地球防衛軍戦記   作:第一連合艦隊

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火種

3月10日、銀河連合結成を示す一大観艦式と大規模演習が終了し地球連邦政府や統括司令部は結成前の忙しさはどこかへ行き、のんびりとした空気が流れていた。

 

「いやぁ、暇だねぇ」

 

総長はそう言い執務室で紅茶を飲みつつのんびりしていた。なお彼の机には書類が数枚重なっていた。

 

「そう言わずに残りの書類も処理してください」

 

秘書は呆れた顔で言った。

 

「まぁそう言うな。この書類も銀河連合参加国の軍備状況を記したものだろ、急いで見る必要はないよ」

「まぁそうですが」

 

ニコニコしながら言う総長を見て秘書は呆れた表情で言った。

 

だが和やかな空気も一瞬で吹き飛ぶ事態が起きた。突如執務室の扉が勢いよく開かれ一人の兵士が入ってきた。

 

「失礼します。総長、緊急事態です!」

 

入ってきた兵士の顔は血相を変えていた。

 

「まぁ落ち着け、何があった」

 

総長はそう問いかけた。

 

「先程ラボラトリー・アクエリアスから緊急入電がありました。内容は惑星ファンタムにてシャルバート星の王女、ルダ王女を保護したとのことです」

「なんだとぉ!?」

 

ルダ王女保護の報告は先程までのんびりしていた総長の気分を一瞬で転換させるには十分であった。

 

「で今、ラボラトリー・アクエリアスはどうしている」

 

総長はそう尋ねた。

 

「現在、ルダ王女を乗せて惑星シャルバートに向かっております」

「わかった」

 

そう言い総長は少し考えると、兵士に伝えた。

 

「万が一に備えてロンド・ベル隊からヤマト、ムサシ、シナノをラボラトリー・アクエリアスの護衛に派遣させよう」

「了解しました。直ちに伝えます」

「うむ、頼む」

 

その後、兵士は退室すると総長は呟いた。

 

「まさかラボラトリー・アクエリアスが惑星ファンタムの調査をしてルダ王女を保護するとは想定外だった。これはボラー連邦が黙ってないかもしれん」

 

そう呟いた総長は何かを思い出した表情をして慌てて執務室を飛び出し、統括司令部司令室に向かった。

この時、総長はボラー連邦と開戦の可能性という内容が頭を巡っていた。

 

そもそもなぜ惑星ファンタムにラボラトリー・アクエリアスが調査に向かったのかと言うと、古代アケーリアス文明の調査の為長期航海に出ていたラボラトリー・アクエリアスは偶然にも地球によく似た惑星を発見し調査していた、それが惑星ファンタムである。そして調査を進める中でルダ王女を発見、保護したのであった。

 

一方、地球呉宇宙軍港からは待機状態だったヤマト、ムサシ、シナノがラボラトリー・アクエリアス護衛の為、緊急発進した。またガルマン・ガミラス帝国本星からは地球から「ルダ王女を保護した」との一報を受けたデスラー総統率いる親衛艦隊が発進していた。だがこれらの動きはボラー連邦にも知れ渡っていた。

 

ラボラトリー・アクエリアスを監視していたボラー連邦軍の第八打撃艦隊からの一報によりベムラーゼ首相の元に「ラボラトリー・アクエリアスが惑星ファンタムでルダ王女を保護した可能性が高い」との報告が届いた。これを受けベムラーゼ首相は直ちにルダ王女奪還の為に第一、第二主力艦隊を援軍として派遣した。

 

 

統括司令部司令室

 

「総長、ボラー連邦軍が動き出しました!」

 

ボラー連邦軍の動きはボラー連邦本星にあるスパイ網及び大使館を通じて統括司令部に報告された。

 

「やはり動き出したか。追加の護衛として即応待機状態の第十主力艦隊を派遣だ」

「はっ」

「それと全軍は第一種戦闘配置だ。万が一の事態に備えさせろ」

 

司令室ではオペレーターの報告を聞いた総長が次々と命令を出していた。

 

 

数日後、ヤマト以下三隻と山南中将率いる第十主力艦隊はラボラトリー・アクエリアスに合流し無事にシャルバート星に到着していた。そしてラボラトリー・アクエリアスとヤマト、ムサシ、シナノはシャルバート星に降下し第十主力艦隊は不測の事態に備えシャルバート星軌道上に待機していた。

 

