・クー要塞に敷かれるはずであったが、防衛ラインを突破されたり撃ち漏らしが地球圏奥深くに入り込まれることを防衛軍上層部が危惧した為、火星沖に臨時の防衛線が敷かれていた。此れは土星に居る主力部隊の再編が急がれ救援が間に合うと想定されたためであった。
しかし火星沖に布陣した艦艇の稼働可能な戦力は新兵が操る新造艦や艦の不具合により主力艦隊に参加できなかった艦艇がほとんどであり、練度や性能に不安はあった。だが最低限の訓練は出来ており将兵の士気は非常に高かった。
更に練度を無視すれば月と宇宙要塞ア・バオア・クー間に敷かれた最終防衛ラインには火星沖に布陣した艦艇数より遥かに多い数の就役したばかりの各種艦艇や100艇単位のパブリクミサイル艇と14枚のガミラス臣民の壁が存在するが、これらは本当に最後の時にしか使用されない戦力である。
なおガミラス臣民の壁は現在、都市帝国のワープを阻害するために2枚が4隻のケルカピア級と護衛の8隻のレパント級と共に都市帝国正面に展開し遅滞戦術を仕掛けていた。
戦艦アマテラス艦橋
「第8巡洋艦戦隊、第2戦艦戦隊展開完了」
「第2駆逐戦隊配置完了」
「インディゴ・ベル及び直掩のマゼラン級、サラミス級所定位置に展開」
「突撃戦隊準備よし」
「各戦隊展開完了しました」
「火星に居た民間人を乗せた最後の船団、護衛と共にワープしました」
アマテラス艦橋内ではオペレーターが続々と報告をする。
「よし、あとは待つだけだな。民間人も無事に避難できて何よりだ」
司令の尾崎中将はそう呟いた。
ガトランティス戦役時、火星には内惑星戦争後も100万人もの民間人が居たが、ガトランティス軍の本格侵攻開始以降は防衛軍司令部に居たワルター・G・F・マイントイフェル少将と火星自治政府の発案した避難計画に沿って避難が行われていた。そして最後の船団がワープしたということは無事に100万人の避難が完了した瞬間であった。
「尾崎司令、我々は勝てるのでしょうか」
副長は艦隊司令の尾崎中将に尋ねる。
「わからん。だが土星に居る主力が駆け付けるまで耐えれば勝ち筋は見えるはずだ」
「主力の到着までが勝負ですね」
「あぁそうだ」
艦隊旗艦アマテラスに乗艦している尾崎司令は続々と入ってくるオペレーターの報告を聴きながら副長の質問に答えた。
かくして戦艦アマテラス、アナンケ級インディゴ・ベル、マゼラン級8、ドレッドノート級6、エンケラドゥス級12、サラミス級15、金剛改型3、村雨改型12、磯風改型16、レパント級14、フレッチャー級18、松型20からなる防衛軍が用意できた地球までの間に立ちはだかる唯一全力戦闘可能な艦隊は火星沖に戦列を並べ、来るべき時に備えた。
だが、その時には都市帝国正面で遅滞戦術を仕掛けていた部隊は臣民の壁をイーターで破壊され、艦隊は集中砲火を喰らい壊滅していた。
部隊壊滅の際に最後の1隻が「我が部隊は任務を全うせり。地球連邦とガミラスに勝利あれ!」一報を発信できたのが奇跡であった。
そしてこの一報は地球・ガミラス両軍に深い悲しみと覚悟を与えたのと共に士気を大いに上げたのであった。
土星宙域
場所は変わりここ土星宙域では急ピッチで主力艦隊の再編が行われていた。損傷艦の修理や戦隊、部隊の再編成で大忙しの中、指揮官達は今後の対応の会議のため集まっていた。しかし突然の司令部からのとある要請が飛び込み指揮官たちは困惑していた。
「艦隊が壊滅します!」
「いくら何でも無茶です!」
「そうです。空間騎兵隊での占領なんて無謀です」
各司令官達や各艦隊の参謀はそう口々に反論する。そう防衛軍司令部というか転生者達は都市帝国を占領しようと考えたのだ。