因みにボラー連邦側はラボラトリー・アクエリアスに対しルダ王女の引き渡しを求める為、第八打撃艦隊を接触させようとしたが、接触前に超長距離連続ワープでヤマト以下の部隊がラボラトリー・アクエリアス護衛の為到着したため、接触は第一、第二主力艦隊の到着まで見合わせることになっていた。

 

 

第十主力艦隊旗艦春藍

 

「実に美しい星だな」

 

山南中将は春藍艦橋から見えるシャルバート星を眺めながら呟いた。そこへレーダー手から報告が入る。

 

「レーダーに反応多数、識別ガルマン・ガミラス艦隊。おそらくデスラー総統率いるガルマン・ガミラス帝国の親衛艦隊です」

「了解した。通信を繋げ」

「了解しました」

 

山南中将はデスラー総統と状況の確認を行うつもりだった。統括司令部からもデスラー総統が到着したら直ちに状況の整理をせよとの命令が届いていた。

そしてモニターにデスラー総統が映る。

 

「私は地球防衛艦隊第十主力艦隊司令の山南です。デスラー総統、時間が無いので早速ですが状況の報告をします」

「山南司令すまないね」

 

デスラー総統は短くそう言った。

 

「現在までですか、このシャルバート星に伝説に伝わるような兵器は無く、むしろ完全無防備国家です。通常兵器の一つもありません。詳しくは降下中のヤマトの古代艦長にお伺いください」

 

山南中将は判明している事全てを伝えた。

 

「了解した。ありがとう山南司令」

 

デスラー総統は礼を言うと通信を切った。その後は原作通りデスラー総統と古代進の間で会話が行われ、デスラー総統はシャルバート星を占領することを諦めた。だがここで新たなるお客が現れた、ボラー連邦軍である。ボラー艦隊の編成は第一、第二主力艦隊に第八打撃艦隊という総数850隻という大戦力であった。

 

「地球防衛艦隊並びにガルマン・ガミラス軍に告ぐ、直ちにルダ王女を引き渡し現宙域より撤退せよ、さもなくば我が軍は実力行使をする」

 

ボラー連邦軍は地球防衛軍に対して直ちにルダ王女の引き渡しと防衛艦隊とガルマン・ガミラス軍の撤退を要求し、要求に従わない場合は実力行使をすると伝えてきたのだった。それに明らかにシャルバート星を攻撃する気配も見せていた。

 

 

第十主力艦隊旗艦春藍

 

「山南司令どうしますか」

 

オペレーターの一人が尋ねる。

 

「司令、撤退など論外です、ボラー艦隊は我々が撤退したらシャルバート星を攻撃しますよ!」

「だが司令部の判断無く開戦などできるか!」

「しかし、我々にこの無防備な国家の崩壊を見て見ぬふりを知ろというのか」

「そうは言ってない!」

 

参謀達も意見が分かれていた。防衛軍軍人としては上層部の意見に従わなければいけないが無防備なシャルバート星が攻撃される可能性を黙って見過ごすこともできなかったのだ。

 

山南中将は数分考えたが何かを決断したような表情で言った。

 

「全艦第一種戦闘配置にて待機、それと統括司令部に判断を仰げ。ボラー艦隊には本国の判断が決まるまで待ってもらおう」

「了解」

 

山南としては無用な戦闘は避けたいが防衛軍軍人としては滅亡するかもしれない国家を見過ごすことは出来なかった。こうして第十主力艦隊は戦闘配置のまま統括司令部の判断を待った。

 

一方、第十主力艦隊からの報告を受けた統括司令部は大混乱であった。

 

「ボラー連邦は戦争する気なのか!」

 

緊急会議の参加者がそう言った。ボラー艦隊からの通信は一応友好関係にある国家に対する言動ではなく敵対国への宣戦布告に等しいものなのでこのような発言が出るのも仕方なかった。

 

「大統領、とりあえずベムラーゼ首相に確認を取りましょう。現場の暴走という可能性もありますし」

 

外務大臣はそう言った。それを聞いた大統領は頷き外務大臣と共にボラー連邦とのホットラインのある別室へと向かった。

この時、会議に参加している誰もが現場の暴走であろうと考えていた。しかしその考えは十数分後に戻ってきた大統領の言葉に打ち砕かれた。戻ってきた大統領の顔は険しかった。

 

「皆、落ち着いて聞いてくれ」

 

大統領はそう前置きをするとゆっくりと口を開いた。

 

「ベムラーゼ首相に確認したが現場の暴走ではないようだ。ベムラーゼ首相は我が国がシャルバート星やルダ王女から手を引かない場合は戦争状態に突入することも辞さないとのことだ」

 

この大統領の言葉が会議室の空気を重くした。

 

「総長、ボラー連邦と戦争をして勝てるかね」

 

重い空気の中、大統領は尋ねた。それに対して総長は少し考えた後に口を開いた。

 

「最悪の事態ですが、まず勝てるでしょう。これまで防衛軍は大規模な予算優遇を受け銀河系でも有数の戦力を保有していますし、それに場合によっては銀河連合各国の参戦を見込めます。彼らの中にはシャルバート教を信仰している国もありますからね。むしろ外交的にはシャルバート星を見殺しにする方が問題かもしれません。特に銀河連合のシャルバート教信仰国家にとっては今回のシャルバート星発見は一種の希望的なものかもしれないのですから」

「なるほど、わかった。外務大臣は銀河連合の緊急会議を招集してくれ、それと防衛軍は何時でもボラー連邦と開戦できる状態にしてくれ」

 

総長の意見を聞いた大統領はそう言った。

 

「「了解しました」」

 

各員がそう返事し、会議は終了し参加者は各々の準備にかかった。

 

銀河連合は直ちに緊急会議が招集され防衛軍は戦争態勢にはいってゆく。

 

数時間後、銀河連合の緊急会議では今回のボラー連邦の対応に対する議題で議論が行われたが、どの国も遂にこの時が来たかと言った雰囲気であり、シャルバートを信仰する国家から地球連邦はシャルバート星防衛を頼まれ、銀河連合参加の全国家は地球連邦がシャルバート星を守るために戦争するなら我々も参戦するという意見だった。

そして地球連邦政府及び銀河連合はボラー連邦に対して地球時間3月18日午前0時までにシャルバート星宙域より撤退しない場合、宣戦布告をすることを通告した。

 

その頃、防衛軍の各基地からは続々と艦隊が緊急出撃し、事前に用意されていた対ボラー連邦戦計画に沿って戦闘態勢を整えていた。

 

 

 

ボラー連邦本星

 

「ゴルサコフよ、地球連邦と銀河連合が地球時間3月18日午前0時までにシャルバート星宙域より撤退しない場合、宣戦布告すると生意気にも言ってきた。儂としては今すぐにでも開戦しても良いが今回は此方側もより戦闘準備を整るため地球側の声明通りにして動いてやろうと思っているが、軍はすでに戦闘準備は出来ているな」

 

ベムラーゼ首相はゴルサコフ総参謀長に尋ねる。

 

「はい勿論できております。かねてより計画しておりました、対地球戦を全軍にたいして発動できるようにしております。ただより準備を整えられる時間があるのでしたら、あるに越したことはありませんので地球の声明通りの開戦で問題ありません」

 

そうゴルサコフは言うと少し間を空け言葉を続けた。

 

「それと首相が申しておられました国家、ディンギル帝国を巻き込む準備も出来ております。地球と開戦した場合、地球は近場の脅威を排除する為、辺境のバース星を攻略すると思われますので現地の艦隊で交戦させつつ総督府艦隊を撤退させ、地球艦隊をディンギル帝国領に誘い込みます。失敗した場合は総督府艦隊を地球艦隊と偽らせディンギル帝国を攻撃します。その後はズルズルと消耗戦に引き込み、我が軍の艦隊戦力が圧倒的優位になった時に一大攻勢を仕掛けます。アルゼ星系など各地の造船所の生産力が有れば半年程度で戦力差は更に絶望的なものになるでしょう」

「よろしい。地球め我がボラー連邦に歯向かったことを後悔するがよい。幾ら精強な軍隊が居ても新参者如きが我がボラー連邦に勝てると思うなよ」

 

ベムラーゼ首相はそう言い笑うのであった。

因みにディンギル帝国はボラー連邦の偵察艦隊が数ヶ月前に遭遇したものの、侮りがたい戦闘能力を保有していることが偶発的な戦闘により判明していたので侵略せずに情報収取をメインとし、現在は放置されていたのだ。

そしてこの度、ベムラーゼ首相はディンギル帝国を地球との戦争に巻き込ませようとしているのであった。

 

 

シャルバート星軌道上・第十主力艦隊

 

「山南司令、統括司令部より暗号電文です」

 

通信オペレーターはそう言い、暗号電文を読み上げた。それを聞いた山南司令は全艦に暗号電文の内容を伝えた。

 

この暗号電文の内容は「地球時間3月18日午前0時を過ぎてもシャルバート星宙域よりボラー連邦艦隊が撤退しない場合はガルマン・ガミラスと共同で殲滅せよ」であった。

 


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