理由は都市帝国占領による戦争終結とガトランティスの技術だが、あわよくば超巨大戦艦の鹵獲もと考えていた。超巨大戦艦を出現させてしまえばどれほどの損害が防衛艦隊にでるか未知数であり、超巨大戦艦のはっきりとした戦闘能力も転生者達は測りかねていたのだ。
「斉藤隊長あなたの意見が聞きたい」
そうアンダーセン中将は空間騎兵隊隊長の斎藤に尋ねた。
「俺はできると思う。機動甲冑も空間騎兵隊全員分がある。内部に突入し白兵戦になってもそう簡単にはやられんはずだ」
「なるほど」
斎藤がそう持論を述べるとアンダーセン中将はそう短く反応する。
「俺達を都市帝国内部まで艦隊が無事に届けてくれたら内部で存分に暴れることができる」
斎藤は続けて自信のある声でそう答える。
現在に至るまで空間騎兵隊の損害は皆無であった。その為かなりの戦力が都市帝国内部に突入できれば勝利の可能性も高いと斎藤は考えていた。
「了解しました」
斉藤の言葉に対してムバラク中将はそう答えた。
「しかし、そうなるとあの大艦隊を排除しなければなりませんな」
一人の参謀がそう言った。
「ですな」
「そうだな」
その参謀に同調する声が他の参謀などから多数あがる。
そして同調する声が出る中、口を開いた人物がいた。
「そのための拡散波動砲だよ」
レビル大将はそう言った。
「なるほど」
一人の参謀はその手があったかという顔をする。
「ここから火星沖までのワープでしたら、アンドロメダ級なら問題なく撃てますな」
ティアンム中将は賛同意見を言う。
この世界ではアンドロメダ級は建造時から転生者のアイデアにより小ワープ後ならば最大出力とはいかないものの、それなりの出力ならば波動砲が発射可能なようにして建造されていたのである。そのため波動エンジンも主力戦艦より強力なものが装備されていた。
「それで土方司令どうなさいますか」
山南艦長が土方に尋ねる。
「そうだな。空間騎兵隊による占領。思いついた司令部の奴は面白い奴だな。よし作戦を実行する」
「「了解しました」」
各艦隊司令はそう言った。
「ただし、火星沖に展開している味方の為にも先遣隊を出す」
「先遣隊ですか」
一人の参謀が尋ねる。
「そうだ。総指揮官は谷中将とし、ヤマト、アルデバラン、アキレス、アンタレス、アポロノームを中心とした主力艦隊そして第1から第3大隊、ガミラス艦隊を中心とした艦隊を先遣隊とし、火星沖に向かいガトランティス艦隊を殲滅してほしい。直掩機用にコスモタイガーを満載した戦闘空母6隻もつける。そしてアンドロメダも修理完了と空間騎兵隊、揚陸支援艦隊、再編した空母艦隊の準備ができしだい追いつく」
「わかりました」
指揮を任された谷中将はそう返事をした。
「ドメル将軍にはご迷惑をおかけします」
土方はドメルを見ながら言い。頭を下げた。
「大丈夫です。我々の底力を見せつけ、ガトランティスを驚かせてやりましょう。それと現在フラーケン指揮の次元潜航艦4隻が都市帝国を追尾中です、彼等にも攻撃に参加してもらいます」
「「おぉ」」
次元潜航艦参加に指揮官たちから驚きの声が上がる。さらにドメルは続ける。
「それにガトランティスとは長く戦ってきました、その主力との対決とならば部下の士気も上がるでしょう」
そう言うとドメルは副官のハイデルンの方を見た。ハイデルンはそれに返すように頷きながら「間違いないですな」と言った。
「ありがとうございます。それでは先遣隊は直ちに出撃準備にかかってくれ」
土方はそう言った。
「「了解」」
各部隊の指揮官は起立し、そう返事をすると敬礼をした。
「頼んだぞ。揚陸支援艦隊の指揮官は残って作戦を詰める」
「はっ」
「それでは解散」
こうして会議は終わり、指揮官達は各々の準備にかかった。
それから50分後、火星沖の友軍を救うため先遣隊とはいえ数百隻の大艦隊が土星沖から出撃していった。しかし、その頃火星沖では都市帝国とそれを守る大艦隊を食い止める為の決戦が始まっていた。